2017年01月15日

陰謀論を簡単に信じちゃう人は、実務的な想像力があまりない人なのではないか


例えばここに、「○○という薬品が認可されないのは、既存の薬品が売れなくなって困る製薬業界の陰謀」「製薬業界が圧力を掛けているから、○○が認可されない」といった陰謀論が転がっていたとします。webでも割とよくみるタイプの陰謀論ですよね。


これを聞いた時、一般的な、あるいは実務的な想像力がある人は、大体これくらいの疑問は感じると思います。


・薬品の認可はどこの省庁のどの部署がやってるの?
・その省庁の、どのレベルの人たちに、どれくらい圧力をかければ認可に影響を及ぼすことが出来るの?
・その圧力は、どの会社の、どんな部署の人たちが、どれくらい組織的にやってるの?その予算は?予算の監査は?
・そもそも圧力って具体的に何?
・コンプライアンスチェックはどうやってかいくぐってるの?
・○○が認可されると、具体的に既存の薬品はどれくらい売れなくなるの?
・それを避けることによるベネフィットは、圧力をかける為のリスクやコストと見合うものなの?そういう見積もりって誰がやってるの?
・なんで陰謀論以外の、明示的な証拠を伴ったスキャンダルにならないの?報道も抱き込んでるの?その予算は?予算の監査は?
・ちなみに、今までも色んな新薬が認可されてるけど、それによって売れなくなった薬品はなかったの?そっちはどういう基準でスルーしたの?


いや、例えば、の話なんですけどね。

陰謀論の種類にもよりますが、多くの陰謀論は「実務的なディテール」が非常に曖昧です。「××の陰謀」という、その××の中身をちゃんと明示していないものがひじょーーに多いんですね。

いやまあ当たり前といっちゃ当たり前の話で、実務的なディテールまで明確になっていればそれは陰謀論ではなく明示的な告発ですから、そもそも陰謀論としてカテゴライズされないわけですが。それでも、「どう見ても最低限必要な情報」がそこに全く存在しない、という感覚にはかなりびっくりすることがあります。


例えばの話、上記の新薬の認可陰謀論の話であれば、実際に統括しているのが厚労省であり、その中に薬事・食品衛生審議会というものがあり、新薬の認可なんかはここで最終的に承認されているみたいだな、ということは、調べれば殆ど一瞬でわかります。

もうちょっと具体的に言うと、医薬品医療機器総合機構という厚労省所管の独立行政法人で信頼性の調査やGMP適合性調査を行って、そこで作られた報告を元に薬事・食品衛生審議会の部会で承認されてるみたいですね。



で、この審議会は議事録やら委員名簿やら添付資料やらも一通り公開されておりまして、誰でも観ることが出来ます。


一例として、下記のような議事録があります。



当然、議事録にはバイネームで具体的な出席者まで記録されています。この中のどれくらいの人数を抱き込めば審査に影響を及ぼせるのかはよくわかりませんが、地位も相当な収入もある人たちを、具体的に相当数買収する、ないし表に出ないような形で圧力をかけるのはそこそこ大変そうな気がします。誰にいくら払えばいいんだよ、って話ですね。

ちなみに、医薬品医療機器総合機構の審査業務についても、こちらであらかた概要を確認することが出来ます。審査・安全業務委員会については、同じく議事録が公開されています。流石に審査中の情報が公開されることはない筈ですが、運営自体はクリアに行われているように見受けられます。






陰謀論の特徴の一つとして、「陰謀論の主体となっている組織や構成員が非常に曖昧」というものがあります。たとえば「政府」とか「官僚」とか「○○業界」とか「マスコミ」とか、ぼやっとした組織や団体が主語になることが実に多いんですね。

しかし、組織にしても団体にしても、実際には人の集まりであって、実在する人間が動かしています。何故か、陰謀論が「人」を責める方向に行くことってなかなかないんですよ。(例外もありますが。首相の名前があがる陰謀論とか)

上の例で言えば、医薬品医療機器総合機構にせよ薬事・食品衛生審議会にせよ、中身もやっていることも構成人員もクリアになっているんだから、怪しいところがあれば直接構成人員に当たって調査することすらできそうなのに、陰謀論をとなえる人たちはなぜかそれをしない、という話です。最初から姿が見えているものを、わざわざ曖昧な形にして陰謀論に仕立てている訳です。


圧力云々の話だけではありません。行政法人には勿論業務監査が入りますし、企業の側にも当たり前ですが監査があります。コンプライアンスチェックもあります。実際に何かおかしなお金の流れを作ろうとすれば、かいくぐらないといけないチェックは相当数に登りますが、それをくぐり抜けるだけのベネフィットが本当に企業側(これも、具体的にどの会社のどの部署?という話もありますが)にあるの?という話も当然あります。で、それについての「怪しい」という話が、何で内部の証拠つきのリークという形でなく、外部のよくわからない人たちの陰謀論という形でしか出ないのか、という話もあります。


要は、「製薬業界が圧力を掛けているから、○○が認可されない」という陰謀論は、ほんの10分くらいネットを漁るだけで、「これどうなってんの?」という疑問点が山ほど出てくる、という話なんです。


そういう疑問点の辻褄を全部合わせることを考えれば、「単に治験で効果が認められないから新薬として承認されてないだけなんじゃないの?」と考える方が、多分妥当ですよね?少なくとも私はそう思うんですが。



これらは全部「例えばの話」ではあるんですが。陰謀論の大体8割から9割くらいは、似たような過程で似たような疑問に突き当たります。「この陰謀論、具体的にはこういう人たちが対象になってるってすぐわかるけど、なんでわざわざ曖昧にしてんの?」であるとか。「予算とかコンプラチェックとか監査とかどうなってんの?」とか。


いや、勿論すべての陰謀論がそう、というわけではないので、中には実際にあたっている陰謀論もあるのかも知れないですが。少なくとも、webやらtwitterやらで流布されている陰謀論の大多数は、実際にちょっと「具体的な中身を想定」すれば、一瞬で「あれ?なんかおかしいぞ?」ということがわかるものばっかりであるように思います。


陰謀論を簡単に信じてしまう人たちが、何故そういう具体的な疑問を抱かないのか、私には単純に不思議です。上の新薬絡みの話でいえば、まっとうな審議を経て薬品を承認している審議会に疑問を抱くなら、何故その前に陰謀論の方に疑問を抱かないんですか?という話ですね。

一応断っておきたいんですが、「ちゃんとした組織の行為に疑問を挟むべきではない」という話ではないですよ。上の新薬承認の話だって、問題点は恐らく色々あるんでしょう(総務省からの審査速度改善についての勧告とか、話出てましたよね)。 ただ、「根拠がよくわからない陰謀論よりは既存のフローや組織の方がなんぼか信頼性はあるんじゃないの?」ということです。


世の中では、陰謀論を信じ込みやすい人を「想像力豊かな人」と言ったりすることがありますが、私はどちらかというと逆で、あまり想像力が豊かでない人の方が多いんでないかなーと感じます。時には、陰謀論の方について、「その陰謀論、なんかおかしくないか?」であるとか、「その陰謀論を唱えることで、唱えている人はなんか得してないか?」といった方向での疑問を感じてみるのもいいんじゃないかなあ、と思う次第なのです。


今日書きたいことはそれくらいです。

posted by しんざき at 20:16 | Comment(23) | TrackBack(0) | 雑文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする