ひとことで言うと、インフレインフレってあんまり騒ぐのやめた方がいいんじゃね、というお話。すいません長いっす。
その一の続き。前回のエントリーでは、某雑誌での最近のアンケートの傾向というものを奥歯にものが挟まった様な言い方でお届けした。
要は、
・少年漫画においてちょっとでも敵が強くなっていく傾向が見えると、即座に「インフレ展開だ!」とアンケートを送ってくる層が存在するらしい
・ある程度以上まとまった量のアンケートが漫画に及ぼす影響は、実は思った以上に強い(編集さんと作家さんにもよるが)
・「アンケートをわざわざ送る層」の好みというのは、サイレントマジョリティーの好みとは異なる可能性が多分にある
・困るんじゃね?
と、前回のエントリーをまとめるとこうなる。漫画誌の編集者さん大変ですね、というお話だった訳だ。
ブログにも通じる話だと思うが、編集者さんや作家さんの心には、一般的に「賛辞」よりも「非難、批判」の方が強く残る。賛辞にはすぐ慣れるが批判に過敏反応する、という人は多い。これが何故か、という考察はまたにする。(いきなり余談だが、「プラネテス」の幸村誠さんとかこの傾向が強い気がする)
その為、「面白い」という声を発する人よりも「つまらない」という声を発する人の方が強い影響力をもつ例はままあるのだ。
「読者の声」の管理方法は出版社さんによって様々なんで、アンケートやファンレターがそのままの形で作家さんの手元にいくケースはむしろ少ないかも知れないが(特に新人作家さんの場合)、それでもこのご時勢、読者の声は結構ダイレクトに作家に届く。
ということで、今回は少年漫画における「インフレ」というもの自体についてちょっと考えてみる。
・少年漫画におけるインフレ経済学。
そもそも漫画でインフレって何よ、という話。まずは軽くおさらいしておこう。
「インフレ」という言葉自体の淵源はドラゴンボールじゃなくてキン肉マンにあるんだろうと思う。多分。
要するに、
・少年漫画において、「強い敵が出てくる→張り倒す→もっと強い敵が出てくる・・・」などの展開で、強さレートが青天井に上がっていく現象
を「インフレ展開」と呼ぶのであり、この場合の「強さレート」というのは「超人強度」だったりとか「戦闘力」だったりした訳だ。インフレ対象は、古くは1000万パワーズであり、べジータであり、仙水や躯であった。(注:キン肉マンに関しては、いわゆる「強さインフレ展開」にはあてはまらないと思うが、一応語源の一つとして挙げた)
少年漫画において、「次から次へと強い敵が出てくる」展開は古くから存在したと思う。少年漫画の基本は「主人公が強くなること」「勝利すること」である為、敵がどんどん強くなること自体はごく自然なことなのだ。
それに対し、「明確な数値で敵の強さを表現する」という表現手法がすごくマッチしていたが為に、一時期同じ様な展開が多発し、がんがん戦闘力が上がっていったことを示して「インフレ」という言葉が使われていった、というのがこの言葉の根っこだと思う。いや、確認した訳じゃないが。
・で、インフレは何故批判されるのか。
多分原因は、「展開の単調さ」及び「漫画としての表現力不足」にあるんだろう、と思う。
「戦闘力」の話が上で出た。なんで「インフレ」って言葉が根付く程これ系の言葉が乱射されたかというと、要は「戦闘力」が表現上便利だったからだ。「すごい強さ」を表現するにあたって、明確な物差し無しでは作家さんはエラい苦労を強いられる。少年漫画の展開上、敵はだんだん強くなっていく必要があるのに、「強さ」を表現する方法をひねり出すにはかなりの構想力がいる。
鳥山先生が何かのインタビューで「フリーザより強いやつは描けませんよ」と言った、とかいう話をネットのどこかで読んだ覚えがあるんだが、どこだっけ。フリーザじゃなくてべジータだったかな。ぱっと検索したけど出てこなかった。まあいいや。
といっても勿論、鳥山先生には「戦闘力というインフレ指針を取り入れた上で」十分なパワーをもった漫画を描く力があった訳だが(だからこそ「戦闘力」系の指針が流行った訳だし)、漫画家さん皆が皆そういう訳でもなく。
ともあれ、「なんかすごく強い」というのを表現するのに、例えば「巫力」とか「○○パワー」みたいな数字は凄く便利だった訳であり、絵で強さを表現しなくても数字だけ出しとけばいいから楽、的な使い方を読者が感じてしまった一面はあるのだろう。数字と数字のぶつかり合いで展開が単調、というのも良く言われる話だ。
以上がおさらい。話はここからだ。
・で、それはホントに「インフレ展開」なのか。
思うに、ドラゴンボールの残照が強過ぎた。
ドラゴンボールの、「強い敵が出てくる→修行する→張ったおす」というスパイラル展開は、余りにジャンプ少年漫画の「友情、努力、勝利」モデルに合致し過ぎていたのだ、と思う。
ドラゴンボール以降しばらくの間、インフレ展開は漫画業界にしばしば見られ、読者には「表現力不足、単調、インフレ展開つまんね」という意識が蔓延してしまったのである。
