後書きを書いたことが二回ある。
何度かネタにしているが、昔ゴーストライターのバイトをやっていたことがある。仕事でてこずったことは実はあんまりなかった。昔からでっち上げるのも文章をこねくり回すのも好きだったから、ある意味では天職だったのかも知れない。
ただ、何年かやった仕事の中でも、たまーーに「すげえ厄介だった」仕事というものが幾つかある。
そのうちの一つが「後書き」である。
そもそも後書きとは何かというと、基本的には「無いと寂しいが、有ると邪魔なもの」である。小説の場合特にこの傾向が強い。つまり、作品の世界に浸りきっている読後、いきなり目の前に現れて強制的に「作者」とか「編集者」とかいう現実のものに向き合わされるのが後書きだ。でも、「後書きがない小説」というのはカーテンコールが無い演劇と同じで、どちらかというとイレギュラーだ。
後書きだけを書いた二回の内、片方は「編集者」の代理としてのゴーストだった。これはまだいい。厄介だったのはもう片方で、続版に伴う差し替えか何かの際に連絡ミスがあって、どーしようもない状況に陥った上での後書きゴーストであった。当然のことながら、この時点で作品自体は読んでおらん。でも締め切りは差し迫っている。私がやっていたゴーストの仕事というのは、基本的にこんなんばっかである。
参った。何しろ何を書けばいいかさっぱり分からない。さっぱり分からなかったので、Tさんにその旨聞いてみた。彼はこう答えた。
蛇の足をなるべくキレイに書いてくれりゃいいよ。
Tさんはたまーにこういう、良く分からないものの言い方をする。これらは、大概の場合「お前もプロの端くれなんだから自分で考えろ」という意味である。考えてみると、私の仕事に対する姿勢というのは彼のこういう曖昧な言辞に結構影響されている。
小説の後書きというものにはいくつかパターンがある。網羅している訳ではないが挙げてみよう。
・作品とは全く関係の無い、作者の近況であるとかその他の事項について書く。
・作品を書いた過程での思考・エピソード・成り立ちなどについて書く。
・作品に思いっきり絡ませた後書きを書く。
代表的なものはこれくらいだろう。最後のはちょっと荒業で、たとえば後書きに作中のキャラを登場させて座談会をやらせたり、その他もろもろ、次回予告を後書きでやる作家さんもいる。
で、実はこの三つ。「上に近い程作者がテンパっている」という大体の傾向がある。
後書きを書く時期というのは様々だ。原稿を挙げた直後に後書きを書く作家さんもおり、原稿が挙がってから後書きを書くまでにある程度間が空くケースも多い(ちなみに、作品が完成される前に後書きが書かれる、というケースもそんなに多くは無い筈だがある)。で、特に前者の作家さんの場合、挙がった直後でテンションは激しく高いが体調はめっさ疲れており、もう作品世界のことになんか全く触れたくない、あるいは触れ様がないという人が割と多い(偉そうに言っているが、実はこれ受け売りである)
やったことのある人にはわかるだろうが、小説を書くというのは重労働である。大概の場合は自己の内面からひたすら書く内容を掘り返す作業となり、終わった直後というのは抜け殻になっている場合も多い様だ。その状態から更に作品の成り立ちに向き合うというのは、掘り起こした鉱脈から更に何かしらのネタを拾い上げようとするのに似ている。ものすげえ勢いで萎えるのも分からなくはない。
そーゆーテンションの人が、作品とは全く関係のない近況を延々と書き綴ったり、やたら社会問題に触れた後書きを書いたりする場合がままある様だ。私が知っている作家さんは、「後書きで作品について触れると、絶対色々ぼろが出そうだから書かない」という主義の人だそうだ。色々な主義がある様だ。
作者後書きというのは一番作者の「肉声」が聞ける場面でもあり、これを深読みしながら読むと作者さんの実像が違った面で浮かんできてなかなか面白い。後書きをじっくり読む機会はなかなかないかも知れないが、「これを書いたときの作者の精神状態」を想像しながら読むと楽しいかも知れない。お勧めである。
ちなみに件の仕事は、何書いてもいいんだと判断してすげえ勝手な内容で「次回予告」とか滅茶なことをやったらやたらと怒られた。何でだろうな。
2005年05月29日

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気付いても黙っているのがマナーかも知れませんが、気になって夜も眠れないのです。
違うと言ってよ新崎さん!
コメントありがとうございます。
ん、パクリとゆーことですか?
チェックしてみたんですが、確かに同じ様な内容ですね。特に対談が云々という辺りは、意識はしてないんですが影響されているかも知れません。猫地好きなので。
ただ、私の中ではどっちかというと神林長平さんの「敵は海賊」シリーズの後書きを念頭に置いて書いてました。動機としてはむしろあっちのパクリ。
ともあれ、ご指摘ありがとうございます。後ほど注釈でも入れておきます。
どうもご迷惑おかけしました。
いえ、こちらこそすいません。たとえば仮に万一そうだとしても、自分が書いたとは口が裂けてもいえない因果な商売でして(汗
ただ、もしかするとどこかでお目にかかってはいるかも知れませんね。ちなみに、「後書きめんどくせーーー要らねーー」というのは割と多数の作家さんの共通認識の様です。