私、ファミコン史上で最も「売り方を間違えた」ゲームってこのゲームじゃないかと思ってるんです。
ファミコン時代、ハドソンって「コロコロコミック」と頻繁にタイアップしてましたよね。コロコロ以外でも、例えば攻略本とか、複数ゲームのガイドブックとか、「ゲームのコミカライズ」「漫画でゲームの面白さを表現する」という手法を盛んに使っていました。
当時、いろんな雑誌、ガイドブックに「ハドソンゲーネタの漫画」が載っていたことを、覚えている方も結構いると思います。高橋名人の登場以降は、それが更に顕著になりました。
ナッツ&ミルクはそれで良かったんです。ロードランナーも、チャレンジャーも、ボンバーマンも、バイナリィランドやスターソルジャーだってそれで問題なかった。
けど、バンゲリングベイはそれじゃいけなかった。このゲームは、「コロコロが対象としているようなちびっ子」に理解出来るゲームではなかった。「ヒーローの少年が帝国を破壊して、空母が沈没しかけていたところでヒロインを救い出す」なんてヒロイックなストーリーで了解されるようなゲームではなかった。本来、「シューティングゲーム」として売り出すべきゲームですらなかったんです。
当時、1985年2月22日時点にファミコンで出ていたSTGって「ギャラクシアン」「ゼビウス」「エクセリオン」「ギャラガ」ですからね。エクセリオンだけちょっとトリッキーですけれど、どれもこれも分かりやすいタイトルばっかりです。こんなわかりやすいゲームタイトルと同じつもりでこのゲームを手にとった小学生が、「このゲームわけわかんねー!」となってしまったのは、ある意味仕方ないことだったかも知れません。
結果的に、ファミコン時代初期についたイメージは長きにわたってこのゲームに張り付いてしまい、一時期は「クソゲー」とまで言われてしまっていた。ここ十年くらいで流石に認識も改まってきましたが、それだって一部の人たちが頑張って再評価を広め始めてからのことです。
「あまりにも革新的過ぎて、発売当時凄絶な誤解を受けてしまったゲーム」。それがバンゲリングベイだったと思うんです。もう少しファミコンユーザーの年齢層が広がった後、適切な売り出し方をされていれば、このゲームの評価は多分180度違っていた。
何故かというと、バンゲリングベイはすっげえ面白いからです。
「バンゲリングベイ」。1985年2月22日、ハドソンより発売。もともとはブローダーバンド社によって、欧米で大ヒットしたホビーパソコンである「コモドール64」に供給されたタイトルでした。「ロードランナー」「チョップリフター」の二作とともに「バンゲリング帝国三部作」を構成するタイトルでもあります。

まずはゲームの話をしてみましょう。
〇バンゲリングベイという「フライトシミュレーター」。
バンゲリングベイは、恐らく家庭用ゲーム市場初の、「マップ探索型ゲーム」でした。
ちょっと今更ながらですが、簡単にゲームの内容を解説してみます。
ゲームを始めると、プレイヤーは新型ヘリコプター「シーアパッチ」に搭乗した状態で、空母「R・レーガン」の艦上に駐機しています。

ここから、プレイヤーはシーアパッチを駆って、100画面にも及ぶ広いマップを縦横無尽に飛び回り、バンゲリング帝国の兵器工場を爆撃して撃破しなくてはいけません。
ヘリの操作は、「十字キー上で加速、下で減速」「十字キー左右で旋回」「Aボタンで着陸、ないしショット」「Bボタンで爆撃」というものです。
巡回艇やレーダー、時には戦闘機を撃破しながら兵器工場を探し、細かく機動しながら工場を爆撃し、工場の耐久を0にしたら工場破壊。マップ上に存在する工場全てを撃破することがマップクリアの条件です。

