アファ大陸西部の山中、斧を片手に山をざくざくと切り崩していたワルキューレは、ある時泉に斧を落としてしまった。
すると不思議なことに、泉の中からたおやかな女神が現れ、こう言われた。
「ワルキューレよ、あなたが落としたのはこちらの使い古しのおのですか?それとも幾ら使っても壊れることのないこちらのパワーおのですか?」
「女神様」
ワルキューレは静かに答えて曰く、
「ぶっちゃけどちらも要らないので、むしろパワーロングソードを下さい」
〜レトロゲーム箴言集「富の国の歩き方」より一部抜粋〜
っつーかパワーおのは罠アイテムです女神様。
「サンドラの冒険」を最近久々にやったが、サンドラはつくづくワルキューレシリーズにおいて(出番の多さの割に)冷遇されていると思う。初代「冒険」なんか、ブラックサンドラがもう不憫で不憫で(レベル上げに大量殺戮)。サンドラはサンドラでアイテム扱いだし。
1986年という年は、コンシューマー業界におけるRPGの黎明期である。初期のFCのゲームは無論アクションとシューティングの寡占市場であって、FCオリジナルのRPGもまずは「アクションRPG」という形をとるのが必然の成り行きだった。
85年8月の「ドルアーガの塔」の発売を背景に、86年2月の「ゼルダの伝説」がこの路線を固めたことは論を俟たないだろう。3月の「ハイドライドスペシャル」5月に現れた非アクション型RPG「ドラゴンクエスト」を挟んで、8月に発売されたのがワルキューレである。
ナムコは割と頻繁にゲーム業界におけるオーパーツを輩出するメーカーだが、ワルキューレもその一種だったんじゃないかと私は思う。
このゲームは、この時期のFCタイトルとしては一種異様な「深さ」をもったゲームだった。ゲームの展開、武器やアイテム・術の豊富さ、ダンジョンの広大さから謎・隠し要素の多さや成長パターンの多さに至るまで、「冒険」は明らかに同世代のタイトルと比べて浮いている。浮きまくっている。
勿論ゲームは深けりゃいいってもんでもなく、ワルキューレはある程度のとっつきにくさや攻略のしにくさも抱えることになってしまった訳ではあるのだが、こと「詰め込まれた要素の多さ」という点に限って言えば、このゲームはゼルダを軽く超えていたかも知れない。
出る攻略本出る攻略本みんなデータがいい加減だったことや、後に業務用に「逆移植」されたことなども、その一つの現れである様にも思う。
「ワルキューレの冒険」。アクションRPG。1986年8月1日、ナムコより発売。ゾウナを倒して「時の鍵」を取り戻す為、主人公のワルキューレは剣を振り回してフルータジア全土を駆け回る。
当時はまだまだ少なかった「濃いストーリーとED」を持ったゲームでもあり、アクションの分かりやすさや成長要素、また壮大なBGMや富士宏氏が描くワルキューレのキャラクターなどもあって好評を博した。
後、ゲーム業界では比較的珍しいケースである「ファミコンから業務用への移植作」として、1989年に製作された「ワルキューレの伝説」もかなりのヒットを記録している。
まずは参照ページを挙げておくべきだろう。FC初期のゲームとはとても思えない程のこのゲームの深さについては、こちらのページを参照して頂ければ分かる。
「ワルキューレの冒険」最終黙示録
画面写真は下記のリンクで見られる。そういえばドルアーガオンラインって興味はあったんだけど一回もやってないな。いや、三国志大戦に忙しくて。
ワルキューレの冒険 時の鍵伝説
さて、ゲームの話に行こう。
・フルータジア千夜一夜。
このゲーム、ワルキューレの色を決めて星座を決めて血液型を決めて、いきなり始まりの国のど真ん中に放り出される訳だが、初めてプレイする人は大抵こう思ったのではなかろうか。
「えーと、何すりゃいいんだ?」と。
およそファミコン時代のゲームの醍醐味の一つは「説明不足」だと思うのだが、このゲームは「深さ」に比して説明不足の度合いが顕著である。勿論必要最低限のことは説明書に書いてあるのだが、最低限は飽くまで最低限であって、初心者はロングソードの在り処もレベル上げのセオリーもワープゾーンの使い方も知らない。
故に、このゲームを初めてやる人の行動は、ほぼ百発百中タッタを虐殺とかコアクマンを虐殺とかふらふらしてたらいきなり黒タッタが出てきて速攻ゲームオーバーとかの甘酸っぱい思い出になる訳だ。何もかもが懐かしい。っつーかスタート地点からちょっと上に行くと黒タッタが出てくるとか、あれは罠。マジ罠。
このゲームの一番「ナムコらしい」ところは、やっぱり敵に切りつける際の操作感や手応えであろうと思う。敵を倒すことが楽しい→お金を集めることが楽しい→経験値を溜めてレベルアップをするのが楽しい、という循環に、ごく自然にプレイヤーを導くことに成功している。
「敵に切りつけると敵が吹っ飛ぶ」というちょっとした動作の合理性から、薬の術を使った時や斧で木を切り倒した時の効果音まで、全てが「ゲームを気持ちよくプレイさせる」ことに繋がっている。操作感を起点にしたユーザー掌握。ナムコのお家芸というべきだろう。
