2011年08月21日

裏山の奇妙な場所に関する記憶。

ちょっと一人語りになる。


私は、ベストプレイスという言葉を「記憶から外れない場所」という程度のニュアンスで捉えている。いつ、何をしていても何となく意識の片隅にあって、ふとした弾みに思い出す様な場所。意識のどこか切れ端が、いつまでもその場所に留まっているような場所。そういう場所は、私にも何箇所かはある。


で、そんな場所の一箇所についての話を、奥様にしてみたことがある。


その話怖い、と言われた。へ?と思った。


私には霊感と呼ばれるような感覚は皆無なので、幽霊めいたものを見たこともないし、夜中に金縛りになったこともない。夜ふと目を覚ますと枕元でキューピー人形が私を見下ろしていて涙目になったことは何度もあるが、それは祖母の家の調度の問題であって、特に霊とは関係がない。

ということなので、別にこの話にも幽霊とかそういった類の話は全く絡んでこないのだが、確かに、改めて考えてみるとちょっと奇妙な場所ではあった。どこまで描写出来るかわからないが、記憶頼りに「私の意識に残っているあの場所」について書いてみよう。怖い話にはならないと思うので、その点はご承知おき頂きたい。


群馬に住んでいたことがある。Webではネタにされることしきりで、日本語が通じないとか、徒歩で侵入すると槍が飛んでくるとか言われているあの群馬である。勿論Webのネタの殆どはデマであって、群馬では日本語も通じるし、上毛カルタを馬鹿にすると夜襲される。ご用心ありたい。

で、群馬の某所、多分群馬の中ではそこそこ大きな街の、隅っこの方に私は住んでいた。本屋もスーパーもまあ近くにはあるが、ちょっと買い物をしようとしたら車に乗ってデパートに行く必要がある。そんな街だった。もう20年以上前のことだし、多分コンビニのようなものはなかったと思う。


家の近くに、「裏山」があった。


裏山といっても、本当に家のすぐ裏にある程近くはない。歩いたり走ったり、まあ子供の足とはいえ、到着まで10分くらいはかかったのではなかったろうか。住宅地を潜りぬけていくと、ある場所で急にアスファルトが途切れ、土の地面から「裏山」が始まる。山、といっても、そこまで傾斜は深くなく、どちらかというと緑地とか、丘とか、そういうイメージだったかも知れない。

私は、よく友人や縁者と連れ立って、その山の探検に行っていた。洞窟めいたくぼみを見つけて大喜びで秘密基地を作ったこともあったし、擦り切れた服を着た男性を見かけて「山男だ!」などと怖がりあったこともあった。虫も取ったし、狸を見つけて追いかけたりもした。今から考えれば危険なこともあったが、楽しかった記憶がある。


さて。私が一人で裏山をうろついていた時のことなのだが、狸らしき生き物を追いかけて妙な場所を見つけた。普段歩いている山道(軽トラも通れる程度の広さの道だ)からちょっと外れて、木と木の間を潜り抜けて、草をずずずっと抜けていくと、山のはじっこにぽっかりと空き地があったのだ。


そこはまさしく「山のはじっこ」と言うにふさわしい場所だった。ちょっとした公園くらいのスペースはあっただろうか。柵やフェンスの類は一切なかったが、草木に遮られて道からは見えなかった。道の反対側には崖のような場所があって、木々の間を縫って私の家とは反対側の街がちらちらと見えた。


空き地のあちこちに、子供の背丈くらいの高さの石柱が整然と建っていた。


二十本くらいはあったと思う。人工物だったことは間違いない。お墓、だったのかも知れない。ただ、墓碑銘のようなものは書いていなかったし、意匠らしきものもなかったし、墓石にしては細長いようにも思った。ただ、石柱の足元の方には、何か文字を彫ったあとのようなものも見えた記憶がある。地面は特にふくらんでもおらず、平らだったと思う。

静かな場所だった。ここにいると、鳥の声も遠くなるような気がした。

空き地の隅っこの方には掘っ立て小屋のような木造の建物があり、さびだらけの南京錠もついていた。開けてみようとしたが、ボロ小屋の癖に意外と丈夫で、ギシギシ言うだけで全く開く気配はなかった。掘っ立て小屋の横には水道管のようなものが走っていて、蛇口もついていたのだが、ちょっと元を辿ってみるとすぐに折れた先が地上に出ていて、勿論蛇口をひねっても何も出てはこなかった。結局、その小屋の中に何があるのかは分からずじまいだった。


不思議な場所だなー、とは当時も思ったと思う。まだ小学校低学年の頃だ。友達と連れ立って来る様な場所でもなく、なんとなく気が向いた時にはちょくちょく一人で遊びに来て、周囲を探検したりぼーっと座り込んで空を眺めたりしていた。決まって真昼間だったこともあり、別段怖いとは思わなかった。小学校低学年から中学年に上がるくらいの時期、私は転校することになり、結局「そこ」については殆ど人に話さないままに終わった。


今でもたまに思い出す。そういえば、あそこは何だったんだろうなあ、と。


あの場所がいわゆる「怖い場所」だとは今でも思わないし、怪談めいたエピソードもないのだが、一度だけ妙なことがあった。暫く件の空き地でぼーっとした後、帰宅すると「あれ?出かけてたの?」と母に言われたのだ。「裏山行ってたよ」というと、「子供部屋にいるのかと思った」と言われた。子供部屋のドアを開けても、勿論誰もいなかった。ただそれだけのことなのだが、普段あまりそういう勘違いをしない母だったので、妙に記憶に残っている。


時折あの妙な場所を思い出しながら、もう二十年以上になる。私は色んな所に自分の意識の切れ端を置いてきていると思うが、あそこにも切れ端が一つ、今でもぼんやりと佇んでいるのかも知れない。


いつかもう一度あの場所に行ってみたいなあ、と思いながら、また一日、一日が経つ。



この文章は、ブログ企画NoBorderに投稿したものです。
posted by しんざき at 21:58 | Comment(1) | TrackBack(0) | 雑文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ひらけない扉の向こうにはもう一人の自分がいるんです。とか電波ですね。
Posted by クロマル at 2011年08月23日 22:13
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