2010年06月23日

「風の谷のナウシカ」に見るマネジメント論。

原作版ナウシカのお話なのである。長文なのである。ネタバレなのである。いまさらネタバレを気にする作品なのかどうか分からないけど。


宮崎駿氏の手による原作版「風の谷のナウシカ」は、言うまでもなく素晴らしいエンターテインメント大作であり、数々の魅力的なキャラクターを擁してもいる。

本エントリーでは、そんな魅力的なキャラクター群の中でも「指導者的立ち位置」にいる人達に着目して、マネージャーとしてのナウシカキャラを分析したり適当にだべったり思いつきを書き連ねてみたりしたいと思う。


1.ナウシカにおける「指導者」とは誰か。

ナウシカという作品には、様々な組織や勢力が登場して、衝突したり協力したりすれ違ったりいがみあったり、それぞれの組織が色んな展開を見せる。トルメキアとか、土鬼(ドルク)諸侯連合とか、風の谷を含む辺境諸国とか、蟲使いとか森の人とか、とにかく色んな勢力がある。

当然、それぞれの組織にはマネージャーがいる訳であって、マネージャー的立場にいる人もナウシカにはたくさん登場している訳である。大活躍するマネージャーもいれば、あまりマネージャー的描写はないけれどこの人指導者の筈だよな、という程度の人もいる。例えばマニ族の僧正もマネージャーだし、風の谷の族長のジルさんもすぐ亡くなっちゃうけどマネージャーだし、庭の主もある意味マネージャーだし、多分セルムさんも森の人の指導者的立ち位置なのだろう。

今回は、そんなマネージャー的立場の人の中でも、クシャナさん、ヴ王陛下、ミラルパさん、ナムリスさん、あとナウシカ。この5人を評価することを通じて、ナウシカにおけるマネジメント論的な何かを考察してみたい。


2.優れた指導者ってどんなん?

まず、前提。指導者としてのナウシカキャラを評価するとして、基準になるのはどの辺か。

「優れた指導者」の基準軸などというものは山ほどあるのであって、本来軸を絞れるようなものではない。
とはいえこのエントリーでは、仮に以下の3つくらいを評価軸として考えてみたいと思う。

A.指導者としてのビジョンは明確か。
B.力のある/堅牢な組織を運営・統率できているか。良質な人員を適材適所に配置できているか。
C.人員のモチベーションを管理できているか。


まあ、一般的な基準からそこまで外れてはいるまい。これにくわえて、D.適切な方向に組織を舵取り出来ているかというのも考慮するべきかも知れないが、これは人材管理という側面からはやや外れる。
取り敢えず個別に見ていってみよう。まずは、土鬼諸侯連合の皇弟と皇兄、ミラルパさんとナムリスさんから対比してみたい。


3.土鬼組のお二人の対比。

土鬼の「皇帝ブラザーズ」ことミラルパさんとナムリスさん。物語の展開的に、どちらも基本的に「悪役」という立ち位置に徹することになってしまったが、この二人、君主としてみるとどうなのか。兄弟で結構対照的な部分が多い。

まず、「皇弟」ミラルパさん。任天堂的に言うとルイージ。

ミラルパさんはトルメキアを殲滅する為に腐海を使ったせいで君主としての印象悪いけど、人事面では作中読み取れる限り実は一番仕事してる。僧会の組織、チャルカさんみたいな有能な人材をきちんと取り立てて要職につけて、一度の失敗で切ったりもしない。人の使い方は一番上手そうな印象。

B.堅牢な組織の運営」においては言うまでもなく、ミラルパさんは僧会という無茶苦茶な規模の知識階級集団を統率しており、申し分のない体制を敷いている。3巻でミラルパさんの体調が悪くなったら寄ってたかって僧たちが心配していた様に、部下の忠誠心も高く、C.モチベーションの高さの点でも言うことはない。これは、一面組織の芯になっているのが宗教と信仰心だという面もあるだろうし、一方3巻の戦闘で大敗したチャルカの罪を咎めなかったことのような寛容さから来た面もあるだろう。

ただ、ミラルパさんには「A.ビジョンの明確さ」の描写が余りない。彼の劇中での行動原則は「侵攻してきたトルメキア軍を撃退すること」と、「青い衣の娘(ナウシカ)」を排除することの二つに貫かれており、国家レベルでのビジョンというものはほとんど示されていない。これは、一つには土鬼が「侵略を受けた側」であることからの受身的な姿勢と、あとはナムリスが口にしていた「やがていつまでも愚かな民衆を憎むようになっていった」(6巻)というような、「長年の統治による理想の摩滅」という事情があることが推察される。僧会に対する寛容に比しての民衆に対する厳しさ(腐海撒きのような)もここから来ているように思われる。身内に優しく、他人に厳しい、という側面がもしかしたらあるのかも知れない。


