2016年03月08日

火ノ丸相撲は何故想像を絶する程面白いのか


とにかく火ノ丸相撲が面白いのです。



火ノ丸相撲は、週刊少年ジャンプで連載中の高校相撲漫画です。主人公の「潮火ノ丸」は、小柄な体躯でありながら極限まで体を鍛え上げ、体格のハンデをものともしない王道の相撲をとる。そんな彼が入部した、部員一名の弱小部、大太刀高校相撲部。そんな火ノ丸と、大太刀高校相撲部の活躍が描かれる漫画です。


正直申し上げまして、当初連載が開始した時は、「高校相撲の漫画かー、うっちゃれ五所瓦みたいな感じかなー。またニッチなところ来たなー」と思っていました。ニッチ狙いの短期連載なのかな、長期はちょっと難しいかもなあ、などと思ってしまっていました。

否。千遍否。私の見る目の無さをここまで痛感したことはありません。


恐らく火ノ丸相撲は、2年くらい前から現在に至るまで、今のジャンプの全漫画の中で最も「少年漫画としての王道」を行っている少年漫画です。超熱いし超面白い。


このエントリーでは、火ノ丸相撲の面白いと思う要素について列挙しまして、それら一つ一つについて説明していきたいと思います。みなさんには単行本の購入を強くお勧め致します。

私が考える、火ノ丸相撲の特に面白いと思う要素は以下の二つです。


・「逆転」と「期待通り」の爽快感のバランスが素晴らしい
・主人公やその周辺、及びライバルのキャラクター達に好感が抱きやすい
・相撲の描写の迫力がとにかく凄い
・主人公が突き当たる壁のリアリティが非常に高く、それを乗り越える為の鍛錬やパワーアップに納得感がある
・普通の相撲の描写と、いわゆる「必殺技」の描写のバランスがいい



この中でも特に、

・「逆転」と「期待通り」の爽快感のバランスが素晴らしい
・主人公、及びライバルのキャラクターに好感が抱きやすい

の二点について記載してみたいと思います。


・「逆転」と「期待通り」の爽快感のバランスが素晴らしい


特に格闘系、スポーツ系の少年漫画について、私は二つのキーワードで、その面白さの7割くらいを説明出来るんじゃないかと思っています。


私は随分前から、そのキーワードを「「まさか」の爽快感」と「「さすが」の爽快感」と呼んでいます。


「まさか」の爽快感というのは、要するに逆転が起きた時の爽快感、気持ちよさです。周囲から見くびられていた主人公や仲間たちが、強豪相手に大金星を挙げた時の爽快感。大ピンチに陥った主人公チームが、追い詰められた状況から大逆転した時の爽快感。これは、勝負ごとがメインとなっているあらゆる少年漫画で重要な気持ちよさだと思います。「まさか」の爽快感を演出するのが上手い漫画は、それだけで名作といってしまってもいいくらい読んでいて爽快感があります。


「さすが」の爽快感というのは、要するに「強い主人公・強い味方が期待通りの活躍をする」ということによる満足感です。読者が感情移入している味方側のキャラクターが、期待通りの活躍をする。圧倒的な力で強敵をねじふせる。ジョーカー的な味方キャラがものすごい描写と共に敵を一掃する。こちらの爽快感、気持ちよさも、少年漫画において重要なファクターの一つです。

昔の記事でもこの辺のところは書きました。お時間ある方は下記記事でも読んでみてください。


火ノ丸相撲は、上記「まさか」と「さすが」の配分が絶妙である上、お話の構造上、全く無理なく「まさか」と「さすが」がバランシング出来るようにできています。


この漫画の主人公である潮火ノ丸は、「かつては『国宝級・鬼丸国綱』とまで称されたが、体格に恵まれなかった為中学時代は無名だった」「中学の3年間徹底的に体を鍛え上げ、真っ向勝負を是とする相撲で高校横綱を目指す」という設定の持ち主です。まさに、「小兵がでかいヤツを、真っ向勝負でねじ伏せる」というのが火ノ丸相撲のテーマです。


「圧倒的強さを持っていても不思議ではない経歴・研鑽」と「相撲という競技において致命的とも言えるハンデ」が、お話の中核として最初から同居している。これはつまり、火ノ丸が強豪と戦うだけで、「突きつけられたハンデを打ち砕く」という「まさかの爽快感」と、「強豪である火ノ丸が活躍する」という「さすがの爽快感」が、ごく自然に演出されるということを意味します。

しかも、体格というハンデは基本的に解消されることがないものなので、今後火ノ丸がいくら鍛錬を重ねてパワーアップしても、話の構造上はずっと「小柄という体格故の大ピンチ」と「それに対しての大逆転」が不可分となります。そして、相撲という「無差別級の力と力のぶつかり合いであり、つく時には一瞬で勝負がつく」という、それこそ全く読者を油断させない題材。


