といいますか、林友彦先生のゲームブックの味わいは、何を置いても「まったりとした雰囲気」と、「一見まったりしているのに実はフラグ立て・難易度は結構極悪」というそのバランスだと私は思っているのです。ティルトは猫だしエスメレーは可愛いしかぼちゃ男のエスメレーはもっと可愛いし語り口はおとぎ話だったりもしますが、それでもポピーにやられて永遠にお休みなさいとかドラゴンに瞬殺とか山椒魚に丸呑みとか。あるある。よくある。
ということで、一年ぶり以上のゲームブック半里を往くは、私が鈴木直人先生と同じくらい個人的大ファンである、林友彦先生の「ニフルハイムのユリ」についてゆるゆると書いてみますですよ。
以下常態。
ニフルハイムのユリ。1987年、創元推理文庫より発売。一連の「スーパー・アドベンチャー・ゲーム」の重要な一角である、パラグラフ数1000の大作おとぎ話ゲームブック「ネバーランドのリンゴ」の続編であり、ルール・キャラクター等もほぼ共通している。前作で取得した魔法などはほぼそのまま使いまわすことが出来る為、新たに遊ぶ奇特な人がいたら「ネバーランドのリンゴ」から遊ぶことをオススメしたい。
では何故今回のテーマはニフルハイムのユリなのか?話は簡単で、私自身が暫くの間ニフルハイムのユリしか持っていなかったから、という以上の理由はない。おかげでクリアまでにはエラい苦労を強いられた。ドラゴン勝てませんでしたよマジで。
と、ここまで書いてきてなんなのだが、先に参照URLについて色々と挙げておきたい。そもそもゲームブックって何だよコラ、という方には、以下のようなエントリーのご一読を頂ければ。
不倒城:レトロゲーム万里を往く その30〜ゲームブック レトロゲームの奇妙な隣人〜
Wikipedia:ゲームブック
不倒城:ゲームブック半里を往く その1 火吹き山のてっぺんで
さて、本書の話をしよう。
・全編を貫く「ケルトのおとぎ話」的な雰囲気。
先ほど書いたが、「ネバーランドのリンゴ」と「ニフルハイムのユリ」の主要キャラクターは大体一致している。主人公となるのは、猫妖精(ブーカと呼ばれる、人間大の歩く猫。アイルランド的にもケットシーをイメージした方が近いかも知れない)である「ティルト」であり、ヒロインはエルクの娘「エスメレー」。ティルトのお供としてついてくる(選択肢によるが)のは、小さなもぐらのような生き物「ヌー」である。
ネバーランド(=アヴァロン島)やニフルハイムという言葉からお分かりの方もいらっしゃるだろうが、背景になっているのはケルト神話や北欧神話であり、物語の背骨にはアーサー王やマーリンといった人物も登場してくる。敵の親玉はゴブリンの王「メレアガント」であるが、更にその背後にいる悪役は「サクソン人の魔術師」であったりする。
物語の大筋は以下のようなものだ。(Wikipediaより引用)
リンゴ盗難事件から1年が経ったある日、ティルトの元にハリー・ヴーから手紙が届き、今度はニフルハイムの至宝である魔法のユリが、ゴブリンの王メレアガントに奪われてしまったという。ティルトはワタリガラスの背に乗って早速ニフルハイムに向かうが、着いてみればまたもやエスメレーが行方不明になったと聞かされる。ユリとエスメレーを取り戻すため、ティルトは再び冒険に旅立つ。
エスメレーは実にヒロインヒロインとした正統派ヒロインなので、どの作品でも共通してさらわれる。というか、「ニフルハイムのユリ」の中だけでも二回さらわれる。非常に律儀である。とはいえ、「ネバーランドのカボチャ男」におけるエスメレーは非常に可愛かったと言わざるを得ないだろう。
上記のようなあらすじを元に、猫勇者であるところのティルトは、雪国ニフルハイムを舞台に大冒険する訳である。とはいえ、全体を貫くのは、やはり冒頭でも書いた「おとぎ話」的な雰囲気だ。
「ネバーランドのリンゴ」及び「ニフルハイムのユリ」は、丁寧語で非常に柔らかな語り口で統一されており、プレイヤーが受ける印象は非常に優しい。起きるイベントの中にも、まったりとした農村の中で蛙使いが蛙に歌を歌わせていたり、木にたわわに実った西洋梨が話しかけてきたり、居酒屋ではトロールやエルクが陽気に飲んだくれていたりと、実に多彩かつ幻想的である。
