こんなまとめを目撃しました。
物語における「トラブルメーカー」とか「足を引っ張る味方役」みたいなものを提起して、その存在についての好き嫌い、みたいな話ですね。これ自体は、最終的に好みの問題だと思うのでどうこういう話ではないのですが。
ただ、物語上の役割として「トラブルメーカー」「足を引っ張る味方役」について考えてみると、「展開に起伏がつけやすい」「「ピンチからの脱出」を演出する小道具として便利」ということは一般的に言えると思います。
何度か書いてるんですが、創作には、割と大きな面白さ配分として「まさか」と「さすが」の二つの気持ち良さというものがある、と私は思っています。「まさか」というのが、ピンチからの逆転とか、舐められている主人公が力を見せつけたり大成長して周囲をびっくりさせる、要は逆転の気持ち良さ。「さすが」というのが、最初から強いと認められているキャラクターが評価通りの活躍をする、要は信頼の気持ち良さ。
で、今回は特に「まさか」の話なんですけど。
物語上で「まさか」を演出する為には、「味方の立ち位置を下げる」ないし「敵の立ち位置を上げる」ことのどちらかが必要になります。「逆転させるんなら、まずどっちかが有利/不利にならないとダメじゃん!」という話。当たり前のことですよね。この立ち位置というのは、元々の強さだったり、展開上の有利不利であったり、とにかく物語上の「その時点の有利さ」だと思ってください。
この「立ち位置の上げ下げ」をどれくらい説得力を持って行うか、というのは、その作者さんの腕の見せ所です。ここで説得力がないと、そのお話は急に嘘くさくなってしまいます。「頭脳戦の筈なのに敵がバカ過ぎ」って言われちゃったり、「展開が都合良すぎ」とか言われちゃうお話は、ここで「立ち位置の上げ下げ」を上手く行えていない、と考えることが出来ると思います。
で、この時、「立ち位置を下げる手段」のパターンって色々あるんですけれど、その時「足を引っ張る味方」「トラブルメーカー」って、お話の構成上凄い便利なんですよ。
勿論お話には色んなパターンがあるんですけれど、
・そのキャラクターのフォローや反発という形で、ごく自然に他のキャラの評価を上げることが出来る
・相対的に他のキャラクターの有能さ・頭の良さを強調することが出来る
・キャラクターの個性づけを強調することが出来る
・場合によってはそのキャラを排除、ないし何等かのマイナスを付与する(そのキャラがひどい目にあうとか)ことで読者の溜飲を下げることが出来る
・「敵を有利にする」要素だけに頼らずに済む
この辺りはぱぱっと挙げることが出来ます。例えば、「頑迷で物分かりの悪い味方の無能上司」みたいなキャラだったら、そのキャラを手ひどくやりこめることで味方キャラの株を上げる、とか。「味方の中の、力自慢だけど頭は悪い」みたいなキャラだったら、ピンチを作った上で戦闘で活躍させることで挽回させる、とか。
あと、結構大きなところで「頭がいいキャラを作る為には、頭が悪いキャラとの対比がないと難しい」という問題がありまして。相対的な頭の良さを演出する為に、敢えて頭が悪いキャラを出す、というのはよくある手段です。
まあ、勿論描写の良い悪い好き嫌いはあると思うんですけど、「足を引っ張る味方」というのは、ストーリーテリング上ではとても便利な存在なんだよ、というのは言えると思います。
ところで。
いきなり話がものすっごい飛ぶんですけど、ワールドトリガー、みなさんご存知ですか?面白いですよねワートリ。葦原先生がご快復して続きを描いて頂けるのを心待ちにしております。
以前、ワールドトリガーについてはこんなことを書きました。
で、このワールドトリガーを読んで、もう一つ凄いなーと思ったのが、この漫画「足を引っ張る味方」とか「立ち位置を下げる為に、敢えて無能描写されてるキャラ」というのが、本当に殆どいないんですね。いや、勿論やられ役的なキャラはいないこともないんですが、いかにもトラブルメーカーとか、いかにも無能そうなキャラっていうのが、いない。話が通じないキャラがいない。