これの左下のやつが工場ですね。背景は時間経過でちょっと夕方っぽくなってます。
まず第一に、「操作方法」が当時のファミコン小僧の最大のネックだったことは議論を俟たないでしょう。当時は、「左を押せば左に、右を押せば右に移動」という直感的な操作がデフォルトだった時代です。それが、まるでフライトシミュレーターのような複雑な操作方法をいきなり提示されたら、「なにこれ上手く動かせない」となるのはある意味当然です。「操作性に難がある」みたいな評価はそれに基づいていると思います。
が、ある程度慣れてくると、あるいは大人になってから触ると、この「ラジコンヘリみたいな操作方法」がこのゲームの最大の楽しみどころだってことが分かるんですよ。
これ、操作してるとまさに「まるでラジコンヘリをいじくっているような」楽しさを味わえますし、ピタッと狙ったところに止められる、あるいは戦闘機とのドッグウォーを上手く制したりできると、ただそれだけでえらい気持ちいいんですよね。「加速・減速」という操作のキャパシティが物凄く大きいんです。
ヘリの操作として考えれば実に納得感のある仕様で、そもそも「左を押せば左に動く」という方が物理法則を考えればおかしいわけです。そういう意味で、バンゲリングベイの操作系は極めてリアル志向、フライトシミュレーター的ですらあります。
まずは、「操作性」こそバンゲリングベイというゲームの肝だ、と言い切ってしまいたいです。
〇ヘリを使った「オープンワールド」。
他にも、バンゲリングベイの革新的な要素というのは山ほどあります。
・マップをあちこち見渡して、どこに何があるのかを探索する楽しみ
・どの順番でどう工場を撃破していくか、ということを自分で決めていく戦略性
・空母に駐機して、「ダメージを回復する・爆弾を補給する」という「拠点」「補給」の概念
・必要であれば敵の空港に駐機して爆弾を補給することも出来るというサバイバル要素
・「ALERT」後の爆撃機襲来や、「WARNING」の戦艦登場などの危機感のあるイベント要素
・それによって、拠点である空母を「守らないといけない」という防衛の要素
・相手の工場破壊によって敵の攻撃頻度が変わる、レベルコントロールの要素
・1P・2Pの「対戦」要素
・非常に細かく設定されたバックストーリー
などなどなどなど。本当にこのゲーム、革新的過ぎてとても1985年なんてド初期に出たゲームとは思えないんです。グラフィックをちょいちょいいじれば、5年後に出たとしても納得感があるゲームデザインです。
100画面にも及ぶ広いマップを縦横無尽に飛び回って、時には攻め、時には補給に戻って、作戦を達成する。時には拠点を守らないといけないし、時には敵の攻撃に対して先制攻撃を仕掛けないといけない。敵の思考ルーチン、拠点防衛や攻撃の戦略性などなど、「やればやるほど深い」というのがバンゲリングベイの世界です。
空母という「拠点」の重要性はいうに及びませんが、「ALERT」などのイベント時には拠点を全力で守らなくてはならなくなります。が、万一拠点を失ってしまったとしても、残機は1機になってしまうものの、敵の空港を利用することで戦闘の継続は可能。これ、「たった一人の戦争」感あって滅茶苦茶熱いと思いませんか。
「WARNING」後に建造開始される戦艦は非常に強力で、放っておくと確実に空母が撃沈されてしまうので、これもなんとか建造中に破壊しなくてはいけません。が、極まってくるとこの戦艦も、出航してしまってから倒すことが出来るようです(私は一度も倒したことがありませんが…)。「出航してからの戦艦を倒すこと」は、ある意味やり込み要素の前身でもあります。
1P・2Pの対戦では、2P側はバンゲリング帝国サイドを操作することになり、これも非常に革新的な要素です。とはいっても、マイクで戦闘機を呼び寄せることを始め、2P側で出来ることは限られており、1P側がある程度慣れた人だと帝国側が勝つことはかなり難しいそうです。詰めればこの要素も面白そうなんですけどね。
「広いマップを自由に探索」という点では、遠く遠く「オープンワールド」系ゲームのご先祖と言ってもいいかも知れません。このゲーム、画面端と画面端はつながっているというループ設計になっているんですが、その理由すら「バンゲリング帝国が作り出した謎の空間」という形で設定されていたりします。
ウィル・ライト氏自身が、この「バンゲリングベイ」のマップエディターから「シムシティ」を発想した、というのも有名な話ですよね。これは、当人のインタビューでもそのように話されていたようです。
私がなにより「惜しい」と思っているのは、このゲームがその後バーチャルコンソール化されておらず、今遊ぶのがかなり難しいということです。ロードランナーはバーチャルコンソールになってるんで、版権とかはなんとかなりそうな気もするんですが…。
私自身は実機でもまだこのゲーム持ってるんですが、「大人になってから落ち着いて遊ぶ」ことこそ楽しめるゲームだと思うので、是非バーチャルコンソール化されて欲しいなーと思っております。
ということで、長々書いて参りました。
私が言いたいことはたった一つ、
・バンゲリングベイは大人になってからこそが楽しいのでバーチャルコンソール化してください、もしくはリメイク希望
ということだけだということを最後に申し添えておきます。
今日書きたいことはそれくらい。
この記事を読んで真っ先に思ったことが
「パイロットウイングス!パイロットウイングスのヘリステージじゃねえか!!」でした
実は元ネタだったりするのでしょうか
そうでないとしても、あのヘリステージが大好きだった身としては一度遊んでみたいですね