初代ストIIのことを考えてみます。
ストIIのキャラクターは、持っている技や体形・立ち回りの特性などによって、幾つかのタイプに分類することが出来ます。
大きくは「スタンダードなキャラ・高速で動き回るキャラ・重量級のキャラ」の三つに分かれまして、更にその中でもそれぞれ二種類に分類可能です。
・スタンダード/コマンド技型:リュウ及びケンの二人。対空技、飛び道具、突進技などをバランスよくもった、体格・スピードも標準的なキャラクター。
・スタンダード/溜め技型:ガイル。対空技、飛び道具をバランスよく有しており、レバー入力によるコマンド技ではなく溜め技を持っているキャラ。体格・スピードも同じく標準的。
・高速/小型:春麗。高速でちょこまかと動き回り攻撃を刺していく小柄なキャラ。歩行速度が特に速い。
・高速/大型:ブランカ。高速で動き回るが、キャラクターとしては大柄なキャラ。ジャンプ速度が特に速い。
・重量級/打撃系:E・本田。重量級で、技としては打撃系に偏っているキャラ。
・重量級/投げ系:ザンギエフ。重量級で、技としては投げ系に偏っているキャラ。
ここまではみなさんご納得いただけるでしょう。「スタンダード・高速・重量級」という組み分けは普通のアクションゲームでもごく一般的な分類であり、「ストII」の前身であるファイナルファイトや、あるいはキャプテンコマンド―やゴールデンアックスのようなその他のベルトスクロールアクションなどでも一般的に行われています。勿論、それ以外のアクションゲームでもよくあります。夢工場ドキドキパニックとか。
さらにその中で分かりやすい性格づけをしているという点で、ストIIのキャラクター設計というのはむしろ非常に明快です。同じような土俵でキャラクターを複数人設計する時、同じような思考で同じようにデザインをする開発者さんはたくさんいるでしょう。
ここまでは。そう、「ここまでは」です。
ところでここにダルシムさんがいます。

ダルシムさん。一部では、日本における「ヨガ」という言葉のイメージを大きく迷走させたキャラクターとしても著名です。実際のヨーガでは火を吹きませんしテレポートもしません。
ダルシムさんは、みなさんよくご存知の「腕や足が伸びる」キャラクターであり、上記の分類のどこにも当てはまりません。彼はスピードキャラでも、重量級キャラでも、スタンダードキャラでもありません。ジャンプや歩き速度はゆるいですが重量級という訳ではなく、飛び道具も対空技ももっているけれどスタンダードキャラではなく、小技は速いですがスピードキャラでは断じてない。
言ってみれば、「打撃型固定砲台キャラ」とでもいうべき、まったく別のカテゴリーのキャラクターなのです。
ストIIの凄いところはたくさんありますが、その中の割と大きな一部分に、このダルシムさんをしれっとゲームに放り込んできたことがあると私は思っています。
ストIIのキャラクター設計は、既存の「スタンダード/高速/重量級」というものにとどまりませんでした。キャラクター設計だけであればこの3カテゴリーで十分ゲームが成立しそうなところ、全然違った「固定砲台」というカテゴリーを新たに持ってきて、しかもそれに「一度見たら絶対忘れない」という程のビジュアル的なインパクトを持たせたのです。
これ、言うだけなら簡単なようですが、当時基準で言うと物凄い冒険だったと思うんです。ダルシムの操作感とかキャラクター特性とか、他のキャラから見れば滅茶苦茶特殊ですからね。バランスにせよ、ユーザーに受け入れられるかどうかの判断にせよ、余程の決断が必要だったのではないかと。
このダルシムが確保した「ストIIの広さ」「後々の格ゲーに対する影響力」って、物凄い巨大だったと思うんですよ。
後々の格闘ゲームの多くが、ストIIを下敷きにデザインされました。その過程で、「打撃系リーチが伸びるキャラ」の存在も踏襲されました。「打撃系リーチが伸びるキャラ」は、多くのタイトルにおいて「トリッキーなテクニカルキャラ」という立ち位置を占め、その戦術、またそれに対する対策も、他のスタンダードキャラとは全く異なったものになりました。
例えば、ヴァンパイアのアナカリス。ワーヒーのブロッケン。カイザーナックルのマルコ。ブレイカーズのアルシオンIII世。マッスルボマーのザ・レイス。富士山バスターの河童。他もろもろ。
これらのキャラクターのうちどれだけが、ダルシムなしでも存在し得たか?勿論それは想像するしかありませんが、「ダルシムの存在が格闘ゲームを広げた」というのは、決して言いすぎな言葉ではないと思うのです。
勿論、ダルシムのような「リーチが伸びる」という形での固定砲台キャラが、全く新しい概念だという訳ではありません。元来「腕が伸びるキャラクター」にはアメコミのプラスチックマンとか、ミスターファンタスティックとか、怪物くんとか妖怪人間ベムのような類型が存在しています。
ゲームキャラでいえば、「超絶倫人ベラボーマン」が直接的な前身として存在している他、似たようなシステムで「リーチが伸びる系固定砲台型キャラ」のルーツを探るとするならば、「イーアルカンフー」のチェンが多分前身にあたるのでしょう。

チェンさん。弱点はしゃがみキックです。格闘ゲーシステムにおける、「飛び道具ではなく、リーチが単純に伸びる」というキャラクターの草分けに当たると思います。
ただ、こういう前身を考慮に入れたとしても、やはり「単純に腕が伸びる」という要素をもったキャラクターを、ストIIというタイトルに極めてナチュラルに放り込んできた開発陣の発想は、やっぱすげーなあと私などは考えるわけなのです。
さて、長くなりました。最後に、私が言いたいことを簡単にまとめてみます。
・ストIIのキャラクター造形はダルシムさんを除くと割とスタンダード。
・ダルシムさんの存在は後々の格ゲー的にも偉大。
・なおカイザーナックルではマルコ使いでした。
・全然関係ないけどZERO2に出てきたダルシム嫁のサリーさんは大変可愛いと思います。なおダルシムの20歳年下。
・けどダルシムさん聖人だからしょうがないね。
という感じの、どうでもいい結論が出たわけです。良かったですね。
今日書きたいことはそれくらいです。



しれっと飛び道具をスタンダードな技扱いしてますけど、あれも十分無茶な技ですし。
ストIIがあれだけメチャクチャ尖ったキャラクターだらけだったからこそ流行ったし、後続もやりたい放題やれたという文脈は間違いないと思いますが、ダルシムの要素ありしこそ故というのは疑問ですね。
パンチ、キックボタンをパンチしろとか
自キャラの有利な間合いを保つことが大事なので、相手を画面端に追い込んで択を奪うのが有効なんです。
っていう文法をいきなりぶっ壊したのがダルシムなんですね。(次点でバルログ)
見た目云々じゃなくて、システムに対するアンチテーゼっていうのがヤバイ。
とか、考え過ぎですかね(笑)