一方の「土鬼マリオ」ことナムリスさん。僧会の粛清については議論が分かれそうだと思うけれど、国の方向性に対するビジョンは非常に明確である。人事面の徹底リストラ→国の疲弊した局面をどうやって打開するか、という思考。クシャナさんの組織を吸収しようとした辺りも目的に沿っている。国家戦略という点では作中一番がんばってたりするんじゃないだろうか。

彼はとにかく行動が首尾一貫している。「国土が腐海に没した→トルメキアに侵攻するしかない」というごくシンプル、かつスケールの大きい大方針。また、その為のクシャナとの政略結婚と戦力の吸収、僧会リストラによる組織の再編。この辺り、弟に比べて統治経験は薄い筈なのだが、「A.ビジョンの明確さ」「B.力のある組織の運営」に関しては既に十分な手腕を発揮していると言っていいだろう。

ただ、ナムリスさん人望はない。彼の手法は基本的に「恐怖による統率」であるようで、僧会の粛清を見せしめ的に行ったり、部族の族長に処刑を行わせたりするという点からも寛容さとは無縁だ。ミラルパさんが死んだ後、敵討ちにナムリスさんを毒殺しようとする人まで出る有様である(5巻)。ヒドラを重用したのはその為でもあり、彼が人間の部下を信用していなかったという表れでもあるだろう。


ここまでをまとめると、ナムリスさんとミラルパさんは、「人員のモチベーション管理」「ビジョンの明確性」という点では対照的であり、「目的の為には多少のコスト(腐海や僧会)をいとわない」という点では共通している。個人的には、人員管理をミラルパさんが、国家戦略をナムリスさんが担当すれば、かなり理想的な指導部の布陣になったのではないかと思うのだが、この辺り惜しい限りである。


4.トルメキア組の二人はどうか。

「本当にこの二人は親子なのか」コンビであるところのクシャナさんとヴ王陛下。この二人、見た目はともかくとして、指導者としてのスタンスをみていると、対照点よりは共通点が多い。意外と性格似ているのかも知れない。

まず、クシャナさん。彼女は、若いながら、「B.堅牢な/力のある組織の運営」「C.モチベーション管理」の面では既に恐るべきパフォーマンスをたたき出している。

2巻から3巻の描写を見れば分かるとおり、彼女が組織している「第三軍」の能力は折り紙つきであり、適切な戦術さえとれば、土鬼の攻城部隊を一戦で壊滅させてのける(3巻の戦闘)。また、クシャナが戻ってきただけでむやみやたらと士気が上がることから分かる通り、モチベーション、忠誠心の点でも文句をつける隙がない。彼女の組織運営に強いて文句をつけるとすれば、「イレギュラーな形で部下になったクロトワさんを除いては、絡め手が使えそうな参謀型の部下がいなそう」という点くらいであり、やや部下の方向性が偏っているのかも知れない、という程度の推測は可能だ。そこまで大きな問題ではないかも知れないが。

「A.指導者としてのビジョンの明確性」及び「D.適切な方向への舵取り」に関しては若干議論の余地がある。彼女のビジョンは、2巻でのクロトワの指摘(クロトワの正体がスパイであることが割れた時点)などから考える限り、「生きてトルメキアに戻り、王権を奪う」までしかない。「生き延びる」という方向性は一貫しているのだが、あまりこれ以外でのビジョンが示されず、4巻以降の彼女が打つ手は若干場当たり的とも思える(飛空艇奪取のくだりとか)。まあ、状況が状況なので仕方ないのかも知れないけど。


一方のヴ王。非常にいい味出しているキャラクターである彼なのだが、その君主っぷりは、少なくとも描写されている限りでは意外な程にハイパフォーマンスである。

彼は初登場のシーン(確か5巻)から様々な行動をとって君主っぷりを読者にアピールしている。

・逃げ帰ってきた息子王子を激しく叱責し、身内ひいきをする様な君主ではないことを顕示。
・貴族に檄を飛ばし、恐らくひと癖もふた癖もあるであろう貴族陣営に対する統率を見せる。
・スケールの大きな大方針(軍の集結と再侵攻)を見せることでビジョンを明確化している。
・自ら陣頭に立つことを表明。
・教会からの使者を一蹴(統治と宗教の分離)。

この辺で既に、「A.指導者としてのビジョンの明確性」「B.堅牢な組織の運営」については十分な能力を見せているといえるだろう。王が運営している組織の全容については描写がないが、トルメキア軍の描写は基本的にまともな軍隊軍隊している描写ばかりである。

7巻、シュワの墓地への攻撃の時点で、「攻撃をやめろ、兵の無駄遣いだ」などの台詞から分かる通り、コストと人の重要性を把握していることも重要なポイントである。コストに見合わないと思えば即座に計画を変更する柔軟性を有している、と考えることも出来る。

