2006年01月06日

何故最近のリメイクゲームの評価がひどいのか、をSEが勝手に想像してみる。

何でだろう。

昨今、ハードを問わずリメイクゲームは大流行りだが、「素晴らしい出来」という評価を聞くことが少ない。というか、どちらかというと「ヒド過ぎる」だの「原作に対する愛はないのか」などといった評価が多勢である様に思う(ヴァルケンとかラングリッサーとか)。

いや、評価というのは勿論評価する側あっての話だから、ユーザー側に由来する原因というのも結構あるのだろうとは思う。記憶の美化とか、目が肥えたとか、その辺の原因も大きいことは大きいのだろう。

が、この際は取り敢えずそちらをおいて、開発者側の話を想像してみる。というか、これだけリメイクゲーム開発のボロボロっぷりが伝えられると、どうもユーザー側の心理上の問題ばかりが要因でもなさそうだ。


という根拠は何かというと、システム開発の場でも同じ様なことが起きる案件が結構あるからだ。他でもない、「旧式システムの新システムへの置き換え」案件である。

私はゲーム開発に携わったことは一回もない。よって、ゲーム開発の現場がどの様な状況になっているのかを知っている訳ではない。

が、通常のシステム開発とある程度共通する部分はあるんではないか、という想定の元、取り敢えず勝手に想像してみよう。

まずは聞きかじり。通常、システムの置き換え案件が盛大に(開発チーム外からの要因以外で)難航する場合、主要な要因はこんな感じになる様だ。

1.旧式システムに関する情報不足
1-1.旧システムが、一人に情報が集中する作りになっていた場合。
1-2.単純なドキュメント不足・コメント不足の場合。

2.旧式システムとの技術的な隔たりによる問題(ex.COBOL → Java)
2-1.旧システムのプラットフォームでは楽に実装出来た技術を、一から組みなおさなくてはならなかった場合など。
2-2.新プラットフォーム,あるいは旧プラットフォームを熟知している人材が不足していた場合。
2-3.両者の橋渡しが出来る人材が不足していた場合。

3.開発体制が旧システム時点と異なっていることによる弊害(1,2との相乗)



おや。勝手な想像ではあるが、実はこれ、ゲーム開発の現場にも結構そのまんま当てはまったりしないだろうか。見た感じは割りと素で置換出来そうだ。
順番に補足してみよう。

1番の話は単純である。そもそも、旧システム上のソース(プログラムの内容)を読むにあたって、「どこでなにやってるかよーわからん」という状態に陥った場合だ。(そもそもソースがなかった場合、とかは既に論外なので取り敢えず置いておく。場合によっては逆に楽かも知れないが)

移植するんだから古いものは当然理解しておかないといけない。細部まで理解出来ないにしても、少なくともソースの意味くらいは把握しておく必要がある。ここでつまづくと移植はてき面にすっ転ぶ。効果絶大である。

例えば1-1。あるシステムが、「ど真ん中のモジュールが全部のデータに触る作り」だったりしたとする。オブジェクト指向などというものが流行り始める前にはそんな珍しくない構造だ。で、そのモジュールを作った人がとっくに会社を辞めていたとする。

さあ大変だ。下手にモジュールをいじると色んな所に影響が出るし、全部のデータの意味をきちんと把握していないと新たに作り直すのもエラい苦労である。基本的には設計し直しコースだ(場合によっては逆に楽かも知れないが)。

頼みの綱のコメントやドキュメントが1-2みたいないい加減な内容、あるいはとっくに失われていたりすると、これはもうプロジェクトはデスマーチ(日本語で「エラいこっちゃ」という意味)にまっしぐらである。

例え該当モジュールについて把握していた人が運良く(この業界、一般的に人の出入りは激しい)辞めていなかったとしても、知識が一人に集中していては情報伝達もエラい手間である。スケジュールはがりがりと削れるし、本人の記憶も日々薄れる。

こーゆーヤヴァい状況って、ゲームの現場でも普通にありそうだ。例えばSFCのゲームの移植なんて、下手すると10年越し以上のリメイクになる。
元の人材が残っている確率なんてむしろ低いだろうし、SFC時代やFC時代の少人数体制のタイトスケジュールと言えば、コメントやドキュメントもそうそう充実はしてない筈だ。システム開発なら即デスマにつながりそうな雰囲気なのである。


