まず最初に。元来が又聞きだからソースの保証は出来かねる。話半分ということで聞いて頂きたい。
最近話す機会のあった知り合いの編集者さんに、漫画雑誌のアンケートについてこんな話を聞いた。
「いや、なんつーか、アンケートで「インフレ叩き」みたいのが実際あるらしいんだよ」
「なんスかそれ?」
「漫画の展開で、ちょっとでも以前より強そうな相手が出てくると、最近はすぐアンケートで「インフレ展開だ」みたいな批判が必ず一定数来るんだと。それを編集の方も意識しちゃって、展開が縛られる部分があるとかって愚痴でさー」
ははあ、と思った。
先に断っておくが、この編集者さんはそもそも漫画雑誌の編集者さんではないし、著名な漫画雑誌を出版している出版社の人でもない。また、上の話も、特にどの雑誌、という話では全くない。この話をどの程度真に受けるかは、読む人の判断にお任せする。
その上で、あくまで例えばの話として、「週刊少年ジャンプ」の話をちょっと取り上げてみる。
まず第一回はアンケートのお話。
週刊少年ジャンプが掲載順や漫画の打ち切り・継続を決める際、アンケートの結果がかなり影響する、というのは取り敢えず有名な話である。本当なのかどうかは私は知らない。
数限りない出版物で同じ様なことは言えるのだが。
ジャンプのアンケート重視方針に何か問題があるとすれば、当たり前のことかも知れないが、「アンケートにわざわざ答える層と、その他大勢の読者のニーズは実はあんまり一致してない」ということだろう。もうちょっと正確に言うと、「アンケートにわざわざ答える人と答えない人の分布は読者層によって全く異なり、読者層の偏りをきちんと把握していないとアンケートの結果には意味がない」ということになる。
例えばの話、アンケートに答えてくれる程のコアな読者・あるいは手間を惜しまない少年ズの様な人々がメインの読者層なのであれば、アンケートの結果は有意である。
逆に、アンケートに答える手間をいちいちかけない人がメインの読者層であり、しかもそれが「アンケートに答える層」と好みを全く違えていたとすれば、アンケートの結果は有意どころか有害である。
いや、編集部は勿論承知なんだろうと思う、というか思いたいのだが、私がゴーストライター時代に知ったその他2,3のケースでは、必ずしもこの当然の事実は認知されていなかった。集英社だけを見て表面上のアンケート制度を真似しても、アンケートで集まる内容が売り上げ向上に結びつかないのだ。読者の反応を読み取り損ねて売り上げを落とす例が、出版業界には多分星の数ほどある。
つまり、「自分の元に届く読者の声を意識する余り、間違った方向に舵取りしちゃって失敗しましたよ」という例は、実はしばしばあるのである。
週刊少年ジャンプに関しては、最近面白いとか面白くないとか、様々な意見がある。面白い面白くないは人によって全く異なるので、まあここで論じるのはやめておこう。単行本の売り上げが好調なのは結構なことだ。
ただ、仮にジャンプのアンケート重視方針が本当で、アンケートの傾向がジャンプの舵取りに影響しているとすれば、果たしてアンケートの内容が「見えない大勢の読者層」とちゃんと一致してんのかな、という心配が当然生じる。
そして、更にもう一つ付け加えるとするならば、「面白かったよ」というアンケートよりも、「ここがつまらない」というアンケートの方が、編集者にとっては「強い」ものなのだ。そして、「面白い」と感じた時よりも「つまらない」と感じた時の方が、アンケートを書く意欲を高められたりする人は、いつの世にも必ず存在する。どんな雑誌にも百発百中、こういう読者さんはいる。
特定の雑誌の話をする気はないが、例えばありそうな「怖いケース」としてこんなシナリオをシミュレートすることが可能だ。
ある特定の作品に、今までと違った非常に熱心なファン層がつく→非常に熱心なファン層、せっせとアンケート葉書を送る→編集部、そのファン層に受けそうな漫画を載せようとする→段々雑誌自体の方向性が変わってくる→以前からのファン、愛想をつかして買わなくなる→売り上げ落ちる→熱心なファンがついていた作家さんまで打ち切られる→熱心なファン層離れる→カタストロフ
きゃー怖い。
いわゆるCRMというヤツは、分析に失敗するとその時点でデータとして使い物にならなくなる。読者の声は貴重だが、雑誌を作る側の人間は、「読者の好みはものすげえ自分本位」(当然だが)ということを常に頭においておく必要がある。この辺、編集者の人って大変ですよねうんうん、という感想を私はもったわけだ。繰り返すが、特定の雑誌の話をしている訳ではない。