これらが、少年漫画のストーリーの作り上本当に絶妙過ぎる要素だと思うんですね。


格闘もの少年漫画の基本が、「友情(仲間集め)、努力(パワーアップ)、勝利」であることは今更いう間でもないと思いますが、上記爽快感のバランスと合わせて、火ノ丸相撲のテーマはこれに完璧に合致しています。そして、それを相撲シーンの凄まじい描写力が強力にサポートする。


後述しますが、主人公である火ノ丸が非常に好感が持てるキャラクターであることもあり、読者はごく自然に火ノ丸に感情移入することが出来ます。火ノ丸が臨む試合も、ある時は圧倒的な力で相手をねじ伏せて周囲を瞠目させ、ある時は大ピンチの連続から大逆転を決める、熱い試合揃い。火ノ丸が数々の相撲に挑み、時には勝利し、時には敗北するだけでも、読者は少年漫画の醍醐味を存分に味わうことが出来る、ということです。


まずは、この「二つの爽快感のバランス」を、火ノ丸相撲という漫画の中核部分だと言ってしまいたいと思います。



・主人公、及びライバルのキャラクターに好感が抱きやすい


当然、少年漫画を彩るのは様々なキャラクター達なのですが、「火ノ丸相撲」においては、火ノ丸の周囲の人々、火ノ丸の前に立ちふさがる人々、火ノ丸に期待する人々を含め、実にいい味出しているキャラクターが満載です。

勿論、その筆頭は主人公の潮火ノ丸です。非常に相撲にひたむきで、時には強烈な殺気を放ち、時には泥臭く負の感情をあらわにすることもあるが、基本的には真面目な好青年(ちょっと機械に疎い)。

大きなハンデを抱えながらも相撲に打ち込む、という設定の関係もあるとは思うのですが、彼は普段実に前向きで真摯です。しかし一方、勝利への執着というのはとても大きく、それが試合の描写に現れることもしばしばあります。


序盤の試合で特に印象的なのは、「三日月宗近」と称される、国宝・沙田との一戦です。


中学時代敵がなかった沙田は、地区予選決勝トーナメントで相対することになった火ノ丸との相撲で、初めて味わう緊張感を楽しみます。その顔には笑みすら浮かび、火ノ丸も同じように勝負を楽しんでいるだろうと思った瞬間、


何を笑っていやがる


勝負の中での心の交流を、凄まじい殺気のこもった表情でガン拒否する火ノ丸。笑うのは勝って土俵を下りてから。普通の少年漫画であれば、お互いに勝負を楽しむライバル同士の描写も一つの王道である訳ですが、それを切って捨てる描写もこの漫画の重要な味わいの一つだと思います。


あと、この漫画って「イヤなヤツ」があまりレギュラーとして登場しないんですね。たまに出てくるイヤなヤツや軽薄なヤツは大概すぐ退場する連中ばかりで、レギュラーキャラは大概根がまっすぐな、好感が持てるキャラクターばかりです。人によっては(キャラクター的な)毒の薄さを物足りなく感じるかも知れないですが、スポーツ漫画として読んでいて気持ちいいのは重要なところだと思います。

例えば、当初はおどおどしたところが目につくばかりだったけれど、徐々に、徐々に相撲部部長としての自覚を持ち、端々で強者の風格を漂わせ始めた小関部長(最新話ではまたなんかエラいことになってますが)。

例えば、当初は典型的な「更正した悪役チンピラキャラクター」として出発しながら、様々なエピソードを経て相撲部になくてはならない存在として成長していく五條佑真。

例えば、空気が読めない設定ではあるものの、格闘技に対する真摯さは火ノ丸と通ずるものがあり、強敵とも伍する存在になる國崎千比路。

例えば、火ノ丸にあこがれ、自分も真っ向勝負の相撲をとりたいと目指しながら、勝利の為にそれすら捨てる覚悟をした三ツ橋 蛍。

例えば、相撲に対する真摯さでは火ノ丸たちにひけをとらず、軍師的な立ち位置を明確にしながら、一般常識については残念メガネ以外の何物でもない辻桐仁。

みんな、それぞれ「キャラクターが立った」連中揃いで、生き生きとしていることこの上ありません。

その他周囲の面々もみんなそれぞれ味のある連中ばかりなのですが、ここ最近では火ノ丸に目を賭けてくれる柴木山親方がお気に入り。天王寺咲さんの登場も併せて、柴木山部屋編は実に楽しいエピソードだったと思います。



