後期のドラゴンボールには「技」がないな、とふと思った。
格闘漫画としてドラゴンボールを考えると、ある時点からちょっと特殊な方向に行くことが分かる。通常の格闘漫画なら当たり前にある筈の、腕や足を使った「技」が消えるのだ。序盤では普通にあった、ジャン拳であるとか猿拳であるとか、狼牙風風拳といった技が影も形もなくなるのだ。
その代わり何が出てくるかというと、「必殺技」だ。「光線技」だ。かめはめ波とかギャリック砲とかヘルズフラッシュとか、手とか目から色々出るあーゆーソレだ。
多分この現象は、最初の天下一武闘会辺りから既に傾向として現われていたと思う。それでも悟空とジャッキー・チュンの決着は、最後はなんだかんだで体術でついたが、以降の天下一武闘会では、体術的な「技」がメインで出てくることはほぼなくなる。突きや蹴りでの「どつきあい」は純然たる前座となっていき、戦いの主要な部分は光線気弾の乱れ飛びで構成される様になるのである。
Wikipediaに面白い項目があったので、ちょっと参照リンクをしてみる。
スクロールバーを見れば一目瞭然といえるだろう。「体術系の技」と「気功弾、光線系の技」のこの圧倒的な数の差はどうだ。天空X字拳の置いてけぼりっぷりに悲哀を感じずにはいられない。
「前座としての格闘技」「メインを飾る光線技」というキーワードを考えると、ふと思い浮かぶ作品がある。そう、「ウルトラマン」である。
ウルトラマンファミリーは、怪獣としばらくの間空手や柔道を使ってじゃれあった後、時間内きっちりにスペシウム光線や八つ裂き光輪を使って怪獣にとどめをさす(たまにさせないこともあるが)。これは様式美でもあり、ウルトラマンの凄さを表現する為の演出でもあり、「必殺技による分かりやすい決着」を描く為の手順でもあった。
ドラゴンボールという漫画は、格闘漫画にウルトラマン的手法を持ち込んだ作品といえるのではないかと私は考える。
少し思考を前に戻してみよう。
ドラゴンボールに先立つ格闘漫画としては、例えばタイガーマスクが、そしてその後継としてのキン肉マンが思い浮かぶ。
キン肉マンという漫画において、登場人物達は人間ではない。超人である。超人であるが故に、彼らは通常の漫画的表現の束縛から自由になった。敵を月まで吹っ飛ばそうが、ホールの天井まで軽々ジャンプしようが、誰も文句が言えない世界がそこにはあった。
しかし、彼らは手から色々出さない。目から色々出さない。時折「何か出てきた(レインボーシャワーとか)」ことがあったとしても、それはキン肉マンという漫画においては飽くまで「搦め手」であって、最後に勝負を決めるのは体を使った「技」であり、「スープレックス」であり、「ツープラトン」であった。
これは、キン肉マンの超人たちが演じる戦いが、徹頭徹尾「プロレス」であったからに他ならない。彼らはそのフィールドから一歩たりとも出ることはなかった。これはこれで、キン肉マンとはそういう作品なのだから批判される様なことではない。
一方のドラゴンボールは、当初存在した「拳法」という呪縛を、かめはめ波という技を突破口として木っ端微塵にしてしまった。
ドラゴンボールはインフレ的演出の元祖の様に言われることが多い。だが、そもそもドラゴンボールがインフレ「出来た」のは何故か?格闘漫画にウルトラマン的手法を持ち込んだから、「手とか目から色々出る」という技が喧嘩のメインになったからこそ、ドラゴンボールはインフレすることが出来たのである。光線と光線がぶつかって大爆発を起こしたり、山が吹っ飛んだりクレーターが出来たりしたからこそ、当時の読者は「戦闘力●●万」という数字に説得力を感じることが出来たのである。
ドラゴンボールの「インフレ展開」、いってみれば数値戦は、通常の格闘漫画から「ウルトラマンと格闘漫画の折衷」的漫画に変化したからこそ生まれ得たものだった。「気弾」とか「衝撃波」といったテーマと、鳥山先生の描画力が組み合わさったからこそ描けた展開だった。
「パンチやキックのみで一切光線とか出さないけど超強いフリーザ」など想像出来るだろうか。「気を一切使わない」筈の人造人間編ですら、戦いのメインはすぐに光線だのファイナルフラッシュだのという方面に移っていった。これは、何よりも「ステゴロだけでは表現出来る強さに限界がある」という絶対的な制約の為に生じた展開でもあろう。
ということで、まとめてみる。
・ドラゴンボールの、「どつき合う」→「手から色々出す」という展開はウルトラマン的だと思う。
・ウルトラマン的要素を導入することなしでは、ドラゴンボールの「インフレ展開」はありえなかった。
・ウルトラマンのパロディとしてスタートしながら、ウルトラマン的にならなかった格闘漫画がキン肉マンだなあとも思ったよ。
・ところでマンモスマン悪役化しちゃうの?ウォーズマン死ぬの?
・ウォーズマンってホント人気の割に貧乏くじばっか引いてる印象がありますよねー。
・ところで天空X字拳のナムさんのこともたまには思い出してあげてください。
そろそろ昼休みも終わるのでそんな感じで。
あれも、キン肉マンがプロレスであるのと同じ程度にはボクシングだったんじゃないでしょうか。多分だけど。
>sukaさん
あー、ご指摘ありがとうございます。後で適当に直しておきます。
たかだかG.I.編のローカルルールにあんなに解説する必要もなかったでしょうに。
念も庶民レベルのルールは凄い人達には意味がなくなっている。
あれで光れば完璧でした。
>てんてけさん
GI編については、たかがローカルルールにあれだけ細かい設定を執念深くつくり込むことが、ある意味富樫さんの凄みなんじゃないかとか思ってます。
念については、蟻さん編がちょっと特殊な感じですね。
>もぎゃさん
あの頃のキン肉マンって、多分まだ格闘漫画じゃなかったんじゃないでしょうか。
聖也はビームの代りに変な必殺技のネーム(擬音)を発生するね