1つの処理系と、1つ以上の入力系と、1つ以上の出力系。つまり、入力デバイス(コントローラー)、出力デバイス(モニターなど)、処理デバイス(プロセッサ)を備えている、遊戯目的の電子機器。それがいわゆる「コンピューターゲーム」ということになる。これは、ファミコンだろうがゲームウォッチだろうがWiiだろうが、世界初のアーケードゲームである「Computer Space」から最近の大型筐体に至るまで例外はない。
ってんなこた当たり前じゃん、と思うなかれ。一般的な電子機器と違って、コンピューターゲームはこの三つの系統に、物凄く奥深い歴史をもっているのだ。特に入出力系、つまり「操作するところ」と「表示するところ」に関する歴史は分厚い。
入出力デバイスはゲームの中核に直結する。コンピューターゲームの歴史を指して、「すばらしい入出力系を求めて試行錯誤を繰り返してきた歴史」と言いかえてしまってもいい、と私は思う。
今回の万里では、コンピューターゲームの「入出力」について、ゲームタイトルを中心にざざっと漁ってみようかと思う。ごく当たり前に「そこにある」池を攫ってみることで、何か見えてくるものがあるかも知れない。
まず、分類。
コンピューターゲーム(面倒なので、以下「ゲーム」と略す)における入出力の話は、大きく4つのカテゴリーに分けることが出来る。入力の「形式」と「中身」。出力の「形式」と「中身」。「形式」はこの場合機器=ハードの話で、中身がソフトの話と考えて差し支えない。
まずは入力系のお話からいってみよう。
・入力の「形式」のお話。
ゲームにおける入力方法は、実は初期も初期の段階で割と完成していた。つまり、「方向キー」と「決定ボタン」のペアである。
アーケードゲームのルーツとなる、「スペースウォー!」の話に触れてみよう。
Wikipedia「スペースウォー!」
前後1軸、左右1軸の計2スティック及びボタン1個で構成されたジョイスティックを用いる。この頃のコンピュータにはまだキーボードが標準装備されておらず(テレタイプ用のタイプライターは付属していた)プログラムを動かす時の操作はトグルスイッチで行っていた。しかしモニターとスイッチが離れているとリアルタイム操作が不便な為、TMRC伝統の廃物利用でコントローラーが自作された。これが史上初のゲーム専用コントローラーである。スティックで方向入力、ボタンで攻撃。この頃はまだ4方向スティックや8方向スティックは登場していなかったとはいえ、この形式は後に「十字キー」や「ジョイボール」などの様々な亜種を生みながら、40年以上の長きにわたって、殆どそのままの姿で存続しているのだ。
多くのゲームウォッチや携帯用ハードなども含めて、おそらく「方向キー+いくつかのボタン」という形式でデザインされたタイトルは、ゲーム全体の95%以上を占めている筈である。いかにこの形式が合理的、そして融通が利くものだったかということが分かろうというものだ。
余談だが、「十字キー」自体についてもWikipediaに項目がある。こちらも結構面白い。
Wikipedia「十字キー」
この後、ゲーム業界は「方向キー」に関する部分で様々な創意工夫を繰り返し、数知れない亜種を生んでいる。時系列順とはいかないが、いくつか追っかけてみよう。
○「アルカノイド」などのブロック崩しゲームで用いられた、ボリュームキー(テレビのボリュームの様にくるくる回る)
○「シェリフ」に生まれ、フロントラインや「怒」などのアクションゲームで用いられた、チャンネルキー(テレビのガチャガチャチャンネルと同じ構造)
○マウスと同等の歴史を持ち、「マーブルマッドネス」でその地位を確固たるものにした「トラックボール」
○「クレイジークライマー」や「リブルラブル」で方向性を示した、2レバー筐体(プレイヤーは二本のレバーだけを用いてゲームをプレイする)
○左右二方向ボタン+ジャンプボタンという異色の操作ですさまじい完成度を誇った「パックランド」
