大島いずみさん、もう32歳なのか…(あとがき参照)
パンタクル、というゲームブックがあります。
「ドルアーガの塔」三部作ゲームブックで鮮烈なデビューを飾った、若き天才魔導士「メスロン」。
ゲームブックオリジナルのキャラクターでありながら、その存在感は時にギルガメスすら上回り、盗賊タウルスとの凸凹コンビの完成度は一種異様な程でした。
メスロンの人気は、鈴木直人先生に「メスロン単体が主人公として活躍するゲームブック」を書かせるに至りました。その内の一作が、名作中の名作「パンタクル」。
そして、その「パンタクル」に連なる系譜の作品として生まれたのが、「パンタクル2」、遠く「チョコレートナイト」、そして「ティーンズ・パンタクル」でした。
ティーンズ・パンタクル。著者は鈴木直人先生。1990年、創元推理文庫より発売。元々は、「メスロン」に対して女性読者から送られてきたファンメールへのお返しに、ということで発想されたタイトルだそうです。
主人公は、半年前に「洋具台学園」に転向してきた女子高生、「大島いずみ」。霊力を持った彼女は、やがて学園を狙う魔女と敵対することになって…というストーリー。
今の目から見れば、舞台立てには大時代的な部分があるかも知れませんが、メスロンを絡めたその描写、日を追う毎に高まっていく緊迫感と非日常感、そしてゲームブックとしての面白さについては、流石の鈴木直人先生としかいいようのない佳作です。
まずは、内容の話をしましょう。
○鈴木直人先生の、数知れない「試み」。
鈴木直人先生の何より凄いところは、文章力や構成力もさることながら、作品によって本当に様々な「システム的な試み」を導入され、しかもそれが非常に高いレベルでまとまっていたところ、だと思うのです。
ゲームブックは、ゲームでありながら飽くまで「本」です。本である以上、ゲームシステム上での色々な試みをする場合には、かなり色々な工夫をしなくてはいけません。その工夫とストーリー性を両立させることは、それなりに困難です。
システム的な話だけで言えば、数あるゲームブックの過半は、「単に戦闘・成功判定のやり方に差があるだけ」であって、選択肢を選んでストーリーを追っていく、というその根本的な部分に大きな差異はありません。
鈴木直人先生のゲームブックを読んでいて驚くのは、「根本的な、システム的な部分に切り込んだ工夫」が余りにも多いことです。
例えば、「魔界の滅亡」における氷の迷宮。
例えば、「スーパー・ブラックオニキス」におけるフラグ管理システム。
例えば、「パンタクル」における魔法使用システムや立体迷宮。
例えば、「パンタクル2」における魔術戦システム。
例えば、「チョコレートナイト」の、思考ルーチンすら実装したラスボス戦。
いずれも、「本」という媒体で出来る範囲を超えた、まさに「ゲームシステム」だったと思います。鈴木直人先生の綿密なゲームブック構築は、プログラマー的ですらありました。
で、この「ティーンズパンタクル」ではどんな「試み」が行われていたかというと。
一言で言うと、「ある日付で見逃したイベントがあっても、翌日以降更にそのイベントに接触することが出来る」という、「イベント繰越システム」でした。
いつものことですが、これ、コンピューターゲームに慣れている人には、何がどうすごいのかわかりづらいと思います。
例えば、「○日目に××に行くと△△が発生する」というイベントがあったとします。そのイベントについて、「その翌日に××に行ったら、ちょっと違った形で△△が発生する」というのは、例えば日常系のアドベンチャーゲームなんかではごく当たり前のことです。
けど、考えてみてください。ゲームブックです。本です。普通はストーリーをなぞってどんどん展開が進んでいくだけなのに、「ちょっと後の時点で、見逃したイベントにもう一度アクセス」なんて出来ると思いますか?
