2005年05月13日

レトロゲーム万里を往く その30〜ゲームブック レトロゲームの奇妙な隣人〜

今回ばっかりは観念して、まずは潔く昔語りから始めなくてはならないだろう。皆さん、うち実はレトロゲームブログなんですよ、知ってましたか?

最初に言っておかなくてはならないのだが、ゲームブックは位置的には極めてマニアックというか、サブカル感溢れる文化である。一般的な社会人同士がレトロゲームの話題で盛り上がることは稀にあっても、ソーサリーだのウルフヘッドだのの話題で盛り上がることは哀しいことにまずあるまい。リアル知り合いの人はこの話題で私を苛めたりしない様に。
ゲームブックとは一体ナニモンか。前回のエントリーでもちらっと触れたが、要は「サウンドノベルを本でやった様なモン」というのが説明するには一番早い。大抵のゲームブックの場合、主人公は読み手である「あなた」である。「あなた」が色々な場面に遭遇して、そこで好きな行動を読者が選ぶ。で、どの行動を選んだら何ページに飛べとかの指示があって、その通りに進んでいくと様々に話が展開する。

殆どのゲームブックでは戦闘もあり、RPGの様に設定された「自分のステータス」「相手のステータス」を元に本の中の敵と戦う訳だ。戦う手段はサイコロである。例えば自分の「攻撃力」が6で、相手の「防御力」が12の場合、サイコロ二つ振って6以上がでたら攻撃成功、とか例えてみるとそんな仕組みだ。

この「サイコロ」という要素から類推して頂ける方もいるだろうと思うが、ゲームブックの直接的な先祖は「テーブルトークRPG」であった筈である。もっと言ってしまうと、「ダンジョンズ&ドラゴンズ」というRPGを一人用の本にしてしまえ、という試みが初代ゲームブックである「火吹山の魔法使い(S・ジャクソン)」であった筈だ。つまり、レトロゲームのRPGと根っこは同じである。本とコンピュータという二つの媒体に分かれた兄弟であると言ってもいい。

この辺り、ゲームブック自体に関する歴史については、Wikipediaに実に実に詳しい解説があるので、興味がある方はご詳読頂ければと思う。というか、上の段まで書いた時点でWikipediaをGoogle検索に引っ掛けて、これ以上解説する気力を失った。人は辞典サイトの前に無力である。

で、Wikipediaでも触れられているが、日本においてのゲームブックは「社会思想社」で着火し、「東京創元社」で一気に盛り上がったと言っていい。社会思想社は一貫して海外のゲームブックの翻訳出版を続けた(特に、ゲームブックの第一人者であるS・ジャクソンの手による「タイタン」世界のタイトルが多かった)のに対し、東京創元社のゲームブックには日本人の著作が徐々に取り入れられ始め、これが日本人の感性に合致した訳だ。以降後追いの出版社(双葉社とか)が様々なゲームブックを量産し始める中、創元は国内・国外含め安定した作品を供給し始めた。これらゲームブックを愛好した人の中には、ゲームブックを手始めにテーブルトークに入っていった人もいたらしい。まあ、テーブルトークに関してもその内俎上に上げることもあろう。

以上でくだくだしい歴史の時間終了。話はこれからだ。

「ドルアーガ三部作」の第一作「悪魔に魅せられし者」は、1986年に東京創元社から発売された。満を持して、の発売だったのだろう。時期的にはほぼファミコン版の発売と一致しており、コラボ的な狙いもあったのだと思う。

ゲームブック化されたファミコンのゲームは数多くあるが、ドルアーガは多分その中でもトップクラスに「ゲームブック向き」な素材であった。理由はいくつかある。

・アイテムや敵の存在が豊富であり、RPGとしての雰囲気を作りやすい
・元になるストーリーが基本的、かつシンプルであり、話を掘り下げやすい
・「60階」という明確なステージ数があり、ゲームとしての展開が分かりやすい

多分大きいものは二番ではあるまいか。

ゲームのノベライズというものは数多くあるが、飽くまで私の好みとしては、ある時期からあまりゲームノベルに興味を感じなくなった。何でかというと話は簡単で、「ゲームの時点で十分話が完結してるもの」が多くなってきたからだ。

