2006年01月24日

コンサル・ドラえもん考

ドラえもんはコンサルである。


コンサルタントは、顧客が抱えている問題に対して解決法(ソリューション)を提示し、問題を解決しようとする。

ドラえもんは、のび太が抱えている問題に対して解決法(ひみつ道具)を提示し、問題を解決しようとする。


コンサル(特にITコンサル)は往々にして顧客のインタビュー不足や調査不足などによって問題の本質を把握し損ね、オーバースペック・予算超過・仕様のアンマッチなどの事態を招く。

ドラえもん(特にコミック版)は往々にしてのび太とのコミュニケーション不足や状況の把握失敗によって問題の本質を把握し損ね、ひみつ道具のオーバースペック・のび太の大泣き・ジャイアン大暴れなどの事態を招く。


顧客は往々にして非常にわがまま・かつ問題の本質を把握しておらず、ちょっとした業務改善で済むところをオーバースペックのシステムで解決したがったりする。

のび太は往々にして非常にわがまま・かつ問題の本質を把握しておらず、ちょっとした努力で済むところをオーバースペックのひみつ道具で解決したがったりする。


顧客は往々にして出来上がったシステムの運用に失敗してエラいことになる。

のび太は非常にしばしばひみつ道具の使用法を間違えてエラいことになる。


こうしてみると、コンサルとドラえもんの間になんと共通点の多いことか。コンサルという職業は、ひょっとするとドラえもんをインスパイアして開闢したのではあるまいか。

まあ勿論ドラえもんと非ドラえもんコンサルの間には多々違いもある。例えばドラえもんは、非常に多くの優秀なパッケージ(ひみつ道具)を最初からもっているという、圧倒的な技術的優位性を有している(まあ、ITコンサルなら開発案件をとる必要があるので、あんまありがたくない優位性だろうが)。


ということで。本エントリーでは、いくつかの具体的事例を考察することにより、コンサル一代記として見た場合のドラえもんを分析する。


失敗案件1:チーターローション

「小宇宙戦争」に登場。

要件:ピリカ星において、監視カメラに見つからない様レジスタンスのアジトに辿りつく。

ドラえもんのソリューション:当初姿を消す「かたづけラッカー」を提示したがラッカーの効果が時間切れ。その後ものすごい速さでダッシュするチーターローションによって姿を見せずに目的地までたどり着こうとする、というもの。

結果:のび太のスタミナ切れによって、アジト直前でチーターローション効果切れ。アジトの場所を把握されてしまう原因に。

考察:「のび太のスタミナ不足」及び「1kmの距離制限」という制限要因を考慮に入れていなかった為発生した失敗?ひみつ道具のスペック不足。単純な仕様不足による失敗は、比較的珍しいケースである。

素人考えだが、石ころ帽子でいいんじゃネ?という疑問が浮かぶ。監視カメラには効果がない、とかそーゆー設定でもあったっけ。(透明ペンキでもよかった気がする)どこでもドアもソリューションとしては必要十分だと思うが、この時は置いてきたかなんかで使えなかったんじゃねえかという記憶がうっすらとある。最強のワイルドカード「ソノウソホント」「もしもボックス」辺りは流石にオーバースペックか。


・失敗案件2:バイバイン

「ドラえもん」第17巻に登場。

要件:栗饅頭を腹一杯食べる。

ドラえもんのソリューション:1滴振り掛けると、5分後にその物が2倍の数に増えると言う「バイバイン」を用いて栗饅頭を増やす、というもの。

結果:等比級数的に栗饅頭が増殖して食べ切ることが出来ず、最後には増えすぎた栗饅頭を宇宙に廃棄することになった。

考察:ドラえもんの失敗の内でも著名なもの。典型的なオーバースペックによる失敗。
詳しい考察は現代物理学で考える「ドラえもんその後」のご参照を薦める。

フエルミラーでいいやん、と声を大にして主張したい。多分SEの中には、コンサルから回ってきた案件に対して「Excelでいいやん」と思うことが時折あると思うのだが、それと似た様な感覚かも知れない。