○ボタンを押す「強弱」をゲーム性に取り入れた「ストリートファイター」や「ベラボーマン」
一方、1980年代にPCで発展したパソコンゲームは、当然のことながらキーボード、後にはマウスを入力機器に選択することになる。
○「文字入力」がゲーム性の中核部分だった、「デゼニランド」「サラダの国のトマト姫」などのアドベンチャーゲーム
○基本的には数字でコマンドを選択した、「信長の野望」「三國志」などの光栄シミュレーション
○矢印キーに替わってテンキーを方向入力に応用した、日本ファルコムの「太陽の神殿」「イース」
アドベンチャーゲームを見ると、入力機器がゲーム性に与える影響がよく分かる。例えば「hit」とか「search」といったコマンドを探す、という遊びは、キーボードが入力機器でないと発想できない。その一方で、ファミコンの十字キーでアドベンチャーゲームを作ろうとしたからこそ、コマンド入力という方式が生まれた。入力機器はゲームを作るのだ。
最後のテンキーの件に関しては、多分もっと古くにルーツがあるんではないかと思うのだが、この辺は調べても出展が分からなかった。また分かったら何か書いてみよう。
・翻って、家庭用ハード。
「ファミコン」で隆盛を極めた家庭用ハードは、更に可能性を広げる為に、やはり入力機器の面でも創意工夫を始めた。この辺り、ソフトの要求から作られたというよりは、ハードの為に作られたハードという印象を禁じえないものも多い。
ファミコンのみに限定しても、その入力機器の種類は多種多彩だ。正直やり過ぎなんではないかと思わないでもない。
○元はPCゲーの移植の為に構想されたという、ファミコン用キーボード「ファミリーベーシック」
○「ホーガンズアレイ」「ダックスハント」などを擁する、言わずと知れた「光線銃」
○後に「ダンスダンスレボリューション」のルーツとなるが、当時はバンダイ以外のメーカーには見向きもされなかった、ファミコン周辺機器の雄「ファミリートレーナー」
○IIコンに搭載された「マイク」を更に極端にして、そのまんま「マイク」を入力機器にしてしまった「カラオケスタジオ」
○ハイパーオリンピックだけの為に生まれ、そして消えた2ボタンコントローラー「ハイパーショット」
○遠くビートマニアの先祖である、キーボード型コントローラー「ドレミッコ」
○バーコードを読み込んでゲーム内のデータとして使う「データック」
○ゲーセンのバイクゲームを無理やりファミコンでやらせようとした、風船形式のバイク型コントローラー「トップライダー」
名前で検索してみると色んなページが出てくるのでご参照頂けると幸い。こちらのページなど、画像も多くて分かりやすい。
その他パワーグローブの様なイロモノからぽっくんもぐらーの様なおもちゃ風機器、ジョイボールの様なパッドの発展形にいたるまで、ファミコン程「入力機器の実験場」と言うにふさわしいハードは他に存在しない。
これはおそらく、盟主たる任天堂の影響もあり、ファミコンが色濃く「玩具」の色を残していたことが主因なのではないかと思う。「おもちゃ的な入力機器」がファミコンでは模索されてきた一面があるのだ。
「触って動かす」という意味で、入力機器の方に「おもちゃ的な工夫」をより強く出すことが出来る、という側面もあるだろう。
ただしそれ故に、そういった入力機器がおもちゃと同じ「取り回しの悪さ」「扱いの面倒さ」を抱え込んだことも、同時に指摘されるべきだろうと思う。
その辺の変遷が、ついにはDSのタッチパネルや、Wiiのコントローラーにたどり着いた訳だ。
・一方その頃、大型筐体。
ゲーセンの方はというと、遊園地的発想と豊富なスペースから、クレーンゲームから始まる「プライズゲーム」という一派と、体感ゲームという一派が「大型筐体」を舞台に隆盛していた。
特に体感ゲームの方は、同じく様々な入力機器の変遷を経験している。こちらは、途中から「シミュレーター」の様な側面を強くしていった部分もある。
