2011年08月04日

怒りに関する、奴のスタンス。


Y先生の話をしよう。



確か高校の頃だったか。私の高校はそこまでお行儀のいい学校ではなかったので、授業中に学生が散々騒いで先生に怒鳴りつけられる、ということは頻繁にあったのだが、一つだけ、妙に静かな授業があった。化学の授業である。

化学の授業で教鞭をとっていたY先生は、どちらかというとボソボソと話す年配の先生で、私はその人が怒ったところ、生徒を叱っているところを見たことがない。ただ、不思議なことに、普段はぎゃーたら騒いで教室からたたき出されているような連中が、その授業だけはしんとしている。たまに舟をこぐことこそあれ、いつもしているように大声で話して教師の声を掻き消す、というようなことは全く無い。


なんでかいな、と思っていた。


ある時、同級生とY先生の話になった。彼は私に、その疑問についてこういった。「普段怒らない人は、自分の怒りをコントロール出来る人だから、怒ると滅茶苦茶怖いぞ」と。それを肌で感じているから、皆騒がないのだろう、と。

私は、そんなもんなんかなあ、と思った。この時の会話は、妙に頭に残っている。


この話にはオチがある。


卒業したずっと後に、Y先生自身と話す機会があった。その時上のような話をしたら、彼は笑ってこう言った。そりゃあ学校の七不思議みたいなもんだ、と。「Y先生は普段怒らない分、怒ると滅茶苦茶怖い」というのは、運動部を中心に尾鰭をついて代々伝わっている伝説なのだ、と。

つまり、Y先生は「怒ると怖い自分」というものについて、密かにイメージ戦略を行っていた、というのだ。先輩からの忠告、というものは、確かに強い。少なくとも教師からの叱責よりも強い。私の高校ではそうだった。


ついでに私は聞いてみた。実際に怒ると怖いんですか、と。Y先生は同じく笑って、どうだろうなあ、と言った。怒ると疲れるから、なるべく有効な怒り方をしたいとは思うけどなあ。


この時聞いたのはこれだけの話だが、私はここから、幾つかの結論を導出した。これは今でも私の考え方に尾をひいているかも知れない。


・一人で怒って、しかもその怒りを抱え込むだけ、というのは、要するに自分がイヤな気分をするだけなので、かなりのエネルギーの無駄であること。

・同じ怒るなら、その怒りを有効利用することを考えるべきだ、ということ。上記の通り一人で怒るのは単なるエネルギーの無駄なので、少なくとも、その怒りを誰かに伝えないと始まらない、ということ。

・普段怒らない人が怒ると怖い、ということ。そして、その怖さを利用することも出来るということ。

・一番効率がいいのは、実際に怒らないで、怒った時と同等かそれ以上の効果を得ることだ、ということ。



怒りというのは、エネルギーの投資だ、と私は思う。投資は、なるべく小さな元手で大きく稼ぎたいものだ。どうせ怒るなら、相手に「この人は怒っている、なんとかしなきゃ」あるいは「この人は怒ると怖い」と思わせて、交渉なりなんなりを有利に進めたい。この点、「無駄な投資」をしている人はかなり多いと思う。

そして、その意味で最も利幅が大きいのは、実際には怒らないでその成果を得ることだ。私は、怒りに対して、そういう立ち位置である。



私は生来、あまり怒らない方というか、あんまり不快感を感じない方だと思う。不快感を感じそうなものにあまり近づかないという理由もあるが、脳がステゴザウルス並みに鈍いだけである可能性も非常に高い。


けれど、なのか。なので、なのか。どうせたまに怒るなら、その怒りを有用に使いたいなあ、というスタンスなのは、多分上記のようなエピソードにその淵源を持っていると思う。今回のテーマは実は「怒ってください」だったのだが、おいおい俺の怒りは安くはねえぜ、という意味で、私自身の「怒りのスタンス」を紹介させて頂いた。ずるっこだと言わば言え。


余談だが、「怒」という文字を「ど」と読むのは、あらゆる漢字の読みの中でもかなりトップレベルに「意味にマッチした」読みだと私は評価しており、「ど」という言葉の無闇に強そうな語感、いかにも物凄い迫力や威圧感が待っていそうな音感は、例えば怒首領蜂とか怒号層圏とかドキューン!!のようなタイトルにも現れていると思うのだが超どうでもいい。


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この記事は、ブログ企画NoBorderに投稿したものの再掲です。
posted by しんざき at 19:08 | Comment(1) | TrackBack(0) | 雑文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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この記事へのコメント
これって武術的ですよね。っていうかほぼ秘伝…。
Posted by u23 at 2011年08月08日 16:38
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