2018年01月31日

インターネットでは言いたいことが言えるけど、殴ったら殴り返される

この増田を読みました。


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先日、どこかの掲示板にプロ野球選手の嫁をブスだと書きこんだOLが名誉毀損で訴えられてニュースになった

これはもうインターネットに気軽に書き込むことが許されなくなるってことだろうなと思った
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また、ネットは道徳に縛られない考えを書き込むことで発想に広がりが出る場所だとも思っていた

ディベート的な議論において道徳ってほんと邪魔なんだけど、現実の日本だとそれは難しい

ネットならそれが出来たけど、もう無理だろうな

インターネットが開かれた空間になり、テレビと同じ空間になり、相互監視になり、モラルの押し付けと言葉狩りが強化された

増田と言えどもどこから訴えられるかわかったものではない

僕らはすべての発言に責任を持たなければいけなくなったし、道徳に目配せして書き込まなければいけない

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で、ちょっと問題を切り分けたい欲求が働きました。切り分けちゃうぞおじさんです。

まずこの増田は、もしかしたら意図的にかも知れないんですが、二つの問題を混同して語っているような気がするんですよ。

・「ブス」といった罵倒が名誉棄損として訴えられるようになったこと
・webにおける言論が道徳的なものに縛られるようになってきたこと

それぞれの項目が事実として妥当なのかどうかはともかくとして、仮に妥当だったとしても、この二つの事項は全然別の話です。

まず一つ目については、これはごく単純な話で、「誰かを殴ったら殴り返される可能性があるよね」というだけのことです。これに道徳とか関係ありません。

私、件のプロ野球選手の話は観測してませんでしたけど、誰かに「ブス」と言ってそれが訴えられたとしたら、それはその発言が非道徳的だったからではなく、その発言が特定の誰かをぶん殴る発言だったからです。幾ら非道徳的であったとしても、ターゲットを取らないのであればそれが名誉棄損になることはありません。

そういう意味では、

・SNS等によって、誰かを殴る発言が可視化されやすくなったこと
・名誉棄損などの裁判についての情報が広まって、心理的に訴えやすくなったこと

という二点による影響はもしかしたらあるかも知れず(全然検証してませんが)、その点で「名誉棄損などで訴えられやすくなった」ということは妥当なのかも知れないですが、それは根本的にはインターネットによる影響ではありません。単に「殴っているのが見つかりやすくなった」というだけの話です。インターネット以前の世界であっても、罵詈雑言が履歴に残って可視化されれば訴えられていたでしょう。

私自身は、人を殴っておいて、殴った側が「殴っただけなのに殴り返されるなんて!」と騒いでいる世界はあまり愉快だと思えないので、この風潮は別に悪いことじゃないんじゃないかなーと思っています。殴るんなら殴り返される覚悟はしとけよ、って話です。


で、それとは別の問題として。もう一個の話についてですが、

罵倒させろという意味ではありません。ディベートの態度ではなく、論理の展開に道徳によるブレーキが必要ないという話です

  人前でディベートをするとなると、道徳的に疑われるような仮説を引っ込めなければなければなりません

  ディベートだからと言っても現実ではある程度のコードがあるわけです

これとか、これ以降に続く議論の例についての話なんですけど、そういう「非道徳的な発言」ってしにくくなってますかね?

誰かを直接的に殴っていない限りにおいて、単に非道徳的な発言をしただけで訴えられているケースって、少なくとも私は知らないです。あの人もその人も、めっちゃひどい発言たくさんしてるけれど、少なくともそれだけで訴えられてはいないですよね?

