2005年05月30日

企業利益追求とマスコミ批判について。

そういえば、あまりこのテの話を書いたことがなかった。触れられること自体少ない話題の様な気がする。

マスコミ批判をよく聞く。私も、まあ割とよくやる。その時多い筆致というものが、「野次馬根性が紙面に現れている」とか、「偏った姿勢でミスリードを招こうとしている」といったものである。つまりはマスコミの報道姿勢について、公平でない、フェアでない、と批判する文面だ。

いや、もっともなのだ。実に自然な感覚だと思うし、実際マスコミのそーいった姿勢についてはいい加減どうにかならんかとは私も思うところだ。

ただ、擁護する訳ではないし擁護するつもりもさらさらないが、ちょっと前提条件として頭に入れておかなくてはいけないことはある様に思う。それについて書いてみる。


メディア批判をする際に、忘れてはいけないことが一つある。そもそもマスコミ視点と視聴者視点では「事件の性質」が激しく違う、ということである。

マスコミにとって、事件は「開発案件」である。

まず大前提。ごく一部の例外を除いて、遍くマスコミは民間企業だ。当然のことながら、自社で企業努力を行って利益を挙げなくてはならない。資本主義社会において、企業にとっての正義は自社の利益であり、株主の利益である。これは当然のルールだ。「社会貢献」とかそーゆーお題目は企業にとって飽くまで建前、二の次三の次なのである。建前が利益を生みもする。

そして、マスコミの商売のタネは無論「報道」である。週刊誌とテレビでは少々事情というか収支体系が異なるが、視聴者の耳目を集めることが利益に直結している点では同じだ。今プロ野球の市場価値はどんどん下がっているというが、それは単純にプロ野球に興味を失った人が増えた為である。マスコミにとって、あらゆる事象はニュース性でランク付けされる。

報道はタネがなければ出来ない。つまり、事件が存在しなければマスコミは飯を食えない。当たり前の話だ。

ではマスコミはどうするか?事件を「開発」するのだ。国際問題であろーと国内犯罪であろーと、事件というものは基本的にはランダム、少なくともマスコミのコントロールの及ばないところで起きるものだ(たまに例外があるが)。つまり、他者の手を借りずに自社の利益を「製造」することは出来ない。マスコミは純然たる第三次産業である。事件ダネは貴重な資源だ。

故にある事件が起きたら、なるべく長い間その事件で人の耳目を集めたい。例えば皆がなかなか気づかなかった視点であるとか、あるいは誰も気にしなかった問題をつっついて大きな問題に出来たら、それはマスコミにとって大きな利益だ。事件の当事者を焚き付けて、更に派生的な事件を引き起こすことが出来たら、それもマスコミにとって大きな利益だ。

例えば先日のJR報道なんか分かりやすい例だろう。あの報道は、マスコミにとっての企業努力を全く忠実に行った結果なのである。目的が耳目を引くことなのだから、例えば国際問題云々に関して、偏った視点でミスリーディング報道することもごくごく順当な努力である。騒がれること自体がマスコミの勝利なのだから。

ここで、「だから現在のマスコミ報道は間違っている」と結論をつけるのは思考停止だ。問題は、この一連のマスコミ報道が、企業姿勢としては非の打ち所がない「正しい姿勢」であることなのだ


企業の利益が社会の利益に勝る。利益を追求することは企業の義務である。この命題の元、ある程度「社会一般のモラルからは外れた」行為を行っていることはどこの企業も同じである。例などいくらでも出せる、例えばJRだって雪印だって三菱自動車だって利益追求の為にあまり褒められないことをやっていた。彼らが責められたのは単純に「バれた」からであり、露見していない、あるいは法には触れない程度のケースなど山ほどあるだろう。そして、露見した当初のインタビューとか聞いてみると分かるが、やっている当人らにはさしたる罪の意識はないのである。企業として正しいことをやっているのだから当たり前っちゃあ当たり前だ。企業人であればある程罪の意識は薄くなる。

つまり、まず第一に「そもそも企業視点と社会視点ではゲームのルールが違うのだから、社会のモラルを元にしてマスコミを批判することにはあまり意味がない」んではないかということが結論として挙げられる。社会視点で社会だけの為に報道を行うマスコミなど、むしろ気持ち悪い。お隣の国に実例があるではないか。

じゃあどうしたもんか。資本主義社会を根幹からぶっ壊さない限り、「企業利益の優先」というルールを変えることは出来ない。企業視点のルールを変えない以上、視聴者視点のルールを変えて、現状の報道の弊害を少なくするしか対処法はない。

つまりは、マスコミというのは飽くまで民間企業であること・オピニオンの一つに過ぎないこと。あるいは複数の情報ソースをもつ必要性とか、その辺を論証していった方が、単に「マスコミは間違っている!」と批判するよりは幾分か生産的ではないかなーーと私は思うのである。