この意識は、格闘もののみにとどまらず、ファンタジーものやスポーツものにまで拡大してしまった。本来、批判の主体は「表現力不足」「単調」である筈だったのに、矛先が「展開」の方に向いてしまったのである。
問題はここだ。
つまり、「強い敵が次々登場」の構造自体は少年漫画に良く合致するモデルだったのに、そこから無条件にインフレが連想される土壌がある程度出来てしまった一面がある様に思うのだ。その結果が例えば前回の「アンケート」である、様な気がする。
作家さんの心境の方にも勿論問題はある。順々に敵が強くなっていくという展開が「ありきたり」である、という強迫観念みたいなものがもしあったとすれば、ありきたりでない展開を考えなくてはいけない。
当然展開を捻ってありきたりなものではなくそうとする訳だが、捻った展開を描くのは勿論難しい。本来少年漫画の資質をもっている漫画家さんが、力を発揮出来ない方向を自分で選んでしまうのだ。世の漫画家さん、皆が皆「レベルE」を描けるというもんではない。
届く声の中で「(ありきたりの展開を嫌う、という)架空の読者層」にとらわれて展開を捻ってしまって、本来の「少年」層をおいてけぼりにしてしまう、というトラップに陥る漫画家さんは実は結構いるらしい。本末転倒である。
結果として、読者の声の届き方と作家さんの心境によっては「良き」少年漫画が駆逐されかねない、という非常に困った状態になってしまっている様に私は思うんである。
ということで今回のまとめ。
・本来、「表現力不足」「展開の単調さ」という話が伴わなければ、「敵が強くなっていく」モデルに問題はない気がする。
・作家さんの元に「インフレイクナイ!」みたいな声がそっこー届くのは、あんまりいいことではない様な気がする。
・あのー、私には良く分からないんですが、アイシールドの白秋とか王城ってアレ「インフレ」なんですか?いや、作品が面白いかどうかは好みによるんだろうけどさ。
あんまりぶっちゃけるとあとで私が怒られそうな気がするので今回はこれくらいにしておこう。
関係ないが、某テニスラケットで王子様が暴れる漫画も、最初の頃はもうちょっと少年漫画してた様な気がする。今の方がいいのかどうかは知らんけど、あれどうして方向性変わったんだろうな。
と、アンケートについては他にも掘り下げてみると面白そうな話があるので、またその内書くかも。
2006年10月11日
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展開では新鮮さが感じられない、
という面は、たしかに。
あと、すごくおおざっぱな印象としては
日本の社会全体として経済の成長神話が
崩れてデフレが基調になってる時代に
いまいちインフレ展開が説得力を持たなく
なってたりっていう説はどうでしょうか。
昨日より今日の方が実際豊かになってるなあという
実感があった時代に比べて。
フリーザは逆立ちしてもブウに勝てなさそうだけど
DIOと吉良吉影だったら勝負は時の運。
そんな感じならいいってことっすかね?
ネタ不足に起因する安易なインフレ展開は困りますが、いつまでもヤムチャがライバルじゃ話が膨らまないのも事実ですw
最近ではワンピースが戦闘力数値を記載したこともありました。ただ、アンケートか編集部の自粛か現在では恐らく「無かった」事になっています。
私個人も安易な困ったらバトル・戦闘力表記には疑問を感じますが、「友情・努力・勝利」の基本コンセプトを貫く以上は何らかの形で強敵に勝利する必要があります。
結局ある程度のインフレはせざるを得ない、というより最初の構想で「ここまで強くする」と作者なり編集なりで決めておけば無茶なインフレも起こらないのでは、と思った辺りで
アンケート好評で続行
↓
構想外だけど後付けでライバルなり強敵出す
↓
作者困る
なんだよなー。と一読者ながら作り手に同情してしまいましたorz
長くてスイマセン。続きます
実感できる範囲でどれだけ無茶ができるか
ではないでしょうか。基本は「殴られたら痛い」で、読者にコリャ痛い。なんて強そうなんだと想像してもらう事が重要です。
これには大別して2通りの手法があるように思います。一定以上の評価を受けたジャンプ作品に限定すると
・肉体、直接的なものを前面に出した強い表現例
原哲夫作品(北斗、花の慶次など)
魁!男塾
ブリーチ
るろうに剣心
・内面、精神的なものを前面に出した強い表現例
デスノート
ヒカルの碁
シティハンター
厳密には両方兼ね備えてるものが多いので(ジョジョの奇妙な冒険、ゴルゴ13など)、細かいツッコミはご容赦の程を・・・
続きます
「MAR」のようにやたら淡白になり漫画として非常に味気なくなるという本末転倒な事例もありますので、ベタな強さ表現は容認、むしろ活用すべきだと思います。流石にやりすぎて実感が伴わないレベルになるとアレですが。
(惑星をエネルギー波1発で壊すよりロードローラーに追突されるほうが痛そうでしょ?)
