2010年07月09日

海外SFを読んだことがない人に、海外SF入門としてお勧めしたい四冊

コンセプト:海外SFはすげえ楽しいんだけど、職場の同僚に聞いてみるとどうも敷居が高いようなので、この俺が独断と純然たる自分の好みでお勧め入門用海外SF小説を挙げてみようと思った。

私の立ち位置:海外SF小説ファン。ただし若干なんちゃって分が入っており、ガチな人に比べれば遥かに読んでる量は少ないと思う。けどそれくらいの方が初心者向けという観点には合致している気もするからいいんじゃないだろうか?

基準:難易度が高そうな専門用語がべきべき出てくる作品は最初は避けた方が無難かもと思った。例えばいきなりヴァン・ヴォークトとかスタニスワフ・レムとか、若干ハードな気がする(勿論タイトルにもよるけど)


ということで、以下は私がお勧めする四冊。


「エンダーのゲーム」著者:オースン・スコット・カード

この本をお勧めする理由は二つある。一つは、この本の焦点は飽くまでエンダーやヴァレンタイン、バトルスクールの少年たちといった魅力的なキャラクターであり、SFの舞台設定や複雑な構造は話の中核ではないこと。そしてもう一つが、この作品が「死者の代弁者」の前作であるということである。

正直、この作品において「あらすじ」を紹介することにはあまり意味がないかも知れない。ただあらすじと舞台設定だけで言えば、このお話は「宇宙からの侵略者と戦う、エンダーという天才少年」の話だ。しかし、様々に紆余曲折する人間関係や、エンダーというキャラクターの魅力、二転三転するストーリーやケレン味たっぷりの会話は、むしろシンプルな舞台設定でこそ生きるものであるともいえるだろう。「少年の成長物語」として読んでも、「英雄譚」として読んでも、エイリアンとの戦いの物語として読んでも、大人と子供の対立を書き綴った話として読んでも、「エンダーのゲーム」はそれぞれの深さを見せてくれる。

で、この「エンダーのゲーム」を下敷きとして展開する作品が、こりゃまた物凄い傑作なのである。「死者の代弁者」に関しては、「これを読む為にエンダーのゲームを読んでもいい」と書いてもいいんじゃないか、と思われる程の素晴らしい作品だ。「人類と異種族との関わり」というテーマを一つの軸として展開する「死者の代弁者」は、エンダーのゲーム以上に様々な方面での深さを繰り広げてくれる。エンダーのゲームをトップに持ってきたのは、死者の代弁者という作品との関わりがあるからだ、と言い切ってしまってもいい気がする。


なお、「エンダーのゲーム」を読んでバトルスクールの面々に若干でも魅力を感じた人は、是非「エンダーズシャドウ」「シャドウ・オブ・ヘゲモン」などの外伝的な続編にも手を出されるべきであろう。エンダーの部下、ビーンにスポットをあてた作品であり、こちらは「エンダーのゲーム」以上に虚々実々の会話が繰り広げられる。仮想戦記ものが好きな方にもお勧めである。個人的お気に入りキャラクターはビーンとクレイジー・トム。



「幼年期の終わり」著者: アーサー・C・クラーク

一昨年逝去したアーサー・C・クラークの作品。氏の代表作といえば「2001年宇宙の旅」か本作だと思うが、あまり海外SF慣れしていない人にお勧めするとしたら、多分こちらの方だと思う。「異質な存在との接触」がテーマの作品としては両作品とも王道中の王道だと思うが、「幼年期の終わり」では、より直接的に地球の近未来が描かれるからだ。

この作品は三部構成になっている。第一部が、「オーバーロード」と呼ばれる存在が地球に現れ、地球の社会に関わり始めた頃の描写。第二部が、そのもう少し未来、オーバーロードの存在によって繁栄する地球。そして第三部が、更にそのもう少し後。

オーバーロードの目的は一体なんなのか?地球はどこへ向かって進んでいくのか?というミステリアスなテーマを最後まで引っ張りつつ、近未来の地球を破綻なく書ききるその構成は、アーサー・C・クラークが何故ハインラインやアシモフと並んで「巨匠」と呼ばれるように至ったか、という理由を如実に読者に語りかけてくれる。その上で、ある種の戦慄と荘厳さを提供してくれる第三部の展開は凄絶という他ない。幼年期が終わった後、そこには何があるのか。ミステリーがお好きな方にもお勧め出来る、と思う。

個人的なお気に入りは、深海研究家であるサリヴァン教授。ジャンとの掛け合いがいい味だしていたと思う。



「ウは宇宙船のウ」著者:レイ・ブラッドベリ

ブラッドベリとか!好きなので!!