ノベライズを手にとる理由というのは、大抵の場合「ゲームの物語だけでは物足りない」という動機によると思う。ゲーム内で語られている内容を更に掘り下げて読みたいからノベライズが売れる訳で、そーゆー意味では「ゲーム中で語られていない内容」は多ければ多い程いい。この点、レトロゲームは「世界観はちゃんとあるんだけどゲームでは全然表現されてませんよ」というゲームがかなり多く、現代のゲームを遥かに凌ぐ「ノベル向き」のタイトルも少なくなかった。勿論ものにもよるのだが。

ドルアーガなんかはまさにコレで、ギルにせよドルアーガにせよ、ゲームでは単なるスプライトに過ぎなかったのだが、背景を膨らませる余地は十二分に存在した。なにしろ箱は伝説級の人気ゲームなのである。舞台に不足のあろう筈がない。かくして「ドルアーガの塔」は、作者である鈴木直人氏の文章力もあいまって、ゲームと合致しつつ、全くゲームとは異なる世界に整形されていったのだ。

小説の命は、言うまでもなくキャラである。キャラがいて、キャラ同士の会話があって、キャラが活躍して、初めて本が面白くなる。鈴木氏は、この「キャラ立て」が実に実にうまかった。ゲームに元々存在するキャラも、ゲームには存在しなかったオリジナルキャラも、全てが「ドルアーガの塔」という舞台において縦横無尽に活躍していた。

例えば、当然のことながら主人公であるギル。プレイヤーである為個性付けは多少薄かったが、ところどころの会話では「熱いが冷静な武人」としての側面を遺憾なく発揮していた。読者の「行動」によっては、時折とんでもない行動に走らざるを得ない点がゲームブックとしての宿命ではあったが(モンスター培養槽に自分から飛び込んだりとか)

で、そのギルとトリオを組むオリジナルキャラが、ドワーフ盗賊の「タウルス」とエルフの魔法使い「メスロン」であった訳なのである。酒好きでお調子もののタウルスに対して、礼儀正しい若者の様でいて意外に軽いところもあるメスロン。二巻以降に登場していたこの二人であるが、多くのゲームブックファンの間にエラい人気が出て、後にはメスロンが主役のゲームブックが出版される程であった。

一方、敵方にも魅力的なキャラはあふれていた。ゲーム中の展開を生かして「変身能力」という設定をもらったドルアーガは、1、2巻では金髪の美青年として登場して、ところどころでギルとケレン味たっぷりの会話をかわすことになった。そのお付きとしてつけられたのが、ゲーム中では最強の部類の敵であった「リザードマン」を元にした、双頭トカゲ男のゴルルグである。私の知る限り「最も知的なリザードマン」であるこのゴルルグはいわゆる「中ボス」として、二巻の最後、40階でギルと死闘を演じることになる。

ことほど左様に、「ドルアーガ三部作」には魅力的なキャラがその他諸々あふれている訳だが、どーも一番印象が薄いのはメインヒロインであった筈の「カイ」ではなかったかと思わないでもない。まあ、役どころからして最後の最後までさらわれっぱなしだったのでしょーがないと言えばしょーがないのだが、会話内容がザコキャラ上がりのゴルルグの半分くらいしかないというのは若干可哀相である気もする。


さて。長い、長すぎるというか、どーも細かくエピソードに触れていると文章が終わりそうにない。取りあえずここで一旦区切らせて頂きたい。次回では鈴木直人氏の他作を含め、もうちょっとゲームブック話を掘り下げてみようかと思う。というか二、三回ゲームブックものが続きそうな勢いである。なんか「知らなきゃわからねえ」話がすげえ続いている気がして大変申し訳ありません。レトロゲームの内ということで勘弁してやってください。

posted by しんざき at 19:42 | Comment(16) | TrackBack(0) | レトロゲーム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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この記事へのコメント
ドルアーガのゲームブックは見たことないなー
つーかゲームブックって今でも生産されてますかね
ロマンシアならもってるんですけど・・・

関係あんまないすが
ドルアーガの塔って長方形ですよね
リアルにすると貿易センタービルでしょうか
Posted by めあ2 at 2005年05月13日 19:55
>めあ2さん
最近、「地味だが出せば古いファンは買う本」として旧作の復刊が進んでいるようです。以下Wikipediaの「日本におけるルールブック」の項最終段より抜粋ですが。

