ちょっと見過ごせないエントリーを見たので、若干予定を変更する。
「れとろげーむまにあ」様より。
れとろげーむまにあ:アーケードから移植された納得のいかないファミコン作品
れとろげーむまにあ様には申し訳ないが、私はこのエントリーに対してはこう申し上げなくてはならない。
違うだろう、と。
もっと重要なヤツを忘れているだろう、と。
マイティファイナルファイトなんて普通の良作を取り上げてる場合じゃないだろう、と。
およそありとあらゆる家庭用ハードの中で、ファミコンというハード程「移植」という言葉の裏に数々のドラマを秘めているハードは他に存在しないだろう。
PCやアーケードとの性能差は山より高く聳え立っているのに、開発陣は容赦なく「××を移植すれ!」という理不尽なオーダーを受ける。絶対的なハード性能の差に、原作ファンの厳しい視線。はじめから負けが見えている戦に敢然と戦いを挑む開発陣。
そしてファミコン市場にはアフターバーナーが、魔界村が、沙羅曼蛇が、熱血硬派くにおくんが、オペレーションウルフが、ハードの限界を越えて送り出されてきたのである。
そんな中。とある一つの硬派タイトルが、妥当なシステム変更と、凄まじいまでのイメージチェンジを施された上でファミコン業界に降り立った。
そう、その名は「アルゴスの戦士 はちゃめちゃ大進撃」。
アルゴスの戦士。アクションゲーム。1986年、テクモよりアーケード版発売。その翌年、87年4月にファミコン版に移植された際には、RPG風の味付けと、見下ろし型マップなどの追加要素と、「はちゃめちゃ大進撃」という恐るべき副題を引っさげて業務用ファンの度肝を抜いた。ついでに、パッケージには誰だよお前とつぶやきたくなる様な、可愛らしい3頭身の戦士がアルゴスの戦士として描写されていた。(参照: 琵琶湖のほとり様より)
ファミコンへの移植の際に奇妙な副題がつくというのは意外によくあるパターンなのだが、ゲームごと180度の路線変更を行った「スプラッターハウス わんぱくグラフィティ」、PCアドベンチャーの雄「ジーザス 恐怖のバイオモンスター」などと並んで、最もインパクトが強烈な部類に入るといっていいだろう。ゲームそのものはアーケード・ファミコン版共に良作と言うべき出来であっただけに、そのインパクトは一層際立っていた。
当時、ファミコンが「お子様マーケット」であると認識されていたことは想像に難くないし、玩具メーカーとしての任天堂の存在を考えても、それは別におかしな話ではない。ただ、だからといって「サブタイトルでお子様に受けそうなテイストをつけよう」という発想はちょっとどうなんだ、と思わざるを得ない。確かにアルゴスの戦士は硬派硬派とした硬派ゲーであった訳だが、中身は割と硬派なまま看板とパッケージだけお子様用に変えてみました、というスタンスには若干の議論の余地が残るだろう。その点「全とっかえ」のスプラッターハウスはまだ潔かったといえなくもない。
まあ、この辺は数ある移植のドラマの内だ。まず、参照URLを挙げてみる。
ゲームの背景についてはWikipediaに詳しい。
Wikipedia:アルゴスの戦士
ファミコン版の攻略に関してはこちらのページが白眉だろう。画面写真も参照することが出来る。
アルゴスの戦士
業務用については、こちらでインストカードから画面写真まで参照することが出来る。恐るべき情報量である。
アルゴスの戦士 -テクモ 1986
あんまり関係ないが、アルゴスの戦士はPS2に移植された際も、「マッスルインパクト」などという、人によってはキン肉マンものと間違いかねないサブタイトルを冠されている。なんというか、元来サブタイトルに恵まれていないシリーズなのだろうか。
さて、ゲームの話にいこう。
・胸力って何?(業務用ファン談)
アーケード版のアルゴスの戦士は、どこまでもストイック、かつ硬派なジャンプアクションだった。
主人公のアルゴスの戦士は、ヨーヨー状の武器「ディスカーマー」を駆使しながら、獣王ライガーを倒す為、敵をなぎ倒したり踏んづけたり飛び越えてスルーしたりする。「インドラ」というパワーアップアイテムこそ存在したものの、そのゲーム性自体にとんがった部分はそれ程ない。適度な難易度と丁寧なステージ構成、殺伐としたインストカード(上記URL参照)が特徴である程度である。
その一方、ファミコン版に移植された際には、他の数々の移植タイトルと同様、アルゴスの戦士は大きく姿を変えていた。「腕力」「胸力」「精神力」などの各種パラメータ。ボウガンやくさりガマなど、「特殊な地形を越える為のアイテム」に双方向のマップ。敵を倒すことで成長するという経験値稼ぎの要素と、仙人からの情報収集。
そう、そのゲーム性は極めて強くRPGを意識したものになっていたのである。これはこれで十分丁寧な作りこみがされてはいたし、単体でも十分面白いゲームではあったのだが、業務用をイメージして始めてみたらびっくり仰天、という度合いでは源平に劣るものではない。
