2010年02月17日

レトロゲーム万里を往く その94 半熟英雄

まず最初に、ちょっと「昔のスクウェア」について考えてみたい。


現在は「株式会社スクウェア・エニックス」であるところの旧スクウェアは、1983年に設立され、1985年からファミコンに対してゲームタイトルを供給し始めた。最初のタイトルはゲームアーツ開発の「テグザー(1985年12月)」、翌年に続いたのは「フォーメーション…RP…G…?」と思わずユーザーを唸らせた「キングスナイト(1986年9月)」であった。

少年シーフというカテゴリのトビーたんが一部で人気を集めたが、RPGというジャンルの印象を固め始めていたユーザー達は、一見縦スクロールSTGのようにしか見えない同タイトルに首を捻ったという(要出典)


これとほぼ同じ時期、スクウェアは複数のPCゲームメーカーと手を組んで、「DOG」というブランドを発足している。これはディスクシステムというフィールドにタイトルを提供するゲームメーカー連合であり、パソコン業界で活躍していた複数企業をスクウェアがファミコン業界に呼び込んだ、というような動きだった。スクウェアにとっては結構大きな決断だった筈である。

DOGを通じて、スクウェア本体からは様々に曰くつきのゲームタイトルが輩出された。名前は出さないが某ファミリーコンピューターマガジンという雑誌の手によって色物ゲーの雰囲気をまとってしまった「水晶の龍(1986年12月)」であるとか。かのナージャ・ジベリが手がけた擬似3DSTG「とびだせ大作戦(1987年3月)」であるとか。女の子の生活をひたすら窃視する「アップルタウン物語(1987年4月)」であるとか、あとクレオパトラの魔宝もスクウェア開発だったかな。
カリーンの剣なんかは結構面白かった記憶があるが、アレは確かクリスタルソフト開発だったような気がする。

これらのラインナップを見れば分かる通り、かつてのスクウェアはそこまで強烈な存在感を放つメーカーではなかった。どちらかというとPCゲーム業界の方が主な戦場だったという印象もあり、立ち位置的には「知る人ぞ知る」メーカーだったと言っていいだろう。


そんなスクウェアが飛躍するきっかけとなったのは、言うまでもなく1987年12月に発売された「ファイナルファンタジー」である。86〜87年という年は、「ドラクエ(1986年5月)」や「ドラクエII(1987年1月)」の成功によりゲームメーカーが一斉にRPGというジャンルに舵取りし始めた時期でもあり、「キングスナイト」では逸した結果を「FF」は(この時点の売り上げではドラクエに遠く及ばなかったものの)ある程度残すことが出来た。この作品の成功がなければ現在のスクウェアは存在しなかった、というのは様々な場所で語られていることである。

で、この後「ディープダンジョンIII(1988年5月)」と「ファイナルファンタジーII(1988年12月)」という、二つのRPGのタイトルに挟まれて1988年12月に発売されたのが、全く毛色を変えたリアルタイムシミュレーションゲームである「半熟英雄」である。

今更言うまでもなく、この後のスクウェアは「スクウェアのトムソーヤ」や「FF3」などのRPG路線に突っ走っていくことになる訳で、ハイウェイスターやキングスナイトのようなゲームは当面カゲもカタチもなくなっていく訳なのだが、ここで一本半熟英雄という異色なゲームが出現していることは、個人的にとても興味深いなあと思う。

言って見れば半熟英雄は、「スクウェアが飛躍の契機を掴み、その後の進め方を模索している」というタイミングで発売された一つの実験作である、と捉えることが出来るのではないか。私はそんな風に考えているのである。


「半熟英雄(ファミコン版)」。リアルタイムシミュレーションRPG。1988年12月、スクウェアよりファミコン版が発売。戦術シミュレーション自体は当時既に大戦略やファミコンウォーズなどが発売されていたものの、「リアルタイム」という言葉が枕詞につくタイトルはファミコン初だった筈だ。

ゲーム全般に施されたユーモラスな味付け、「エッグモンスター」という召還システムの目新しさ、複雑なテーマの割に単純な操作感、収入と支出の微妙なバランス、プレイヤー以外の複数勢力の潰し合い、優秀な将軍を集める収集要素などなど、半熟英雄はプレイヤーに様々な目新しさを提供し、後のSFC版を経て、現在でも続編が出るシリーズとして確立された。ファミコンにおけるウォーシミュレーションの代表格の一つ、といってもそれほど言い過ぎにはならないだろう。


参照記事を挙げておく。

上のような話のうち、スクウェア自体については、Wikipediaにサマリーされている内容がほぼ信頼出来るだろう。

Wikipedia:スクウェア_(ゲーム会社)

半熟英雄についても同じくWikipediaにリンクしておく。実は3以降についてはよく知らなかったりするのだが。

Wikipedia:半熟英雄


さて、ゲームの話をしてみよう。


・アルマムーンの財政難について。

半熟英雄は、「リアルタイムシミュレーションゲーム」である。ゲームを開始したプレイヤーは、3つのマップから一つを選ぶ。それぞれのマップには山あり谷あり川あり、そんな中に幾つもの城が点在しており、それぞれの城は複数の違った国に属している。プレイヤーは、その中から「アルマムーン」という国を操ることになる。

アルマムーンには主人公と、ゼウスとヴィーナスという名の二人の将軍がおり、プレイヤーはこれらの将軍を敵城に送り出して城を奪おうとする。リアルタイムという名の通り、プレイヤーが派遣した将軍が移動している間にも敵は休まず活動しており、アルマムーンにえっちらおっちら攻め込んできたり、敵国同士でがしがし城を奪い合ったりしている。


