そのとき、記者は逮捕された
どんなもんだろうか、これ。
考える所は色々あるのだが、コメント欄でも結構話が進んでしまっている。またしても乗り遅れ。おのれ。
まず脳内整理。多分この話の論点はざっくり二つに絞れる。
・この「取材活動」が逮捕の対象になったこと
・会社が記者をかばわずに警察の言い分を聞き、また対外的な発表も行わなかったこと
以上二つが果たして理にかなっているかどうか、という話になるのだろう。まあ、コメント欄その他で語られていることのなぞり直しになってしまうかも知れないが、ちょっとばかり所感をまとめてみたい。まあ、そもそも高田氏のエントリーに書かれている内容だけでことの是非を判断するのは多少無理がありそうな感もあるが。
まず一つ目について。コメント欄で高田氏自らが話されているが、確かに「誰かが誰かを訪ね、呼び鈴を押しただけで警察に連行され」たのだとしたら間違いなく異常な事態だと言えるだろう。
だが、こと「取材活動」という言葉がある限り、「ただ呼び鈴を押しただけ」では基本的に収まらない。根拠は何かというに、「呼び鈴を押しただけ」で会社に戻って「取材できませんでした」とか報告したら、多分その記者さん上司に怒られる。
大体以下の様に言われるんではないか。
「バカかお前、そんなもんで引き下がってニュースが取れる訳ねえだろ!食いつくんだよ、取材ってのは綱引きなんだから、無理矢理でも相手からニュース種を引っ張り出さなきゃいけないの!それがオレらの仕事だろうが!」
この言葉、一言一句そのままじゃなかったとは思うが、実際に私が自分の耳で聞いた台詞だ(言われた対象は私ではないが)。怒られた側は新人の記者さん。まあ、5年以上前の話だから風向きも変わっちゃいるかも知れないが、基本的にはこーゆー方針が一般的な取材方針なのではあるまいか。まあ、確かに一回チャイム押して相手が出なければ帰る、というのでは、特に週刊誌記者辺りは仕事にはならんだろう。
で、この辺りでメディアの感覚は一般人のそれとずれる。
記者が玄関のインタホンを押したが、返事がない。そこで、しばらくインタホンを押したり、少し中を伺うようにしていたという。
思うに、これを「疑問の余地なく合法」と考えてしまう時点で、ガ島さんおっしゃるところの「記者の意識レベル」に少々問題があるんではないかと思う。一民間人として、取材対象がどう感じるかという感覚が抜けている。見知らぬ人がインターフォン何度も押してきたり窓を伺ったりしていれば、一般的な人はどう感じるか。警察呼ぶだろ、普通に。「取材」であればこれくらい許されるという意識がある時点で、そもそもコレ、感じ方が違うのだ。
まあ、「ンなことまで気ぃ使ってちゃあ仕事になんネ」という意識はどうしようもなく存在するのだろうし、実際それはある程度正しいとこだからしょうがないと言えばしょうがないのかも知れないが。ただ、自分を客観視して、一歩間違えば逮捕され兼ねないことをやっちゃあいないか、というのは絶対に必要な感覚ではあるまいか。これ、メディア人だろうがそれ以外の人だろうが関係ない。
ここでもう一つの問題。
その記者は警察担当であり、いわば「仲間意識」で警察官に事情を話し、記者証(通行証)も提示した。
完全に「被疑者」としての扱いである。「帰ろうと思えば帰れたと思う」と記者は振り返るが、一方で「それを言い出せる雰囲気ではなかった」とも言う。
メディアはいつから超法規的な存在になったんですか、という所感。
この「仲間意識」というのが実際どれだけのものなのか分からないが、この描写をある程度鵜呑みにするとしたら、これこそがマスコミの「倫理欠如」の元凶と言ってしまっても言いのかも知れない。つまり、自分達を体制の側、「多少のことは許される」側と同一視している。報道という錦の御旗の元に立つ勇者様だ。まあ実際民主主袖に報道は必要不可欠なのであって、自分達のことを「民主主袖に殉じる報道戦士」とか考える意識が多少はあるのかも知れないし、そーゆー意識がある記者さんの方が(方向性はどうあれ)いい仕事をするのかも知れないが。
正直、部外者からすると少々気味が悪い。自分を正袖だと信じきっている人の言論程厄介なものはない。
二つ目にいこう。
・会社が記者をかばわずに警察の言い分を聞き、また対外的な発表も行わなかったこと
こっちはどんなもんだろうか。
書いて頂いている内容だけでは正直良く分からん。が、「警察の申し入れをマスコミが唯々諾々と受け入れた。メディアの自主規制だ、体制との癒着だ、民主主袖の死だ」と無条件にいきり立つところじゃねえだろう、とは思う。
前企業利益追求とマスコミ批判について。でも書いたが、メディアは企業である。利益追求が企業としてのマスコミの袖務であり、自社の利益の為に人を使うしものも使う。
「メディアが事実を隠す」ということが問題なのだ、という理屈は、まあ、分からんではない。だが、個人的にはこれ、例えば三菱ふそうとかの諸事情隠蔽と何が違うの、とも思う。企業が何かを隠すとしたら、そりゃ自社に都合が悪い部分が多少なりとあった場合だ。
マスコミと警察との癒着、というと言葉としてはショッキングである。が、マスコミは警察の言いなりではない。むしろ警察内の不祥事は大喜びで報道する。警察のお偉いさんが事件の最中に麻雀やってたことが何度明るみに出されたか分からないではないか。まあ、報道されないことは報道されないが(パチンコ業界の話とか)
今回の場合、提示された情報だけを見るところ、私なら「ああ、なんか明るみに出るとやべえことがあったのかな」と判断する。もうちょっと言ってしまうと、「今の世間の雰囲気で、取材行き過ぎで記者逮捕とかバれるとやべえ」とかその程度の理由なのではないかと、個人的にはそう見える。ことは警察からの圧力が云々以前の問題である。
まあこの企業姿勢が倫理的に正しいかというとそうでもない筈だが、それはまたちょっと別の問題である。勿論詳細までは踏み込めないが、この前のJR西の報道でも結構わいのわいの言われている時勢だ。風向きを見る必要がある、とでも判断された部分があったんではあるまいか。まあ、単なる推測だが。この点、一つ目の問題とは明らかに別の構造だ。
所感、大体以上の通り。
ともあれ、書かれている情報だけでは正直判断出来ない部分が多すぎる。ちょっと私も、コメント欄の動きなり高田氏の追補なりを待ちたいと思う。