何故アルゴスの戦士はこの様なアレンジを施されたのか?それを知る為には、時代背景を考えてみる必要がある。
・1987年4月という時期、ファミコン業界には何が起きていたか。
以前も何度か書いているが、86年中盤から87年後半くらいにかけて、ファミコン業界はジャンルのカンブリア爆発を経験する。その背景には、86年2月にディスクシステムが発売され、安くなったメディア供給を背景に、様々なメーカーが山ほどの実験作を送り出したことが影響しているだろう。
そんな中、アクション・シューティング全盛だったファミコン業界に強く食い込んできたのが、王道ジャンルとして形成されつつあったRPGである。
1986年2月に、「ゼルダの伝説」。同じく3月に「ハイドライドスペシャル」、5月に「ドラゴンクエスト」。8月に「ワルキューレの冒険」。9月には、どこをどうひっくりかえしてみてもシューティングなのにRPGを自称していた「キングスナイト」も発売されている。
12月の「魔鐘」と「ディープダンジョン」、87年1月の「リンクの冒険」を挟んで、同じく87年1月に発売されたのが、かの「ドラゴンクエストII」である。週刊少年ジャンプの強烈なプッシュもあり、発売直後から空前の大ヒットを巻き起こしたのがドラクエ2だ。おそらく、RPGというジャンルが家庭用業界において完全に「王道」として認識されたのが、87年1月26日ではなかったか。
ここから考えると、アルゴスの戦士というゲームが移植される際、企画会議にて「どうせ完全移植は無理なんだし、今売れ筋のRPGっぽくしちゃえばよくね?」という思考が働いたのではないか、という推測は容易に可能である(開発期間が数ヶ月というのは、ファミコン時代に関していえばそれ程無茶な長さではない(参照:ファミコン登場から20年、成長モデルの限界)。アルゴスがそれに当てはまるのかどうかは保証しないが)。
この前後、グーニーズ2や月風魔伝、ディスク版の奇々怪界にまでRPG的な味付けが導入されていたことを考えれば、当時のゲーム業界の空気が想像出来ようというものだ。
ちなみに、源平程極端なものは少ないが、移植する際に微妙にジャンルを調整することでゲーム性を拡張する、という手法が使われたタイトルは他にも枚挙に暇がない。ヴァリスとか大魔司教ガリウスとかマイティボンジャックとか。妖怪道中記もそうかな。まあ、これについてはいずれまた、他の万里にて改めて取り上げたいと思う。
・それはそうと、アルゴスの話に戻りますが。
風の滑車の使い方のコツを覚えるのがこのゲーム最大の難関なんじゃねえかと思ったりもする訳ですが、何であのアイテムはあんなに使いにくいんですか。昔よく、ロープにはまったものと勘違いして崖に飛び降りてました。
というのはまあともかくとして、このゲームの個人的な印象としては、とにかく高い、というものがある。勿論値段ではなく、高度の話である。別の言い方をすれば、戦士高い所登り過ぎ。
このゲームはサイドビュー・トップビューが入り混じった複数のマップで構成されているのだが、一部のサイドビュー画面において、戦士がそりゃもうどこまで行くんだっていうくらい高く高く上っていくのである。一番高かったのは多分ロルセニア渓谷だろうか。木登り大好き高い所大好きの私は、転落したら30回くらい死ねるんじゃないかという高さを想像して、なんとなくハイになりながらよく操作ミスで水辺に転落して死んでいたものである。
ちなみに、このゲームの主人公であるアルゴスの戦士も、任天堂ジャンプアクションもかくやと思わせる超人的ジャンプ力の所有者である。多分スケール的には、アイスクライマーの主人公とタメがはれるんではないだろうか。一度「ジャンプアクション選抜ジャンプ力測定決戦」とかやってみると面白いかも知れない。
ということで、随分長くなったのでそろそろこの辺で。
付け加えになるが、冒頭れとろげーむまにあ様が挙げられている源平については、「月風魔伝が先に出てしまったから」こそのボードゲーム化だったりするのではないか、と私は以前書いた。手前味噌だが、参照URLとして挙げさせて頂く。
レトロゲーム万里を往く その51 源平討魔伝(FC版)
レトロゲーム万里を往く その50 源平討魔伝
次回は多分大航海時代に戻ります。
2008年12月02日
この記事へのトラックバック
・・・つーか、知識&文章力のレベルが違いすぎて卑屈になってしまいそうっす・・・。勝手ながらリンクさせていただきました。今後も思ったままのアホ記事を書いていくと思いますが、よろしくお願いします(意味不明)。駄文失礼しました。
m(_)m
おわ、コメントありがとうございます。こちらこそ、妙な絡み方をさせて頂いてしまって恐縮です。いつも考察系の記事を楽しく読ませて頂いております。
こちらからもリンクをさせて頂きました。今後ともよろしくお願い致します。
音楽が印象的です