2009年12月30日

レトロゲーム万里を往く その93 「勝利条件・敗北条件」についての一考察。

ちょっと前にTwitterでもちらっと書いたこと。結構長話になりそうな予感があるので、先に言いたいことのメインパートを書いておく。

・あらゆるゲーム/遊びは4種類に分類出来る気がする。

1.「勝利条件も敗北条件もある」
2.「勝利条件はあるが敗北条件がない」
3.「勝利条件はないが敗北条件はある」
4.「勝利条件も敗北条件もない」

・勝利条件も敗北条件も、プレイ時間/遊び時間を区切る機能がある。ゲーム業界での話で言えば、例えばMMORPGはプレイ時間を長くしたい為、それ自体の勝利条件、敗北条件はない場合が多い。逆にゲーセンのゲームは特に敗北条件が厳密なことが多い。

・勝利条件はプレイヤーに達成感・爽快感を与えるものであり、また「ストーリー」があった場合それを完結させる為のものでもある。

・敗北条件はプレイヤーに敗北感・悔しさを与える為のものでもある。

・適切な「勝利条件」や「敗北条件」があるとゲームがとても面白くなる。

・3は遊びの一番原始的な形に近いと思うが、少なくともゲーム業界では、3に該当するゲームは随分前から少なくなっている様な気がする。これは、「達成感を自前で設定する」という遊び自体が受け入れられ辛くなっていることのあらわれかも知れない。



よし、言いたいことは大体言ったぞ。

ということで、以下は補論。

・勝利条件とかの件について、整理。

まず最初に、分類の話から始めてみる。

1.「勝利条件も敗北条件もある」ゲーム。

これは、端的に言ってしまえば「クリア」と「ゲームオーバー」があるゲームだ。例えばステージクリア型のSTG、アクションゲーム、戦術シミュレーション。パズルゲーム。スポーツもの。FPS。最近の一般的なゲームは、ここに属するものが多いと思う。

また、一方の勝利条件が一方の敗北条件となる、対戦ゲームは全てがここに該当する。格ゲーやカードゲーム、人狼みたいな対面ゲームから、囲碁将棋麻雀にいたるまで、全てそうだ。これについてはあまり例外がない筈である。


2.「勝利条件はあるが敗北条件がない」ゲーム。

これは、「クリア」はあるが「ゲームオーバー」がないゲーム、と言い換えることが出来る。多分、その大部分が一人用になると思う。例えば「全滅」が「ゲームオーバー」にならないRPGの殆どはここに該当する。あるいは多くの戦略シミュレーション。あるいはゲームオーバーがないタイプのアドベンチャーゲームや、時間無制限のパズルゲーム。ジグソーパズルなんかも、組み上げれば勝ちだけど諦めない限り負けはないから、ここに該当するだろう。


3.「勝利条件はないが敗北条件はある」ゲーム。

これは、要するに「クリア」はないけど「ゲームオーバー」があるゲームだ。例えばかつてのゼビウス、スターフォースの様なループゲームがその代表格だろう。イーアルカンフーやバルーンファイトなんかも、細分化すれば一つ一つのステージで「勝利・敗北」はあるが、ゲームそれ自体には「勝利条件」というものが設定されていない。

コンピューターゲームから離れれば、いわゆる「子供の遊び」というものは大部分がこれに近いと思う。例えば鬼ごっこ。例えばかくれんぼや缶蹴り。場面場面を見れば鬼に捕まる捕まらないという勝負があるが、それが終わっても鬼が交代して、遊びは無限に続いていく。ゲームオーバーは「皆疲れた時」だ。遊びの一番基本的な形式、といえなくもないかも知れない。


4.「勝利条件も敗北条件もない」ゲーム。

要するに「クリア」も「ゲームオーバー」もないゲーム。アクアノートみたいな環境シミュレーションとか。エンディングがないタイプの育成ゲームとか。シムシティなんかもそうなんじゃないかな。ステージによってはちゃんと勝利条件が決められてるけど。

WebでのCGIゲームなんかはこれ系のが結構あった気がする。箱庭諸島とかちょっと前は随分流行ったけど、最近どうなのかな。


・じゃあ、勝利条件とか敗北条件って何の為にあんのよ?

