2013年07月20日

「これが良い」「これが好き」ということを表明するのは案外大変だ(けど、だからこそ価値がある)


と、思う。


やまなしレイ先生が、こんなことを書いていらした。
任天堂の悪口を書けばアクセス数が跳ね上がる理由
人間は「俺の大好きなものが誉められている記事」を読みには来ないけど、「俺の大好きなものが貶されている記事」は読みに来るんです。だから、アクセス数を手っ取り早く稼ぎたかったら、「大好きな人がたくさんいるもの」を貶したタイトルの記事を書けばイイんです。
もはやアクセス数に「内容の面白さ」は関係ないし、「内容の正しさ」も「誠実さ」も関係ないんです。
 じゃあ、どうすればイイか?
 答えは簡単です。簡単すぎて、すげー難しい方法があります。


 「俺の大好きなものが誉められている記事」を読みに行く、
 「俺の大好きなものが貶されている記事」を読みに行かない――――――これをみんなが徹底するだけで、インターネットは変わります。Twitterなどで拡散するのも「俺の大好きなものが誉められている記事」を拡散して、けしからん記事を拡散することは辞めましょう。
首肯する。残念ながら、「すげー難しい」というところまで含めて。

当該記事の元の話題はゲームハードに関する話題であり、残念ながら早くもゲームハード会社についての話題でドンパチすることが趣味の人たちが喧しいようだが、やまなし先生が言われていることは、漫画だろうが、ゲームだろうが、時事問題だろうが、教育についてだろうが、スポーツについてだろうが、どんな分野にも当てはまる話だと思う。たまたまゲームハードについての話題で傾向が顕著だっただけだ。

とにかく、「これがダメだ」「ここが最悪」という風に何かを貶す記事というのは、良くも悪くも注目を受け易い。そして、「何かを、ただ貶す」というのは案外簡単なことである。

完璧なもの、完璧なことというのはこの世にない。それがどんな物であれ、どこかしらに毀損や弱点はあるし、そこを突く限りにおいてその論は「正しい」のだから、テキストを起こすコストは極めて安い。それを「面白くする」ことの難易度はまた別の問題だが、「ただ、貶す」だけでも人は寄ってくるのだから、ことアクセス数だけを目的に考えれば、こんなにローコストハイリターンなことはないだろう。一部のまとめサイトがいつまでも隆盛し続ける所以だ。

「これがダメだ」というテキストは、特にWeb上において、極めて発信し易いのだ。これはもう、かなり根本的な問題である。


一方、「これが良い」「これが好き」ということを表明するのは、極めてハイコスト・ローリターンである。

「何かを褒めるテキスト」を書くのは、意外と大変だ。好きな点、良いと思う点は、やはり全てを書ききりたくなるし、正確に人に伝えたくなる。好きという感情には理屈が伴わないことも結構あり、それを言葉に起こすことは、一点の弱点を見つけることよりも、遥かに長い思考と言葉を必要とする。

一方、やまなしレイ先生が書かれているように、「何かを褒めるテキスト」というのは、「何かを貶すテキスト」に比べて極めて注目されにくい。熱意をつぎ込みまくった「何かが好き」というテキストが爆発的な注目を受けることは滅多にないし、アクセス数だけを基準に考えれば、つぎ込んだ熱意に比してリターンは著しく少ない。

そして、「何かが好き」ということを表明するのは、言わば自分の内面、自分の一部をさらけ出すことだ。「好み」というのは、自己を形成する数々の要素の、重要な一部分である。時に面接で「趣味」を聞かれるように、人間は「何が好きなのか」で判断される。だから、「これが好きだ」ということを熱弁するのは、特に慣れていない人にとっては、極めて勇気が要ることなのだ。

そして、「そんな程度のものが好きなのか」という形で人格否定を受け、あるいは貶されることは、特にWeb上において、非常に頻繁にある。不倒城のような泡沫ブログですら、「何かが好きだ」ということを熱心に書いた時、カウンターのような形でそういう「貶し」が返ってくることは割と頻繁にある。これは恐らく、上記の「これがダメだ」というテキストのローコストぶりにも関係があるのだろう。

「何かが好き」ということを表明するのは、ローリターンなだけではなく、時にハイリスクですらあるのだ。

「何かが好き」ということを表明するのが、ある基準ではハイリスクローリターンなこと。「何かを貶す」ということが、ある基準ではローリスクハイリターンなこと。これが実証されればされる程、さらにWebのリソースは後者に傾斜する。新しくブログを始める人だって、注目されないよりは注目された方がいいだろう。

だからWebには、「これが好き」というテキストではなく、「これがダメだ」という批判のテキストが増える。これは勿論観測範囲の問題でもあるが、アクセス数というものさしを導入した時、観測範囲の問題は実際の値に直結するのだ。