2番の話はどんなもんだろう。

私は、一般的なゲームのプログラムが何の言語で組まれているかを知らない。(FC時代は多分チューニングされたCか何かだろうが)。また、最近のハードのプラットフォームにもじぇんじぇん詳しくない。

だから技術的な話はあんまり正確には出来ないのだが、例によってSEとして想像すると、2番、結構でかそうだ。

2-1なんかはよく聞く話。新しいハードの方がスペックが高いから移植しやすい、という訳でもないらしい。SFCゲーの移植で、画面の回転・縮小をPSで再現するのにエラい苦労した、なんて話もどっかで読んだ覚えがある。

2-2と2-3はちょっと問題だ。

当然のことながら、移植をする際には古いプラットフォームと新しいプラットフォーム、両方分かっている必要がある。COBOLのプログラムをJAVAに移す時、COBOLの知識もJAVAの知識も両方必要とされるのは当然である。企業だってそれを考えて人材配置をする筈だ。


厄介なのは、3と2-3が結びついた場合である。


システム業界の話なのだが、「昔の小規模なシステム」を「今の大規模なシステム」に移す時、「大人数」がネックになることがたまにある。

大人数チームに必要なのは、「知識の総量」ではなく「知識の平均値」である。

ある技術について、一人が全部の情報を知っていたとしても、残りの人々がその情報を把握していなければ仕事はぜーんぜん進まない。仕事を進める為には、みんながある程度の知識をもっている必要がある。そして、知らない人が多ければ多い程、知ってる人が費やさなくてはいけない「知識伝達の手間」は増える。

ゲーム業界にあてはめて勝手に想像してみるとどうなるか。

最近の「大規模な労力が必要とされる」ゲームのチームが、例えばそのまんまリメイクにまわされたとする。その人々がスーファミのゲームの移植に取り組む。で、例えばスーファミのプラットフォームでの開発をやったことがある人が、その中にひとりしかいなかったりしたとする。

さあ大変だ。かつては少人数で作ることが出来た仕事が、細分化して大人数に割り振られるが故にじぇんじぇん進まない。

旧技術に通じている人は一人しかいない。この人が皆に知識伝達をする手間の方が、実はこの人一人で仕事をする手間より下手すると遥かにでかかったりするのだ。でも、開発体制は既に固まっているから今更動かす訳にもいかない。

もたもたしている内にもカレンダーはめくれ、場所によっては知識量が低い人が2-1や1-2に悩まされつつひーこら仕事をしていたりする。一体どーなるか。

これ、出来すぎっつーかバカらしい話の様に聞こえるだろうが、少なくともシステム業界では割と一般的に見られる光景なのだ。当然のことながら、この流れは「エラいこっちゃ」にまっしぐらである。「最近の環境に特化した環境」が出来ていればいる程、この典型的な流れは頻繁に現れる様になる。

つまり、開発体制が「最近のゲーム」に特化しているが故に、「昔のゲーム」を作れないという、そんな側面があるんじゃねえかと私は勝手に想像するのである。

いや、内情を知らんから全然的外れだったら申し訳ないが、ファイナルファンタジー4アドバンスに今回起きた事態っていうのは、案外こんな感じだったりしないだろーか。



長くなったのでまとめておこう。

・レトロゲームだからって楽に移植出来る訳ではなさそうな気がする。

・人数が多いからって楽に移植出来る訳ではなさそうな気がする。

・開発ドキュメントはきちんと書いてきちんと保存した方がいい様な気がする。

・コメントもきちんと書いた方がいい様な気がする。

・今目を逸らしたSE、ちょっとそこ座れ。(オレとか)


SEの想像、大体以上の通り。


-----------------------------------------------------------
追記、というか独り言。

「下手にコンポーネントの再利用とかさせようとするから、逆にデスマになんだよっ!!」

というSEの悪口雑言(というか呪詛)はゲーム業界にもあるんだろうか。
posted by しんざき at 19:32 | Comment(11) | TrackBack(3) | レトロでもないゲーム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事へのコメント
しんざき様の書かれた技術的なことは、問題のほんの一部かもしれません。
旧ハードから移植できる技術者を集められるから会社もゲーム製作にGOを出すわけだろうし。