コンピューターゲームに関して言えば、私がぱっと思いつく主な役割は二つ。

1.プレイ時間を区切ること。
2.達成感や悔しさをプレイヤーに提供すること。


1は読んで字の如く、プレイ時間を区切る必要があるゲームの場合、「クリア」や「ゲームオーバー」によってゲームを終わらせるという機能がある。

例えばゲーセンでは、100円入れられただけで一日ゲームが占領されたら商売にならないから、プレイヤーにはどこかの時点でゲームを終わらせてもらわないといけない。極言してしまえば、インベーダーで自機が死ぬのはその為だ。

プレイヤーがじゃんじゃかゲームオーバーになれば、ゲームにはがんがんコインが投入されるからゲーセンは儲かる。だからゲーセンのゲームに「敗北条件」がないゲームは滅多に存在しない。ファミコン初期のゲームデザインも、基本的にはこれの踏襲だと思う。

一方、必ずしもプレイ時間を区切る必要がないゲーム、というのも当然あり、そういったゲームには敗北条件が存在しない場合が多い。例えば自宅でじっくり遊ぶRPGやシミュレーション。多くのRPGでは、いくらキャラクターが死んでも「ゲームオーバー」にはならない。プレイヤーが諦めない限りゲームは終わらないのだ。流石にそれだと実プレイ上の問題が生じるから、という都合上表れたのがパスワードコンティニューとかバッテリーバックアップだ、と、私はそんな風に理解している。

あるいは継続プレイがお金を産む、課金制のMMORPG。これは元来長期間続けてもらうモデルのゲームだから、ゲーム自体には敗北条件も勝利条件もない。「ゲームオーバー」になってゲーム自体が終わるというMMORPGは、津々浦々どこを探してもそうはない筈だ。もっとも、MMORPGの多くはゲーム内に様々な場面を作って「勝利」「敗北」を演出している。

そこで2番目の理由が出てくる。

勝利条件や敗北条件は、イコール「勝ち」と「負け」であるから、プレイヤーに「勝つことによる爽快感」や「負けることによる悔しさ」を提供する。勝てば気持ちいいからまた遊びたくなる。負けると悔しいからまた遊びたくなる。それが、開発者さんがもっとも期待している「勝利」「敗北」の効果の筈だ。

実際の所、2.「勝利条件はあるが敗北条件がない」3.「勝利条件はないが敗北条件はある」の様なゲームの中にも、細かい単位で「勝利」「敗北」を演出しているゲームは山ほどある。例えばRPGにおける戦闘とか、ゼビウスにおけるアンドアジェネシスとか、そういった要素は「区切り」「達成感」「気持ちよさ」をプレイヤーに提供する一つの方法である筈だ。ゲームにおける「気持ち良さ」というのは、面白さの直接的な尺度の内な訳で、そこでどれくらい盛り上がるかがゲームの面白さを決める。

つまり、「勝利」や「敗北」がどんな形をしているか、がゲームの面白さを決める重要な要素の一つとなる


一言でまとめてしまうと「適切な「勝利条件」「敗北条件」があるとゲームが面白くなるから」というのが、勝利条件や敗北条件の一番の存在理由なのかも知れない。



上の二つ以外の理由で言うと、例えば

・ストーリーを導入する際、ストーリーを完結させるトリガーとして「勝利条件」がある。

という側面ももしかするとあるかも知れないが、この辺は勝利条件というよりはエンディングの話かも知れないのでここでは一旦おく。


・ところでループゲームって最近滅多にないよね?

ループゲームどころか、対戦ゲーム以外では、明確な「敗北条件」があるゲーム自体が段々減りつつある様な気がなんとなくしている。あと、「敗北条件があって、明確な勝利条件は提示されないゲーム」も最近とても少ない気がする。統計とってるわけじゃないし、別に悪いことじゃないと思うんだけど。

要するに、

3.「勝利条件はないが敗北条件はある」ゲーム。

がだいぶ希少になっている印象がある。携帯アプリとかではまた別っぽいけど。

ループゲームが減った理由については以前、エンディング考察(リンク後述)の時にもあれこれ考えた。ただ、敢えて無理ぎみな一般化を行うとすれば、

・敗北条件→悔しさ→再プレイという構図が有効なものではなくなって/十分ではなくなってきている(と作り手さんが判断しつつある)

・提示されない勝利条件は自分で設定する、という遊びが有効なものではなくなってきている


という側面があったりするんじゃないかなあ、と私は思っている。

一つ目は読んで字の如くだが。二つ目の話は、要は「自分勝利条件の設定」というヤツだ。子供が「横断歩道の白いところだけ渡ったらオレの勝ち」みたいな感じで遊ぶようなヤツ。