勿論単に幻想的ではすまないのが林先生のゲームブックであり、蛙使いは実は魔王の手先で、ティルトが正体を明かすや巨大化した蛙が襲ってくるし、西洋梨はぼこぼこと落ちてきてティルトに大ダメージを与えるし、トロールとは選択によっては酒場で殴りあいになったりする。前回も今回もティルトに苦労は耐えない訳で、「2回までは死んでもオッケー」という特徴的なルールに護られながらも、まあクリアまでの道のりはなみなみのものではないと言えるだろう。
・ゲームブックとしての多彩な「味わい」。
ゲームブックとしてのこのゲームの特徴は、いくつかある。
・「キーナンバーシステム」を使った、コンピューターゲームさながらのフラグ管理
・序盤はキツいが、強力なアイテム/強力な魔法と、成長によっていい感じで楽になっていく戦闘システム
・林先生お得意の、パズル的な幾つもの謎かけ
・とにかく美味そうな料理描写の数々
・完全双方向探索と、最終ダンジョンに挑むまでの結構シビアなフラグ立て
・例によって、むやみやたらに広大で複雑な最終ダンジョン
この辺が肝だろう。
「キーナンバーシステム」については、多分創元でやったのは林先生が初めてだと思うのだが、つまり「○○のイベントをやったら、No.1の変数の数字を××に」という数字管理をプレイヤーにやらせて、それによってイベントを管理するというシステムである。まんまコンピューターゲームのアレだ。
これが何しろ結構複雑なので、林先生のゲームブックはどうしても「一見ゆるいが中身は複雑」という印象をプレイヤーに与えるものとなっている。分かってしまえば何ということはないのだが。
戦闘については、基本「単なる攻撃力の比べっこ」というシンプルなルールなのだが、シンプルだけに序盤、まだティルトの攻撃力が低いときの戦闘はとにかくてこずる。中盤以降、仲間が増えたり魔法がそろってからは、逆に一気に楽になったりもするのだが。プルーグの彼が仲間になってくれてもうありがたいことありがたいこと。
また、ゲーム内に控えるいくつもの「パズル」があることも林先生ゲームブックの重要な味だろう。最後のユリの絵のアレなんかは林先生の真骨頂だと思うが、個人的には「バラバラになったチェス盤を元に戻す」という謎解きの記憶が濃い。あれを頭の中だけで組み立てることが出来たら相当なものだろう。私はイラストをコピーして切り出してしまった。
料理描写がとにかく美味そうというのも特筆すべきである。これは鈴木直人先生と双璧だ。単なる田舎村の定食に、ベーコンと豆の炒め物であるとか、火で炙ってバターを塗った黒パンであるとか、とにかく「まさにこの場面で食べるべきもの」という食べ物が要所要所で出てくる。ニフルハイムに行ってみたくなること請け合いである。
また、最終ダンジョンに挑むまでの「三つの大事なもの」であるとか、最終ダンジョンに突っ込んでからの凄まじい迷宮についても、「例によって」というべきなのだろう。これについては賛否両論あるが、私自身は「これでこそ林先生のゲームブック」と言う所感をもっている。ヤガーばあさんにはお世話になっております。
ドラゴンから助けたエスメレーにはちゃんとアンヌーンで服を買ってあげるんだ!しんざきとの約束です。
…というような、様々な「味わい」が1000パラグラフの中にところ狭しと並べられているのが、「ニフルハイムのユリ」というゲームブックなのである。
今日日なかなか手に入りにくいかも知れないが、遊んだことのない方は是非ご一読ありたい。損はさせません。「ウルフヘッドの誕生」でも可。
ちなみに、「ニフルハイムのユリ」ははっきりと「続き」を示唆されたゲームブックであり、サクソン人の魔術師とも勝負はついていないし、伏線も色々と残っている。「カボチャ男」がネバーランドの前の話であったことも含めて、是非「三作目」が読みたいなあと私は今でも思っている。
ということで、長くなったので今日はこの辺で。次回は多分半年以内には。