むしろ話がつまらないとか、イベントがつまらないとか、そちらが気になります。
背景はきれいなのに、エフェクトも派手なのに、キャラは美男美女が揃ってるのに、有名声優が出てるのに。
色々な会社から良質なゲーム企画者が育ってないんじゃないかと。

ゲームプログラマは常に最新技術を勉強しつづけているはずです。
休めば他の人に仕事が行きます。その企画が自分が好きなジャンルだと悲しくなります。
言語も食わず嫌いはできません。最近はCかC++で済みますが。

面白いゲームはコンピューターがなくても紙の上でコマを動かすだけでも面白いのではなかろうか。

と暴言吐いてこれで失礼します〜。
Posted by んむー at 2006年01月08日 02:00
はじめまして。SFC時代からゲームプログラマやってます。

FCのころはほぼ100%アセンブラですよ。
SFC/MD/PCE時代でも半分以上はアセンブラのはず。
このころのハードは遅い上に本体に搭載されているRAMが非常に少ないので、変数の確保にさえ気を使うんですよ。
仮想記憶なんてあるわけないしスタック領域も限られているので変数は基本的にグローバル、同じアドレスを競合しないルーチン同士でまったく違う用途に使ったり、メモリ節約のため3バイト単位の配列とかがあったりします。
だからアセンブラでゴリゴリ書くしかないんです。

あと6502(FCのCPU)の命令体系はx86などとは大きく異なるので、ソースコードを読み解くのもけっこう苦労します。
(私は古い人間なのでそこそこ慣れちゃってますが)
Posted by アルビレオ at 2006年01月09日 01:06
FCやSFCの開発言語はもはやアセンブラでしょうね。
そもそもハードを直に叩かないと無理でしょ。
今は、エミュ層を介して元ファイルを動作させる
方法が主流でしょうね。
後、こーいった集団で作業を行う時は、全体が
見渡せるフローチャートが必要かも?
そのチャートを元に個々のコードを新たに書き直す
のが理想ですね。
Posted by ぐは at 2006年01月09日 01:26
>んむーさん
コメントありがとうございます。

>旧ハードから移植できる技術者を集められるから会社もゲーム製作にGOを出すわけだろうし。

システム開発業界では、「んー、人材のアサインがうまくいってねえなあ。両方分かる奴あんまいないけど、まあいいやいっちゃえー」って感じでプロジェクトが動き出す(で、ひどいことになる)場合が結構ある様に見受けられるんですが、ゲーム業界はそうでもないでしょうか。

>色々な会社から良質なゲーム企画者が育ってないんじゃないかと。

んー、リメイクゲームに必要な企画能力ってどんなでしょうね。ベタ移植だったらあんまり企画の出る幕はないのでしょうが・・・


>アルビレオさん

貴重な情報提供ありがとうございますー。

>このころのハードは遅い上に本体に搭載されているRAMが非常に少ないので、変数の確保にさえ気を使うんですよ。

おお、職人芸の世界だったんですね。ゲーム開発の環境とはかけ離れますが、以前ファミリーベーシックについて調べた時、やっぱり最後はアセンブラでメモリお手玉状態にたどり着いた、みたいなことを聞きました。

>変数は基本的にグローバル、同じアドレスを競合しないルーチン同士でまったく違う用途に使ったり、
>メモリ節約のため3バイト単位の配列とかがあったりします。

うーむ。ソースから移植しようとしたらエラい目に遭いそうですねー。


>ぐはさん
>今は、エミュ層を介して元ファイルを動作させる方法が主流でしょうね。

ファミコンミニシリーズとかはエミュ動作だって話でしたね。




Posted by しんざき at 2006年01月09日 10:40
とても勉強になりました。素晴らしい!
Posted by JEX at 2006年01月19日 03:40
どうもこんにちは。はじめまして。

