いきなりで申し訳ありませんが、今から皆さんに「ドンキーコングJR.の2面が結構すごい」、という話をしようと思います。
皆さんご存知の通り、ドンキーコングJR.は「ドンキーコング」の続編として開発されたアーケードゲームであり、1983年7月15日、ファミコンの同時発売タイトルの一つでもあります。アーケードのドンキーコング時点では、まだ主人公に「マリオ」という名前がついていなかったところ、アーケードのJR.時点で正式に「マリオ」がネーミングされた、という歴史的な一作でもあります。
最近だとGCどうぶつの森のファミコン家具でも登場していたそうで、たぶん遊んだ人が多いんじゃないでしょうか。
で、ドンキーコングは勿論任天堂の大ヒット作であって、取沙汰されることも多いメジャータイトルなんですが、JR.の方はドンキーコングに隠れがちというか、あんまり目立たない立ち位置だと思うんですよね。けど、実際遊んでみるとドンキーコングとは全く違う方向性のことをやっていて、特にそれが2面に凝縮されていると私は思っているので、その話をします。
これがドンキーコングJR.の1面です。
上の方にマリオがいて、コングがつかまっていることが目を引くと思います。このゲーム、マリオが下積み時代に悪役もやっていたということで有名でして、ドンキーコングの息子であるドンキーコングジュニアがコングを助けにいく、という筋書きになっています。初代ドンキーコングですごい頑張ってコングをやっつけてレディを取り返したのに、次回作でこの仕打ちっていうのは、マリオも結構理不尽な扱いをされてると思います。ヒーローにも下積みが必要なのです。
で、ですね。「ドンキーコングJR.」を遊んでいる時のプレイヤーの体験、という話なのですが。
画面を見てもらえばわかると思うのですが、ドンキーコングJR.の1面において、プレイヤーはほとんど「ツタの上り下り」という行動に終始することになります。
ジュニアは、ツタを登ったり下りたり、横のツタに移動したりしながら、マリオがけしかけてくるケイブシャーク(これは私が勝手に呼んでいるだけであって、実際の名前はスナップジョーです。けどこいつケイブシャークじゃね?)を避け、画面上部のコングのところを目指します。
この時、「両手で左右のツタをつかむと、一本のツタをつかんだ状態より速いスピードで登れる」というギミックがありまして、ここでプレイヤーはリスクとリターンの概念を学ぶことになります。
両手を使って上るとスピードが速くなるけれど、左右に当たり判定が広がっている為に、ケイブシャークにかまれやすくなる。片手を使うとスピードがのろいけれど、ケイブシャークを避けやすい。
つまり、リスクがある行動で素早く目的地にたどり着くか、リスクを抑えて安全に目的地にたどり着くかという切り替えを、プレイヤーにごく自然に学習させる作りになっているのです。ここだけでも、ドンキーコングJR.の深さにはなかなかバカにならないところがあります。
一方、「ジャンプ」という操作は1面時点では中核ではなく、どちらかというと補助的な役割になります。ツタに飛びつくために使う、って感じですね。これは、「上り下りという操作は存在するが、飽くまで補助的な役割であり、中核となる操作は飽くまでジャンプ」というドンキーコングと通じるところがあります。
で、2面の話です。
これがドンキーコングJR.の2面です。
これですね、「画面の色んなところで、なんかごちゃごちゃしたものが色々動いてる!!」ってだけで、ドンキーコングJR.のワクワク感って凄いものがあると思ってるんですけど。
ドンキーコングJR.の特殊なところは、どういうわけかここでいきなりゲームが広がりまくるところです。別の言い方をすると、「さっきまではドンキーコングの続編だったのに、なんかいきなり新作アクションゲームになった」ということになります。
二面を見て頂けると、ステージが4つのエリアというか、4つの全く違ったギミックで構成されていることが分かると思います。
まず、左下にあるのがジャンプ台エリア。ここでは、ジュニアをジャンプさせて、右下のエリアに安全に移動することが第一目標になります。タイミングよくジャンプすると、中段の移動ロープエリアにショートカットすることもできます。
右下にあるのが移動する足場と鎖エリア。ジュニアは、足場から落っこちないように注意深くジャンプしながら、中段エリアの移動ロープにつかまろうとします。時々、上で飛んでいるニットピッカーが卵を落としてくるので、それを避けるというのも必要な操作になります。
中段が、移動ロープと小さな足場のエリア。移動ロープは長くなったり短くなったりするので、プレイヤーはうまいこと長くなっているタイミングで移動ロープにつかまって、左側に移動しなくてはいけません。
上段が普通のツタとニットピッカーエリア。マリオがけしかけてくるニットピッカーを上下に避けながら、最上段を目指すエリアです。ここの操作は1面に近いですが、上から襲ってくるケイブシャークに対して、ニットピッカーは横から一直線に襲ってくるという違いがあります。
お分かりいただけるでしょうか。この面、エリアごとに気にしなければいけないこと、考えなければいけないことが全く変わるという、むしろスクロールアクションに近い構成になっているのです。しかも、1面では「ツタの上り下り」という一つのアクションをひたすら突き詰める感じになっているのに、2面では「序盤はジャンプ、中盤以降はツタ」という形で、中核となるアクション自体が全く変わります。
つまり、「プレイヤーに必要なスキルが、2面の序盤でいきなり変わるうえ、一つのステージの中でも序盤と中盤以降で全く違う」ということが起きているのです。
プレイヤーは、ゲームを遊んでいる内に、その場面場面で必要となるスキルを自然と身に着けることになります。任天堂のゲームってそれが全体的にすごく巧みでして、「ゲームを普通に遊んでいるといつの間にか上手くなってる」というのが味の一つだと思うんですが、ドンキーコングJR.についてはそれがちょっと異質だなと。「1面で手に入れたスキルが、2面の当初は役に立たない」って、任天堂にしてはかなり特殊な面構造だと思うんですよ。
初代ドンキーコングもそれに近かったですが、ゲーム黎明期のアクションゲームというものは、どちらかというと「一つのギミックが画面の中に複数配置されていて、それをタイミングや限られたアクションでどんどんクリアしていく」という構造のゲームが多数派でした。
そんな中、「一つの面の中に色んなギミック、色んなバリエーションをいきなりぶち込んでくる」というドンキーコングJR.の2面は、ファミコン最初期という時期を考えると、相当特殊なことをやっていたと思うのです。ひとつの固定画面の中にバリエーションを作りこむ、という点では、任天堂が当時から得意としていた「ゲーム & ウォッチ」に近いところもあります。
ちょっと大げさな言い方をすれば、家庭用ゲームにおける「ステージの途中でのアクションの展開」というもののルーツがドンキーコングJR.にはある、とまで言えるのではないか、と私は思っているのです。
正統派固定画面アクションゲームであるドンキーコングに対して、「画面内に配置された色々なギミックを楽しむ」「ゲームのアクションが面の途中で全く変わる」というドンキーコングJR.。この二つを、ファミコンという新ハードの同時発売タイトルに両方ぶち込んでくる任天堂の戦略は、今から考えても面白いなーと思った次第なわけです。
今日書きたいことはそれくらいです。