2008年10月09日

レトロゲーム万里を往く その82 桃太郎電鉄

73年目の6月、だった。

私の知人の家では、スーパーファミコンが一台と、そこに挿さりっぱなしのスーパー桃太郎電鉄IIIが、テレビの裏に放置されている。

その桃鉄IIIには、一つのデータが保存されている。99年桃鉄の73年目。知人の名前と、女の子の名前と、いぬやま社長の3人プレイ。

彼は言う。彼と、半年前に別れた彼女との歴史は、その99年桃鉄と共に刻まれているのだという。

彼の部屋に彼女が遊びに来る度に、ちまちまと刻まれていった99年桃鉄の歴史。10年目の頃にはキングボンビーの出現にきゃーきゃーと騒ぎ、20年目の頃には北海道と九州がそれぞれのプレイヤーの色に染まり、30年目の頃にはいぬやま社長の資産がマイナス100億に達し…そして、73年目より後の日付に、その桃鉄が進むことはない。

彼の言葉を静かに聴きながら、私は思った。


他に思い出の品らしきものが禄にないことが別れた原因の一つなんじゃねえか、と。



別れた彼女とやり掛けのデータが入ったままの桃鉄」という物体は、全日本痛いアイテム選手権トップ10くらいには入れるんじゃないかと個人的に思うのだが、まあそれはそれとして。


ハドソンというメーカーには、私はそれなりの思いいれと、ある程度の分量の「言いたいこと」を抱えている。以前にも書いたことがあるが、ファミコン黎明期のハドソンには、後のナムコやコナミと肩を並べるだけのポテンシャルが十分にあったと思う。しかし、平成の世も20年を過ぎて、今ハドソンゲームナビに並んでいるのは、「ボンバーマン」と「天外魔境」と「桃鉄」に埋め尽くされたゲームリストだ。

ハドソンはどの様にゲーム業界を泳ぎ、どの様に舵を切ってきたのか。振り返ってみると、様々に示唆深いことがそこには隠れている様に思う。

まずは桃鉄の話だ。


桃太郎電鉄。ボードゲーム風パーティゲーム。1988年12月、ハドソンよりファミコン版が発売。複数のプレイヤーが鉄道会社の社長に扮し、日本地図を模したボードをサイコロを振って行ったり来たりしつつ、物件を買い漁って収益を挙げる。当時の日本はバブル景気真っ只中であり、ある種時世を反映したゲームでもあった。モチーフは西武グループであった筈だ。

初代「桃太郎電鉄」はおそらく「A列車で行こう」シリーズとモノポリーをそれぞれ意識して制作された筈で、貧乏神もいなければカードの概念すらなく、ターンは一年に4回しかなかった。その後「スーパー桃太郎電鉄」SFCにプラットフォームを移しての「スーパー桃太郎電鉄II」「スーパー桃太郎電鉄III」とゲーム性の拡張を続け、パーティゲームとしては異例ともいえる大人気を博し、現在でも続編が出続けるハドソンの代表的シリーズの一柱となった。

シリーズの推移についてはWikipediaに詳しい。

Wikipedia:桃太郎電鉄シリーズ

20周年ということで、ハドソンの公式サイトではシリーズのタイトルを一覧することが出来る。流石にハドソンというかなんというか、ものっそい数である。始まった時期のことを考慮しても、テイルズシリーズといい勝負じゃないだろうか。

桃太郎電鉄シリーズ


さて、まずは歴史の話から始めてみよう。


・「桃太郎電鉄」進化ルート。

桃鉄というゲームは、「スーパー桃鉄」の時点で9割がた完成していた、と私は思う。

上でも書いたが、初代「桃太郎電鉄」は、今の桃鉄とは遥かに隔たったゲームだった。

・1年が春夏秋冬の4ターンで構成され、移動フェイズとイベントフェイズに分かれている。
・カードの概念が存在しない。
・貧乏神の概念が存在しない。
・物件の収益率が一律25%で、駅・種類による差異がない。
・目指す「目的地」がプレイヤーごとに異なる。


この時期のファミコンというハードには、いわゆる「パーティゲーム」や「ボードゲーム」といえるジャンルがまだ殆ど存在していなかった。

デービーソフトから「鉄道王」が発売されたのが1987年。その後、タイトーから「たけしの戦国風雲児」88年11月に発売されているものの、「レーサーミニ四駆」が89年、「爆笑!人生劇場」が同じく89年、「いただきストリート」が91年ということを考えていくと、「桃鉄」がコンシューマーにおけるボードゲーム形式の事実上の草分けと考えてもそれ程支障はないだろう。発売された当初、まだこのゲームは「実験作」の部類だった筈だ。

その為かどうかは分からないが、初代「桃鉄」は、ゲームとしてはかなり慎重な作りこみをされていると感じる。上述の通り、私はこのゲームを「モノポリー」と「A列車」の流れを汲んだ上で、国とりゲームの要素を振りかけて発想されたタイトルではないかと考えているのだが、初代のゲーム展開は随分大人しい。