○「ハンドルとアクセル、シフトチェンジ」という、実際の車に近いインターフェースを確立したタイトーの「スピードレース」
○アタリの「スターウォーズ」に始まり、スペースハリアーやアフターバーナーにつながった「コックピット+操縦桿」
○実際の乗り物に近い操作感、あるいは操作形式をもった、「トップランディング(飛行機)」「ラピッドリバー(ボート)」「フリップサイクル(自転車)」「TOP SKATER(スケボー))「電車でGO!(電車)」などなどなど
この辺、特にナムコとセガが物凄い種類の体感ゲームに手を出している為、「乗り物の数だけ入力機器がある」と言ってしまっても過言ではない。
○脱衣麻雀以前、「ジャンピューター」に端を発する麻雀牌選択型操作パネル
○ソニックブラストマンなどに代表されるパンチングゲーム
○ビートマニアの成功を契機に雨後のたけのこの様に広まった、無数の「音ゲー」
○WCCFや三国志大戦などの、カードを使って操作する近年の大型筐体
などなどなどなど。
家庭用ゲーム(特にファミコン)と比較すると、「必要とする場所」「取り回しの悪さ」などの弱点が存在しない為、入力機器に関してもアイディア次第で色んなものが隆盛出来たことがわかる。この辺り、まさに「遊園地的発想」といえるのではないだろうか。
・出力機器伝説。
さて、一方の出力ハードなのだが。
こちらは入力機器に比べると、驚く程バリエーションが少ない。おそらく、99.9%以上のゲームが「モニター+スピーカー」というシンプルな構成で括れるのではあるまいか。
画質・音質の進化こそ著しいとはいえ、根本的な所では出力機器の構成は殆ど変わっていないと言っていいだろう。「光+音」という組み合わせがあまりに強力過ぎる、という他ない。嗅覚・味覚・触覚といった別の部分に訴えるのは、既存のインフラが利用出来る「視覚・聴覚」に比べてあまりにも敷居が高い。
それでも、ゲーム全体を見回せばちらほらと「出力への挑戦」は見てとれる。思いつくところを挙げてみよう。
○ゲームに合わせてロボットが動く、ファミコン周辺機器「ファミリーコンピューターロボット」
○伝説の青赤メガネを利用した、擬似立体映像「ファミコン3Dシステム」。アタックアニマル学園やファルシオンなどが著名
○任天堂の黒歴史、バーチャルボーイ(立体映像の実現)
○飯野賢治を避けては通れない、音声オンリーの実験ゲーム「風のリグレット」
○遊んだ結果がプリントアウトされる、「X-DAY」などの一部ゲーセンの大型筐体
○プレステ2から標準装備になった、コントローラーの振動機能
・・・・・・うわ、びみょー。最後の二つはまだしもだが。
いやまあ、その他「ダライアス」の3画面筐体とか、質的な進化には色々と語るべきものがあるんだけど、パラダイムシフトとはいえんしなあ。正直、ここだけを見ると出力機器に意欲的なアイディアを入れると売れない、という結論を一旦出したくなってしまう程である。最近のヘッドマウントディスプレイには期待してしまうが。
入力機器と出力機器の違いは、「出力機器は潰しが利かない」ということが大きいだろう。ゲームのデータは、必ず「入力→処理→出力」という経路を通る。つまり、出力は処理系に依存する。ちょっと変わったことをやろうとすると、処理系にさせなくちゃいけない仕事が非常に専門的になるのだ。
取り敢えず、入力機器に比べると、出力機器には多大なる「進化の余地」が残されている、ということ(質的な話ではない)と、出力機器を大幅にいじったゲームが売れたら歴史に残るということを提言しておこう。嗅覚に訴えるゲーム「ザ・香道」とか、Wii辺りでなんかやってくれないかな。
・・・という辺りで、いくらなんでも長くなりすぎたので一旦ここまで。「ソフトの面から見た入力・出力」に関しては、また次回にやってみたいと思う。
学科の関係上,出力機器に関しては
僅かな知識があるんですが,出力のほうは
研究者たちもいろいろと試行錯誤している段階です.