ゲーム的には、半熟英雄の肝は上記のような「城の奪い合い」である。城が増えれば収入が増え、多くの兵士を雇え、優秀な将軍を保持出来る様になるという点では、一般的な戦略シミュレーションと異ならない。とはいえ半熟英雄の収入バランスは相当辛く設定されており、特にマップ3辺りでは、プレイヤーは国の運営にかなりの苦労を強いられることになる。

一方、「CPUとCPU同士が争う場面も頻繁にある」という点はFC版半熟英雄の味の一つだろう。

強い国は最後まで残るが、弱い国は最初の一月(1ターンに相当する)で消滅することも全く珍しくない。もうちょっと具体的に言うと、オルメカやボロブドール辺りは放っておくと大抵最後まで残るが、ソロンとかベールといった零細国は大抵の場合最初の1、2ターンで消滅する。世の無常を学ぶことしきりである。こういった国と国の強さというのは、大体の場合その国に所属する将軍の質に依存するわけだが、まあその話は一旦後に回そう。

国と国同士のバトルロイヤルというような趣きが半熟英雄の売りの一つだったと思うが、SFC版半熟英雄はストーリーや展開を大幅パワーアップさせた代わりに、「アルマムーン対完熟軍」という構図を固定させてしまったことによって、「複数チームの生き残り合戦」という味わいが失われてしまったのは残念なことである。いやまあ、それはそれで面白かったけど。


・今だキックだエッグマン

そして、半熟英雄のもう一つの肝は戦闘であった。というか、もうちょっと言うとエッグモンスターであった。

半熟英雄では、城に攻め込んだり攻め込まれたり、あるいはフィールドで将軍同士が接触したりすると、FFの様なサイドビューの戦闘画面に遷移する。戦闘は基本的には「ボタン連打でぶつかり合い」というシンプル極まりないものだったが、将軍の中には「たまご」を所持している者がおり、そういった将軍が戦闘中にたまごを使うと、「エッグモンスター」と呼ばれる召還獣を召還し、自分の代わりに戦わせることが出来た。後の召還魔法に通じる、といわれた半熟英雄最大の売りである。


このエッグモンスターのバラエティこそが、半熟英雄というゲームの魅力の中核だったと言ってもいいだろう。たまごを持っている将軍は特定の城で「おはらい」を受けることによって自分のたまごをパワーアップさせることが出来、弱いモンスターから強いモンスターまで、無数のエッグモンスターを操ることが出来た。

最強エッグモンスターであるハデス、それに順ずるアシュラやアレスは言うに及ばず、中堅どころのサイクロプスやマシンナイトでも大抵の将軍は蹴散らすことが出来たが、たまごには使用回数が決まっており、使うごとに出現するエッグモンスターは弱くなっていく。オイジュースや最弱のエッグマンが出た日には、大抵の場合敵の「もうこうげき」の前に撃沈である。南無。


後のSFC版では「たまごを持っている敵」もわんさか登場し、戦闘シーンはエッグモンスター同士の怪獣決戦になることが常だったが、FC版での敵はたまごを使ってくることがない。それだけに、雇う将軍の質を語る時に「たまごをもっているかどうか」は最重要の要素になった。純粋に「ぶつかり合いが強いかどうか」の戦闘値、「築城が得意かどうか」の内政値と合わせて、優秀な将軍を集めたいという収集欲の直接的な動機にもなっていただろう。

このゲームの将軍は基本的にギリシア神話、あるいはローマ神話から名前をとられているのだが、特にアポロンやポセイドンといったたまご持ち将軍は非常に貴重で、将軍の雇用機会である「月一コマンド」のオーディションで現れた時には手に汗握ったものだった(そしてランダム負けで選ばれるヘレン)。たまごを持っていない将軍の中でも、例えばダイダロス、ペルセウス、ガイアなど強い連中はいて、何人かは後のSFC版にも再登場を果たすことになる。


・BGMも結構良かったですよね。

演出のお話。

半熟英雄では、フィールド上で一定時間が経つごとに、いわゆる内政モードである「月一コマンド」というイベントシーンに切り替わり、豊作になったり(収入が増える)凶作になったり(収入が減る)、敵の将軍の暗殺をもちかけられたり、いきなり謎の女に「かねくれ」と迫られたり、将軍雇用のオーディションが始まったりと、色々なイベントが発生する。

大体のイベントには金曜8時のバラエティ番組的なユーモラスな味付けが為されており、この辺りは「スクウェアのトムソーヤ」の雰囲気作りに近いように思う。多分、開発チームにお笑いバラエティ番組好きな人でもいたのではないだろうか。主人公が死んだ時の葬式の演出なんかもその辺からきている気がする。

BGMは言わずと知れた植松伸夫氏。FFとはまた違った味わいのBGM作りをされており、オープニングの透明感のある曲もさることながら、春夏秋冬それぞれのフィールドBGMなんかもなかなかいい味を出していたと思う。


半熟英雄は後にSFC版で人気を博し、更に後にはPS2へと、様々な路線変更をしながら流れ込んでいくわけであるのだが、これについてはまたいずれ。


ということで、大概長くなったので今回はこの辺りで。次回はまだ未定だが、コナミになるような気がする。
posted by しんざき at 18:08 | Comment(1) | TrackBack(0) | レトロゲーム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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この記事へのコメント
ああ、懐かしい。半熟英雄はなんとも面白かった。
SFCの半熟英雄も、FFキャラと同名の将軍を
集める等(リディアとかでしたっけ)
コレクター欲が刺激される内容でしたね。
Posted by at 2010年02月21日 00:35
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