勿論、非道徳的な発言をすることで発言が炎上したり、あるいは(私が今書いているこの記事のように)発言に対する突っ込みが飛んでくるケースってのは勿論ありますし、それはもしかすると昔より増えているのかも知れないですが、

インターネットが開かれた空間になり、テレビと同じ空間になり、相互監視になり、モラルの押し付けと言葉狩りが強化された

増田と言えどもどこから訴えられるかわかったものではない

増田が気にしているのは「訴えられること」なんですよね?であれば、別に愚痴やら非道徳的な発言やらであっても、具体的な対象をぶん殴っていない発言であれば、書き込むだけなら誰からも訴えられることはないと思うんですが…。「こいつは殺人を肯定している!名誉棄損だ!!」とか言って訴えられてるケースって、どこかで見たことあります?

 その他の発言についても締め付けが厳しくなり、客観性のない発言や、客観的でも誰かを傷つけると判断されれば

  名誉毀損で訴えられる可能性が強くなったという趣旨です
増田は追記でこうも書いていますが、これもちょっとあんまり妥当だと思えません。要は、客観的な発言であっても、「その発言によって俺は傷ついた!」と言い出す人がいるかも知れない、それによって訴えられるかも知れない、という話ですよね?

この話のトリガー自体が、「具体的な人物に対する「ブス」という発言が訴えられたこと」であって、そこから「具体的な対象をとらない雑な発言が訴えられること」の間には相当な距離があります。少なくとも、増田が心配しているような、「非道徳的な発言が出来なくなる」という問題と、この話が即結びつくことはないんじゃないかと。



勿論、いわゆる「炎上」というものは、受けてしまった側にとっては大変なストレスですし、そういうストレスを受けてしまう機会が増えることによって発言しにくくなってしまう、というケースはもしかするとあるのかも知れません。それは否定しません。

先日でも、童貞いじりがどうとかで大炎上してた人が色々騒いでましたよね。あれは、発言した人にとってみれば「この程度の発言で炎上するなんて」という意識だったのかも知れません。

ただ、
  しかし非道徳的な言論が許されれば以下のような議論もできます

  A 「絶対にバレないLINEグループ等なら自由に言っても良い」

  B 「それはバレなければ赤信号を渡ってもいいという理屈ではないか」

  A 「その通りだ。事故が起きるか起きないかが問題なのだ。来もしない車を待つことに何の意味がある」

  B 「ルールというものは、個別に存在するのではない。共同体の価値観に敬意を持てるかどうかが大事なので、小さな例外も認めるべきではない」

この例が適切かどうかはともかくとして、こういう「非道徳的だけど冷静」な議論自体は別に全然しにくくなっていないんじゃないかなあ、と感じてはいます。ちゃんと議論立てが出来ていさえすれば、それが無秩序に炎上することってむしろ殆どないような気がするんですよ。


強いていうと、「脇が甘い、雑な発言は炎上しやすくなった」という辺りが、現状の論評としては一番妥当なのかも知れず、そういう意味で「雑な発言をネットに書き込みにくくなった」と嘆くのであれば話は分かります。実際、そういう側面はあるような気がしますし、どんな発言がどういう経緯で炎上するか予測しにくい部分もあって、もう少し炎上に至るまでのマージンというか、余裕みたいなものはあってもいいんじゃないかなーと感じます。

ただ、それ自体は多分「ブス」発言が訴えられることとは全然別次元、別トリガーの問題なので、別建てで考えた方が良いような気がしてなりません。



まあ、犯罪自慢とか殺人予告とかそういうアレならともかくとして、単に脇が甘い発言をして炎上するだけなら別に死ぬ訳でも無し、webにおける立場が悪くなることすらそれ程ないので、増田にせよ私にせよ、深く気に病むことなくバンバン脇が甘い発言をして、適度にこんがり焼けてればいいんじゃねえの、と思った次第なのです。


今日書きたいことはそれくらいです。

posted by しんざき at 08:07 | Comment(1) | 雑文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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この記事へのコメント
主張する機会は増えたものの、主張のしかたや議論のしかたを知らないということも炎上を招きやすい一因だと思います。
『NHK高校講座 ロンリのちから』といった、批判的思考力を磨くのに良い教材はあるんですけどね...
Posted by at 2018年02月05日 02:22
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