唐突に何を言っているのかと思われるかも知れませんが、大長編ドラえもんの話です。
以前も書いた通り、私は藤子F不二雄先生の漫画版大長編ドラえもんが大好きでして、以前こんな記事を書いたりしました。
といっても全部読破した訳ではなく、通して読んだのは夢幻三剣士くらいまでなんですが。
上の記事でも書いたんですが、私が好きな漫画版「大長編ドラえもん」の順位は以下の通りとなります。
1.のび太の大魔境
2.のび太の宇宙開拓史
3.宇宙小戦争
4.海底鬼岩城
5.日本誕生
で、これも以前書いたんですが、大長編ドラえもんの見せ場はなんといっても「大ピンチからの大逆転」だと思います。
大長編において、のび太やドラえもん達はしばしば強力な敵と対峙することになります。そして、時には絶体絶命の大ピンチに陥ります。勿論最後にはピンチを脱して強敵に打ち勝つことになる訳ですが、ピンチが大きければ大きい程、敵が強ければ強い程、ピンチを脱した時のカタルシスが大きくなることは説明不要かと思います。
ただ、みなさんご存知の通り、ドラえもんはチート能力を数々有するひみつ道具の持ち主なので、実際にはなかなかピンチに陥る余地が小さいわけです。ドラえもんの科学力は大抵の敵よりも数段進んでおり、科学力・技術力で完全にドラえもんに優越しているのは、せいぜい日本誕生のギガゾンビくらいのものです(次点で恐竜ハンター)。
その為、ドラえもん達は
・敵の物量が圧倒的
・何かの事情で、ひみつ道具の使用が出来ない・ないしひみつ道具の使用に制限がかかっている
というパターンのどちらかでピンチになることが多いです。前者はたとえば海底鬼岩城や鉄人兵団、後者は大魔境とか魔界大冒険ですよね。
純粋に敵方の有能さでピンチになるパターンというのは、実はそれ程多くないんですね。
そんな中、「敵がすごい有能」というパターンでドラえもん達が大ピンチに陥る作品が2作あります。
一作が、冒頭リンクでも挙げた「宇宙開拓史」。ギラーミン先生、めっちゃ漢らしい上に超有能ですよね。本当、映画版をどうしてあんな展開にしてしまったのかわからない。
で、もう一作が、「宇宙小戦争」のドラコルル長官だ、と私は考えているわけです。スモールライトによってのび太たちが小さくなって、自分たちと同じ体格になっているという事情こそあれ、それ以外には特にひみつ道具の制限もない中、のび太たちはドラコルル長官率いるPCIAに徹底的に追い詰められます。
そこで今日は、上記ランキングの3位に入っている宇宙小戦争(リトルスターウォーズと読みます)、その中でも特に敵方のキャラクターである「ドラコルル長官」についてクローズアップして書いてみて、みなさんにもドラコルル長官のヤバさを実感して頂きたいと思います。
ネタバレが含まれますので、以下は折りたたみます。読んだことない人は是非読んでみてください、宇宙小戦争。超面白いことは保証します。
まず簡単に「宇宙小戦争」の筋書きを確認しますが、主要キャラとしてポイントになるのは、少年でありながらピリカ星の大統領である「パピ」。ギルモア将軍のクーデターに遭い、側近によって脱出させられたパピは、地球にたどり着いてのび太やドラえもんの協力を得ることになります。そんなパピを追っているのが、ギルモアの部下であり情報機関・PCIAの長官でもあるドラコルル。
なお、ピリカ星のスケールは地球よりもはるかに小さく、パピたちはのび太に比べると小人のような大きさです。これが劇中の重要なポイント。
まず、最初にドラコルル長官が切れ者っぷりを見せるのは、しずかちゃんをさらってパピを呼び出す一連の展開です。
地球を探索する中、ドラえもん達がパピと同じ大きさになるためにスモールライトを使っているところ、スモールライトの重要性を看破して持ち去るという鋭さを見せます。これによって、元の大きさに戻れなくなってしまったドラえもん達。大ピンチの発端です。
自分自身としずかちゃんを人質交換しようとするパピとの交渉シーン。この時パピは姿を隠し、猫の声帯を借りて喋っています。「きみが一度でも約束を守ったことがあるか?」という皮肉を、さらっと笑って肯定する度量の大きさを見せるドラコルル長官。既に大物感がすごい。街中に監視装置を撒いて自分への悪口を監視しているギルモア将軍とはエラい器の違いです。