リメイクに必要な企画能力ですが、
私は完全に素人なので、客の視点から考えますに、追加要素に関することかなと。

よくできた移植でも、オリジナルへの追加要素が無いと、それだけで点を下げるレビューが雑誌でも個人でもあったりします。
せっかく移植すんだし、何か足そうかなと思うのは、つくる側からも自然な考えかなと思います。

で、問題が出たのがFF4なのかなあ…。
下手に足したから…。
変なの足しちゃうと地雷扱いという酷い状況に。

その点ファミコンミニシリーズって潔かったですね。何度もできる商売じゃないですが。
足して高く売るか、そのまま安く売るか…。
Posted by 素人 at 2006年01月19日 18:14
>JEXさん
コメントどうもです。長くてすいません。

>素人さん
>よくできた移植でも、オリジナルへの追加要素が無いと、それだけで点を下げるレビューが雑誌でも個人でもあったりします。

「べた移植」と「べた移植+追加要素一個」の間にあるもの凄い労力の差を考えますと、ちょっと「気楽な意見」にも思えちゃいますね。ただのベタ移植ならエミュレーターでなんとでもなるんですけど。
Posted by しんざき at 2006年01月20日 21:03
にゃー最近どんどんコンシューマのバグがひどすぎて、ここにたどり着いたり。たしかに言うことは当たってますが、最近は企業のトップから人材は使い捨てだと思い、結果何も知らない新人がやってたりするケースが多々あります。プログラムは職人芸、一朝一夕でできるもんじゃないのに。次世代機になっても昔のテクは重要です。だからこそ昔からの技術者が必要なのですが、今は技術を教える人すら残ってません。
この業界オワタ\(^o^)/
Posted by at 2007年01月01日 02:14
>名無しさん
>最近は企業のトップから人材は使い捨てだと思い、
>結果何も知らない新人がやってたりするケースが多々あります。

うーん、人材使い捨て戦術というか、人員をがんがん増やしてがんがん使いまわすというのはある程度大きな会社しか出来ない戦法だと思っていますが、どうなんでしょうか。

ノウハウを蓄積してる人材って今どの辺に流れてるんでしょうね。技術力がある(かつ、組織力はない)人ほど、大会社にはいつかないというのはシステム業界では定理みたいなもんですけど。
Posted by しんざき at 2007年01月04日 09:05
読ませていただきました。
といってもプログラミングとかそういったものは僕にはちんぷんかんぷんなんですけどね・・・。
ただ僕たちは「リメイクしてくれ」と企業に一方的に要求をしていますが、リメイクって結構大変なのかな?と考えさせられました。
リメイクだからもっといい作品ができなければおかしいとか
リメイク=作るのが簡単、ではないのですね
リメイクするチームと僕らの話し合いの場があればいいんですがね。
Posted by あいうえお at 2007年06月14日 03:38
>あいうえおさん
「リメイクって結構大変」なのは確かだと思います。しかもそれには技術上の問題がかなり絡む、ってことですね。

進歩すれば進歩する程楽になる、という訳でもない様で。
Posted by しんざき at 2007年06月15日 00:13
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック

GBA版 Final Fantasy 4
Excerpt:  地雷でした(笑)  いままでひどかったスクウェアのリメイクも、エニックスと合併してからちょっとマシになったと思っていた矢先のコレ。とにかく処理落ちやバグがひどい。メニュー画面を操作しているだけなの..
Weblog: フッ君の日常
Tracked: 2006-01-08 23:46

3月予定地+theSpoke Hearsay。年始の抱負を書いときました。
Excerpt: エントリ単独で16hit以上くらい。全体的には31,200hitくらい。The Student Day 2006 開催決定http://www.microsoft.com/japan/msdn/stu..
Weblog: +theSpoke Hearsay
Tracked: 2006-01-09 06:37

3月予定地+theSpoke Hearsay。ギャラリーにPGR3の画像を置いておきました。
Excerpt: エントリ単独で31hit以上くらい。全体的には31,231hitくらい。ご意見ご感想はhiroakikthespoke@hotmail.comまでどうぞ。The Student Day 2006 開催..
Weblog: +theSpoke Hearsay
Tracked: 2006-01-10 19:16