何度か書いていますが、私は創元っ子でした。「創元推理文庫から出ていたゲームブックを特に好んで遊んでいた人」という意味です。
今更いちいち言うまでもなく、創元推理文庫の「スーパーアドベンチャーゲームブック」シリーズには、これでもかというくらい名作が溢れていました。
例えば、言うに及ばない「ソーサリー!」に、「シャドー砦の魔王」や「ドラゴンの目」のような海外ゲームブックの輸入シリーズ。
「ネバーランドのリンゴ」を始めとする林友彦先生の傑作の数々に、「紅蓮の騎士」や「ベルゼブルの竜」「夜の馬」などの純国産ゲームブック。デュマレスト・サーガをGB化した「巨大コンピュータの謎」「惑星不時着」や、勿論「展覧会の絵」なんかも傑作でした。恐らくあらゆるゲームブックの中でも最もプレイヤーとのステータスの開きが大きい敵が出現する、クトゥルーものGB「暗黒教団の陰謀」なんかも味がありました。
そんな中、ファミっ子でもあった私には、ナムコが送り出したゲームブックシリーズは、一つの特別な意味をもっていました。
当時、「ファミコンのゲームのゲームブック化」というのは、主に双葉社から多く発売されていました。「冒険ゲームブックシリーズ」と題されたそのシリーズには、勿論名作もあったのですが、多くはどちらかというと子ども向けという印象でした。小学校中学年〜中学校低学年くらいがメインターゲットだったのではないでしょうか。
ところが一方、鈴木直人先生の「ドルアーガ」シリーズを中核に据えたナムコGBシリーズは、文章にしても難易度にしても雰囲気にしても、はっきりと中高生〜大人向けでした。当時小学生だった私には、それがむしろひたすら魅力的に見えたのです。
ナムコのゲームブックシリーズには、以下のようなものがありました。
「ゼビウス」1985年、古川尚美氏著。
「ドルアーガの塔」三部作、1986年、鈴木直人氏著。
「ドラゴンバスター」1987年、古川尚美氏著。
「ワルキューレの冒険」三部作、1988〜1989年、本田成二氏著。
「カイの冒険」1990年、健部伸明氏著。
勿論ドルアーガの塔の存在感が素晴らしすぎたりカイの冒険がなぜか妙にエロかったりしましたが、どの作品も楽しんでプレイしていたものでした。ドルアーガが飛び抜け過ぎていたのは否定できませんが、なんだかんだでワルキューレもドラゴンバスターも面白かったのです。
この5タイトルのトップバッターを飾ったのが、つまりゲームブック版「ゼビウス」でした。私にとっては、「全てはここから始まった」とすら言える歴史作だったのです。
1.ゲームブック版ゼビウスという「キャラゲー」。
ところで、ゲームブックとしてのゼビウスは「キャラゲー」でした。
皆さん、「ファードラウトサーガ」ってご存知でしょうか?遠藤雅伸氏が学生時代から構想していたというSFストーリーで、ゼビウスはこの「ファードラウトサーガ」というストーリーを背景に制作されていました。「ゼビウス」の神秘的な世界観はここを淵源にしています。
実際に書籍になったのは確か1990年台になってからの筈ですが、当時からナムコの一部のファンブックなどでは細かいお話が公開されていました。ハードSFと超能力ものヒロイックストーリーを取り混ぜたようなお話で、なぜ地球人がガンプと戦わないといけないのかとか、色々なバックストーリーが明かされています。興味がある方はご一読を。
で、このゲームブック版ゼビウスは、アーケードやファミコンのゼビウスというよりは、この「ファードラウト」のゲームブック化といった方が正しい位置づけでした。
主人公である「P・J(ポール・ジョーンズ)」はエスパーで、生体コンピューター「ガンプ」を破壊することを目的として惑星ゼビウスに潜入します。彼はソルバルウには乗りませんし、ブラスターもザッパ―も撃ちません。彼の一番の武器はESP。時には銃器を扱ったりセラミックソードを振り回したりと、基本的には生身一つで戦うのがゲームブック版「ゼビウス」の主人公です。
実際には「ファードラウト」に由来する色々なバックストーリーがありまして、ファードラウトでの話が「神殿」の壁画に伝説として残っていたりと色々と面白いわけですが、ここでは省略します。
当時私は、ゼビウスのバックストーリーである「ファードラウト」の存在を知りませんでした。「ゼビウス」自体は大好きでしたが、「ゼビウスのゲームブック?ザッパー撃ってト―ロイド落としたりするの?」とか素っ頓狂な勘違いをしておりました。
