不勉強にして、ネットの知人に教えて頂くまで、松永英明氏がゴーストライターについて書かれているのを知らなかった。
いわゆる代理著述というものを実に分かりやすく説明してくださっていて、私としてもほほううむうむと頷かされることしきりであった。考えてみると、ゴーストライターが具体的に何をやっているかという情報の露出はあまり見ない。こういった開示を機に、ゴーストライターという影の職に対する先入観が少しでも好転することを望むこと切である。
いや、頷いてる立場じゃないだろう、お前も元ゴーストライターちゃうんかと思われる向きもあるやも知れない。正直言って氏のエントリーなど見ていると、私などがゴーストライターを名乗るのもおこがましいとも思うのだが、まああれだ。世の中には日向と日陰があって、私はどちらかというと世間一般に知られるとゴーストライターの評判を落としそうな類のゴーストライターなのである。
なんにせよ昔の話ではあるので、話三分の二程度に聞いて頂けると幸いだ。
作家が逃げる、ということが実際に起きる。私が出入りしていた出版社では、この「逃げる」という言葉を二通りに使っていた。一つは、作家が完全に締め切りに間に合わせることを放棄してしまうという状態。そしてもう一つは、洒落も冗談もミもフタも無く作家が失踪してしまうという事態である。
ある日私が、千葉県某所にある出入りの出版社を訪れた時のことである。
なにやらオフィスが騒然としている。ただ騒然としているだけなら、普段から有線は流れるわちゃぶ台はひっくり返されるわアニメ見てさぼってる編集者はいるわ、相当のデシペル数を誇る職場なのだが、それにしてもこの時は緊迫感がいつもと違った。
私はその辺を走り回っていた顔見知りの編集者、Tさんに話し掛けてみた。
「あのーTさんTさん。何かあったんすか?」
「あ、やばい。これかなりやばいわ。I先生。今度のはまじ国外かも知れん」
「・・・・・・・は?」
「いやーほら。あの先生も相当キてたから。ついに弾けちゃったんじゃないかな?いやー連載半年近く残ってんのに、まずいねー」
いや、まずいねーじゃないだろう。と当時の私も思ったものだ。
社会的立場も信用もある筈の作家が、締め切り破ったり失踪したりなどということが実際にあるとは。私もこの目で見るまでは知らなかった。大手の出版社ではそうそう聞く話ではないが(単に隠しているだけという可能性もあるが)、私がいた様な割とやくざな感じの出版社では割とこれが、そこまで希少価値のある話ではなかったのである。作家というのも随分大変な仕事で、頭から文章を搾り出す労苦故に、神経症になる人もいれば、より以上に大変なことになる人もいるらしい。この辺の話も相当にエグい。
ちなみに先述の緊急事態において、私はTさんに話し掛けてしまったことを契機にエラい仕事を押し付けられてしまうのだが、これはまた次項に譲ろう。
2004年12月14日

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