「機動警察パトレイバー」をご存知ない方には間違いなくワケワカラン話であることを先にお詫びしておく。読んだことがない人は読んでみるべきだと思う。面白いので。
以下、基本的に漫画版準拠の話である。長文なのでお暇な時に。
内海さんとは一体誰のことかというと、「機動警察パトレイバー」という漫画・アニメの登場キャラクターである。
内海さんは悪役である。そして、内海さんは課長である。巨大国際企業「シャフト」の企画七課を束ねる立場であり、様々な策略謀略権謀術数を巡らしつつ、グリフォンとイングラムを戦わせて遊んだり、上司をおちょくって遊んだり、特車二課を襲撃したり、たまに南米に飛ばされたりする。
基本的には内海さんは「趣味で悪役をやっている」人物であり、それは作中「悪役らしくなってきたなあ」といった台詞や、「知略に長けた趣味の人」といったコピーにも現れている。彼は組織人であると同時に趣味の人なのだ。色んな創作の中でも特異な「悪役」であり、同時に特車二課の後藤隊長と並んで、非常に特異な「上司」キャラクターでもあると思う。
作中最大の悪役、かつ作中最強の遊び人として描かれる内海さんなのだが、彼は曲がりなりにも組織人なわけであり、部下もちゃんといる。そして、展開を見る限り、彼には結構企画七課内での人望があるようで、曲者揃いと見える企画七課内で、内海課長に逆らう者は殆どいない(黒崎くんが稀に逆らうが、彼は内海課長一の忠臣でもある)。
また、彼はシャフト社内でもきちんと立場を築いているようであり、偉いさん達の前でプレゼンしたり、社長から庇いだてされたり、極東マネージャーのような人脈をもっていたりする。
一見のらくらと、自分の趣味だけの為に日々をすごしている内海さんが、いかにして企画七課をまとめているのか。マネージャーとしての内海さんを分析してみるというのは、なかなか興味深い議論になりそうだ。
本エントリーでは、「マネージャーとしての内海課長」に着目して、作中の幾つかのシーンを題材に、彼の人心掌握術の秘密を探ってみたい。
私が考える内海課長の「マネージャーとしての特徴」は以下の通りである。
a.滅多に笑顔を絶やさない。自分が「趣味人」であることを周囲に隠さない。
b.上記に加えて、自分にも他人にも基本的に寛容であり、雰囲気的には非常に緩い。
c.基本的に部下と目線が同じ。また、部下を趣味に巻き込む。
d.上司に対して公然と意見を言う/逆らう姿勢を部下に見せる。
e.冷徹な時は冷徹であり、それを隠さない。
一つ一つ見ていってみよう。尚、引用する台詞は諸事情により基本的に記憶頼みで書いている為、細部の正確さを欠く点についてはご容赦頂きたい。
a.滅多に笑顔を絶やさない。人とのコミュニケーションに非常に気安い。
b.上記に加えて、自分にも他人にも基本的に寛容であり、雰囲気的には非常に緩い。
後藤「年がら年中笑ってるような男らしいよ」
内海「怒るなよ。こっちだって腸が煮えくり返る思いなんだから」森川「すいません、とてもそうは見えなかったもので…」
内海「ちょっと間が悪かったかね、ゆっくりでいいよ」
内海課長の基本的なスタンスは、「笑顔」と「緩さ」だと思う。彼は滅多に笑顔を絶やさない。そして、彼は滅多に部下を叱責しない。
内海さんは悪役らしからぬ社会性の高さで一部に著名だが、まずその重要な点として、作中で描写されている範囲だけでも非常にコミュニケーション能力が高いことが挙げられるだろう。ゲーセンで偶然出会っただけの野亜と遊馬に平気な顔で声をかけ、自分を監視にきたSSSのメンバーを丸め込みにかかり、部下は口説くわ上司はだまくらかすわ、とにかく話術に長けている。
悪人が交渉術に長けているのはよくあることだが、内海さんの特徴としては、笑顔がもたらす柔和さが、会話のし易さに拍車をかけている、ということが言えるだろう。彼の表情は「顔自体が笑ったような作り」などと熊耳に評されているが、その辺を利用している部分もあるのかも知れない。
特に部下に対しては滅多にキツい口調にならないことも合わせて、まずはその「一見した甘さ」というものが部下やその他とのコミュニケーションを助けていることが推測出来る。
c.基本的に部下と目線が同じ。また、部下を趣味に巻き込む。
