2005年01月07日

あるゴーストライターの日常・四徹目

ちょっと間が開いたが、前回の続きのお話。昔ゴーストライターをやっていた際、いつも通り職場に顔を出したら作家が失踪していたという話の続きなのだが、興味がある方はこちらもご参照頂きたい。
あるゴーストライターの日常・二徹目
あるゴーストライターの日常・三徹目
例によって実名や具体名は出せないので、話三分の二程度のつもりで読んで頂けると幸いである。

私が「作家の失踪」という場面に実際立ち会ったのは、実はリアルタイムでは2回しかない。うち一回が、前回の「半年間の予定で連載枠をとっていたI先生」であった。

いきなり余談になるが、このI先生、どうもこの時は本当にヨーロッパだかどこだかに行ってしまっていたらしい。前々から神経衰弱だか何か(と私は聞いているが、もしかするともうちょっと重たい症状であったのかも知れない)の兆候があって皆さん結構心配だか警戒はしていたらしいのだが、つきっきりで見張る訳にも当然いかず、仕事と仕事が詰まった瞬間にふらっと・・・というパターンであった様だ。

本気で一時期業界から姿を消されていたが、いつの間にやら某大手S社の編集者件校正作家の様な職に就かれ、現在でも元気に活動されているとのことである。

さてここで問題。連載途中、作者が何らかの要因(逃げたり倒れたり死んだりとか)で執筆できなくなってしまった場合、連載自体は一体どうなるか?


言うまでもなく、出版社なり雑誌なりの状況や、その他様々な事由によってこの対応は変わる。とはいえ、対応内容はまあ、せいぜい数種類しかない。

私はいわゆる大手出版社に足を踏み入れたことは殆どないので、多少偏った視点になることは予めお詫びしておく。で、私の知る限りの対応種類であるが、まあ一番まっとうなのは「あまり目立たない形での連載終了」である。「○○先生急逝の為・・・」とか「××先生急病の為・・・」とかちょこちょこと断りが出る、ああいうそれだ。普段楽しみにしていたコラムがある月何の注釈もなくどこにも載っておらず、それ以降何ヶ月経っても復活しない、ということもたまにあるかも知れないが、それもこのケースに含まれる。

二つ目のケースは、「何らかの方法で無理矢理終結させる」という対応方法である。つまりこれは、前項の様に理由を書いて連載終了というのはちょっとやりにくい、でも筆者復帰は望めない、という場合に用いられるケースだ。

この対応は基本的にゴーストライター(外注ではなく編集者が書いてしまう場合が多いとは思うが)の仕事になり、例外なく「やや唐突な最終回」という形で紙面に現れる。私もこれは何回かやった。

はっきりケース数や率を挙げる程のデータは持っていないのだが、おそらくケースとしてはこの対応が一番多いのではないか。逆に言うと、順調に運営されている筈の雑誌や週刊誌などで「突然の最終回」が起こった場合、普通は作者に何かあったかどうかを心配するべきだ。その記事は本人でない人が書いた可能性が結構高い。ちなみに、幾つかの連載が同時に最終回を迎えた場合、その他の理由が色々考えられるのでこの限りではない。

三つ目の対応は、要は一番強引というか、力技な対応だ。つまり、「そのまま連載を続けてしまう」という手法である。これはかなりのレアケースである。というか、レアケースの筈だ。レアケースだといいなあ。でもなんというかアレだ、業界の端くれにいた時代には色々とあちこちから漏れ聞いた話がごにょごにょ。まあいいや。

連載がかなりの人気記事であったり、あるいは小説などの構造上どうしても唐突な最終回で着陸させられない場合に、時折この様な対応がとられる。一応建前は「筆者が復帰するまでの繋ぎ」としてゴーストライターが用いられることになるのだが、そもそも復帰させられる様な状況なら一時休載なりなんなり幾らでも他の方法はある訳で、この状況に至ってから本当に筆者が復帰するなんてぇことは滅多にない筈なのだ。

つまりこの対応がとられた場合、9割以上の確率で「実は最後まで他人が書いてます」という状況が生じることになる。なってしまうのですよ。私も今ならわかります。当時は気付きませんでしたが。

さて、別件の仕事を上司のTさんに校正してもらっていた私は、のんきに他のライターさんとゲームの話などしておった。基本的に、編集上のトラブルなどというものはバイトのライターの仕事の埒外なので、遠国の国境紛争程度にしかとっていなかったのである。

その時、遠国の国境紛争から流れ弾が飛んできた。

「おーい。新崎くん新崎くん。ちょっといらっしゃい」

Tさんがこういう口調で敢えてのんびりと手招きする時は、大抵の場合エラい仕事が来る。勿論それは承知していたが、こちらもバイトとはいえセミプロである。その程度のことで慌てる訳にはいかない。
のこのことTさんの元へ歩み寄っていって、

「なんすか?」

のこのことやってきた学生ライターに向かって、Tさんはのんびりとこういった。

「あのさ、ちょっと来週、I先生の代わり書かない?」

「・・・・・・は?」
posted by しんざき at 13:57 | Comment(0) | TrackBack(1) | ゴーストライター | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Excerpt: 前回の続き。遠い遠いお空の向こうでの出来事と思われていたトラブルが、物凄い勢いで私の頭上に落っこちてきたところからの話である。 I先生の代筆を受けるに至った顛末に関しては、こちらもご併読頂きたい。 ..
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Tracked: 2005-01-13 16:08