という完全無欠に個人的な好みなのだが、海外SF作家には言うまでもなく短篇の名手がたくさんいる。アシモフやハインラインは言うに及ばず、ティプトリーにラファティにベスターにフレドリック・ブラウンに、というかtakusann
い過ぎて挙げきれない。ハインラインは長編の方が有名かも知れないが。

そんな中でも本作を挙げる理由は、この短編集の中でも特に「霜と炎」が綺麗だから、である。奇想天外なSF的設定の舞台で、悲壮で、スリルがあって、展開が激しくって、しかも読後感が爽やかだ。

恒星にごく近い惑星に取り残された人々。その過酷な環境では、人間の生理時間が極端に加速され、一生はたったの一週間で終わる。生まれて、成長して、恋愛をして、年老いて死ぬまで、僅か一週間。そんな中に生まれた少年、シムの物語。

まともな生活の中では想像だに出来ない舞台設定と、その上で展開する人間の物語。これぞSFの味ではあるまいか。私の中では、このお話がブラッドベリ短篇の真骨頂なのではないかということになっている。

ブラッドベリはSFとファンタジーの間にいる作者のような気がするが、同作品中の短篇「霧笛」なんかも詩的で味わい深い作品である。この短篇でブラッドベリが気になった人は、SFとは少し違うかも知れないが、長編「何かが道をやってくる」や「華氏451度」に手を伸ばしてみるのもお勧めである。特に、「何かが道をやってくる」はブラッドベリファンタジーの代表作だと思う。訳の人が頑張っているのも特徴だ。



「星を継ぐもの」著者: ジェイムズ・P・ホーガン

ホーガンのデビュー作にして、ミステリSF傑作中の傑作。この作品を、数あるSF小説中の最高傑作として挙げる人も結構いるんじゃないだろうか。

「月で発見された、5万年前の死体」という豪快な導入と、次から次へと姿を現す謎。その謎を追求する主人公のヴィクター・ハントとロブ・グレイ、そしてグレッグ・コールドウェルやダンチェッカーといった魅力的なキャラクター群。

上で挙げた作品に比べればややハードSF的な側面が強いとはいえ、最初から最後までトーンダウンすることのない謎解きの数々は、ミステリーファンの審美眼にも耐えるだろう。人類の進化や誕生、惑星と恒星の歴史にまでスケールアップする様々な紆余曲折は、複雑に絡み合いながら最後の最後で見事に収束することになる。この辺り、多少SFに不慣れな方でも、くらくらしながら読む価値は十分にある。理想をいえば、ある程度SF的文脈に慣れた「二冊目」として手にとるのがもっともいいんじゃないか、と思わないでもないが。

尚、この作品の続編、「ガニメデの優しい巨人」「巨人たちの星」などは、本作とはまた全然違った味わいの、しかし同等のカタルシスを提供してくれる佳作である。ページを勧めるごとに味わいをますハントとダンチェッカーのキャラクター描写には舌を巻く他ない。



ということで、まだまだお勧めしたい名作は山のようにある訳だが、大概長くなったので今回はこの辺で。

posted by しんざき at 22:23 | Comment(10) | TrackBack(4) | 雑文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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この記事へのコメント
この4つだと星を継ぐものが私は入門にはいいと思います。
ベタでいくなら夏への扉やSFとは違うという人もいますがアルジャーノンに花束をとか。