そして、パピの捜索に時間がかかると判断すると、即座に人質交換に応じるという臨機応変さも見せます。部下の弱音を無駄に叱責せず適切に受け入れる、という点でも彼の度量がうかがい知れるでしょう。部下も、話が通じる上司だと思ってなければこんな言い方しませんよね。
パピが嘘をつかないだろうという見切りの他、パピを早く捕まえて処刑しないとギルモアの権力基盤が危うくなる、という状況認識もあるのでしょう。この辺、既に一筋縄ではいかない切れ者っぷりを存分に発揮しています。
が、凄いのは更にこれ以降です。
無人戦闘艇に発信機を仕込んでおいて、それを端緒に自由同盟の基地を捕捉するという手柄を見せます。これ、簡単に言うけれど、一つ一つの発信源を追いかけるとかエラい手間ですし、恐らく無数に打っていた手の一つでもあったのでしょう。PCIAの驚くべき調査力、統制具合もドラコルル長官の有能さの一面と思われますが、
更に、短絡的な子ども向けアニメの悪役とは一味違うドラコルル長官。流石情報機関の親玉というべきでしょうか、ただ基地を潰すだけでなく、横の連絡をとらえて根こそぎ反乱組織を潰そうという計画を見せます。しかもコレに、ドラえもん達まんまとはまってしまうんですね。
ドラえもん達を完全に手玉にとっている辺りは、ギラーミン以上のドラコルルの有能っぷりが冴えわたります。
で、流星に化けて侵入してきたドラえもん達をあっさりと看破。この後、ドンブラ粉で地中に埋めた戦車をあっさり発見させてしまうという展開もあり、ドラえもんの超技術のさらに上を行くキレを見せます。
大体、ドラえもんのひみつ道具にかかると敵方はあっさりごまかされてしまう展開が多いんですが、宇宙開拓史のギラーミンとドラコルル長官はそこに全く当てはまりません。技術上では不利な中、純粋に頭脳だけでドラえもんに完全に読み勝ってる悪役って、大長編全体を見回しても殆どいないんじゃないでしょうか。
スネ夫のプラモ戦車が劇中強力な兵器として活躍するのですが、ここでもドラコルル長官は自らプラモ戦車の弱点を看破する活躍を見せています。本来技術者でもないのに、断片的な情報と僅かな記憶から、あっさりプラモ戦車の原理を見抜いているところとか、技術者の短い説明でさくっと要点を理解しているところとか、恐るべき知的能力としか言いようがありません。
しかも、看破した弱点をきちんと突いて、プラモ戦車を撃墜して見せる戦術実行力もドラコルル長官に帰せられるところでしょう。なにこの万能っぷり。曹操か。
ちなみに、有能さだけではなく人間としてのケレン味もドラコルル長官の持ち味の一つです。ギルモア将軍の元で働きつつも、ギルモア将軍の人望のなさを心中揶揄してみせるなど、一概に忠誠心ばかりの男ではないことも劇中描写されています。
劇中、ドラコルル長官が不覚をとったのは最終盤の展開と、あとはスネ夫の戦車が活躍をして小惑星基地を守った時のみ。しかも後者はその後きっちりリベンジをしていることを考えれば、唯一、「スモールライトの制限時間」という計算外の要素以外に、彼を破れる要素は存在しなかったといっていいでしょう。
これほど完全にドラえもんたちを抑えこみ、ドラえもん一行を処刑寸前まで追い詰めたドラコルル長官。そのあまりのキレ者っぷりに感動するのは、一人私のみでしょうか。やはり、大長編においては「敵が強ければ強い程盛り上がる」というのは間違いないところでして、宇宙小戦争の面白さはドラコルル長官の活躍がその8割以上を占めている、といっても言い過ぎではないと私は思うのです。
大長編すべてを見渡しても屈指の強敵、ドラコルル長官。皆さま、ドラコルル長官のヤバさをもっと知るべきです。
なお、ドラコルル長官を持ち上げるために他を落とすという論法はとりたくないんですが、自由同盟のボスであるゲンブさんはちょっと作戦が大雑把過ぎるのではないかという懸念は一点あります。「相手は80万人くらいいてまともに戦うと全然ダメだけど俺らが蜂起すれば民衆も立ち上がってくれるはず」「反乱決行は処刑当日」くらいしか彼の作戦描写されてないんですが、大丈夫なんでしょうか…(大丈夫じゃなかった)
ゲンブさんもっと頑張れ。超頑張れ。まあ彼治安大臣らしいんでそもそも反乱とか荒事は専門外なんでしょうが。
全然話は変わるんですが、私が個人的に「宇宙小戦争」の中で気に入っているコマを一コマ、紹介させて頂きます。
