私がのんきにレトロゲームで遊んでいる間に、世の中は賑やかに移り変わっている様だ。浦島太郎になる日も近い。
先日の記事の関連エントリなどつらつらと覗いて回っていると、面白いやりとりを見つけた。ちょっと長いが経緯を追ってみよう。
メディアはマッサージである(池田信夫 blog様)
『死ぬ死ぬ詐欺』 を 『死ね死ね詐欺』 と言い換えないでください(シム宇宙の内側にて様)
またなにやら2ちゃんねるが遡上に上がっているが、池田氏は過去のエントリなども拝読するに基本的には2ちゃんねるをよく思われていない方。レスの抽出の仕方などを見るに、fw0氏はおそらく日常的にある程度2ちゃんを使っておられる方だろう。
前者エントリにおいて、池田氏はこう書かれている。
同じ傾向は、2ちゃんねるなどの匿名掲示板にも見られる。たとえば「死ぬ死ぬ詐欺」のスレでは同じ内容の攻撃的な言葉が繰り返され、それを制止する意見は出てこない。経済板では「構造改革よりリフレだ」といった意見ばかり集まり、論争が成り立たない。
コメント欄をみたところ、このエントリーが書かれた時点では、池田氏は「死ぬ死ぬ詐欺」の部分を「死ね死ね詐欺」と誤記されていた様だ。私はそれについては確認していないし、別段気にもならない。
これに対して、fw0氏は2ちゃん書き込みの事例を非常に細かく挙げて、こう反論されている。
言うまでもないことですが、2ちゃんねらーは決して一枚岩ではありません。『「死ね死ね詐欺」 のスレ』 などと、スレ単位で一括して批判するのはやめていただけませんか?
それに対する池田氏の反応(一応Web魚拓採取済み)。
「『死ぬ死ぬ詐欺』 を 『死ね死ね詐欺』と言い換えないでください」とかいう記事からTBの要求が来たが、拒否しました。この記事のタイムスタンプは「2007-01-06 Sat 02:13」。当該の記述は「2007-01-05 23:35」に訂正したので、これは当ブログをちゃんと読まないで書いたナンセンスないいがかりです。
なるほど。
fw0氏のエントリの内容は誤記に関することばかりでもないし、2時間半のタイムラグで「当ブログをちゃんと読まないで書いた」と断定するのは少々厳しい気もするが、まあ運営方針は人それぞれだ(ちなみに、これを指摘した内容をコメント欄に投稿してみた。掲載されるかどうかは知らない)。
もう少し当て推量するならば、エントリを読む限り、おそらく池田氏は2ちゃんに触れた部分を記事の本筋とはお考えでなかったのだろう。「ついでに批判」というとアレだが、少なくとも本筋としての書き方はされていない。本筋でもなんでもない部分にやたら細かく噛み付かれて困惑、という様な意識はおそらくおありだったのではなかろうか。いや、推量だが。
ここから一般論。上の話からは一旦離れて読んで頂きたい。
前回は「情報ソースに対する編集・隠匿と引用・明示の差異」というアングルからWebと商業メディアそれぞれのロジックを対比してみたが、もう一個あった。「総括を許容するか、許容しないか」の差である。
メディアの文法というのは、要するに一括にまとめる文法である。新聞や週刊誌で、「こういう考え方もあるけど、でもこういう意見もあるし」という様なまとめ方をすると、まあジャンルにもよるが、普通は怒られる。「何が言いたいか分からん、どっちかにまとめて結論を書け」と言われる。大体言われる。
当たり前っちゃあ当たり前の話で、「結論」がない論説はそもそも商売ものにはならないのだ。要約出来ない文章は分かりにくいし、結論がない文章は読みにくい。ブログならまだしも、売り物になる文章を書く人にとって、話をある程度まとめて分かり易くする技術は必要不可欠である。
この延長として、「論じたい対象をある程度一括に評価する」のもメディアの文法の内に含まれる。人間十人いれば考え方は十通りあるに決まっているが、いちいちそんなことを考慮に入れていては記事は書けない。ある団体を一括して論評する時、「その団体の中の様々な考え方」などいちいち挙げていては一生かかっても記事は完成しない。
便宜上、「色んなヤツがいるね」という文法を「拡散させる文法」、「十把一絡げ」という文法を「一括する文法」と取り敢えず呼んでみることにする(ちなみに、今は取り上げないが、「一括する文法」に対して「拡散させる文法」をメディアが使うことも当然あるし、Webの人が使う場合も当然ある)。
一言で言ってしまうと、商業メディアが「2ちゃんねるの様々な板、様々な意見」などとゆーものをいちいち取り上げることは多分あり得ない。2ちゃんねるは「一括される対象」である。一括した際に得られる「分かりやすさ」が、その他団体に比べても非常に大きいからだ。
誰が出入りしているか分からぬ、ネット上の謎の匿名巨大集団。これが「色んな考え方の人が色んなお話をしてますよ」などというものだったら、商業メディアは批判する対象や根拠を見失ってしまう。「クズばっかりじゃないよ」という発言はなにしろ責任の所在を拡散させる。分かりにくいし、何より読者にも受けない。
もっと言ってしまうと、2ちゃんねるは「クズの集団」であった方が商業メディアからすれば都合がいい。