私が大学卒業した翌年ですが、所属していたサークルの面子が作ったSF小説啓蒙ドキュメントをさらしておきます(笑)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm9915340
(私も名前だけ2:27にちらっと出てます)
Posted by GOTY at 2010年07月09日 23:28
定番の「夏への扉」を外しましたね
Posted by at 2010年07月10日 10:28
「死者の代弁者」を読み進める途中、あまりのつまらなさに下巻をゴミ箱に叩き込んだ覚えがあります。
死人の繰言を語るために、特殊な航法の無い世界で何年も掛けて別の星に辿り着き、不能の亭主の子供を生まず、浮気し倒して何人も子供を産んだ女が死んだ後、代弁者が現れるような話だったと思いますが、肝心のラストを読む前に苦痛に耐えかねてゴミ箱行きが決定しました。
同じ作者の短編集で妖精のような種族が自分たちの交配の手段を恥ずかしがって同属を殺している、という話も最低で、何故評価されているか分からない作品と作者です。
Posted by momo at 2010年07月10日 16:22
はじめまして。
ブラッドベリとクラークは鉄板ですかね。エンダーも同意です。
ただ挙げられた4冊だけだとやや正統派すぎるというか、王道SFに偏り過ぎな気もします。
ホーガンの代わりにスタージョンの何かとか、あと「虎よ虎よ」とか入れてもいいんじゃないでしょうか。どちらもSF初心者でも面白く読める上に、やや異色なので。
Posted by s at 2010年07月10日 16:54
ごぶさたしております。
 『エンダーのゲーム』『死者の代弁者』を薦めていただけて、ファンとしては嬉しい限り。まあ、『死者の〜』は好みが分かれますし、『エンダー』は訳にちょっと難がありますけどね。
>momo 様
>浮気し倒して何人も子供を産んだ女が死んだ後、
 すいませんが、その人死んでません。浮気はしてましたが。死んだのはその人の親がわりの爺さんでして。

 挙げられている作品はどれも傑作ですが、新しい作品が少ないかな、と。ロバート・J・ソウヤーの『イリーガル・エイリアン』とか『フラッシュフォワード』なんてどうでしょう。前者はファースト・コンタクトの異星人が殺人容疑で裁判にかけられる話、後者は粒子加速器の事故で全人類が未来を垣間見てしまった後の話。
Posted by 司書の駄弁者 at 2010年07月10日 20:32
実はハインラインで一番好きなのは「夏への扉」でも「月は無慈悲な夜の女王」でもなく「地球の緑の丘」だったり。いや、一般的にはどう考えても長編作家だと思うんですが。

>司書の駄弁者様
うわあああご無沙汰しております。

エンダーの訳については色んなところで言われてますね。それでも十分面白い、と個人的には思いますが。

>gotyさん
星を継ぐものは大傑作ですよね。ただ、SFをまったく読んだことがない人が初めて読むにはちょい厳しいかなー?とかとも思うんですが。

>SF小説啓蒙ドキュメント
すばらしい。

>sさん
エンダー以外は、私自身がまだ殆どSFを読んだことがない頃読んだ作品なので、王道が多いのはその為かも知れません。
ベスターはいいですよねステキですよね。
Posted by しんざき at 2010年07月10日 22:49
こんちは、おひさしぶりです。
 
 
ダンチェッカーは好きなキャラです、ツンデレ?だしw
Posted by あーく at 2010年07月11日 11:48
はじめまして。
ちょうどこの間、まさにSF初心者の人に「SF読みたいんだけど」と聞かれ答えたんですが、こちらで紹介されているのとかぶっていておおと思いました。

ちなみにかぶったのは『エンダーのゲーム』『星を継ぐもの』で、ブラッドベリは私は『火星年代記』の方を。残り一冊は『しあわせの理由』をすすめました。

やっぱり初めての人向けで今でも古臭くない…となるとここらへんになるんでしょうか。面白かったです。
Posted by ふな at 2010年07月12日 19:33
はじめまして。
twitterで「星を継ぐもの」を薦めていらしたので読んでみたら、とても面白い本でした。
読者を飽きさせずに話が展開し、ラスト50ページで今まで出た情報全てが収束するのがすばらしい。

次は、「幼年期の終わり」あたりを読んでみようかと思います。
Posted by 坂東ディー at 2010年07月13日 06:24
既出ですが、自分も「夏への扉」を押したいです。
特にハードなSFガジェットがぞろぞろって感じではないので、初心者には読みやすいかと。
ハードなのが好きそうなら、ディックとか勧めちゃいそうですが(w
Posted by Kenz at 2010年07月15日 11:02
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