2005年01月20日

ある書籍のタイトルに内包される意外性について。

三段落ち、という表現法がある。いや、正式な名前がどうなのか私には良くわからぬが、文脈に沿った単語を二つもってきて、三つ目の単語で落とす、という手法である。
例えば、古くは
「ジュンでーす」「長作でーす」「三波春夫でございます」というのがそれだし(お前は一体何歳だ、という突っ込みは敢えて置く)、その亜流で「タコです」「千石です」「桃太郎侍でございます」というのも同系列にあたる。

「世界三大○○」という奴は大概の場合これだ、という話もある。例えば世界三大美女。日本では「クレオパトラ、楊貴妃、小野小町」と通例呼ばれるが、小野小町が美人であったという話には、実の所ある種の誤解による誇張がある。小野小町が美人だというイメージは大部分冷泉家記によると思うのだが、よく読むとこれ、小町の容姿を褒めている文章はあまり多くないのだ。ここで小町が描写されているのは飽くまで和歌の佳人という姿であって、「うつくし」とか「らうたし」という言葉のニュアンスが若干異なる。まあ別にケチをつける訳ではないが、いつのまにやら「絶世の美女」などというパブリッシュイメージまで押し付けられてしまっては、小町としても些かリアクションに困るだろう。1000年後くらいには和田アキ子辺りが絶世の美女扱いされているかも知れない。

こんなしょうもないことを仕事の合間にのらくらとこねくり回しているのは、こんなエントリーを見つけた故である。


「文豪ナビ」に、異議あり!
(「ある編集者の気になるノート」様より)
現役の編集者さんが運営されるブログである。昔は間近で編集者さんと仕事をさせて頂いたものとして、いつもご苦労をしのびながら読ませて頂いている。
ところで、このエントリーに関しては、私は些か違う感想を持った。
氏は文中で、この本のタイトルに関して
>「編集者失格」のタイトル・センスである。
とおっしゃっているが。

この本の狙いは何かというと、まさに
>新潮社のカラーに合わないタイトルをつけている
こう思わせることにあるのではないかと思うのだ。

現役の方に何を今さら申し上げることがあろうかとは思うが、およそ出版界の最大の課題は、大手零細問わず「新規顧客の囲い込み」である。そして、経営の風潮というものは「既存顧客離れ」よりも「新規の客が来ない」ことを恐れる傾向にある。普段あまり新潮社の文庫に興味を示さない人たちに、「お、固そうな出版社からこんな本が」とでも思われることを狙っているのではないか。企業のスタンスがどうあれ、経営的には「読ませたもん勝ち」と判断されるであろうと思うのだ。つまり、このタイトルの最大の狙いは「意外性による興味の喚起」であろうと推測出来る。

勿論問題点がない訳ではない。

>おや、森鴎外が抜けている。
いけない。そこは突っ込む所ではない。新潮社の狙いは意外性なのである。ここで突っ込むべきは、まず何よりも「オチがない」ことであろう。この面子にその上鴎外までもってきた日には、全くもって意外性というものがない。だからといって坂口安吾を入れればいいというものでもなかろう。

文豪三段落ち、というならこうやるべきだ。「三島、漱石、五島勉」
・・・ダメですか。弱いですか。そうか、語呂が悪いのだな。じゃあこれならどうだ。「太宰、川端、栗本薫」。
あんまり語呂がよくなっていない気がする。やはり「梶井、島崎、森昭雄」の方が良かったか。阿部照雄でもいいな。
芥川?志賀直哉?あかんあかん。全然ダメ。この人たちの名前は五文字である。五文字ということは、自動的にオチに使わなくてはいけないことが確定するということを意味する。芥川や志賀をオチに使う時に、一体誰を前段にもって来ればいいのだ。原哲夫でも配置すればいいというのか。いかん、原哲夫も五文字だな。まあいいや別に。

>そもそも、ナイフを持つような奴がダザイを読んだら、自殺やリストカットに走ると思うのだが……
おっしゃる通りでございます。
ところで、精神的に疲れた人が読むとしたら、人間失格とかよりむしろ走れメロスの方がイヤな影響が出そうな気がするのはなぜだろう。メロスのあまりなポジティブさがアレなのか。


そういう訳で、今日の私も夜明けがくるまで突っ走ろうと思うのだよ。(っていうかそろそろ帰ってもいいですか)
posted by しんざき at 05:09 | Comment(8) | TrackBack(0) | 雑文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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この記事へのコメント
トラックバックありがとうございます。
なるほど、五島勉や原哲夫までの意外性があれば、僕もその試みを応援できたのかもしれません。

ただ、今回の企画には、まだ思い切りが足りないように感じます。
ふだんは真面目な子が、盛り上げようと飲み会の場で思い切りはしゃいで、かえって場が盛り下がったような印象を受けてしまいました。

たしかに、ビジネスとしては、新規顧客の獲得は大事な点なのですがね……
Posted by aru-henshusha at 2005年01月20日 09:29
コメントありがとうございます。恐縮です。

>ふだんは真面目な子が、盛り上げようと飲み会の場で思い切りはしゃいで、
そうですね。もう少し具体的に言うと、華麗な大学デビューを飾って喜び勇んで合コンに向かったけど、海外SFのことしか話題に出せなかった男子校出身者、という様な状況を想起させるところがあります。

>たしかに、ビジネスとしては、新規顧客の獲得は大事な点なのですがね……
まあ現実問題、普段あまり新潮社の本を読まない様な読者層の人がこの本買うか、といわれると結構疑問ではありますが。やっぱオチが弱いオチが。
Posted by しんざき at 2005年01月20日 18:09
何だか、結構笑えました今回。

寄席にも三段落ちみたいな話の形式あったっけ?
テーマがあって、それに関して
1話「○○」2話「○○」3話「落とす」
あれ?なかったっけ?
久々に落語にも行きたいと思っています。
そのうち。
この間、近所のホールで、小朝さんの2人会が
やっているのを見逃してて残念。
でも、落語はホールより小さい小屋が断然いい。
Posted by な at 2005年01月20日 22:55
それは三題噺なり。まあ、構成はいっしょですが。
ところで小朝さんてダレですか?
Posted by しんざき at 2005年01月23日 00:31
> ところで小朝さんてダレですか?

春風亭小朝では?因みに(三匹の)タコの人。
ボケに野暮なツッコミでしたか、そうですか。
Posted by 三匹 at 2005年12月29日 21:57
> ところで小朝さんてダレですか?

春風亭小朝では?因みに(三匹の)タコの人です。
って蛇足?
Posted by at 2005年12月29日 23:20
>三匹さん
突っ込み&コメントありがとうございます。勉強になりました。

名無しの方も同じ人でしょうか?
Posted by しんざき at 2006年01月01日 21:54
アルバイトはじめました(´-ω-)♪ http://l7i7.com/
Posted by age at 2012年04月13日 13:27
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