・失敗案件3:ヤセール

「ドラえもん」第44巻に登場。

要件:食べ物の大切さを知る。

ドラえもんのソリューション:一粒食べると一食ご飯を食べられなくなる、という薬「ヤセール」によってのび太に朝の絶食を強い、食べ物のありがたみを理解させる。

結果:薬の効果を聞いていなかったのび太が10粒近くをまとめて摂取し、餓死寸前に。

考察:クライアントとのコミュニケーション不足によって惨事を招いた例。ドラえもんでは非常にしばしば起こるケースである。

要件自体は満たされている様な気もするのだが、ドラえもんの企図した通りにひみつ道具が効果を発揮しなかった、という点ではよくある失敗とも言える。

実際のところ、食べ物のありがたみを理解させるだけならどこでもドアでのび太を無人島にでも放逐して「はー?ご飯がなければ草でも噛めばいいんじゃねーの?」とでも言ってくれば(そして「のび太の教育の為の愛をこめた発言です」とテロップ)済む話であり、最適解かといわれると疑問が残るところ。

とはいえ、のび太には小一時間ひみつ道具の使用法を言い聞かせなくてはならない、ということは物語後半のこの時点ではドラえもんはとうに把握していてしかるべきであり、コンサルとしての注意不足は指摘出来るだろう。


・総括

以上、典型的な事例を挙げてみた。まあ、制限要因としては「お話を成立させる」ということがなによりの制限要因ではあるのだが、世間一般のコンサルが犯しそうな失敗は、実はドラえもんは殆ど網羅しているということが分かる。恐るべしドラえもん。

とはいえ、ドラえもんには勿論数多くの成功ソリューションもあり、常にクライアント(のび太)の成長を企図してソリューションを提示しているという面では非常によく出来たコンサルであるということが出来る。

世のコンサルよ、技術本を捨てよ、ドラえもんを読もう。


参照リンク:
ドラえもんSuperDatabase
posted by しんざき at 11:13 | Comment(5) | TrackBack(2) | 雑文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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この記事へのコメント
ドラはのび太を使って秘密道具の評価試験をしている
気がする
Posted by めあ2 at 2006年01月25日 00:34
>めあさん
その基準だと「失敗作」とみなされそうな秘密道具がかなり多い罠。
Posted by しんざき at 2006年01月25日 08:00
興味深く拝読させていただきました。
ドラえもんとのび太の関係が、コンサルタントと顧客の関係であるとのご意見ですが、私もまさにその通りだと思います。
しかし、次の一点に関しては少々疑問を感じています。

> 常にクライアント(のび太)の成長を企図してソリューションを提示している

これは果たしてそう言えるでしょうか。
私もドラえもんに精通しているわけではないので断言はいたしかねるのですが
ドラえもんは、手助けしないほうがのび太の為になるのではないかと思われる事柄、
例えば宿題をやるとか、遅刻しないで学校に行くとか、
そういったことに対してもひみつ道具を提示し、問題解決を図ろうとしています。

ドラえもんの最大の目的は「のび太を真っ当な人間に育て上げること」だったはずです。
どうも彼の言動を見ていると、その大目標を忘れ、場当たり的に目の前の課題に取り組んでいるように思えてなりません。
あるいは、泣きつかれると手を差し伸べずにはいられないという彼の善良さ故のことなのかもしれませんが。
どちらにせよ、彼には長期的な展望に沿って行動するという意識が欠けているのではないかというのが、私の見解です。
これはコンサルタントとしては致命的な欠陥と思わざるを得ません。
もっとも彼が関わることで、のび太の結婚相手はジャイ子からしずかちゃんに変わったようなので、結果的には成功しているようではあるのですが。
Posted by Zhao at 2006年01月26日 10:32
ドラえもんの道具ってひみつ道具でしたっけ。
未来の道具ってひみつだったのか〜。

のび太の結婚相手って、もしもボックスで変えちゃったのかなぁ。
Posted by いす at 2006年01月26日 12:22
>Zhao師
>例えば宿題をやるとか、遅刻しないで学校に行くとか、
そういったことに対してもひみつ道具を提示し、問題解決を図ろうとしています。
>どちらにせよ、彼には長期的な展望に沿って行動するという意識が欠けているのではないかというのが、私の見解です。

ひじょーに鋭いご指摘だと思うのですが、一応以下の可能性を提示しておきます。

・のび太における宿題・遅刻などに関して、「放っておけば自分で出来る様になる」という一般的なレベルに到達していない」と評価している。
→ひみつ道具による解決で、まずは「宿題が出来る」ということ自体の快感を教え込もうとしている。

でも実際場当たり的だとは思う。

>いすさん
>のび太の結婚相手って、もしもボックスで変えちゃったのかなぁ。

なんだっけ、一応のび太の成長によるものである、みたいな設定をどっかで読んだ様な覚えがあります。
Posted by しんざき at 2006年02月01日 02:33
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「ドラえもん=コンサルタント」説は、なかなかよくできている。
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