やがて、プレイヤーは宿で二回くらいレベルアップを経験し、小気味のよいファンファーレと共に一回り強くなったワルキューレを見て「レベルアップの楽しみ」「経験値稼ぎの楽しみ」に目覚める。「ハイドライドスペシャル」や「ドラクエ」の先達こそあれ、ワルキューレも「育成ゲームとしてのRPG」の一つの草分けであることは間違いないだろう。
かくして、人は黒ソーチキスとかブラックサンドラを乱獲するという行動に走るわけなのである。
ただ、ゲームとしての「冒険」に文句をつけるとすれば、何箇所か「ちょっと待て、それはどうやったら分かるんだ」的な理不尽な攻略要素が存在したことだろう。端的に言うとサンドラのあれとかクジラのそれとかだが、難易度的にやばそうなものを普通にゲームに盛り込んでしまう辺りは、任天堂のバランス調整とはちょっと違ったところかも知れない。
・キャラゲーメーカーとしてのナムコ。
ところで、ファミコン業界で「ヒロイン萌え」というものを創出したのはほぼ間違いなくナムコである。 多分任天堂ではない。
1983年〜1985年で、ファミコンキャラクターとして「ヒロイン」候補だったキャラは、多分以下の様なリストにあらわせると思う。
○レディ(ドンキーコング/1983.7.15)
○カイ(ドルアーガの塔/1985.8.6)
○ピーチ姫(スーパーマリオブラザーズ/1985.9.13)
○クラリス(シティコネクション/1985.9.27)
○さくら姫(忍者じゃじゃ丸くん/1985.11.15)
まあ細かいことを言うとアーバンチャンピオンの勝者に抱きついてくるお姉さんとかナッツ&ミルクのヨーグルとかいるかも知れないが、まあその辺は流石においておこう。ヨーグルとか人外だし。
分かる人にはわかるだろうが、上記リストにラインナップされたヒロインズで、当時「ヒロイン」としてカルト的な人気を集めたのは「カイ」がファミコン史上初の存在だった。圧倒的だった。
ドルアーガの難易度とかゲーセン発祥のネットワークとかユーザーの年齢層とか、様々な理由が絡んでのことだったとは思うのだが、同じ「とらわれた姫君」であるピーチ姫の人気などとは全く異質のものがそこには存在したと考えていいだろう。コンシューマー業界におけるいわゆる「萌え」の元祖、カイ。たった数百ドットにこめられた怨念というか熱情というか、まさしく現在の家庭用美少女ゲームの源流の様なものが一筋、ナムコからは流れ出していたのである。
その路線を引き継いでというべきなのかどうか、ワルキューレもかなりの勢いでキャラゲーとしての人気が出た。主人公のワルキューレはもとより、脇役のサンドラや本来は雑魚キャラの一人であったコアクマン、果てはズールやタッタにまで人格が付与されて独立したキャラクターと化していった過程には特筆すべきものがあったと思う。特にコアクマンは「伝説」「ローザの冒険」に人気キャラクターとして出演している。
勿論「冒険」「伝説」のゲームの奥深さから来るものでもあったろうが、一つは背景に据えられた富士宏氏の美麗な世界観が、プレイヤーの想像力を刺激すること大であったからだろうとは思う。これも「ワンダーモモ」とか「わや姫」みたいなキャラを生み出しているナムコの一つの奥深さかも知れない。っつーか「ワルキューレの降誕」読まんと。
・音ゲーとしての「冒険」。
フィールドの音楽に尽きる。
以前「ハイドライドスペシャル」の項でも述べたが、私にとって幾つかのファミコンタイトルは音ゲーである。ゲームの効果音や音楽は私の脳みそに完全に刷り込まれている。
そんな中でも「冒険」の音楽はかなり高密度な音質でる。あのフィールドの壮大なメロディから宿屋のレベルアップに至るまで、そのメロディは私にとって圧倒的に印象深かった。後の「伝説」のスタッフロールで「冒険」のテーマがリフレインされた時のあの衝撃は今でも忘れられない。
ことのメインテーマとその存在感に関して言えば、「冒険」は間違いなく「ゼルダ」とタメを張るだろう。
斧で木を切る時の効果音が妙にリアルだったり、毒を受けた時の曲が笑えたりと、細かい音で小技を効かせる辺りも当時のナムコらしい。MIDIサイトなどでご一聴されるのもよかろうと思う。
さて、大概長くなったので、今回はこの辺りで項を閉じる。次回は少し後の時代に飛ぶ予定。
2006年09月25日

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何度もパスワード間違えて泣きそうになりました。
黒タッタは私もやられました(´Д`;)
それでは、失礼しました。
とかは言っちゃダメですか?
むしろ当時は、斧でどうやって山を切り崩しているのかに考えあぐねました。ラオウか。
>USHIZOさん
黒タッタにスタート直後ぬっ殺されるのは誰もが通る道です。
>napoさん
左右入れ替えでGO。パスワードネタは扱いに困ります。
>GOTYさん
あれ、どれに差し込んでもいいらしいですね。