参照ページを挙げさせて頂く。

桃太郎電鉄 初代FC版

初代桃鉄のゲーム展開は「物件購入」と「サイコロイベント」がメインとなっている。リストを一見してもらえば分かる通り、「サイコロイベント」で発生する内容は、ほぼ後の「プラス駅」「マイナス駅」に該当するものだが、「スーパー」以降を考えると遥かに金の出納が穏やかである。激しい逆転要素は、せいぜいインフレが発生して収益・支出の金額が2倍になる程度のものだ。

私の勝手な想像だが、この時点での桃鉄は「物件売買シミュレーションゲーム」に近いものをイメージされていたのではないかと思う。パーティゲームというよりは、収益を挙げて目標を達成する「経営シミュレーション」。そのゲームバランスは、ある意味リアル指向とすら言える。


そんな桃鉄は、「スーパー」で怒涛の舵取りを見せた。


ターン数の純増。収益金額の時間経過に伴うインフレと、「効率のいい物件」「効率の悪い物件」の大量導入。皆で同じ場所を一度に目指す「目的地」という競争要素。貧乏神や「スリの銀二」などのマイナスイベントの導入と、それに伴う逆転要素の大幅増加。きゅうこうカードやリニアカードの導入と、同じくぎゅうほカードやふういんカードの導入によるゲーム性拡張。

「物件経営シミュレーション」がたったの一作で「皆でわいわい遊ぶパーティゲーム」に激変した瞬間である。初代だって皆で遊ぶのは楽しかったが、「スーパー」以降のカード乱れ飛び、逆転逆転の資産乱高下に比べれば、流石に競争要素が薄い。


以降の桃鉄は、「いかに「皆で」遊んでもらうか」「競争要素、逆転要素をどう持ち込むか」ということをメインテーマに、ひたすら「刺激的な要素」を導入していくことになる。必然的に、「一度に動く金額」が大きなイベントは、シリーズを重ねる毎にざくざく盛り込まれていった。

キングボンビーやハワイの導入、キングデビルカードの出現もその一つだが、7のギーガボンビーなどはその最たるものだろう。全プレイヤーの所持金・物件がリセットされるというイベントは、複数プレイヤーが長期間遊ぶ場合のダレを解決する為の手段以外の何物でもない。


そういった面で歴代シリーズのタイトルを見ていくと、「III」以降はほぼマイナーチェンジの積み重ねがひたすら続いている様にも見える。それだけ「スーパー」時点での桃鉄が完成していたということでもあるだろうし、シリーズ各作品を遊んでみると「楽しい」ことは確かなのだが、「一つのシリーズをひたすら使いまわす」という体質をハドソンに感じている私としては、ちょっともにょもにょとした気分になる面もある。


・ハドソンの「古くからの体質」について。

なんつーか、「一つのキャラ・一つのシリーズをひたすら再利用」って傾向がある気がするんですよね。昔から。

迷宮組曲といい、サラトマといい、初代ボンバーマンといい、ハドソンには「面白いオリジナルゲーム」を作る能力が十二分にあった。ファミコンが遊ばれ始めた当初、コロコロコミックとハドソンを中心にゲーム業界が回っていた時代があったのだ。迷宮組曲やサラトマのテンションでハドソンがオリジナル作品を作り続けていれば、ハドソンの代表的タイトルはこんな数では済んでいなかった筈だ。


サラダの国のトマト姫」の項でも書いたが、私はこれを「間違った成功体験」の為ではないかと考えている。

一言で言うと、迷宮組曲よりも「高橋名人の冒険島」や「ドラえもん」の方が売れてしまったから。サラトマよりも「ミッキーマウス 不思議の国の大冒険」の方が売れてしまったから。

雑誌とのタイアップなどの事情(特に高橋名人関連で)もあるのだろうが、「とにかく人気のあるキャラクターを前面に出して売る」という手法を、この時ハドソンが経験則として身につけてしまったんではねえか、とか私は思ってしまう訳だが。天外もボンバーマンも桃鉄もそれぞれに面白いのだが、サラトマや迷宮組曲の様な「オリジナルの良作」にハドソンがリソースを向け続けていたらどうなっていたか、などと私は妄想してしまう訳である。


まあ、「シリーズひたすら再利用」に関しては人のこと言えないメーカーさんもたくさんある気はする。実際、ある程度の売り上げが保証されているってのは営業さん的にも大きいのだろう。この辺は余談。



・私にとってのスーパー桃鉄。

どういう訳か、「しあわせのかたち」で桜先生がちょりそノブやサイバー佐藤と遊んでいた桃鉄のイメージが何より強かったりするんですけど、桜先生は最近お元気でしょうか。

ちなみに、自分の中では「スーパー桃鉄III」が一番好きだったりもします。当時は良く99年桃鉄やったなあ。えんまが言う程強くなかったけど。

私の得意戦術は東北地方・及び襟裳を中心とした農林王国狙いだったりもするんだけど、それも元々は「しあわせのかたち」の影響かも知れない。


と、例によって長くなったので今回はこの辺で。次回は多分またタイトルものです。
posted by しんざき at 16:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | レトロゲーム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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