あくまで私見ですが「D.Gray-man」あたりも主人公の強化を納得させる為の表現、エピソードが希薄かつ抽象的なため少年読者層には物足りない印章を与えている気がします。
あとアイシールドに関しては
少年漫画的な展開としてはあんなもんだと思いますが、間接的に戦闘力表記した(注1)ことで過敏な反応が出てきた・及びアンケートが好評で長期連載が規定路線として、この先の展開の道程の長さが予想されるために今からそんな極端に強敵だして大丈夫なの?(注2)て心配からくる批判じゃないのかなと思っています。
つまり真剣に批判している人達は先の先まで憂慮している本当にアイシルが大好きなファンなのでしょう。
好意あまってつい激しく批判してしまう・・・なにこのツンデレ理論w
(注1)
どうよこのベンチプレス160kgなウチの戦力の頼もしさは!
↓
なら俺のところは200kgだお前らより遥かにパワフルだ雑魚め
を短期間でやらかした
(注2)
現在本作で行われているのは「まだ関東大会」なのです。
この後は全国大会で1回戦から現大会より強いのがホイホイ量産されることは想像に難くありません。
もしその後も続行となるとまた、アメフトの本場USAで大会なんてこともありえます。そして日本一クラスが雑魚扱いと。途中で出てきたUSAの学生チームはこの伏線と睨んでますが(苦笑
駄文長文失礼しましたm(__)m
>まあアレださん
クリスマスボウルは関東王者と関西王者による全国一を決める戦いでして、全国大会にあたる物はありません。つまり関東大会決勝の次がクリスマスボウルです。ですからこの後は最大でも3試合しかありません。原作でもその事は書かれてあったのですが、読者はそんな細かい事まで覚えていられませんし、マイナースポーツだけに知られていないようです。
>いまいちインフレ展開が説得力を持たなく
>なってたりっていう説はどうでしょうか。
どうなんでしょう。漫画を読む人々が日本の経済にまで思いを致しているかどーかというのには割と学術的な興味をそそられますが。
ただ、景気は「ずっと回復局面」みたいですね。なんか。
>Zhao師
>DIOと吉良吉影だったら勝負は時の運。
まあ荒木先生が描く展開は確かに神だと思うが、実際のところその二人ならDIOが勝つんじゃね?
カーズ様最強ってことになると困りますが。
>まあアレださん
コメントありがとうございます。
>ただ、アンケートか編集部の自粛か現在では恐らく「無かった」事になっています。
多分アンケートです。
>結局ある程度のインフレはせざるを得ない、
うーん、そもそも「インフレ」って言葉を使わない方がいいんじゃないかと思ったりするんですが、どんなもんでしょうね。「敵の高度成長」とか。違うか。
>では数字に頼らない強さの表現とは?となると
描き方は色々あるとは思うんですよ。強さのぶつかり合いで単調な展開、となるとどうしても戦いも単調になる訳で。じゃあ戦いそのものに色々工夫してみるべ、というのがJOJOとか富樫さんのスタンスかと。
>間接的に戦闘力表記した(注1)ことで過敏な反応が出てきた
何か、それはあったみたいですね。
>あんぴさん
>ですからこの後は最大でも3試合しかありません。
多分その辺、ちゃんと展開を追えてる読者の方が少ない気が。
でもそういえば、関西大会の話ってあんまり出てないですね?
情報提供、ありがとうございます。
関西のチームに関しては、どこかで伏線が出るのかなーと思っているのですが、どうでしょうね。あんまり読者に意識させる描き方をしてないような。
冨樫氏はカリスマ性の描写が抜群に上手いですし、ハンタでは意図的にインフレを抑えていたためか護衛隊の底の知れない存在として映りました(ユピーの爆発シーンは凄まじい迫力でした)。
一方で久保氏はバトル描写にほとんど変化がなく、インフレは強まる一方なのにキャラは妙に小物が多いですし。
多分なんですけど、久保先生って本来の性向がバトルものにはないんじゃないかって気がします(まあ富樫先生もある意味そうなんですが)。
BLEACHって始めの頃の方が楽しく描いてる様に見えたんだけどなあ。どうなんでしょ。
久保氏は作画には結構迫力がありますけどね。初期と作風が変わってしまったのは確かですが、ドラマもそれほど上手いとは思えないことがよくあります。セリフのわざとらしさや説得力の無さは初期から感じていました。
>セリフのわざとらしさや説得力の無さは初期から感じていました。
あー、上手いか上手くないかはあまり考えていませんでした。
台詞回しとかについてはある程度経験が解決する部分だろうとは思うんですけど、ZOMBIEPOWDERの前も何作かやってたんでしたっけ?