この注釈、いかにも藤子F先生っぽいなーと思うんですが、伝わりますでしょうか。子ども向けの漫画であろうとも、「宇宙空間に音はしない」という科学的な原則は決して曖昧にしない、というスタンス。魔界大冒険でも「宇宙空間に出る時音の効果がない」という描写がありましたが、それに類する、実に藤子F先生らしい解説だと思います。
そんなこんなで長々と書いて参りました。
結論を簡単にまとめると、
・大長編ドラえもんの肝はピンチの演出
・ドラコルル長官やばい
・映画版では長官がだいぶ劣化描写されていて悲しい
・映画版でこそ悪役をもっと魅力的に描写するべきではないのか
・漫画版宇宙小戦争は超面白いのでみんな読むべき(あと宇宙開拓史も)
・ゲンブさんはもうちょっとまともに作戦を考えてください
・しずちゃんが牛乳風呂に入っているタイミングでPCIAが侵入してくるという展開に藤子F先生のリビドーを感じる
ということくらいで、他に言いたいことは特にありません。そのうち大魔境についても何か書きます。
今日書きたいことはそれくらいです。
劇場版宇宙開拓史の展開はロップル君に華を持たせたかったんでしょうね。あれはあれで、のび太との友情が強調されていて、嫌いではないです。
ギラーミンの現場指揮ぶりがオミットされたのは全く残念ですが。
「悪知恵ってのはコンピューターじゃはじけねえぜ」は格好良すぎます。
彼らの技術レベルって、タイムマシンが開発されたばかりの最初期か、下手したらそれより前(何かのイレギュラーにより時間移動装置を手に入れただけの近未来人)だったんじゃないでしょうか。
ただしハンターたちは大人の理屈で動いているため容赦がないのと、ドラえもんがまだ本格的な武装化に至る前だったために、手強かったというだけで。
てか初期の大長編て、ドラえもん側も段々と以前の経験を活かし、護身の道具を確保しておくようになっていきますしね。おなじみの道具が揃うのは「鬼岩城」あたりからで、「恐竜」の時点では、「スモールライトが武器として使える」という発想すらない。
……いや描写を省略されているだけで、未来人には通用しないから使わなかったのかもしれませんが……。
単純な技術レベルでドラえもんに優越していた敵は、ギガゾンビと、「アニマル惑星」のニムゲくらいじゃないかなあと。
というのも、当時のドラ映画は漫画の連載と同時進行で作られていますから…
恐らく3月の映画公開の頃に翌年次回作の設定やシナリオが詰められて制作開始、せっせとアニメが作られる一方、F先生はだいたい9〜2月に「漫画原作」を連載、連載終了直後の3月に映画公開。更に加筆、編集が行われて、現在の読者にお馴染みの「単行本」が売り出されるのは半年くらい後だったりします。
つまり、初期のシナリオが制作されるまでは互角ですが、
F先生が雑誌締切ギリギリまで作り込んで、状況次第で後出しまで可能なのに対し、
映画スタッフは即応の難しいアニメ制作部隊を先手先手を打って切り回し、一年で映画を作らねばならない…
ぶっちゃけF先生有利です。しかも原作者で天才漫画家だよチクショーw
…てなことを想像すると、昨今のリメイク版映画はリメイクであると同時に、アニメ制作側のリトライというかリベンジなのかも…?
(1)カットして欲しいシーン
(2)追加して欲しいシーン
(3)変更して欲しいシーン
(4)リメイク版の序盤
(5)リメイク版の中盤
(6)リメイク版の終盤
(7)リメイク版の前ドラえもん映画の後の予告編
(8)旧作で府に落ちないシーン
(9)旧作の好きなシーン
(10)旧作のトラウマシーン
(11)リメイク版の作画
(12)リメイク版の監督
(13)リメイク版のゲストの声優
(14)旧作に出なかった道具
あの作品の魔法のある世界側の宇宙は空気がありますよ。月にウサギが住んで土星だか木星だかの輪の上に座ってお弁当食べたりもしてますし。
ラストバトルでジャイアンに銀の矢を撃ち込まれた魔王の心臓が火の玉になって魔界星につっこんで粉々になりましたが、すでに宇宙に進出して植民星がいくつもあるであろう文明の本星を破壊したに過ぎないと考えると、この後に泥沼の戦争があってもおかしくないなと、今読むと思います。
ところで宇宙空間の音の件(くだり)は、あれですね。「スターウォーズ」なんかに対して宇宙空間で音が聞こえるわけないって指摘があって、制作側の誰だかが「俺の宇宙では音がするんだ」と開き直ったという話がSFファンの間では知られてて、そういった諸々も当然踏まえたうえでのパロディになってるんですよね。