また、ヴ王とクシャナさんに共通してのことだが、「自らが陣頭に立つことで部下のモチベーションをドーピングする」という技をお使いになる。クシャナさんの場合は勿論3巻の戦闘がそれだが、ヴ王はヴ王で7巻、猛威を振るう巨神兵オーマの前に平然と進み出て、部下が「流石我らが王」みたいなことを言うという場面がある。マネージャーが陣頭に立つことについては是非もあるだろうが、「C.人員のモチベーション管理」において極めて効果的な方法だということは事実だろう。


まとめると、ヴ王とクシャナさんでは、「C.人員のモチベーション管理」「B.堅牢な組織の運営」の点である程度通底しており、ビジョンの明確さに関してはヴ王がやや勝っている、と考えることが出来るかも知れない。この点流石のトルメキア王という他ない。ヴ王とナムリスさんが正面対決をしていたらどうなったかとか、結構見てみたい。


5.ところでナウシカさんなんですが。

前4者に比べると、ナウシカはそもそもあまり「組織の運営」というものをしていない。彼女が誰かを「率いた」のは、多分序盤でミト爺たちを連れて辺境諸国の戦線に加わった時と、終盤に蟲使いたちを連れてシュワに向かった時くらいである。というかナウシカさん基本的には一人で突っ走るキャラクターなので、そもそもあまり「誰かを率いる」という点に向いてないのかも知れない。

とはいえ、一応風の谷の族長の娘さんでもあり主人公でもあるナウシカさんについても、マネージャー的側面からの評価を試みてみよう。

まず、「A.指導者としてのビジョンの明確性」。ナウシカさんのビジョンはまあ明確ではあるのだが、正直組織のビジョンになるような性格のものではない。彼女が民衆や墓所の主に提示しているビジョンは、たとえば「憎しみより友愛(多分6巻)」というものだったり、「生命はそれ自体の力によって生きている」というようなものだったりする。言ってしまえば、これらのビジョンは思想家・哲学者のビジョンでこそあれ、指導者のビジョンではない。これらのビジョンを元にして組織を運営することは出来ない。この点、彼女の「指導者としてのビジョン」はそもそも存在しない、という結論しか出せない。

堅牢な組織の運営についてはまったくの未知数だが、たとえば蟲使いが墜落した飛空艇の荷物を漁ろうとした時厳しく咎めた(7巻)ように、彼女には極めて厳格な面があり、対応が柔軟性を欠く場合というのが時折ありそうではある。公平な賞罰は出来そうだけど。

ただ、ナウシカには物凄い人望というチート能力があり、これが唯一絶対の強みになっている。彼女の慕われっぷりはとにかく反則的なレベルであり、たとえばいつの間にかトルメキアの兵士たちや蟲使いのアイドルになっていたりとか、クロトワさんが無意識のうちに助けに動いたりとか(多分3巻)、周囲の自己犠牲まで余裕で惹起する無敵の人望を随所随所で発揮している。はっきり言ってずるい。

また、クシャナさんのように陣頭に立つことをいとわないという側面もあり、「C.人員のモチベーション管理」については恐らく問題がないだろう。ここから考えると、クシャナさん辺りに師事しながら多少経験をつめば、かなりの名君主になれる素質はあるかも知れない。

とはいえまあ、作中見れば分かるとおり、ナウシカは飽くまでオピニオンリーダーであって「マネージャー」ではないので、こういった評価にはあまり意味がないかも知れない。他4人に比べればそりゃ指導者向きじゃないよね、と言う他ない。



ということで。なかなか無理やりなテーマだったが、本エントリーでは、ナウシカに登場する5人のキャラクターを「マネージャー」「指導者」という側面から評価してみた。

私の結論は「実はヴ王最強「クロトワさんかっこいいよね」「よしユパさまをハゲといったヤツはちょっと表に出ろ」の三点のみであり、他に言いたいことは特にないということを最後に申し添えておきたい。
posted by しんざき at 23:31 | Comment(5) | TrackBack(0) | 雑文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
異論なしです。
クワトロさんはちょいワルにときめいた初めての人だし、ヴ王もちょっとすごいんじゃないかと自分も思ってました。

ええ、ユパ様はゲハではなくヒャッハーな髪型ですよね。
面白い記事でした!
Posted by at 2010年06月24日 08:48
宮崎監督が「ナウシカのおっぱいが大きい」ということについて話されているインタビューがあるのですが、人望というか、母性というか、おっぱいですね。
ナウシカの武器はおっぱいです、おっぱい。
Posted by at 2010年06月24日 09:42
でも最終巻でおっぱい見せた時は、
せいぜいBカップくらいだったよねナウシカ
もう谷に帰って胸に顔うずめてやる必要がなくなったのかなあ
Posted by at 2010年06月26日 01:13
作中での印象では少なくとも「クシャナはカリスマ」で「ナウシカは日本の天皇」といった感じでした。
マンガ的には指導者よりもカリスマとして描かれた方がインパクトがありますね。
Posted by at 2010年06月26日 15:39
なかなかに堅く、論理的な文章だと思ったら、、最後の最後で笑ってしまった…ww
Posted by at 2013年02月28日 01:30
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