駄菓子屋の店先に、一台ぽつんと、Mr.Do!があったのです。
見た瞬間、何かまるでフラッシュバックのようなものが起きて、数秒動けませんでした。それは余りにもノスタルジックで、にも拘わらず余りにも衝撃的で、テーブル筐体で殴られでもしたような錯覚を受けました。長男に「どうしたの?」と聞かれました。
「いや」
とだけ答えました。
「なんでもない」
地元の、近所の駄菓子屋でした。私はそんなところに駄菓子屋があるのだということをずっと知らないで、最近長男からの、「駄菓子屋にゲームがあるんだよ」という情報で初めてその存在を知りました。長男はそのゲームの正体がわからず、「なんかピエロみたいのが動いてる」とだけ言われたので、サーカスチャーリーかMr.Do!か、と予想はしていたのです。で、長男と二人で、試しにということでその駄菓子屋に行ってみました。長男は、私のお金で「マーブルガム」を買いました。こんなやつです。
Mr.Do!はもちろんユニバーサルが出したアーケードゲームで、身も蓋もなく言ってしまえば「ディグダグみたいなゲーム」です。「ディグダグ」のコピーを指示された開発チームが、単なるコピーをすることをよしとせず、ディグダグに様々なアレンジを施した、という逸話が残っているようです。
ずっとずっと昔、私はやはりとある駄菓子屋で、初めてMr.Do!を遊びました。まだ小学校に上がる前だったと思います。当時の私は、5歳年上の兄の金魚のフンで、一緒に連れていってもらうことをせがんでは、兄に1プレイだけ分けてもらってすぐ死ぬ、ということが専らだったと思います。
ただ、私が衝撃を受けたこと自体は、私が昔Mr.Do!を遊んだ記憶によるものというよりは、「今、2017年というこの時代に」「駄菓子屋の店先に」「テーブル筐体のMr.Do!が稼働している」という、まるでフリップカード遊びのようなその状況に驚愕したことが主因だったように思います。
もちろん今の時代、レトロアーケードゲームというのは殆どそれだけで貴重で、例えばナツゲーミュージアム様や駄菓子屋ゲーム博物館様のようなレトロゲームを集積しているゲームセンターは貴重この上ない存在です。私はできる限りこういった店舗に通ってお金を落としたいですし、いつまでも経営していっていただきたいと考えています。
ただ、「駄菓子屋にアーケードゲーム筐体」というのは、それと同等に貴重だなあと。今のこの時代、Mr.Do!を置いてくれるというだけでも、この異様な存在感は一体なんなのだろうと。
メンテナンスはどうしているのだろう、と話を伺ってみたかったんですが、どうも店主のおばあちゃんの旦那さんがメンテをやっているらしく、その場ではお話を伺えませんでした。2プレイして、どちらのプレイでもまとめつぶしを狙い過ぎて死にました。私の腕前なんてそんなもんです。ちょくちょく来よう、と心に決めつつ、長男を連れて退店しました。
日本に今何店の駄菓子屋が残っているのか分かりませんが、やはりその内の何件かにはまだアーケードゲームが置いてあって、時にテーブル筐体の上でラーメン屋さん太郎が食べられたり、時におばあちゃんがぶつくさ言いながら掃除したり、時にゼビウスのハイスコアが更新されたりしているのでしょうか。
出来ることなら、出来るだけ長く、そういった駄菓子屋さんに生き残っていって欲しいと、そんな風に思う次第なのです。