>とは言えゲームブックの愛好者がいなくなったわけではなく、2001年に創土社が『アドベンチャーゲームノベル』シリーズと銘打ってゲームブックの出版を開始し、人気の高かった作品の復刊やそのような作品に関連する新作の発行を行っている。「ソーサリー」シリーズ全4巻も2003年から順次復刊された。また、扶桑社も2005年に『火吹山の魔法使い』を復刊した。
Posted by WindFall at 2005年05月13日 23:10
初めてコメントいたします。
ライターをやっている者ですが、私のライターデビューが、社会思想社の出してた『ウォーロック』という雑誌でした。
「ゲームブック辛口レビュー」というコーナーをやってました。
あまりにも辛口すぎて、半年くらいで終わっちゃいました。
Posted by ゲイムマン at 2005年05月15日 02:56
>めあさん
ゲームブックではドルアーガの塔、隕石に突っ込まれてました。って、こーゆーネタは不謹慎でしょうか。

>WindFallさん
コメントありがとうございます。
>最近、「地味だが出せば古いファンは買う本」として旧作の復刊が進んでいるようです。

出ましたねーチョコレートナイトとか展覧会の絵とか。そういえば、ソーサリーの復刊ってもう出版されたんでしょうか。
私としては、復刊もさることながらネバーランドシリーズの最終巻とっととお出しになれコラ、とか言いたいところではあるんですが。

>ゲイムマンさん
コメントありがとうございます。
うおおおお、あの「ウォーロック」に書かれていた方でしたか。話にはまだ出しませんでしたが、あの本のゲームブックコーナーは愛読してました。送り雛とかもウォーロックからでしたよね。

知人の家にまだウォーロックある筈なので、辛口批評、検索させて頂きます。
Posted by しんざき at 2005年05月16日 10:12
ぬおお!
『&I・リビングストン』を忘れておるですよ!
>貿易センタービル
いや、当時日本一の高さだった「サンシャイン60」になぞらえているのだったかと。
Posted by にゃあ at 2005年05月17日 00:09
『送り雛』は、今でも私のプレーした中で、最高のゲームだと思ってます(ゲームブックに限らず)。ちなみに2番目が『ベストプレープロ野球』。
ウォーロックでは結局、最後の1年半くらい書かせていただきました。

ところで、ゲームブックの末期の頃と、今のテレビゲームの状況って、何となく似ているような気がします。複雑化しすぎて新しいファンが入ってこなくなり、また、新しい娯楽に人気を食われている状況が。
Posted by ゲイムマン at 2005年05月17日 02:48
>にゃあさん
あうち、失礼しました。勿論個人的には忘れてはおらんのですが、Googleから拾い上げたウィキペディアの解説があまりに質量豊富だったので、タイタン世界ですとかファイティングファンタジーですとか、言葉を費やす気力を失いました。その内追って書きます。

「タイタン」の設定本はすげえ出来だったと今でも思ってます。まだもってるけど。

個人的には死の罠の地下迷宮がけっこー好きでした。エラい苦労しましたが。

Posted by しんざき at 2005年05月17日 19:24
>ゲイムマンさん
送り雛は、あの時期に出たのが不運だったのか、あの時期に出たからこそ凄かったのか、とにかく恐ろしい出来の作品でしたね。出回りが悪かったのが残念でなりません。

>ところで、ゲームブックの末期の頃と、今のテレビゲームの状況って、何となく似ているような気がします。複雑化しすぎて新しいファンが入ってこなくなり、また、新しい娯楽に人気を食われている状況が。

