ところで、うちにはウル技大技林が何冊かあります。
皆さんご存知ですよね?ウル技大技林。最初の頃はファミマガの付録で、後に「超絶大技林」になって独自で刊行もされるようになったと思います。知ってる人には当然のことだと思いますが、「ウル技」というのは要するにゲームの「裏技」のことで、大技林は裏技がたくさん載っているムックです。
ファミマガ本誌の方では、「ウソテックイズ」という「裏技51個の中に、一つウソ技があります」という企画をずーっとやっておりまして、この51個という個数縛りがあったからなのか、「これ裏技って程のものか?」みたいな小粒のウル技も随分ありましたが、大技林では厳選されているのか、そこまで細かい技は載っていないようです。
で、今の視点で大技林を読み直してみると色々面白いなーって話でして、勿論意図的に仕込まれた「裏技」もたくさん載っているんですが、なかには相当スレスレの「技」も掲載されています。
例えば、大技林'94には、こんなウル技が載っています。以下、強調は筆者。
びっくり熱血新記録から、
「ハンマーをグリーンが見える位置まで投げ、次に回転のパワーを最大にしてハンマーを投げると、ハンマーが選手の後ろへ飛んでいき、やがてカップを飛び越えたところに落ちてしまう。こうなると、リセットしないと脱出できない。」
月風魔伝にはこんなのがあります。
「波動剣なしでワープの門へ入れる方法がある。ワープの門に入れるように十字ボタンの上を押しながら、スタートボタンを押す。すると画面が変わってサブ画面になる。そして、再びボタンを押すと、月風魔がワープの門に入ってしまう。」
京都龍の寺殺人事件。
「17日になったら尾沢家に行き、およねにみなこの写真を見せる。すると画面が変になってゲームができなくなる。」
ファイナルファンタジーII。
「魔法の本を戦闘中に装備するとかなりの効果がある。(中略)ただし、本を装備したままセーブすると、データが消えることがあるので気をつけよう」
上記はほんっっっの一例な訳ですが。皆さんよくおわかりの通り、これら、今の基準で考えれば純然たる重大なバグ、ないし仕様漏れな訳ですよね?ゲーム進行に重大な支障を来したり、セーブデータが飛びかねない内容というのは、少なくとも十分な期間と適切なテストがあれば、確実にデバッグされていたであろう、というレベルのバグだと思います。今の時代なら、ゲームの品質評価の低下に直結するレベルのバグです。
けど、FF2の本装備とか、当時「うわ大バグ!ちゃんとテストしろ開発!」って思いました?「こうするとバグが発生するんだ、回避しないとな」って思いました?
私は思いませんでした。「うわすげー技!試してみよう!」っていう風に思考しました。確かセーブデータは消えなかったような気がします。
「裏技として紹介される」ってそういうことだったんです。バグが、バグじゃなくて、「技」になってしまう。凄いですよね。私が担当してるシステムのバグもウル技として紹介したい。
ちなみに、ちょっと時代は下りますが、多くのプレイヤーにトラウマを作った聖剣2の一連のバグも、ウル技として掲載されていたりします。
「(中略)すると、パーティ内にいるはずのプリムが助けにきて、プリムが2人になる。ただし、プリムが2人の状態でゲームを進めることはできない。」
「ボスが爆発しているあいだにセレクトを押すと、バグってストーリーが先に進まなくなる。」
大変でしたよね。タイガーキメラ必死で倒した直後にフリーズとか。あったあった。
何が言いたいかというと、「昔のゲームでも、今でいう「致命的なバグ」が残ったまま発売されてしまっていた例は山ほどあった」「ただし、それが当時は「裏技」の一種として扱われていた」という話なんです。
もちろん、致命的なバグが「裏技だからオッケー」と単純に許されていたか、っていうとそれはちょっと違うと思います。聖剣2とか、やっぱ当時遊んでた人たちで、フリーズを経験した人は文句タラタラだったように記憶してますしね。
ただ、そもそも「バグ」と「不具合」と「裏技」の区別がよくついていなかったようなファミっ子たちの意識としては、ゲームの品質に対する視線も今より随分大味だったような気はします。バグを見つけたら「裏技見つけた!!!」って、喜んでファミマガに投稿しちゃうような子、当時はたくさんいましたしね。なんでしたっけ、横綱技に採用されたら記念品かなにかもらえるんでしたっけ。
アップデートという、「後から修正」という手段を持っていなかった当時の開発者たち。納期と、予算と、工数の板挟みにあって、時には発売を延期し、時には延期することが出来ずに発売せざるを得なかったマネージャーたち。バグを取り残してしまった彼らの心境が、この「裏技」扱いによって幾ばくか救われた部分もあったのではないか、と想像します。
多少のバグなら裏技かも知れない。これはおそらく、当時の開発者にとって結構心強い言葉だったんじゃないでしょうか。
いや、「昔は良かった」って話でもないんですよ。
先日、こんな記事を書きました。
この記事への反応で、「けどアップデート出来る、ってことで未完成のまま発売されてしまうタイトルも出てきた」みたいな内容のコメントがありまして、「いや、品質やバランス的な面で未完成のまま発売、って意味なら昔のゲームも相当なもんだったやん…?」という思いと、「あー、けど昔はバグが出ても「裏技」になってたからそこまで未完成っていうイメージなかったのかもな…」という感慨が同時に湧いてきたので、ちょっと昔のことを思い返して、ウル技大技林など引っ張りだしてみたと、要するにこういう次第なのです。
ゼビウスの無敵技を未だに暗記している皆さんに経緯を表して、当エントリーの〆とさせていただきたいと思います。
今日書きたいことはそれくらい。
つまり初めから大人の都合で生まれた言葉なのですが、それが子供の娯楽になったのもまた、大人の功績ですよね。
FFUで「魔法の本」で殴るのは色々試した記憶が。
「ファイアのほん」だっけかな、最終皇帝も一撃で吹き飛ばせるのは。
たしか「装備したままセーブする」とデータが吹き飛んだ筈。
忘れまい忘れまいと思っても、なお装備解除し忘れるんだなこれが……。
味方同士殴り合って最大HP増やして(割合ダメージっぽいからあんま意味無かったけど)表示がバグったり、
攻撃決定→Bボタンキャンセルを何百回と繰り返していきなり熟練度最大まで上げてみたりとか。
でもどんなものでも時代と共に意味が整理されて定義されちゃうんですよね。
整理されることは新たなステージに進のに必要なんですが、そのせいで余裕が無くなっちゃったりした時は、最初期のゆるさというかほんわかさを思い出して欲しいって思うことがあります。
裏技発見