私が知っている分野でのターゲットとしては
ネット通販があります.実際にものを触れないという
通販の最大の欠点を補うために手触りとか匂いとか
そこらへんの出力が研究されてます.
でも書かれている通りに,光と音の組み合わせで
ほとんどの情報が伝達されてしまう上に
残りのほんの少しの情報伝達のために多大なコスト
が発生するため,いまいち現実的ではなさそうです.
グラス←→シャッターI/Fのインタフェースは汎用的なステレオminiプラグで、セガの物と互換性があり、セガマスターシステムに内蔵されていた3DグラスI/Fに直結できました(当時ザクソン3Dをそれで遊んでました)
赤青メガネは他の奴では?
入力系としましては、
バーチャロン・絆の2スティック+ペダル2つ
ハングオン・ワイルドライダー等のバイク系=倒し込み量が入力値
ジョイスティック+6ボタンのストII格闘系
ボクシングとか刀振り回す、モーションキャプチャ系(ゲーム名失念)
出力系としましては、
レースゲームやアフターバーナー等の筐体を傾けることにより、擬似的にGを体感させるもの
という辺りを追加してみては如何でしょうか?
どもども。情報ありがとうございます。
>実際にものを触れないという
通販の最大の欠点を補うために手触りとか匂いとか
そこらへんの出力が研究されてます.
おうっ。あながち冗談でもなかったんですな。確かに衣服とか食器とか、その辺では「手触り」っていうのは大きな要素でしょうし。
ただ、既存のインフラで実現出来ない分、やっぱ敷居はだいぶ高くなりそうですよね。
>名無しさん
ご指摘ありがとうございます。
>赤青メガネは他の奴では?
ああ、私、赤青メガネと3Dシステムを若干混同してました。前者も後者に含まれてた様な勘違い。「とびだせ大作戦」の系列だけだったのかな。
>十六夜達也さん
ご指摘ありがとうございます。
>SCCF→WCCFと誤字の指摘から入りまして・・・
修正しておきます。
>入力系としましては、
バーチャロン・絆の2スティック+ペダル2つ
ハングオン・ワイルドライダー等のバイク系=倒し込み量が入力値
ああ、前者は「コックピット+操縦桿系」、後者は体感ゲーのくくりでいいかなーと思っておりました。体感ゲーは特に、正直挙げきれないんですよね。
>ジョイスティック+6ボタンのストII格闘系
これは「方向キー+決定ボタン」に含まれるかと。
>ボクシングとか刀振り回す、モーションキャプチャ系
ボクシングは「はじめの一歩」とか、パンチングゲーム系の発展かと思いましたが・・・そういえば刀のゲームもありましたね。私も忘れてました。
調べてみます。
出力はベクタスキャンとラスタスキャンを別物と考えることもできそうです。アーケードではモニタ以外の視覚的出力(アフターバーナーの警告ランプ等)もありますね。
言葉の定義の話になってしまいますが、コンピュータゲーム=ビデオゲームだとすると視覚的出力がほぼすべてモニタになるのは必然なのかもしれません。
>私のファミコンは時代を先取りして焦げくさい匂いを出せます。
それ、先取りというより逆走してる様な気もします。
ちなみに私のディスクシステムは、ゴムが溶けてエラいことになりました。
>名無しさん
>ピンボールを模したアーケードゲームだと入力として振動感知が筐体に付いているものがありそうですね。
ピンボールはちょっと考えたんですが、コンピューターゲームの内に含めるかどうかちょっと迷いますね。遊戯目的の電子機器ではあるけれど。
ロストワールドって確かループレバーでしたっけ?
>コンピュータゲーム=ビデオゲームだとすると視覚的出力がほぼすべてモニタになるのは必然なのかもしれません。
そうですね。ただ、最近その範疇から抜けてきた側面もあるかな、と。
PC-8001なんかはカーソルキーふたつでしたし(シフトキーと同時押しで逆方向移動)、初代PC-8801やX1のカーソルキーは一列に配置されていました。