いや面白いんですよこれが。以前からおもしれーおもしれーとは言っていたんですが、特にここ数カ月の展開がより面白さにブーストかけてきてまして、今連載している週刊漫画の中では、個人的なトップ3に入ってきました。
ということで、今日はアオアシの面白さについてつらつら述べさせて頂こうと思うわけです。多少ネタバレが混じるのはご容赦ください。
アオアシは、ビッグコミックスピリッツで連載しているサッカー漫画です。数あるサッカー漫画の中でも、プロチームの下部育成組織である「ユースチーム」を描いていることが特徴です。
主人公の青井葦人は、愛媛の公立中学でサッカーをやっていたところ、粗削りの才能を「エスペリオンFC」ユースチーム監督の福田に見いだされ、紆余曲折の末エスペリオンのユースチームに参加することになります。そこで彼は、様々なプレイヤーとぶつかり合い、時には協力して、チームと自分自身を成長させていくことになります。
アオアシの基本的な展開が、「才能はあるが洗練されていない主人公の成長と超克の物語」であることは間違いありません。「粗削りな才能を徐々に磨いていき、周囲に認められていく主人公」という筋書きは、スポーツものにおいて一つの王道です。何度か書いている「さすが」と「まさか」の面白さでいうと、バランス的に「まさか」に寄った筋書きですよね。
手前味噌で申し訳ないですが、ちょっと以前書いた記事から引用します。
「まさか」のカタルシスというのは、要するに逆転のカタルシスだ。最初周囲から見くびられていた主人公が、「まさか」と思われる中強敵を倒すことによる気持ちよさ。弱かった主人公が、努力して超強くなる気持ちよさ。大ピンチに陥った仲間チームが、「まさか」と思われる大逆転をして勝利を収める気持ちよさ。まあ戦闘もの少年漫画なんか、最終的には予定調和的に主人公が勝つものが大多数だとは思うけれど。それでも、そこに至る「まさか」という気持ちよさを演出するのは作者の腕の見せ所であり、この気持ちよさの大小がその漫画の面白さに影響する部分は大きいと思う。
ただ、アオアシの面白いところは、そこだけの話ではなく。いやむしろその「まさかのカタルシス」というのは副次的な話でして。
この漫画、「主人公の成長と覚醒具合」がすっごい絶妙なんです。
主人公のアシトは、地元の中学サッカーで無双出来る程度の実力は最初からあるのですが、きちんとした練習をしたことがなく、ユースチームの中ではフィジカルも技術も全然ダメな部類です。パス回しも苦手なら、ドリブルもフェイントも勿論いまいち。
で、この漫画の凄いところは、「その弱点については安易に成長しないし、解決しない」んですよ。
勿論、アシトのテクニックも全く成長しない訳ではなく、元来サッカー練習についてはひたむきなアシトは、色々試行錯誤してテクニックを身に着けようとしていくわけで、それも多少は実を結ぶんですが。ただ、テクニックはそんなに急に成長したりはしないし、フィジカルはそもそも根本的に解決しない。「フィジカル強い選手に当たったら当たり負けるよ」というのはどうしようもない訳です。
ではアシトはどういう側面で成長・あるいは覚醒するのかというと、それは「視野と戦術」。
実はアシトには、「物凄い視野の広さ」という潜在能力がありまして、それこそフィールド上のありとあらゆる動きを拾い上げて、的確なボールの動かし方を考えることが出来るのです。
まずはここの、いわば「覚醒具合」が凄く絶妙で面白い。当初は戦術も分からなければ、自分の能力の意味にも気づいていなかったアシトは、技術面で散々苦労しながらも、色々なきっかけで自分の能力を活かせるようになっていき、周囲もアシトの視野の広さやコーチングの的確さに気付き始めます。これについては本当に少年漫画的で、様々な場面で絶妙なカタルシスがあります。「こいつ、只者じゃないな」と主人公が周囲から評価されていくのは、それこそ「まさか」のカタルシスの王道です。
一方で、テクニカルやフィジカルの問題は全然解決していないというか、周囲のレベルの高さに比べればアシトは素人同然なので、アシトは相変わらず色んな点で苦労しますし、そこから這い上がろうとあがきますし、少しずつ成長していきます。こちらの練習や成長具合については、凄い描写や展開がリアルなんですよ。それこそ普通のサッカー少年の世界。
いってみれば読者は、「少年漫画の主人公としての成長」と、「普通のサッカー少年の成長」を同時並行で読めるわけです。両方味わえて面白さ二倍。ここが多分、私がアオアシを面白いなーと感じるところの根本的なポイントだと思います。
また、主人公のアシトのキャラクターもとても良い。劇中当初は「才能頼りで調子に乗る俺様キャラクター」的な描写もあるのですが、自分のテクニック不足、フィジカル不足については彼、とにかく自覚が速いし、そこから逃げないんです。どうすれば克服できるか?どうすればそれをカバーできるかを真剣に考えるし、躊躇なく他人に頭を下げて教えを乞うし、適切なアドバイスはきちんと受け入れる。スポーツ漫画の主人公としてとても好感が持てます。
周囲のキャラクターもいい味を出してるキャラばっかりで、特にユース監督の福田は、アシトの特性を最初の時点から読み切って、劇中中盤でアシトに対して重大な選択肢を提示します。これもまた、サッカー漫画として「そうくるか」という物凄い展開でして、是非実際に読んで確かめて頂きたいと思うわけですが、まあ福田さんの「出来るヤツ」感物凄い。
アシトのサッカー仲間も、例えば当初アシトに当たりがキツかったり、色々衝突したりもするんですが、根本的にはいいヤツばっか感がありまして、その辺打ち解けていく描写も素敵だと思います。最近だとAチームの桐木の「変な名前。」が名言だったと思います。
まあ阿久津さんはなかなかデレないというか、アシトを敵視する悪役ポジションを保持しているわけですが、なにせアシトがとにかくひたむきなのでその内色々あるんだと思います。
あとヒロインがとてもかわいい。メインヒロインは多分二人いまして、
一人はエスペリオンの親会社である「海堂電機」社長令嬢である杏里、通称お嬢。普段冷静な語り口なんだけど、特にアシトが絡んで活躍したりするとあっさり冷静さをかなぐり捨てて盛り上がるのがかわいい(かわいい)。サッカーFCの監督を志しているキャラクターでもあり、サッカー知識も豊富でありながら劇中の他キャラクター程ではなく、読者視点での解説役になったりもします。
あと、お嬢よりもアシトとの付き合いが長い一条花。諸事情で上の画像ではぶすっとしていますが、スポーツ栄養士を目指している女の子で、こちらも衒いなくアシトを応援するキャラ。感情表現が素直でとてもかわいい(かわいい)。
目下、本誌ではこれまた超熱い展開になってきておりまして、アシトがAチームの試合に出ることになりそうでおいおいこれどうなるんだ、的な素晴らしい熱量なので皆さんにも紹介したくなった次第です。皆さんよかったらアオアシ読んでみてください。後悔はさせません。
今日書きたいことはそれくらいです。
スピリッツに目を通してるなら人気は掴め無かったけど夕空のクライフイズムの突破口に着目すべきだった、と惟うんだけどね、今はピーチでいちゃらぶしてるけどさ。 まあ、雨上がりを絶賛する気色悪さを見せ無かった点は高評価。
もし未読であれば、作者の小林有吾さんのデビュー作である「水の森」も超オススメですよ!全3巻で読み易いですし、練られたストーリー展開が素晴らしい。
何より登場キャラクターに全員に味があって、それはアオアシにもしっかりと引継がれてるなぁと思います。