むう、なるほど。複雑化、という側面もあるんでしょうか。
個人的には、かつて「本+ゲーム」であるゲームブックが失墜した原因として大きなものは、

・「ゲーム的要素」が強力なライバル(ファミコン)の出現・進化によって食われてしまい、完全に負け気味になった

・一方で、「本」である利点を生かした作品(それこそ送り雛みたいな)がなかなか生まれなかった

という二点があるんではないかと思っています。システムに凝ること自体は、私は嫌いではなかったのでそう思うだけかも知れないですが。

今のテレビゲームの状況はどうなんでしょうね。私は脳細胞が未だに8ビットで動いてるので良く分からないんですが、新しい娯楽っていうと例えばどの辺でしょうか。
Posted by しんざき at 2005年05月17日 19:30
>復刊
最近文庫だったり復刊だったり手に入りやすくなって
うれしいんですが
>隕石に突っ込まれてました
こういうネタがカットされそうで恐い
復刊は言葉狩りの対象になりやすいのがなあorz
Posted by めあ2 at 2005年05月17日 22:08
ゲームブック失墜の原因については、確かに新崎さんが挙げてくださった2点のほうが大きいですね。
「新しい娯楽」というのは、昔はファミコン、今は携帯電話(のパケ代)のつもりで書きました。
システムに凝るというのも、キャラクターや世界観をよく表しているシステムならいいんですけどね。
例えば戦闘の多い作品なら、ファイナルファンタジー式にとらわれず、サイコロ1回振って決着するようなものがあっても良かったかもしれません。
Posted by ゲイムマン at 2005年05月18日 01:49
>ゲイムマンさん
「新しい娯楽」というのは、昔はファミコン、今は携帯電話(のパケ代)のつもりで書きました。

なるほど、ゲーム以外に遊ぶものが山ほどある、という状態は大きいですよね。おっしゃっている携帯電話の他、ネットの普及も大きいかと思います。実際、ネットを巡回してたらゲームやる隙ねえ、みたいなことも結構・・・ないな、私の場合。

>サイコロ1回振って決着するようなものがあっても良かったかもしれません。

「ゼビウス」辺りはそんな感じでしたよね。バランスがエラいことになってたんでちょっと失敗気味でしたけど。
Posted by しんざき at 2005年05月18日 18:21
そうですね、ゲームブックって説明だけでも1週間は書けそうですから。
タイタンは私ももってますが、TRPGのシナリオ作成に詰まった時など読んでみたりしてます。

>他の新しい娯楽
当時はTRPGに喰われたように思います。今はパチンコ、パチスロですよ。みんなゲーセンいかないんですよね。東京で昔(10年ぐらい前)にゲーセンだった場所がパチンコ屋になってるのを結構見かけます。
Posted by にゃあ at 2005年05月18日 23:40
そうですね、『ゼビウス』はまさにそうですね。
あれはシューティングゲームのスピード感を表現するためだったらしいですね。

あと、前の私のコメント、「ファイナルファンタジー」と「ファイティングファンタジー」を間違えてました。まだ頭がテレビゲームの世界から戻ってなかったみたいです。
Posted by ゲイムマン at 2005年05月19日 01:41
>にゃあさん
>タイタンは私ももってますが、TRPGのシナリオ作成に詰まった時など読んでみたりしてます。

あのボリュームはすげーーーと思います。大陸三つ、空きがないですもんね。

>当時はTRPGに喰われたように思います。

むう、逆転現象ですか。そういえば、日本でもTRPGブームがありましたね。グループSNE主導の。

>ゲイムマンさん
>あれはシューティングゲームのスピード感を表現するためだったらしいですね。

でも主人公がソルバルウじゃなかt(略
ゼビウスは、「ファードラウド」を読んでいた人の方が楽しめそうでしたね。

>「ファイナルファンタジー」と「ファイティングファンタジー」を間違えてました。

多少の書き間違いはキニシナイ、が不倒城ポリシーです。管理人がトレンドマイクロとマクロメディアを素で書き間違えたりするブログですから問題ないです。
Posted by しんざき at 2005年05月19日 14:04
しんざきさんのこれまってました!!
やっぱドルアーガっすよ。当時小学生。
温泉でレッドソード。
林さんよか鈴木さん派。いやネバーランドもウルフヘッドも揃えてますけど。
パンタクル3がでるのはいつか!?
にしてもゲイムマンさんがきてる。
それにもびっくり。
Posted by nei at 2005年05月22日 09:33
>neiさん
反応して頂いてうれしいです。オレ多分、今でもあの温泉をノーダメージで抜けられます。

>パンタクル3がでるのはいつか!?
同感です。オレのピラミッドアミュレットは一体いつ日の目を見るんですかコラって感じ。
Posted by しんざき at 2005年05月23日 10:45
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