ところでしんざきは結構漫画を買いますし読みます。ジャンルは雑食ですが、ややスポーツ系漫画多めかも知れません。
で、今週刊連載している漫画も勿論読んでいて、その中でも特に安定して面白い五作を挙げろと言われれば、多分「キン肉マン」「ベイビーステップ」「アオアシ」「チェイサー」「火ノ丸相撲かDr.Stoneのどちらか」を挙げると思います。5つ目が諦め悪いですがそこは勘弁してください。どっちも面白いんですよコレが。
勿論私はこれといってマイナー趣味でもないですし、特に漫画通というわけでもないのでよく聞く名前ばかりだとは思うのですが、そんな中でも「チェイサー」だけは、何故かブログ等でのレビューであまり名前を聞かないような気がしています。面白いのに。
ということで、今日は「チェイサー」について、みなさんにおススメする記事を書いてみたいと思います。
「チェイサー」。ビッグコミックスペリオールに、月一、ないし隔月で連載。この辺は若干不定期で、載っている時と載っていない時がある、というような印象です。
作者はコージィ城倉先生。いわずと知れた「おれはキャプテン」や「砂漠の野球部」などの野球漫画の他、たとえば「グラゼニ」や「江川と西本」などで漫画原作もこなしていらっしゃいます。江川と西本も面白いですよね。あれもスペリオールですけど。
どんな漫画かというとこの漫画、「漫画家視点での漫画業界漫画」です。もう少し言ってしまうと、「昭和時代の漫画家から見た手塚治虫伝記」という言い方も出来るかも知れません。
この作品の主人公は、「海徳光市」という「それなりに人気のある漫画家」。それなりに人気といっても、物語開始当初から少年画報や冒険王を含めた三誌に連載を持っているので、現在の視点から言うと結構な人気漫画家のように思えます。彼は、(自称)特攻隊くずれという経歴を持っており、特に戦闘機の漫画を得意としています。
ただ、この海徳先生、実は重度の手塚ファンであり、かつ自分ではそれを認めていないという「手塚コンプレックス持ち」。

こんな感じで、口では色々と手塚漫画に駄目出しをして、「手塚治虫を認めていないオレ」という演出をしているわけなんですが、

実は、手塚治虫の殆どの作品を所有していて、手塚漫画についてであればバリバリ語れちゃうような人なわけです。
まずは、この海徳先生の二面性の描写がものすごーーく面白い。
海徳先生自身、既にそれなりに人気がある漫画家だというのに、彼はいつまで経っても手塚コンプレックスが抜けません。締め切りに苦労する訳でもない、特段切羽詰まらなくても作品が描けるくらいの筆力があるというのに、わざわざ手塚治虫のやり方を真似して、その結果色々と失敗をしたりする。

例えばこの辺は、手塚治虫の有名な伝説の一つである、「複数作の編集者を待たせて、作品毎順番にページを書き上げていく」というアレを模倣したものですね。上でも書いたように、海徳先生自身は別に遅筆ではないので、こんなギリギリなことをしなくても作品を完成出来るんですが、彼の手塚コンプレックスが「俺だってこれくらい出来る!こういう風にやってみたい!」と思わせてしまうわけです。旅館から逃げ出すところまでやってしまったりとか。あなた別に逃げ出す必要ないでしょ。
この漫画、特に一巻から二巻は「視点を変えた手塚伝記」的な部分が強く、手塚治虫の様々なエピソードを、「ああ、当時の漫画家だったらこういう風に感じたのかな」という物凄いリアリティと、海徳先生のコンプレックス描写で、超サクサクと読ませてくれます。
単なる手塚伝記とはまた違った、「同時代のライバル」の眼から見た巨匠・手塚治虫。手塚先生本人が劇中に登場する機会はあまりないのですが、それでも全編に漂っているその存在感は、当時の漫画業界の中での手塚先生の存在感をそのまま感じさせてくれます。ああ、同時代、同業界から見た手塚治虫ってきっとこうだったんだろうな、という程のリアリティ。これはもうコージィ城倉先生の手腕としか言いようがありません。
手塚治虫という人は紛れもない「天才」だった訳で、「同時代から見た天才というのは何者なのか」を描いている作品でもあると思います。
一方で「チェイサー」は、「海徳光市という漫画家」の活躍譚、出世物語としても極めて高い完成度を見せてくれます。
手塚コンプレックスを抱え、巨匠の影を常に意識しながらも、なんだかんだで頑張って仕事をこなす海徳先生。連載も増やし、アシスタントも増え、結婚もし、時には波乱もありながら、彼は昭和の漫画業界を泳ぎぬいていきます。あれこれ新作の構想を練るエピソードやアニメ化のエピソード、連載作の人気の浮き沈みのエピソードなんかは、手塚コンプレックスの描写抜きでも、そのまんま「漫画家漫画」として成立する緻密さを備えています。
海徳先生、なんだかんだで実力はあるので、仕事すればちゃんと人気出るし、時には連載作が大ヒットして一躍時の人になっちゃったりもするんですよね。4巻以降はどう考えても「大御所」といっていいくらいの人気漫画家になっている筈なのに、それでも手塚コンプレックスを解消出来ず、様々手塚治虫の模倣を行い、時には「自分の作品のことはともかく手塚漫画が気になる」というくらい手塚ファン丸出しの海徳先生。
彼のキャラクターの一つとして、「自分の漫画の人気については意外と淡泊」という特徴がありまして、いや勿論人気のあるなしで一喜一憂したりはするんですが、そのモノサシもなんだかんだで手塚漫画だったりするので、色々な意味で首尾一貫していて好感が持てます。
「どんだけ人気が出ても天狗にならない(特にそう心掛けているわけではなく手塚コンプレックスのせい)」というのは、海徳先生というキャラクターの、一つの大きな好感部分だと思います。
連載中の現段階では、手塚作品の人気の落ち込みに伴い、ようやく手塚コンプレックスが解消されてきた(ように見える)海徳先生。時は1973年。虫プロ商事と虫プロダクションが倒産し「ああ、手塚もそろそろ終わりかな…」という空気が流れる中、ここでついに、「手塚先生がチャンピオンで連載を始めるらしい」という話が出てきまして、もうアレですよ。皆さんお分かりのアレです。おおついに伝説のアレがくるのか!!!というところなわけでして、海徳先生の反応が大変楽しみです。どうなるのかなあ。
ちなみに、「チェイサー」については、コージィ城倉先生のインタビュー記事も出ており、今でも参照できます。こちらです。
海徳先生は、劇中あちこちで「この人物は実在した」と描かれているのですが、だれか一人を特にモデルにしたわけじゃないみたいですね。戦闘機ものっていうことで最初は新谷かおる先生をちょっとイメージしたりしたんですが、時期からなにから色々違いますしねー。
ということで、何はともあれ「チェイサー」は大変面白いので、みなさん今からでも単行本買って読みましょう。まだ4冊しか出てないので簡単に集められると思います。画像出すのに便利なんでAmazonリンク使ってますが、別に下記リンクからじゃなくていいんで。
今日書きたいことはそれくらいです。