2018年06月26日

何故「ドラえもん のび太の大魔境」が私にとって大長編ドラえもん最高傑作なのか


先に断っておきますが、この記事には漫画原作版「のび太の大魔境」のネタバレが含まれます。

もしまだ「ドラえもん のび太の大魔境」を読んだことがない人がいるのであれば、ひとつうそつ機で騙されたと思って買って読んでみてください。画像掲示の為にリンクは張りますが、別に下リンクからでなくてもいいので。超面白いです、のび太の大魔境。


以前も書いたんですが、私の「大長編ドラえもん」歴は、「のび太のアニマル惑星」辺りで一旦途切れて、夢幻三剣士とかブリキの迷宮とかをちょこちょこ読んで、その後長男の影響で「ひみつ道具博物館」辺りから復活した、という感じの経緯になります。最近のは漫画原作がないので読んでないんですが、漫画原作がある時代のものはすべて漫画原作で読んでいます。

その範囲内で、「私が好きな大長編ドラえもん」を順位づけすると、以下の通りとなります。

1.のび太の大魔境
2.のび太の宇宙開拓史
3.宇宙小戦争
4.海底鬼岩城
5.日本誕生

次点で鉄人兵団、魔界大冒険、竜の騎士、恐竜辺りが僅差で並んでいます。

「宇宙開拓史」や「宇宙小戦争」の最大の魅力が、なんといっても「強力な敵役と、そこに追いつめられての大ピンチからの大逆転」であることは間違いないと思います。以前もその辺については記事を書きました。以下、気が向いたらご参照ください。
ギラーミンさんとの決闘展開超熱かったですよね。

一方、のび太の大魔境は、そこまで「超強力で魅力的な敵役」というものは出てきません(いや、ダブランダーとかサベール隊長とか、それなりにいい味出してるんですが、流石にギラーミンやドラコルルに比べれば一歩譲ると思います)。それでも、大魔境は私の中で最高の名作になっています。

本記事では、「私はなぜ大魔境がそんなに好きなのか」という話を、つらつらと書いてみたいと思います。

私が考える限り、大魔境の素敵ポイントは6個くらいあります。

・冒険の動機と「未知の地域の探検」が一直線につながっていて、単純に冒険自体がわくわくする
・ひみつ道具が使えなくなる展開がごく自然で素晴らしい
・ピンチと、そこからの脱出によるカタルシスがシリーズ中でも屈指
・ピンチ脱出に係る伏線と、その伏線の回収が完璧
・キャラクターそれぞれの活躍がきっちり描かれていて素晴らしい
・食事シーンが戦慄するまでに美味そう

以下、折り畳みます。


「のび太の大魔境」は、長期休みの探検先探しを兼ねて、「まだ見ぬ秘境」をのび太が探し始めるところから始まります。

大長編というと毎度序盤だけの登場となる出木杉が、人工衛星の影響でもう地球上に秘境と呼べるようなところはない、と言われるところが様式美。それに対して、のび太とドラえもんは、ドラえもんのひみつ道具で地球の各所の写真を調べ始めます。

この時、当初はいつも通り、ジャイアン・スネ夫から押し付けられる形で秘境探しを始めるんですが、のび太も結構秘境探しについては前向きであるところが一つのポイントなんですよね。大長編におけるのび太の主体的な態度が表れています。

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その間、のび太たちは、ひょんなことからナゾの野良犬を拾い、「ペコ」と名付けます。

そして、その「ペコ」が不思議なこに秘境探索に興味を持ち、見つけ出したのがジャングルの中の謎の神像。そして、それを見た出木杉が思い当たったのが、いわずと知れた「ヘビースモーカーズ・フォレスト」です。

いや、このヘビースモーカーズ・フォレストの話、ここだけで滅茶苦茶わくわくしませんでしたか?「年中霧がかかっていて衛星から見えないアフリカの秘境」なんて、もしかすると本当にあるかもしれない、とか思っちゃうじゃないですか。正味な話、今でも「実はどっかにヘビースモーカーズフォレストは実在するんじゃないか?」と思っちゃうくらいです。

「探検しつくされた地球」「けど、霧に包まれて観測が出来ない秘境」「それを突破したドラえもんのひみつ道具」という展開、導入パートとして完璧だと思います。「宇宙開拓史」の終盤の展開が決着パートとして完璧だとすれば、こちらは導入パートとして完璧。マジで。

ここから続く「霧と謎に包まれたヘビースモーカーズ・フォレストを目指す」「秘境を目指してのジャングルの探検」という展開は、まずもって一般的な男の子回路を刺激しまくってショートさせかねないほどにスリリングなものです。