内海「ぼくがいない間、何をすればいいか分かってるね?」
黒崎「わかってますよ」「何もしなければいいんでしょ?」
細かい話なのだが、内海課長は部下と会話をする時、あんまり部下との目線に「段差」を作らない。
例えば、引用台詞、内海課長が南米に行く直前、部下とことの顛末を話し合う際にも、全員思い思いにつったったり机に寄りかかったり、立ち話の風情である。その場には通常の会議のようなフォーマットはなく、また内海課長と課内のメンバーの間に立ち位置の差もない。
これ以外にも、彼が部下、あるいは部下的立ち位置の人と話し合う場面は、基本的に非常に「気安い」。例えば、グリフォン開発者の磯口や森川と輪投げをしながら話し合ったり、コーヒー飲みながら秘密工場で青砥たちと悪巧みをしてみたり、とかく部下との間に心理的な壁を作らない人物であることが伺える。
「僕達からグリフォンを奪った報いだ。安い代償じゃないか」
上記は、野亜のイングラムとグリフォンの初対決の後、SSSのトラックを爆破した後の台詞だ。これも細かい話だが、内海課長は企画七課や自分の周囲を「僕たち」と規程する発言を随所で行っている。
本来は自分ひとりの趣味で色んな悪事を行っている彼なのだが、上記の心理的な壁の薄さと合わせて、黒崎くんたちやグリフォン開発者を「僕達」の一部として趣味的な悪事に巻き込んでいくのは、彼の一つのテクニックなのではないかと私は考えたりする。
つまり、自分の「緩さ」と「敷居の低さ」を軸に、企画七課という集団の「サークル化」を行っているのではないか、という推測がひとまず出来る。
d.上司に対して公然と意見を言う/逆らう。また、その姿勢を部下に見せる。
e.冷徹な時は冷徹であり、それを隠さない。
内海「こちらの尻に火をつけた人がいまして、専務…」「あんたが悪いよ。」
内海「あんな暴力バカどもが何人死んだところで、どれ程の損失だ」
上記では「甘さ」「緩さ」とサークル化で部下との敷居を低くしているという話を書いたが、一方内海さんは、「サークルの外部」に対しては結構冷徹であり、悪役らしい悪役っぷりを発揮したりもする。
勿論内海さんは勤め人なので、基本的には徳永専務辺りから命令がきたらちゃんと従うのだが、場合によってはざっくりと逆らったり、公然と敵愾心を表明したりする。あと、徳永専務の顔をがんがん蹴りつけたりする。いや、あれはちょっと状況が特殊だが。
上記サークル化と合わせて考えると、
・内向きの集団を「我々」と規程した上で、外部に「敵」を作成することで、内向きの集団をまとめる。
・普段の「甘さ」との差分としての冷徹な一面を表明することによって、いわゆるギャップ効果を演出している。
という推測が出来る。
集団がまとまるのに最も必要なのは敵、というのはよくある話なのだが、内海課長は特に物語後半、特車二課、あるいは徳永専務をはじめとするシャフト上層部を「敵」と設定して立ち回っている節がある。これも、企画七課という集団をまとめる一助になっていると考えることは不自然ではないだろう。
また、以前恋愛におけるギャップ効果の話が盛り上がったことがあった。突き放されたり優しくされたりといった感情動作が繰り返されると、ギャップ効果によって恋愛感情が盛り上がる、というような話である。
上記のギャップ効果とは少々話が違うが、「内向きには甘い」「外向きには厳しい」といった姿勢が、部下の掌握に役立っていると見ることが出来る。甘さと冷徹さを巧みに使い分けることを、内海課長が人心掌握術の一貫として用いているという推測も可能であろう。
まとめると、内海課長は「笑顔と緩さを軸にして「内向きの甘さ」と「集団のサークル化」を演出している」「それに対して、外部集団を敵として設定し、敵愾心を表明することによって、内向きの結束力を高めている」といったような、割とどうでもいい結論が導けるのではないかと思った次第である。よかったですね。>私
言うまでもないことだが、上記は全て私の勝手な想像なので、妥当なのかどうかは勿論知らない。あと劇場版、実は2より1の方が好きだったりするんですが皆さんいかがですか。零式かっこいいですよね。
続き書きました。
内海さんて、ザ・ゆうきまさみだよね。
これだけ言いたかった!