ですが、上記した通りこのゲームブックにソルバルウは出ません。が、カピやト―ロイド、タルケンやグロブターなんかはちゃんと敵として出てきます。
P・Jは、ライフルや銃器をカピやト―ロイドにぶっぱなして生身で撃ち落としたりします。ランボーか。
彼、地味ながら結構トンデモなこともやってまして、海に浮かんでるガルザカートに泳いで近づいて蝕雷して大爆発、とかそういうこともやってます。
あと、例えば重要施設である「神殿」がアンドアジェネシスの形をしていたりとか、「バキュラ」を開発したバキュラ博士が登場したりとか、ジャングルの中からソルがにょきにょき生えてきてその中に重要アイテムがあったりとか、ゼビウスのキャラクターがゲームブックのあちこちに出てきます。
STGではないにせよ、ゼビウスのキャラクターはちゃんと出てくる。私が、このゲームブックを「キャラゲー」と考える所以です。
2.ゲームブックとしての「ゼビウス」の出来具合は。
ゲームブックとしてのゼビウスにはいくつかの特徴がありました。
・戦闘判定が、「相手の戦闘力を上回れれば勝ち、でなければ負け」の一発判定でスピーディな方式
・ほぼ全ての場面が双方向で移動でき、「マップを探索している」感が強い
・「サイコキネシス」「サイコショック」「テレパシー」「サイコバリアー」「透視」「テレポート」の6種類のESPがあり、最初にテレポート以外の一つを身に着けることが出来る。それによって展開が多少変わる
・「ゼビ数字」を用いた謎解き(というか16進法の計算)要素がある
・エリアは大きく「東の町」「西の町」「北の山」「南の町」「砂漠」「神殿」に分かれており、それぞれで特徴のあるイベントが発生する。南の町ではバイトで金が稼げたり、東の町ではギャンブルや買い物が出来たり、砂漠では砂男の集団と戦って死んだりする
・武器のポイントが単純に攻撃判定に上乗せされるので、強い武器を手に入れることによる報酬効果が大きい
・ヒロイン兼パートナーのカーチャがかわいい。ちなみにバキュラ博士の孫娘
この辺りが主な特徴ではないかと思います。やはり、「あ!ゼビウスのキャラクターが出てきた!あ、ここにも出てきた!」的な楽しみ方をするのが一番スタンダードである、という感は否めません。
P・Jをせこせこと強くするのは意外と楽しく、またあるイベントをこなしてカーチャが仲間になると飛躍的に戦闘が楽になったりですとか、「パワーアップと、それに伴う楽しさ」というのもこのゲームにはありました。また、エクスカリバーやクリスタルといった重要アイテムを苦労して見つけ出す楽しさ、南の町でトウモロコシを収穫してちまちまお金を稼ぐ楽しさといった面も忘れてはいけないところです。
ただ、ゲームとして難がある部分も正直ありまして。
・システムがシンプルであるだけに、初期設定でのダイス運で難易度が激変する
・その時点で勝てない相手にはどう工夫しても勝てない
・成長機会は限られており、きちんと成長イベントをこなして武器を整えていかないと後半の戦闘が非常にキツい
・「クリスタル」を手に入れてシオナイトの助力を得ないとラスボス戦かなりの確率で詰む
・シオナイトの助力を得ていても、運次第でラスボス戦の難易度が激変する
・最初に選択できる超能力の内いくつかは使用機会が非常に限られており、選んでもあまり意味がない
・なぜか戦闘機であるカピやトーロイドよりもその辺の酔っ払いの方が強い
この辺については指摘しておかなくてはいけないかもしれません。全体として、それ程難易度は高くないと思うのですが、どこかに一抹の理不尽感を感じさせるのは、同じナムコのゲームブック「ドラゴンバスター」と通じるところがあるかもしれません。古川さんの作風なのでしょうか。
と、長々書いて参りました。
なんにせよ、「ゼビウス」を端緒にナムコが名作ゲームブックを次々世に送り出し始めたのはなんの疑問もない事実でありまして、その処女作たる「ゼビウス」が果たした役割は決して小さくなかった、と私は考える次第なのです。
今日書きたいことはそれくらいです。次回はいつになるかわかりませんが、ワルキューレか、ドルアーガの別作品か、ソがつく四部作について書きたいと思います。
カーチャでドキドキしたものです。
実家を探してみたのですが、残念ながら見つかりませんでした。
作者さんはまだナムコにお勤めだそうで。
お元気そうで何よりです。
よっぱらい相手にあまり手荒な事はできないですし。
いやー、その辺はゲームとして当たり前です。
ドラクエ1でもレベル1で竜王に勝てるわけもないですし・・・