鈴木直人先生は、下の三つの手法であっさりとその問題を解決してみせました。
・「今日が何日目か」というフラグを用意して、読者に覚えさせるという形で管理
・「何日目フラグ」と並列する形で、イベント用の「経験記号」も用意
・毎日「昼ターン」と「夜ターン」があり、それぞれ学園の色んな場所に行けるような共通項目を用意
言葉にしてしまえば簡単なようですが、これ、こんなにシンプルなやり方で「日常アドベンチャーゲーム」的なシステムを本に再現してしまうのって、物凄いことだと思うんですよ。
しかも、これ書かれたの1990年ですからね。ファミコンでいうとFF3の時代、まだ日常アドベンチャーゲーム自体がそこまで一般的でなかった時代です。こんな時代に、こんなエレガントな解決法をゲームブックであっさり構築してしまう鈴木直人先生は、本当にアイディアマンだと思います。
「ティーンズ・パンタクル」では展開上の日数制限がありまして、ある日付までで必要なアイテム・必要なフラグがそろっていないとゲームオーバーになってしまう仕組みがあります。「スーパーブラックオニキス」と同じパターンですが、日を追うごとに段々と友人が消えていって、緊迫感が増していく描写は、その点だけでも一読の価値があると思います。
○黒猫ニバスこわい。
一方、ストーリーやキャラクターの話をしますと。こちらも、鈴木先生の本骨頂というか、実に味のある展開、味のあるキャラクターが満載です。
ティーンズ・パンタクルにおいて、主人公の大島いずみは、普通の学園生活を送りつつも、学園をのっとろうとする魔女の勢力と戦うことになります。
登場するキャラクターは、例えばいずみの学校の友人や先生。学食のおじさんや、謎の転校生、タウルスそっくりの学園長、展開によっては暴走族なんかも出てくる他、いずみの能力の特性上、怨霊や亡霊、妖怪の皆さんなんかも登場したりします。ナンパされたり、友人と食べ歩きをしたり、二人乗りでツーリングにいったりもします。
そんな中で、いずみは学園や洋具台の町を探索して、魔女に対抗出来る手段、そして「魔道士メスロン」を呼び出すための手段を探すことになります。
上で書いた通り、洋具台学園では日を追うごとに様々な事件が発生していき、どんどん周囲の人間が信用出来なくなっていきます。各日付で起きるイベントにもそれが反映されており、いずみの探索は日が進む度により危険なものになります。
そんな中、うまくアイテムを集めて「メスロン」と合流できたときのほっとした安心感、そして更にそこからの反撃については、ひじょーーに熱いものがあったと思います。
ちなみにネタバレになりますが、最後の反撃にはいずみ・メスロン・タウルスそっくりの学園長の三人パーティで挑むことになります。このパーティ構成、どう見てもドルアーガ。この場合、いずみさんはギルガメスになります。あと、実はこの巻のどこかにゴルルグさんが出てきたりするんですが、すっかりいい人になってます。サイコソード素敵。
「ティーンズ・パンタクル」におけるアイテム集め、フラグ立ては、前述のイベント繰越システムの影響もあり「そこそこの難易度」という感じなのですが、それでも中盤の難敵、「黒猫ニバス」と戦うためのアイテムを集めるのは、イベントによっては時間制限もあり結構大変でした。鍵は図書館と屋上です。あと、意外と高岡北斗君が重要キャラ。
ちなみに、この作品では敵と戦う際、多くの場合「霊力で戦う」か「物理攻撃で戦う」かを自分で選ぶことが出来ます。「物理で戦うとクッソ強いけれど霊力で戦うと弱い」とかその逆とか、敵によって色々あります。このあたりも、キャラの個性づけに随所随所有効に動作していると思います。
キャラクターで言えば、個人的にはやはりタウルスそっくりの学園長がお気に入り。色々と助けていただきました。
ということで、長々と書いてまいりました。結論として、描写の端々に大時代的な部分(まあ26年前ですし…)はあるものの、「ティーンズ・パンタクル」は今読んでも十分楽しめる良作」であることを記して、項を閉じたいと思います。
他のゲームブックシリーズについても色々書いてます。創元ばっかりですが。
今日はこの辺で。
@ パラグラフ 400でありながら、600位の密度・満足感。
A 難易度低めで尚且つ、充足感がある。サクサク進む日常面と、ドルアーガ由来のアドベンチャー・戦闘面がある。
B やっぱり、虎井安夫(≧∇≦)b!