と、いうことで。

他にも火ノ丸相撲の面白さ要素は山のようにあるとは思うのですが、長くなってきたので今回はこの辺で締めたいと思います。

未読の方には是非ご一読をお勧め致します。面白いですよ、火ノ丸相撲。





今日はこの辺で。

posted by しんざき at 20:02 | Comment(10) | TrackBack(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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この記事へのコメント
ジャンプ本誌で読んでいるだけで単行本は買っていないので恐縮ですが、
個人的には容赦ない佑真の贖罪の描写や、それをきっぱりと解消させるエピソードが好きです
あとどんどん盛られていくわからない君のスペックとか…
Posted by 布 at 2016年03月08日 21:51
火ノ丸相撲しかりブラッククローバーしかり
今のジャンプは黄金期にも近い面白さを誇っている気がします

ハンターハンターが休載中なのを忘れるくらいですね
Posted by ハマの三文芝居 at 2016年03月08日 23:13
初めてコメントします、名無しのようかんと申します

火ノ丸相撲は面白いですよね、なぜ単行本が売れないのか、不思議でなりません
相撲という題材がいけないのでしょうか?
格闘技としても国技としてみても素晴らしい、魅力に溢れたものだと思うのですが…
という私も火ノ丸相撲から相撲の世界の虜になったのですが(笑)

たとえ相撲の決まり手がわからなくとも、それを 鬼車
と表したりすることで、かっこよくみせてる作者さんはうまいなぁと思います、他にも幕内力士がとんでもなく強いことが描写されていていいと思います
インフレしてもおかしくないところをインフレしないようにうまく調整できていると思います

あとは管理人さんの文章にもありました通り、登場人物に魅力があることが面白さの秘訣だと思います
ユーマさんはヤンキーからえらくいい男になりましたよね、他の作品のヤンキーも見習ってほしいものです(笑)

長文失礼しました、これからも火ノ丸相撲を応援していこうと思います
Posted by 名無しのようかん at 2016年03月11日 23:02
今回の元横綱から出された「天丼を用意する」エピソードは非常に面白かった。
「相撲漫画だから買わない」と思っていた意識がグラつかせられる程度には少年漫画の王道をゆく見事なまとめ方で実に素晴らしい。
Posted by 魔 at 2016年03月13日 17:56
はじめまして、えでぃと申します。
ふとしたきっかけで当ブログを拝見し感銘をうけ、陰ながら今迄応援しておりましたが、火ノ丸相撲ときいて衝動を抑えられず、拙筆ながら初コメントさせていただきます。

火ノ丸相撲、本当に面白いですよね。まさに血が滾る感覚を奮い立たす、そんな気迫を1ページごとに感じる漫画です。個人的には小関のキャラクターがツボで、秘めていたものを解放するカタルシスを見事に演出する良キャラだと思います。

現在のジャンプは、火ノ丸相撲だけでなく、新たないわゆる「次期看板漫画」となり得る作品が混在する、まさに群雄割拠の時代に入っていると感じています。
個人的には「ワールドトリガー」の練り上げられた世界観・設定の緻密さに絶賛魅入られ中です。是非機会があれば、しんざき様のワールドトリガー評などもきいてみたいな〜と感じている次第です…

余計なことも挟みましたが、今後とも更新を楽しみにしております。乱文失礼いたしました。
Posted by えでぃ at 2016年04月21日 01:13
>しんざき様のワールドトリガー評などもきいてみたいな〜と感じている次第です…

ワールドトリガーもすげえ面白いですよね。
不覚にも当初あんまりマークしてなくって、一度ちゃんと通して読んでからなんか書いてみます
Posted by しんざき at 2016年04月21日 09:28
>しんざき様
ありがとうございます!
私もたんこう
Posted by えでぃ at 2016年04月22日 09:09
↓申し訳ありません、誤送信です。
私も単行本で一気読みして、ハマったクチなので、通しで読むことを強くお勧めします。
更新を心待ちにしております。
Posted by at 2016年04月22日 09:13
火ノ丸くん、王道少年漫画主人公のど真ん中で、ほんと格好いいです。で、私が特にこの漫画のキャラクター付けで惚れぼれするのは、この火ノ丸が、熱血一本というわけじゃなくて、考えていること、言動が、とてもクレバーな(クールですらある)ところです。五條妹との会話とか、特にそう感じます。
その五条佑真の言動の裏の意外な繊細さもまた良い味で。
ストーリー展開のメリハリもよく考えられてるし、今後も長く楽しめる漫画だと期待しています。

Posted by at 2016年06月17日 21:07
何かと批判されやすい「不良の更生」を上手く描いてるのも評価したい。
作中にもユーマさんの「過去の罪」を許してない人物はいる。反省してるアピールなんかいらない、とバッサリ切り捨てられる。
しかしこの人物も、とある事情を理解したことでユーマさんに協力する。もちろん「洗脳」の類ではない。果たしてその理由とは!?
Posted by at 2016年09月24日 19:16
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