くだくだしい話、以上。まあ、現実問題朝日・産経ウォッチとか結構楽しいので多分今後ともやるとは思うが。
posted by しんざき at 16:48 | Comment(11) | TrackBack(1) | 無謀的世評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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この記事へのコメント
マッチポンプも企業利益追求の一環ならマスコミはケインジアンだらけなのか やだなあ
Posted by めあ2 at 2005年05月30日 22:27
利潤追求を極めたマスコミとかあったら楽しそうですね。高所得層のみをターゲットにした番組や記事が満載。
「談合、その長所をさぐる」
「オレオレ詐欺は死刑に値する!!」
あんまり思いつかないのは僕が低所得層だからですか?
Posted by だむ at 2005年05月31日 00:15
>めあさん
マッチポンプは、ものすげえ勢いで利益追求ですよ。マスコミにとって、自社のスタンスにのっとった方向での世論誘導くらい利益になるもんはねえですから。まあ、経済学にのっとってるかどうかはともかく。

マッチポンプが利益に結びつかない様な体制になったらいいんですけどね。

>だむさん
私もどっちかというと低所得層だからか、そーゆーテーマはあんまり思いつきません。そうだな、「実用全図解・これが宇宙旅行ツアーだ!」とか。

Posted by しんざき at 2005年05月31日 01:00
最近の企業さんは

・第一に社会の利益、第二に自社の利益
・企業も社会の一員である

という建前を掲げていることが多いので、まあ所詮は建前なのだろうけれども、建前として掲げている以上、社会視点でマスコミの姿勢をどうこう言うのはアリだと思うのです。

もっとも、建前を実行できてはいないようなので、視聴者サイドで対応せざるを得ないことに変わりはないのでしょうが。
Posted by Zhao at 2005年05月31日 17:02
キャット・ファイトは反対なのら!!

資本主義なら当然なのなら教えて欲しいものなのら!!
新しい作法というモノを想像するもしくは、
故事に習い対処することは出来ると思うのら!!!

攻略本は嫌いだけど、身の置き所のある答えを、
大人は持たないといけないと思うのら!

裸で争わせるのは不憫なのら…。
Posted by 三たぬき at 2005年05月31日 22:23
>Zhaoさん
>・第一に社会の利益、第二に自社の利益
んむ?「社会の利益が第一」という社是を掲げてる企業ってのは、少なくとも株式会社にはあんまりないと思うですよ。少なくとも、「会社の所有者に対して相当の利益を出す」っていうのは会社の絶対の義務なので。
社会視点でのマスコミ批判には反対しません。ただ、肝心のそういった報道をしている人々に、その批判は届くかなーと考えるとちょっと疑問。

Posted by しんざき at 2005年06月01日 01:59
>三たぬきさん
コメントありがとうございます。が、すいません、ちょっとおっしゃることが今ひとつわかりません。
キャットファイトっていうのは何かの比喩ですか?
Posted by しんざき at 2005年06月01日 02:00
「のら」が案外気持ち良かったので調子に乗ってしまいました。すいません。
ルールもなく、深夜人の庭先で喧嘩する猫達が嫌いです。って意味にして下さい。小学校から勉強し直したい気持ちです。

携帯からなので読みづらく表示されるようです。重ねてすいません。
Posted by 三たぬき at 2005年06月01日 07:37
>資本主義社会を根幹からぶっ壊さない限り、

まあそこまでやらなくとも、今のゲームのルールにのっとるなら、「騒がれるほどマスコミの勝ち」なので、社会のモラルから見て×と思う報道には批判ではなく黙殺、○と思う報道について騒ぐ(ほめちぎる)、というのは?
相手のルールに応じた参加で。
消費行動は投票だ、みたいな感じで。

でもやっぱり賞賛より批判の方が熱くなれますねーきっと。

ところで猫にもルールはあるけど人のルールとは違う。
と思います。
自分のルールが通用しない相手に対して
「ルールがない」と捉えるより
そこに違うルール(というか行動原理)を見つける方が対処しやすいような。
Posted by や at 2005年06月02日 00:10
>三たぬきさん
いえいえ。のらは全然かまいませんよ。ここの管理人はかなりてきとーな人間なので気にしないでください。

>やさん
>×と思う報道には批判ではなく黙殺、○と思う報道について騒ぐ(ほめちぎる)、というのは?
>消費行動は投票だ、みたいな感じで。
そうですねー。黙殺が出来れば一番いいんでしょうが。
実際のところ、自分が堅く信じていることに関して気にいらない言動をされると、黙殺出来る人って割と少ないみたいなんですね。ネットとかでは特に。

>そこに違うルール(というか行動原理)を見つける方が対処しやすいような。
それこそ建設的ですね。そういう考え方が出来る人が多数派だと問題ないんですが。
Posted by しんざき at 2005年06月02日 11:17
いやいや現実社会はゲームではないですし社会において生活している以上
企業で働く人間である前に国民としての責任がまずあります。
ですから社会のルールを逸脱して利益を追求するのは企業としての正しい姿勢ではありませんよ。
社会のルール、法律の範囲内で利益を追求するのが企業としての正しいあり方です。
いろいろなところを見ていると国民としての意識が欠けている方が多く見受けられますね。
場の論理を都合よく使ってただ利己的、自分勝手に動いているだけという……大前提にある責任を忘れてはいけません。
Posted by at 2015年09月24日 03:39
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