例えばボーダーで言うと、ボーダー内の人たちって皆基本凄い「ちゃんと仕事をしている人たち」ばっかりで、わざわざ足を引っ張るような「イヤなキャラ」というのが本当にぜんっぜんいないんですよ。
時には主役勢と敵対することもあるけれど、ちゃんと話も通じるし交渉も出来るし、必要に応じて柔軟な姿勢も見せるボーダー上層部とか。鬼怒田さんなんか、最初は「頑迷キャラかな?」と思わせておいて、実はぜんっぜん有能なキャラでしたしね。
誰もかれも、戦況を的確に判断して、きちんと押し・引きが出来ているA級・B級上位隊員勢とか。
勿論ミスをしないわけではないけれど、一人ひとりがちゃんと自分の仕事をわきまえて行動しているC級・B級中位・下位隊員勢とか。新三バカですら、まあすごいちっこい部分ですけど仕事してるわけです。
「話が分からない」「自分の仕事をしていない」というキャラが、いない。強いて言うと太刀川チームの唯我なんてギャグキャラめいた感じですけれど、彼も別に物語の役割上では「足を引っ張る」キャラクターではなく、むしろ三雲を鍛えるのに協力する方のキャラクターですし。色々わがまま言うという点では香取さんとかちょっとトラブルメーカー寄りの描写でしたけど、それでもランク戦中はきちんと自分の仕事をして、最大限自分のチームの得点を取る為に最善の行動をしようとしてますしね。
これ、特にアフトの大規模侵攻の時の描写が顕著で、「敵も味方も全員、ちゃんと自分の仕事をしている」「誰も「足を引っ張る」ヤツがいない」「その上で、味方がちゃんと大ピンチになる」「その上で、ちゃんと逆転のカタルシスもある」という、よく考えると物凄いことをやってると思うんですよね。アフトクラトル側も、まあエネドラがちょっと暴走キャラですけど、ちゃんと「敵をひきつける」という仕事は遂行していて、ボーダーの指揮官まで引っ張りだしている。皆物凄い「有能な強敵」なんですよ。
「勝負」の描写をする時、「勝因と勝因のぶつかり合い」だけで逆転を描き切るのってかなり難しいんですよね。
勝因って、書くの結構難しいんです。現実でも、勝因のない勝利はあっても、敗因のない敗北はない、とか言いますしね。「どっちかが強かった」だけだと話は作りにくいし、逆転のカタルシスも演出しにくい。
どちらかというと、どちらかに明確な「敗因」があった方が、読者も分かりやすいし、勝敗に説得力をつけることも出来る。で、その「敗因」にも、無能な味方とか、トラブルメーカーのミスって本来便利に使えるんですけれど。
けれどワールドトリガーの、特に大規模侵攻戦って、「誰もミスらしいミスをしてない」んです。これ凄い。「敗因」がない。相手をひきつける役はひきつける役で、ちゃんと戦略上での得点を挙げてる。それでも、随所随所で相手の仕事を上回る仕事をするキャラクターがいて、結果として「ピンチからの逆転」で主役側が勝利を収めている。
こういう展開をきちんと描ける人って、そうざらにはいないんじゃないかと思います。
勿論、上で書いた通り「味方の足を引っ張るキャラ」って物語展開上は凄い有用な要素ですし、私自身はそんな嫌いでもないんで、「そういうキャラがいない方がいい」ってことは全然ないんです。いていいし、使われていい。
けれど、「そういうキャラが全くいない」上で「ちゃんとした逆転」を描いている、ワールドトリガーってのはつくづく凄い作品だなーと、ついベタ褒めしたくなった次第なわけです。
繰り返しになりますが、葦原先生の一刻も早いご快復を祈念しております。
今日書きたいことはそれくらいです。
頭悪いキャラ探す方が難しいのでは。
頭悪いキャラ探す方が難しいのでは。
失敗を説得力ある形で描けるのかなと気になったが
それどころではなくなった