と、今回はなにやら長くなりそうなのでちょっとシリーズ化してみて、ここまでで一旦区切る。次回は、少年漫画における「インフレ」のお話。
(追記 10/11)-----------------------------------------------
続き書きました。こちら。
2006年10月05日

この記事へのトラックバック
面白くなったかそうでないかは別にして、
明らかに後ろのほうの作品でも、ここ5,6年は結構延命する印象だねぇ。
ちょうどジャンプ全盛のころの元編集長が書いた本を読んだ人は結構多いと思うが、
少なくとも当時はアンケートの力は絶大だったようだが。
週刊少年誌は中学校2年生くらいを標的にするとも書いてあった。
強い連載作品があると、読者層と一緒に作品も年が上がっちゃうのかね。
ちなみに欲しい懸賞があるとアンケートにこたえてたクチです。
最近のジャンプも結構面白い漫画あると思いますけどね。
ちなみにこっそりぶっちゃけると、インフレ云々の件はアイ○ール○のことだそうです。
>読者層と一緒に作品も年が上がっちゃうのかね。
それはあるでしょうねー。あと、読者層にも大人のお姉さんが増えたりとか。
あれ結構好きですよ。
絵がキレイで。
某ハギ○ラ氏みたいに女の子の絵が強調されないし。
最初興味なかったが最近読みますね。
大人のお姉さんて、広義での腐女子の皆さんってことですかお兄さん!
私も結構読んでますよ、あの漫画。絵の見せ方がさり気にすげー上手い気がする。
ただ、アレなんです。世の中には妙なことで文句をつけたがる人がいるもんなんです。そして、困ったことにそーゆー人の方が声が大きいんです。困ったもんだ。
>大人のお姉さんて、広義での腐女子の皆さんってことですかお兄さん!
なんのことやらさっぱりっ。
一度エントリアップ直後に読んだのですが、久しぶりにコメントを見てみたら、アイ○ール○についての話だとあってビックリしました。自分はアイ○ール○が好きで、考察もやっているのですが、インフレという意見が多く聞かれて少し哀しく思っています。
そもそもトーナメントでは「勝つ」=「強い」が必ずしも成立するとは言えず、バトル物とスポーツでは強さの定義が違うような気がするのですが。
次回の「インフレ」のお話も楽しみにしております。
コメントありがとうございます。
私はアイ○ール○がインフレだとはぜーーんぜん思わないんですが、どうも出版社の側も読者の側も、下手すると作者の側まで、「インフレ」という言葉に神経過敏になっている様に思います。その一面がアンケートなのかと。
この辺また書きますね。
大きな会社だったら読者アンケートは編集部がちゃんとそういうことを割り引いて考えるようにしていそうだし、今だと構図は同じで作者がネットの反響を気にしすぎるということの方が影響大きいかも。
でもジャンプだと声の届きやすい読者の声を聞きすぎてダメになったと思われる実例って武装連金ぐらいしか知らないし。気にせずインフレしまくってるマンガの方が多いのでそこまでの影響はなさそうに思えます。
ネットの反響については確かに色々あるみたいですね。編集部が規制する訳にもいかないし。
ただ、読者アンケートに関しては、作者への影響はともかく編集者への心理的影響が少なくないみたいです。やっぱ、展開に関しては編集者さんも強い影響力をもってますしね。
なんといーますか、一部のタイトルに関して、少年漫画的方向にもってきたくない層というものがあるみたいです。
本当にインフレなのは無理な展開で主人公が超人化するワンピース(ギア2?なにそれ?)とか
ナルト(経験値?なにそれ?)だと思う。それと
元々はそんな内容じゃなかったのに楽だからって途中からバトルマンガになるケースね(ボーボボとか)。
>アイシールドは元々がトーナメントを勝ち抜くスポーツのマンガなんだから全然問題無いと思うけどな。
というか、本来スポーツ漫画に「インフレ」という言葉は当てはまらないと思うんですが、そう考えない層が一定数いてアンケートをこつこつと出している、と。どんな層かはお察しください。
>元々はそんな内容じゃなかったのに楽だからって途中からバトルマンガになるケースね(ボーボボとか)。
ジャンプの場合は極端に多いケースですね。