ループゲームなんかはどこかで「○○点とったら勝ち」とか「○○までいったら勝ち」みたいな目標設定が不可分なものになっており、それがまた楽しさの源泉だったと思うのだが、ゲームの要素が増えるに従ってそういう単純な目標設定ってものはしにくくなってきているのかなあ、などとなんとなく思っている。ただまあ、この辺は余談。



ということで、書きたいことは最初に書いたので以下だらだらと補足した。

いい加減長くなったのでそろそろ締めるとする。次回は多分またタイトルもの万里です。

関連リンク
レトロゲーム万里を往く その25 〜エンディングの呪縛・2〜

posted by しんざき at 15:31 | Comment(5) | TrackBack(0) | レトロゲーム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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この記事へのコメント
初めまして、いつも楽しく読ませていただいております。今回も興味深いお話をありがとうございました。

>3に該当するゲームは随分前から少なくなっている様な気がする。
の件で、ご自身が
>携帯アプリとかではまた別っぽいけど。
とフォローされておりますが、パズルゲームなどで今も結構残っているように、私には思えております。
昨今はネットワーク接続によるスコアランキングが一般的ですし、ケータイとの親和性は高そうですよね、ループゲー。
Posted by ひろし at 2009年12月30日 17:27
いつも楽しく拝見しています。

3.「勝利条件はないが敗北条件はある」ゲームで、
自分が真っ先に思い出すのはゲーム&ウォッチシリーズです。
というか現在DSiウェアでちびちびプレイしている最中だったりします。
個人的には目標設定よりも、剥き出しのルールやビープ音のミニマルな心地よさが
やる気を牽引している感じでしょうか。バーミン超ゆるアツい。

ただ、3.のタイプのゲームは長時間プレイにはあまり向いてないですから(けっこう疲れます)、
上の方が仰られている通り携帯電話や携帯ゲーム機の隅に
ポツンと置かれているくらいがちょうど良いのかもしれません。

パソコンの隅ではマインスイーパに代表される1が圧倒的に強いですね。
Posted by おでん at 2009年12月30日 23:26
>一方、必ずしもプレイ時間を区切る必要がないゲーム、というのも当然あり、そういったゲームには敗北条件が存在しない場合が多い。例えば自宅でじっくり遊ぶRPGやシミュレーション。多くのRPGでは、いくらキャラクターが死んでも「ゲームオーバー」にはならない。プレイヤーが諦めない限りゲームは終わらないのだ。

話が途中でまとまらなくなっていませんか?ゲームセンター等のゲーム機もプレイヤーのやる気があれば(金もあれば)ゲームオーバーにもなりませんよね?
やる気云々に拘わらずゲームの進行上で何らかの悪い結果(例えば全滅)によって、これまで維持できていたゲームの進行自体がペナルティを受けるという形で区切りをつけられる訳で
やる気とか金とかゲームの中身より外の要因も語ればキリがないですよ。
Posted by クロマル at 2009年12月31日 13:44
とても面白いお話と拝見致しました。

短期視点での条件と長期視点での条件という設定がなかなか難しいところに感じました。自分設定での勝利条件に加えて、自分設定での敗北条件はシステムとして明示されていない代わりにかなりシビアなラインで近現代のゲームには存在しているような。
自分設定でなくとも、上のクロマルさんの指摘点のようにゲームセンターにおけるゲームにはお金やプレイ時間といった要素もありますしね、これも広義の短期/長期条件ではあると思いますけれども。

>・敗北条件→悔しさ→再プレイという構図が有効なものではなくなって/十分ではなくなってきている(と作り手さんが判断しつつある)
こちらも面白いなあと思いました。実際肌感覚ではそう感じています。作り手の判断という視点も鶏卵どちらが先かわかりませんが、確かにそういった大きな傾向は存在するように思います。
Posted by am at 2010年01月01日 15:24
> 敗北条件→悔しさ→再プレイという構図が有効なものではなくなって/十分ではなくなってきている
無印の頃のモンスターハンターと、MHFやMHP系の比較にそれを強く感じます。
でも、ヒットしたのは後者なので売り手の考えとしてはそれで正解なんでしょうな。

以前、無印を勧めた友人はクックで投げましたが後にportableにはまっていました。
Posted by jf at 2010年01月05日 12:44
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