ファミコンの拡張機器である「ディスクシステム」が世に出たのは1986年2月のことである。
当時はファミコンのアクションゲーム全盛の時代で、ロムでは丁度「ソンソン」や「ツインビー」「グーニーズ」といった名作群が姿をあらわしていた頃であった。この時代はまだ、ファミコンソフトの容量が限られていることもあり(参考までに、ファミコンが登場した当初のソフトの容量は256Kbitであった。byteではなくbitである)いわゆるRPGやSLGなど、パソコンで大人気となっていたゲームジャンルはまだ殆ど未登場であった。ファミコン初のアドベンチャーゲームとなる「ポートピア連続殺人事件」が発売されたのが1985年11月。ここでも「グラフィックや音楽にもっと容量が必要」という声はあったのだ。
そういった折に、「今までファミコンでは出来なかった、RPGやAVGが僕らの元に!」みたいなことを売り文句にした、「ディスクシステム」がファミコン業界に鳴り物入りで出現した。フロッピーディスクという代物は勿論パソコン由来のメディアで、容量は通常のカセットよりもはるかに大きいし、4枚組、5枚組といったソフトであればファミコンでは到底不可能な大作RPGも遊ぶことが出来る。サードパーティーの参入の敷居を少し低くしたところをみると、これはいける!という任天堂の読みだったのだろう。
結論から先に言ってしまおう。これは完全な任天堂の読み違いであった。ディスクシステムというハードは、「読み込みが非常に遅い」という、ゲームとしてはかなり致命的な弱点を抱えていた。例えば「リンクの冒険」を例にとってみると、フィールドをうろついていて、街に入ると「シバラクオマチクダサイ」の表示と共に10秒か20秒ばかり待たされ、間違えて十字キーの右を押していた日にゃあ、一瞬後には再び街を出てしまって「シバラクオマチクダサイ」の冷たい表示である。クイックディスクというフォーマットを選んでしまった以上、読み込みの遅さにはどうしようもない限界点が存在し、それは仕方のないことであった。だが、「ゲームは一日一時間」という高橋名人の呪縛に縛られ勝ちであった当時の子供たちにとって、読み込み時間の存在は単なる根気だけの問題ではなかった。
またディスクシステムには、「始めるのが面倒くさい」というデメリットも存在していた。普通のROMカセットであれば本体にぶっ挿して電源ONという一挙動でゲームが始められていたのに、ディスクシステムの場合、メモリカセットを本体に挿して、ディスクドライブと繋げて、ディスクドライブの方にはまた別の電源を、といった複雑なプロセスを必要としていた。仕舞う場所なども含めて、当時の子供にはこれはかなりの障壁であった筈だ。
つまりディスクシステムには、これらのデメリットをものともしない、「独自の魅力をもったゲーム」が求められていた訳であり、その売り文句の一つが「RPG」や「アドベンチャーゲーム」であった訳だ。
実際のところ、開発途中から既にその兆候というか、敗北は見えていた筈だ。ROMカセットの進化は驚くべき速度で進んでおり、このままでは早晩ディスクシステムの優位性は失われるであろう、ということが。だが勿論その頃開発を止めることはもう遅きに失し、ディスクシステムは予定通り発売された。同時発売の「ゼルダの伝説」は、任天堂が自信をもって送り出すにふさわしい出来栄えであり、一時的にせよディスクシステムは栄えた。まあ、二弾目の「謎の村雨城」はちょっと外し気味であった訳だが。
そして敗北がやってきた。86年5月に発売された「ドラゴンクエスト」によって「RPG」の優位性が失われ、7月の「がんばれゴエモン」の「ファミコン初の2Mの大容量」という謳い文句によって容量の優位性にとどめがさされた。以後のディスクシステムは、「500円の低額でゲームの書き換えが可能」という、任天堂にとってはあまり美味しくない売り文句に頼った商戦を強いられることになる。
実際のところ、ディスクシステムでも名作は数々発売されている。前述の「ゼルダの伝説」は元より、「ディープダンジョン」や「ファミコン探偵倶楽部」「メトロイド」といった当初のコンセプトとおりのゲームもあれば、音源の豊富さを生かした「オトッキー」や書き換えを前提にした雑誌形式の「ナゾラーランド」など、様々な実験的・意欲的なソフトがディスクシステム市場に舞い降りている。だが、「レスポンス」という最大の障壁は如何ともし難く、最終的にはその大部分が時代の徒花として扱われることになってしまったのがなんとも惜しいところだ。
ところで上論とは全く関係ないが、ネットを回っていたらものすげぇことをやっている人を見かけた。
http://www.geocities.co.jp/Playtown-Toys/6422/piramiddo.html
「燃えプロ10000本」という企画をやっている人もそうなのだが、こういうとてつもなく頭の悪そうなことをする人(褒め言葉のつもりである)がいるからネット回りは面白い。執念というよりはむしろ怨念を感じる。
関連ページ、というかなんというか。
http://www.nintendo.co.jp/n09/fc_disk/
画面上の「ディスくん」がやや侘しい。ファミマガに彼が主役のマンガが掲載されていたのはいつのことであったか。
2005年01月03日

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