それに対して、「総括される側」は反発する。これは別にWebや2ちゃんねるに限った話ではない。若年者の殺人事件のニュースを見て、「最近の若い者は」という言い方をされれば、若い人は誰でもイラっとするだろう。いつの時代も同じことだ。
ただ、Webのロジックに慣れ親しんだ人というのは、「総括に対する反発」というものを時折非常に激しく表現する様に思う。その一つの例として私はfw0氏のエントリーを挙げたのだが、おそらく根っこは前回挙げた「ソースの明示」や「引用の厳密さ」辺りにあるのではあるまいか。fw0氏の反論の仕方はまさに「反証」であって、この様なソースがあるからあなたの発言はおかしい、という論理である。
言っては何だが、この方法は大体において、古今東西あらゆるメディアに無視される。商業メディアが何かを「一括」する場合、様々な反証というか例外が存在するのは大抵の場合「承知の上」だからだ。「様々な意見」をいちいち考慮しては記事が完成しない。スカラーはベクトルでなくてはならない。これが、一般的な商業メディアのロジックであり、大抵の新人記者が練習をさせられる記法でもある。というか、昔私も練習した。
私の頭の中にはこの「一括と反証、そして無視」という構図があったので、冒頭で引用した池田氏のブログでのやり取りが、まるでこの縮図の様に見えた、という訳なのである。いや、別に池田氏を既存メディアの側の象徴としてみている訳ではない。ただまあ、過去の記事を拝見する限り、ある程度「メディアの文法」に親しんでいる人だろう、とは思う。つまり、週刊誌だとか新聞だとか、商業メディアに載せても違和感のない文章を書かれる。「一括」や「総括」といった文法には慣れ親しんでおられる様にも見える。2ちゃんを「一括」するのも、多分池田氏にしてみれば自然な文法なのだろう。
公平を期する為に補足しておくと、当然のことながら、私もこの「一括する文法」をさっきから「メディア」とか「商業メディア」という形で盛んに使用している。ブログを書く人だって当然何かを総括するだろう。更に更に言うと、2ちゃんねる辺りを見る限り、2ちゃんねるによく書き込むヒトビトもこの「一括する文法」を使用することはよくある様だ(特に韓国とか中国絡みでよく見る。勿論朝日や毎日も含まれる)。ことは全て記法の問題であり、「誰の側に立って物を見るか」の問題でもあり、細かく追っていけばそれこそ話をまとめることは不可能である。
ただ、その上で、「Web」と「商業メディア」という対比で今回の騒動を検討してみると、「一括しようとする文法が非常に強い」商業メディアと、「拡散させようとする文法がどちらかというと強い」Web、ちなみに総括自体はお互い様です、という様な形に私には見えてくる訳なのである。Webというかこの場合2ちゃんだが、この二つの間で果たして話が通じるのかというと、うーむ、というか。今まではそもそもインターフェイスが存在しなかったからそんなことは考えなくて良かったのだが。
最後に私自身の立ち位置を明確にしておくと、前回のエントリーでも書いた通り、私はこの募金問題と「死ぬ死ぬ詐欺」云々には踏み込むつもりはない。というか、この問題自体にあんまり興味がない。毎日新聞が特集するまでは経緯も追っかけていなかった。
募金をする人には当然事情があるんだろうし、2ちゃんねるで募金関連の批判をしていた人にもそれなりの論拠はあるんだろうし、それが既存メディアや既存メディアの文法に親しんだ人に取り上げられることもないだろう。こういった、いわゆる「人道」とか「人権」が絡む問題に関して、この二者の話が噛み合うことは多分永遠にない。しかしそれ以上に、この二者の間には、「文法」「言語」とでも呼べるレベルにおいて、あまりにも大きな隔たりがある。
(追記 07.01.07 00:45)-------------------------------------------
大事なことを書き忘れていた。
上の話で、総括を許容する側と許容しない側、という対比をしている。
当然といえば当然なのだが、大抵の商業メディアは総括を許容する。というか、大抵のメディアは自分達を総称として扱い、「毎日の中にも色々な考えをするものがおりましてー」などと言う主張は公では基本的にされない(たまーーに例外があるが)。メディアのスタンス(というか建前)としては、メディアは思想を報道に交えない、ということになっている為である。
ところが一方、2ちゃんを総括すると反論や反発がすごいなー、と。
これを外すと対比が不完全なので、一応前提として補記。
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追記その2 (07.01.08 12:57)
池田氏のブログに、現時点で私のコメントは反映されていない。
別の方のコメントが載っているということは、どうも私のコメントは不掲載ということにあいなった様だが、どの辺のポリシーに触れたのだろう。このエントリーのTBを受け付けておいてコメントは載せない、というのはいまいち首を傾げるところではある。