2014年03月02日

俺たちは原作版ナウシカにおけるクロトワさんのかっこよさをもっと痛感するべきだと思います


原作版ナウシカのお話です。20年前の漫画とはいえ、かなりネタバレ全開なので、未読の方には当記事をお勧めしません。代わりに今すぐAmazon辺りで原作版ナウシカ7冊をポチることを強くお勧めします。後悔はさせません。



原作版ナウシカで、私が特に好きなシーンが二つあります。今日の話はその内片方がメインなんですが、もしかすると他の人が聞いたら「え?そんなとこ?」と言うシーンかも知れません。



それは、最終巻である7巻のラストの直前。ヴ王が息を引き取るシーンで、ヴ王はクシャナに王位を譲る宣言をした後、こう話します。


「王宮は陰謀と術策の蛇の巣だ ゴミの如き王族、血族がひしめいておる」

「だがひとりも殺すな ひとりでも殺すとわしと同じに次々と殺すことになるぞ」


この場面はこの場面で、道化が思わぬ役割を果たすことになったり、ヴ王が超いい味を出していたり、これまでの経緯を踏まえるとクシャナさんの表情が絶妙だったりと味わいどころ満載の場面ではあるのですが、この時、ある人物のリアクションが更に絶妙なのです。



そう。それは、天を仰いだ呆れ顔で、心中「よくいうよ」と独白するクロトワさん。



私、「風の谷のナウシカ」におけるクロトワさんの持ち味というか、ポジショニングというか、重要性はこの一場面に凝縮されていると思うのです。



冷静に考えてみてください。そんじょそこらの漫画では、この「よくいうよ」という台詞、挟めないと思うのです。



原作風の谷のナウシカという漫画は、4巻から先どんどんずんずん重さを増していき、特に6巻以降はシリアス展開のオンパレードです。絶望的な状況の中、その絶望と最後まで付き合い続ける(戦い続ける、のではなく)ナウシカと、その周りの人々との群像劇が風の谷のナウシカ後半の主要なテーマであることは言うまでもありません。


で、このヴ王死去のシーン、このすぐ次のページでは長い物語が終劇を迎えるという超重要シーンであり、ナウシカと双璧をなす主役級キャラであるクシャナの最後の決着がつく超シリアスシーンであり、一国の王が死を迎える超厳粛なシーンでもあります。「綺麗に終わらせる」なら、茶化すような言葉を挟む部分ではありません。



しかしここで、最後の最後まで斜に構えた皮肉っぽい見方を提示することが出来、しかもそれがごく自然であり、全く展開を崩さないというのが、クロトワさんのポジショニングの凄いところであり、彼を描き切った風の谷のナウシカという漫画の凄いところであると私は思うのです。



正直なところ、「風の谷のナウシカ」という作品において、特に5巻以降は、「人間味のあるキャラクター」というのが徐々に減っていきます。まあ状況が状況なので仕方ないといえば仕方ないですが、ナウシカは虚無と戦いながらもそのカリスマ性を最後まで遺憾なく発揮する浮世離れしたキャラクターであり続けますし、セルムもご存知の通りのキャラクターだし、ユパ様にせよチャルカにせよ墓所の主にせよ、それぞれ「超シリアス」なキャラクター揃いです(勿論これは、決してそれぞれのキャラクターに魅力がないという意味ではありません)

5巻以降のメインキャラで、多少なりと俗人っぽい部分を露出させたのって、多分皇兄ナムリスくらいじゃないでしょうか。



しかし、そんな中、クロトワさんは、クロトワさんだけは最後の最後まで「皮肉っぽいが野心あふれる切れ者」であり続けます。「世俗の人間」であり続けます。登場の当初から、ずっとそのポジションを変えないのです。


たとえば、ボロボロになりながら療養中「風呂に入りてえ…」とボヤいたり。ナウシカについていこうと結束する一団を見て「姫様姫様みんな姫様」と皮肉を発したり。クシャナにマスク越しに水を飲ませてもらいながら「このマスクを作ったヤツは自分で試してみたんですかね」と不平を漏らしたり。クシャナを救出しつつ「次は鎧無しで抱きたいねえ」と女好きなところを見せたり。



言ってみれば、「どんどん人間味をなくし、シリアス分を増していった物語の中で、最後まで「普通の人間」としての孤塁を守った」キャラクターだと思うんですよね。



この漫画、ナウシカの人的影響力が凄過ぎて、出てくるキャラクター出てくるキャラクター皆ナウシカのシンパになってしまうんですが。

そんな中でもクロトワさんは、たとえば3巻、ナウシカが船からメーヴェで脱出して、思わず助けに駆け出しつつも「俺はクシャナのところにいかにゃあ」と思い直したり、カイを失ったナウシカが泣き崩れているところに「まただよ馬一匹死んだだけであの有様だ」とつぶやいたり、最後まで「ナウシカに取り込まれない」んです。



この首尾一貫した「俗人っぷり」こそが、クロトワさんの凄さであり、クロトワさんのかっこよさの源泉だと私は思うわけなんです。



この下敷きがあったからこそ、クロトワさんは最後の最後で「よくいうよ」と皮肉っぽい台詞を呟けたし、あの場面でクロトワさんなら当然そう呟くだろうと納得出来るし、最後の最後で一服の清涼剤みたいな名台詞になっていると思うんですよね。いや、勿論、あの台詞を加味しなくても、風の谷のナウシカのラストはラストできちんと感動的だし素晴らしいんですが。



まあ何はともあれ、この記事は「クロトワさんは超かっこいいので皆さんクロトワさんのやばさをもっと知るべきだと思います」というだけの記事であり、他に言いたいことは特にないことを申し添えておきます。



ちなみに、私が好きな原作シーンのもう一方は、やはりクロトワとクシャナの7巻での会話、


「殿下、マントを見つけてきました。風が強いですぜ」

「このままで良い、マントはある」「へッ!?」

「ナウシカがつけている…」


のところです。


クシャナもいいですよね。色々と。映画版の唯一の欠点はクシャナが悪役になってしまっていたところだと思います。



今日はこの辺で。


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posted by しんざき at 23:03 | Comment(3) | TrackBack(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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この記事へのコメント
原作版クロトワは理想の上司です。
ナウシカでもクシャナでもなく現場たたき上げで人間味あふれるクロトワ。
Posted by tatta at 2014年03月03日 13:20
なんとなくクワトロが気になって検索して拝読させていただきました。
クワトロ良いですよね。
クシャナを可愛いと思えるメンタルすごい。
Posted by at 2016年03月15日 14:45
↑クワトロはバジーナや!
クワトロちゃうクロトワやで!
Posted by at 2016年11月15日 18:12
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