ところで新崎は今週末北海道に行きます。
雪祭りなるものを奥様と共に見学しに行くという予定なのだが、その際に北海道出身の奥様の友人に色々と名所などを教えて頂く予定である。
その方に、「北海道ではこれを知らないとモグリだ」という触れ込みで「水曜どうでしょう」という番組の特集DVDを渡され、いくまでの予習ということで今観ており、今まさにハノイの街中にカブで走り出そうとしているところなのだが、北海道にお住まいの方、この番組ご存知ですか。観てないと本当にモグリなんでしょうか。なんか4時間くらいあるらしいんですけど。
それはそうと、ゴーストライター話の続き。
いわゆる替え玉作家としてのゴーストライターが、代理著述をする為にまず何をするかご存知だろうか。
少なくとも私に関する限り、まず読む。書く前に読む。地の果てまで読みつづけるのである。何をというと、勿論替え玉をする対象の作家さんの文章をだ。替え玉作家の最大の使命は、当然のことながら面白い内容を書くことではない。まず何よりも、「読者に違和感を抱かせないこと」が義務であり、役割であり、最低条件なのである。例え作家さん本人が書くより面白い内容が書けたとしても、違和感を感じた読者からクレームが一件来ただけで、ゴースト的にはその仕事は「失敗」ということになる。
読者ひとりひとりは、それ程注意深い読み手ではない場合も多い。ある記事の文体がいつもと少々違ったところで、気にもしない方は多いであろう。だが、例えばある雑誌を読む読者全体ともなれば、どんな細かい傷でも絶対に見逃してもらえない。
ある雑誌の実売部数が2万部だったとする。コンビニでの立ち読みなどがあり得る雑誌であったとすれば、読んでいる人数は最低でもその数倍、場合によっては十倍以上に膨らむ。この時点で読んでいる人数は10万以上だ。その内の、1000人に1人しか気付かないミスであったとしても、実に100人の人がミスに気付く。これがまた、世の中には細かい人がいて、ちょっとしたミスでも欠かさずメールやお手紙でお叱りを下さる、編集者泣かせの読者が必ずいるのだ(ちなみに、雑誌自体を買っていないのにわざわざ官製ハガキでクレームを送ってくださる読者も時折いる)。勿論読者層によるのだが、まあ100人に一人くらいは大体いる。つまり一件クレームがあった場合、その背後には最低100人の「潜在的ミス発見者」が控えている計算になる。勘弁して欲しい。
まあ、バイトの身としてはクレームが来ようが売上が落ちようが、別に給料が落ちる訳ではないのだが、まあそうとばかりも言っていられない。仕事を頼まれたとなれば、気合を入れ直してハチマキ締めて、対象の作家さんの書いた文章をテッテー研究する訳だ。コピーしにくい作家さんもいればし易い作家さんもいる。
以上は全て一般論である。
I先生のゴーストの仕事を受けた時、私は上記の様な心構えの遥か前の地点にいた。何しろ私は題材の「チベット」を知らない。言うまでもなく、チベット料理などというものはカケラも知らない。ボケすら出てこない。当時は全く知らなかったと言って良いが、実のところ今でもそれ程知らない。
そんな私にも、有りがたいことに掴むべき藁はあった。I先生は非常に取材力のある方で、しかも作家さんにしてはといっては失礼だが、かなりの整理力を兼ね備えている方であった。思考的整理力をお持ちの作家さんは珍しくないが、物理的整理力をお持ちの作家さんは結構少なく、床が資料で埋まっていて文字通り歩き場所もない、という部屋も珍しくない。
そんな中、私が渡されたのは写真と文章満載の、恐るべき情報量の大学ノート3冊であった。I先生が中国は青海省からラサに入ったところから始まり、その行動内容と風景・食べた料理から何から、素晴らしい精密さで詳述しておられる。なにしろ、朝食一回につきあらゆる角度から10枚〜20枚もの写真が残っているのだ。味から食感から、写真の横には凄まじい細かさでI先生の所感が記されていた。
手書きで。
・・・I先生すいません、読解より前に解読が必要ですこれ。
今「お前が言うなや」とか思ったオフラインの知人はグラウンド10周で。
2005年02月07日
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