「何かを貶す」ことではなく、「何かが好きだ」ということを書くのは、だからとても価値があることだ、と私は思う。




ところで、以上の話をした上で、私はこう書く。

知るかボケ、と。

不倒城はレトロゲームブログである。私はレトロゲームが大好きであり、レトロゲームが大好きだ、という話をするためにこのブログを書いている

他、奥様や子供たちが大好きだという話とか、ケーナやフォルクローレやゲーム音楽が大好きだという話とか、STGが大好きだという話をするためにこのブログを書いている。あと日常考えたことをてきとーに書き連ねることもあるが、まあそれはおまけだ。

ハイコストだろうがハイリスクだろうがローリターンだろうが価値があろうがなかろうがそんなことは知ったことではなく、レトロゲーム記事に注目が集まらないとしたらそれは私の文章が至らないためなのであり、「レトロゲームが好きだ」という部分を何か他のものを貶す内容に置き換えるくらいならブログごと削除した方がよっぽどマシである。

だから私は、「レトロゲームが大好きだ」という話を書き続けるし、その他諸々私が好きなものについてを書き続けるし、というか注目を集めるかどうかも実はそこまで重要ではなく、私はTAITOゲーが大好きだし迷宮組曲が大好きだしバンゲリングベイが大好きだしバブルボブルが大好きだしダライアス外伝がこの世で最も面白いゲームだと思っているし、それをひたすら主張することがこのブログの存在価値なのであって、そのことに文句を言われようが知ったこっちゃないのである。これは、昔から今まで、そしてこれからもずっと、不倒城が存在する理由であり続ける。


飽くまで上記の結果として、不倒城に書かれたテキストが、少しでもWeb上の「これが好きだ」というテキストを増やすことにつながるのであれば、幸いなことこの上ない。


posted by しんざき at 21:54 | Comment(8) | TrackBack(0) | 雑文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事へのコメント
誉め7:貶し3ぐらいの割合で書くと「欠点も含めて好き」な感じの文章に仕上がります。
Posted by at 2013年07月21日 08:40
あの記事は2chだのブログのアクセス数(とアフィ)
はてブだのツイート数だのいいね!など
スカラー評価システムの欠陥を感じましたな
「ネガティブ」が機能してないんですよ
もっと日本のネット界も「ネガティブ」を搭載したシステム上に移っていくべき。
つべとかredditみたいな。"嫌だから見えない"システムが必要。ニコニコ動画もNG登録とか全然機能してなくて快適に過ごせないような仕組みにあえてしてるのか?と思うぐらい荒らしや炎上に弱い。
Posted by うん at 2013年07月21日 14:28
「知るか、ボケ 〜」以降を読んでスカッとしました。私も細々とですが「好き」をテキストに書いてるので「よし、また書こう」と。レトロゲームではなく将棋ですが。
Posted by ハレ at 2013年07月22日 00:47
ネット黎明期の頃に思春期を迎えて、
そんな多感な時期にPCを与えられた自分は
好きなゲームがボロクソに叩かれてるのが本気で辛かった思い出があります。
そんな自分に読ませてあげたい記事だなぁとしみじみ思います。
今はそのゲーム自体も再評価されるようになり、
自分としても自分が好きならそれでいいじゃないかと思えるようになりましたが…
Posted by at 2013年07月22日 00:52
私はこのブログが好きです。もう少し更新回数が多いとさらに良いのですが (7:3)
Posted by マイクロフト at 2013年07月22日 17:00
かのジャンプの打ち切り漫画で本編より長く伝えられている名言「何が嫌いかより何が好きかで自分を語れよ!」まさにそれだと思います。

ネガティブなことを書くのは簡単ですが、好きなことを継続して書き続けることの重要さは非常に高いと感じています。
Posted by 神崎ゆうり at 2013年07月23日 10:13
何書いたって文句言う奴は文句言うんですから、何も気にせず悪口も褒め言葉も好きに書けば良いだけでしょう、と思います
政治家やら芸能人のような人気商売でもないんですから、「コスト」なんて何ひとつかかっちゃいませんよ
むしろ好きで書いてるんですから、その時点でノーコストハイリターンです
Posted by at 2013年07月23日 20:12
「「俺の大好きなものが貶されている記事」は読みに来るんです」は単なる思いつきだろ。証拠がない。はちまとかで任天堂をネガってる記事のコメントを見るとアンチ任天堂の方が任天堂信者よりたくさんいるぞ。ベッキーの不倫とか民進党ネガとか韓国ネガ、ベッキー大好きっ子や民進党大好きっ子とか在日韓国人がわざわざ見に来てるのか?そんなわけねーだろ。
Posted by at 2017年03月27日 19:39
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック