地球上において恐らく5人くらいにしか需要がない話をします。
皆さん、ゲームブックやってました?「にゃんたんのゲームブック」のような絵本ちっくな奴から、双葉社のファミコンゲームブックシリーズ、ローンウルフみたいなハードな奴、送り雛みたいなウォーロック系まで、昔ゲームブックって結構流行りましたよね。
何度か書いていますが、しんざきはゲームブック文化においても極めて創元ゲームブックに偏っている男でして、ドルアーガ三部作やネバーランドシリーズ、ソーサリーや展覧会の絵などが心のバイブルです。あと社会思想社のゲームブックも少々。火吹き山とか死の罠の地下迷宮とかバルサスの要塞とか、有名どころは一通りやったと思います。
今まで、「ゲームブック半里を往く」シリーズで、いろんなゲームブックについて思いつくまま書いています。一年に一回くらいの頻度ですが、気がむいたら読んでみてください。
で。ただでさえ需要がレアなゲームブック話の中で、更に範囲が限定されたテーマなのですが、今日はゲームブック、特に創元ゲームブックにおける「魔法」「呪文」の処理について書いてみたいと思います。
〇ゲームブックにおける「魔法」のお話
皆さんご承知の通り、ゲームブックは元よりD&Dの流れをくむものです。スティーブ・ジャクソンやイアン・リビングストンが、「本でRPGができたら面白いんじゃねーか?」という思いつきを実現してしまったのが「マジック・クエスト」、更にそれを元にした「火吹き山の魔法使い」です。厳密にゲームブックの原型というともうちょっと話は遡れるのですが(Choose Your Own Adventureとか)、現在の形のゲームブックという意味では、火吹き山を直接の祖先と言ってしまっても特に問題ないでしょう。
で、当然のことながら、D&Dを代表とするTRPGの世界はファンタジー世界でして、魔法は花形とも言える存在です。様々な魔法を駆使して色んな事態を打開するマジックユーザーを、ゲームブック上でどう実現するか。スティーブ・ジャクソンを始めとする色んなゲームブック作者が、当時「魔法をどうゲームブックに導入するか」を考えた筈です。
ただ、魔法をゲームブックに持ち込むにあたっては、一つ大きな問題がありました。本なんだから当たり前の話なんですが、「魔法の結果は文章として記載されなくてはいけない」ということです。
TRPGやコンピューターRPGと違って、ゲームブックは飽くまで本です。ゲームの中で何かしらの魔法を使ったとして、TRPGであればゲームマスターが、コンピューターであれば処理システムが、プレイヤーにその結果を教えてくれます。
ところが、ゲームブックの場合、基本的には「結果を読む」という形をとらないと、プレイヤーは魔法の結果を知ることが出来ないわけです。つまり、TRPGと同じことを普通にやろうとすると、「魔法を使える場面 × 魔法の数」の結果を書かなくてはいけなくなる。
ゲームブックには項目数の限界というものがあり、そこまで多くの項目は処理できません。じゃあどうするか。
代表的な解決法は二つあり、創元っ子の私はそれを「ソーサリー型」と「ネバーランド型」と呼んでいます。
〇選択肢提示型の魔法処理(ソーサリー型)
つまり、「ある場面で使える魔法の種類を限定してしまって、それを選択肢として書いてしまう」というやり方です。これは、ゲームブックに魔法を持ち込むときの、最もポピュラーな手法である筈です。
私の大好きなソーサリーで言うと、魔法を使える場面では、こんな感じで選択肢が出てくるわけです。
「FOFを使うなら→ 645へ、HOTを使うなら→302へ、TELを使うなら→12へ進め」
実際はもうちょっと簡素に書かれてるわけですが。こうすることによって、一度の魔法使用機会で必要な結果セットの数を抑えて、選択肢が無限に増えてしまうことを防いでいる、という訳なんですね。
ソーサリーのうまいところは、
・呪文のスペルは共通してアルファベット三文字
・呪文の種類自体はすごく豊富(48種類)
・けれど、「ゲーム中では呪文の書を読んで効果を確認してはいけない」という縛りがある(最初に呪文とその呪文の効果を覚えないといけない)
という要素を組み合わせることで、「色んな魔法を使いこなせる」という楽しさはちゃんと確保した上で、「記憶を頼りに最適の選択肢を考えないといけない」というゲーム要素もちゃんと成立させていることです。「あたり」の呪文とは別に、その場面では使えなかったり、あるいは全然スペルが違うといった「はずれ」の選択肢もちゃんと入っているわけです。
これまた、呪文のスペルも結構紛らわしいのが多いんですよね。FARとFALとか。FOFとFOGとか。まあ英語がわかればなんとなく推測出来るものも多いんですが、子どもにはまぎらわしい限りでした。
これと同じ手法をとったゲームブックは創元でも数多く、
・ドルアーガ三部作
→ソーサリーとシステムはほぼ同じ。ギルはもともと魔法使いではないので、魔法の情報は途中で集めないといけない。罠選択肢として「MUALA」があり、普通に使うと体力を大量に失うだけの自爆呪文だが、最後の最後に滅茶苦茶熱い展開がある
→ソーサリーとシステムはほぼ同じ。ギルはもともと魔法使いではないので、魔法の情報は途中で集めないといけない。罠選択肢として「MUALA」があり、普通に使うと体力を大量に失うだけの自爆呪文だが、最後の最後に滅茶苦茶熱い展開がある
・魔王の地下要塞、ファイアーロードの砦
→10種類の魔法が使える。冒険中の魔法は選択肢型だが、戦闘中の魔法はシステムとして処理されるので項目数が少ない、という工夫がある
→10種類の魔法が使える。冒険中の魔法は選択肢型だが、戦闘中の魔法はシステムとして処理されるので項目数が少ない、という工夫がある
・ドラゴンの目
→12種類の魔法が使えるものの、全て一回使い切り。選択肢型だが、ゲーム中の扱いはアイテムに近い。炎のトラがけなげでかわいい。
→12種類の魔法が使えるものの、全て一回使い切り。選択肢型だが、ゲーム中の扱いはアイテムに近い。炎のトラがけなげでかわいい。
・スーパー・ブラック・オニキス
→シモンが魔法を使えるが、ほぼ戦闘時のみ。
→シモンが魔法を使えるが、ほぼ戦闘時のみ。
・暗黒の聖地
→紅蓮の騎士の続編。「腕輪」を入手することで魔法が使える、「魔力」が腕輪を持てる上限となるユニークなシステム
・眠れる竜ラヴァンス
→シンプルな選択肢型。2巻はいったいいつ出るのか
→シンプルな選択肢型。2巻はいったいいつ出るのか
このあたりは代表的なところでしょう。
コンピューターゲームでも、別にあらゆる場面であらゆる呪文が使えるわけではないので、この「選択肢を提示する」というのは、ゲームブックに魔法・呪文を持ち込むうえでの一つの最適解だったかもしれません。
それに対して、もう一つの潮流として「選択肢非提示型」の魔法システムというものがありました。
〇選択肢非提示型の魔法処理(ネバーランド型)
こちらは、「魔法を使うときの飛び先を決めておいて、魔法使用時のジャンプ処理をプレイヤーにさせる」というシステムです。
どういうことかというと。
例えば、主人公が「自分の体を縮める」という魔法を使用出来るアイテムを冒険中に手に入れたとします。そのアイテムには、「36引け」という文が書いてあります。
「ここで魔法を使用してもよい」という記載があったとき、プレイヤーはその時の項目から36を引きます。すると、「自分の体を縮める」という魔法を使うことが出来、とんだ先でその魔法を使った結果が読める、というわけです。
このシステムにはどんなメリットがあるかというと、
・魔法使用機会ごとに全部の魔法を使うことが出来る、基本的に選択肢という制限がない
・どんな魔法があるかを「秘密」に出来る(あてずっぽうの魔法使用を防げる)
・魔法の入手をご褒美イベント、パワーアップイベントに出来る
これくらいが代表的なところだと思います。ただ、「使える魔法の数が基本的には少なくなる」「「正解」の選択肢は限られる」というデメリットはあります。
このシステムを載せた代表的なゲームブックが「ネバーランドのリンゴ」と「ニフルハイムのユリ」でして、私この二作大好きなんですけど、その理由の一つにはこの魔法システムがあります。また、「ワルキューレの冒険」三部作と、「ドラゴンバスター」も同じようなシステムをとっていたと思います。
〇奇跡の魔法使用システム、「パンタクル」
ところでここに「パンタクル」というゲームブックがあります。鬼才・鈴木直人先生作。「ドルアーガの塔」三部作で登場した天才魔法使いメスロンがスピンオフ登場して活躍する、創元ゲームブックの中でも特異な立ち位置のゲームブックです。
このゲームブックの魔法システムがそりゃもうものすごくって、一言で言っちゃうと「選択肢提示型と選択肢非提示型のいいとこ取り」なんですけど、20種類近い魔法が存在するというのに、「すべての魔法使用機会ですべての魔法が使える」というとんでもないことを実現していたんですよ。
どう解決しているかというと。
全ての魔法には、「この魔法を使う時は×××に進む」という、それぞれの共通処理番号が設定してあります。
で、その飛び先で、「項目番号×××でこの呪文を使った時は、〇〇〇に進む」という、「全ての魔法使用機会について」の処理結果テーブルが記載されています。(効果があるときだけではなく、「何も起こらなかった」もちゃんと処理してある)
このシステム本当に本当に物凄くって、
・魔法を使う時の制限というものが基本的にない、どの場面でも、どんな魔法でも使うことが出来る
・けれど、きっちりと「当たり」「外れ」の選択肢は設定されている
・「この場面を解決するにはどの魔法を使えばいいか」をきっちり考えることが出来る
・処理項目番号が集約されていることで、項目番号はそこまで増えない
・新しい魔法を手に入れて選択肢を増やすことも出来る
と、もう端的に言ってメリットしか存在しないんですよ。コンピューターRPGでの魔法システムを、ほぼそのままゲームブックに移植したと考えることも出来ます。
メスロンはそもそも天才魔法使いなので、そんなメスロンが数種類の魔法しか使えなかったらおかしい。けれど、ちゃんとゲームブックとしては成立させないといけない。
そんな要件を現実化させるのに、このシステムは「最適」というにふさわしかったと思います。正直、このシステムだけでこのゲームブック、十分歴史に残ります。
デメリットとしては、「(多分)作る側、デバッグする側が死ぬ」というものがあるように思いまして、このシステム考えつくだけでもすごいのに、実際作りこむの滅茶苦茶大変だったろうなーと想像するんですが。このゲームブックを書いた、というたった一点だけで言っても、鈴木直人先生は天才だと言ってしまっていいと思います。
ちなみに、次回作となる「パンタクル2」でもまた独創的な魔法システムが存在しておりまして、魔法を「戦闘での攻撃手段」ということに限定した上で「敵も自由に魔法を使ってくる」という、これも凄いことをやっていました。「パンタクル」とは全然違う作風なので、あまり好みでないという人もいるようですが、私自身はパンタクル2も十分革命的なゲームブックだったと思っています。
ということで、ざーーっと書いてみました。魔法の処理という話それ自体については、例えば「第七の魔法使い」とか「ディノンシリーズ」とか色々独創的なものはあるんですが、いい加減長くなってきたので一旦これくらいで〆たいと思います。
パンタクル3、およびスーパー・ブラックオニキス2の発売を心待ちにしております。(あとネバーランドの新刊も)
今日書きたいことはそれくらいです。