とある敏腕開発者、一休さんのオフィスに開発案件の見積依頼書が届く。依頼者は将軍足利義満。超大手企業のCEO(※1)であり、一休さんの主要取引先の一人でもあるのだが、依頼される案件にはデスマになりがちなタイトなものも多く、正直なところあまりありがたくないクライアントである。一休さんは顔をしかめる。
「また将軍さまの無理難題かぁ」
依頼書の要件は「屏風(びょうぶ)絵の虎が夜な夜な屏風を抜け出して暴れるので退治して欲しい」となっている。技術的にははっきりいって到底不可能な未到達領域であり、とてもじゃないが一休さんの手に負えるものではない。工数がどうとかいう問題ではなく、まともに受注したらデスマの上お蔵入り確定である。とはいえ、力関係上無碍に「無理です」とは言いにくい。
「大丈夫ですか、一休さん」
と心配するのは新右衛門(しんうえもん)さん。彼は将軍の企業のシステム担当営業なのだが、日ごろCEOの横暴に耐えている身でもあり、心情的には一休さんに近しい。
そこで一休さんはキーボードを叩く手を休め、ポクポクポクという木魚の音をバックにぐりぐりとこめかみをこねまわし、座禅を組む。これは彼が問題を考察する時の奇癖であり、機能的には神宮寺三郎がタバコを吸うのに等しい。オフィスのどこに木魚があるのかは謎である。
チーン。一休さんは妙案をひらめく。件の要件を解析すると、要件達成の為には大きく分けて二つの工程が必要である。
1.屏風絵から虎を追い出す。
2.当該の虎を退治する。
2だけでも一休さんの技術力では相当厳しいものがあるが、1に至っては現行技術での解決目処がない。喩えていうならファミリーベーシックでFF13を作れ、というようなものである。ぴゅう太でスト4を作れ、でも良い。
そこで一休さんは一計を案じる。見積依頼書に1についての記載がないことを利用して、2のみ、つまり「虎を退治する」部分のみの見積を提出するのである(※2)。無理を承知で見積依頼していた将軍さまは当然驚くが、そのまま発注に至る。
客先常駐で一休さんには開発環境が提供される。
「さあ、見事屏風絵の虎を退治してみよ」
ここで一休さんは返すわけである。
「頂いた案件の前提条件として、屏風の虎は事前に追い出されている必要があります。そこまでは御社でのご担当と弊社は理解しておりますが、実施はいつでしょうか?」
「ぐぐっ…見事じゃ!」「さすが一休さん!」
なんだか分からないけれど将軍さまと新右衛門は感服する。案件もそのままうやむやになり、やったね一休さん!
普通の依頼者ならここで「それくらい最初から見積に書いとけよ。バカなの切腹するの?」とか言いそうだが、素直に引き下がる将軍さまは結構SI技術者に優しいクライアントなのではないか。
以上のエピソードから導かれる教訓は幾つかある。
1.見積依頼を出す際には、大雑把な工程まである程度把握し、きちんと記載した方が無難である。
2.明確な工程抜けがあったらちゃんと見積側からも指摘した方がいいよね。
3.口がうまいヤツが得をすることが多い、というのはどこの業界でも一緒。
4.新右衛門さんは結構詐欺にひっかかりやすいタイプである気がする。
5.一休さん実は開発してなくね。
尚、実在のエピソードに由来する話では一切ないよ!ということを一応お断りしておく。
※1:この時既に義満はCEOを退いており、名誉会長あるいは名誉顧問として活動していたという説もある
※2:見積段階に限ればよくある話。
関連:Wikipedia:一休さん
コンサル・ドラえもん考
2010年01月06日

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「これ、一休や。虎を追い出すぐらい容易かろう?
将軍様(顧客)には、些細な問題ですので、ついでに此方でやらせて頂くと伝えておいたぞ」
と何勝手に、拡大仕様変更受けてんだよ!!
クソ営業死ね!
という状態で、デスマに突入していくのが常である。
原作の和尚さんはあまりプロマネとかに向いてないイメージではある。