有能な上司と有能な部下。少数精鋭の企画七課を、
通常のボンクラ企業と同列に論じることは危険だと思います。
野亜ってだれだよ… orz
タイトルの人と名前が一緒なんで…。
私もパトレイバーは読んでましたが、
内海課長っていましたね〜。
この分析だと自分にも結構、自分にも当てはまってて笑いました。
まあ能力は別にして、僕の同僚の接し方は、全てこれですね。
あと、ふだんの顔も…。
三歳の子供がいるイクメンなので、
その関係の話も参考になります。
今後もブログチェックさせて頂きます。
内海の派生系の「火付けの柳」についても是非比較なさって見てください
部下としてはやりやすいと思う。
特に7課はアウトローっぽい人が多いので、
他の部署で干されていて実力が発揮できない人でも、
(ルールに逆らわなければ)上手に使っていく。
部下もはっきりルールが示されていれば動きやすい。
ある意味、後藤隊長と似ているよね。
もっとも後藤隊長の方が寛容だけど、
それは外資系と公務員の違いかな?
狼の群れに似ているんだろ。
狼の群れのリーダーってのは
一番頭が良くて状況判断能力が
あるのは、もちろんなんだが
とても陽気で、群れの最劣位の
メンバーにまで親切な奴らしい。
群れのナンバー2には
肉体的かつ精神的に頑強で凶暴
戦闘力の一番高い個体がなる
こいつがリーダーを護衛するらしい。
だから群れの外の者から見ると
リーダーは下手をすると最も
攻撃性の低い個体に見える
可能性があるらしい。
一番腕力が強くて図々しい
声のデカイ奴がボスになり
そいつが良いサルなら
群れの皆はハッピー
悪いサルなら
みんな不幸だけど
交代まで我慢する(涙)
内海・黒崎ペアに相当するのが
第一小隊・第二小隊なんだよ
特車2課の場合
南雲さんというのが
群れのナンバー2であり
後藤さんの護衛(防波堤)で
特に警察という「組織」から
つまり味方から後藤さんを護ってる
そういう役割が濃厚だと思う。
ついで言うと、後藤さんも内海課長も
独断専行をやっているわけではない。
彼らは、専務と課長(中隊長)という
直接の管理者を事実上スキップして
極東マネージャーと警備部長という
更なるキレ者(理解者)の裁量権の
範囲内でフリーハンドを得ている。
劇場パト1でもそうだったろ。
俺は後藤さんの方が悪人だと思うよ。
「子供を使って何を企んでいるのやら」
ってのは、実は後藤さんなんだよな。
しかも使ってる子供(若者)は一人じゃないし
企んで使ってるとすら社会に気付かせない
篠原君とか勘が良い子は気付くわけだが。
内海課長は恋人(黒崎君)を傷つけたりしないが
後藤さんは南雲さん(好きな人)でも傷つけるし。
内海課長は危険な現場にも行くわけだが
後藤さんは危険な事は人にやらせる。
メンバーの気持ちのケアなんて
リスキーな事は当然のことながら
全部他の人にやらせるわけだ。
内海課長はやりたいことを命懸けてやるが
後藤さんは色々なことを生きる為に我慢する
これが一番悪いことだよな。
「手段の為には目的を選ばない」のだが
そもそも人間が目的とするものなど
最初から決まっているのであって
クリエイトの歴史ってのは
手段を変えることに他ならない。
女の子の絵だと解れば良いのなら
トイレの看板に目鼻を描けば良い
ところが萌え絵は
伝達「手段」にこだわる
何故なら「楽しい」から
儲かるだの、社会的目的だの
それは二次的な事なんだよ。
内海課長はクリエイターだろ?
後藤さんは「正義の味方」という
目的の為に「悪い人」になった。
当然のことながら虚無的になる
自己矛盾を抱える理由は
彼がテロリストだからだ。
そういう彼が愛で救われるか
救われないかの危うい均衡が
彼の一貫したテーマ
じゃなかったっけ?
明確に若者が社会のなかでなやんで模索して大人になろうとするゆうきまさみ作品のパトレイバーでは後藤隊長の役割はちがうし悪人ではいだろ
ゆうきまさみのほうの後藤隊長は、不良警官ではあっても自分の正義のために組織の枠を逸脱して悪人になるのをいとわないなどということはしないし、大人になろうとしてる部下に社会や組織の現実を教えて諭すそういう役割だ
ふたりの作品へのアプローチからキャラつけを変えてあるんだからそこはわけるべきだろう