そして、「ジャングルの中の謎の神像」というモチーフが、これまた随所随所で滅茶苦茶効果的に使われるんですよ。

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この、ジャングルの部族の村長の話とか、滅茶苦茶怖い + ワクワクしませんでした?コワクワク。ドラえもんというチートキャラがいながらこのゾクゾク具合、探検ものとして完璧すぎると言わざるを得ません。

まずは、この「導入と舞台立て」が「のび太の大魔境」の魅力の源泉だ、と言い切ってしまいましょう。


・ひみつ道具が使えなくなる展開がごく自然で素晴らしい
・ピンチと、そこからの脱出によるカタルシスがシリーズ中でも屈指

ところで、毎度大長編ドラえもんでは「ピンチの演出」と「そこからの脱出」が重要なエッセンスであり続けているのですが、今作でもそれは出色という他ありません。

今作では、探検初日に色々とひどい目にあったジャイアンが、有用なひみつ道具を全部おいてきてしまうんですよ。

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しかも、この後また別の展開で、ドラえもんたちはどこでもドアまで失ってしまいます。その結果、本来ならチートキャラであるドラえもんが力を発揮出来ず、中盤・終盤は大ピンチの連続になります。まあ、「ビッグライトはどうした」とか「取り寄せバッグ使えばええやん」とか思わないでもないんですが、野暮なことは言わないでおきましょう。

また、このことにジャイアンがちゃんと責任を感じて、ふてくされるように見えつつも実は自分を責め続けている、という展開がまた熱いんですよね。

「大長編だと何故か漢らしくなるジャイアン」などと言われることはありますが、今作ではその掘り下げがとにかく丁寧です。ジャイアンは決して「ただ漢らしい」だけではなく、自分勝手にひみつ道具を置いてきてしまいますし、その結果みんなに迷惑をかけてふてくされますし、けれど小学生としてちゃんと弱みを見せてペコに泣きつきもしますし、最終盤ではただ一人ペコと一緒に行こうとします。

私、本来「普段にくまれ役がたまにいいことするといいやつと思われる現象」あんまり好きじゃないんですが、これだけ丁寧に描写されたら脱帽するほかありません。

ドラえもんは基本的にチートキャラなので、無制限に活躍させてしまうと大抵のピンチをひみつ道具で解決出来てしまいます。その為に、例えば宇宙小戦争では「スモールライトを奪われる」という展開を用意しましたし、海底鬼岩城や鉄人兵団では「圧倒的な物量」という要素を用意したわけです。大魔境では、それが「ひみつ道具を置いてきてしまう」という展開であって、しかもそれがジャイアンのキャラクターの掘り下げに繋がっていた。本当に、これ見事なつなぎ方だったと思うんですよね。

で、これだけ丁寧に「ピンチ」と「そのピンチによる鬱屈」が描かれているからこそ、最後の大逆転展開によるカタルシスが極大化するわけなんですよ。


・ピンチ脱出に係る伏線と、その伏線の回収が完璧

「伏線とその回収に至るまでの展開の美しさ」という点では、宇宙開拓史のそれに匹敵すると思うんです。

まず、前段として、「10人の外国人」という予言があります。国の危機を救ってくれるという10人の外国人。外国人というと自分たちかもしれないが、ここには5人しかいない。あと5人はどこからくるんだろう?

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更に、「先取り約束機」というひみつ道具の登場があります。あとで必ず〇〇するので、という約束で、すぐに〇〇の効果を得ることが出来る。これ、伏線から状況回収からオチにまで使われるという、間違いなく本作のMVPひみつ道具だと思うんですが。

そして、最後の最後に、大逆転の為の一手として先取り約束機の存在に気付くのが、ここまで目立った活躍がなかったしずかちゃん、というのがもう本当に美しい。美し過ぎる。最高です。この後、様々な大長編ドラえもんがこの展開を下敷きにすることになるのも、よく分かる完璧さです。

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で、この後は皆さんご存知の通りの大逆転展開な訳ですが、この時も「助けにきたメンバーが大活躍して、他キャラは助けられっぱなし」という訳でもない、というあたりに、この展開の神髄があるわけです。

・キャラクターそれぞれの活躍がきっちり描かれていて素晴らしい

これは個人的な好みだと思うんですが、劇中オリジナルキャラクターが活躍するよりも、既存のキャラクターが活躍する方が好きです。

ゲストキャラクターは勿論大事ですが、基本的には活躍するのはのび太たちであって欲しい。最後の〆はのび太たちの仕事であって欲しい。そういう意味で、宇宙開拓史にせよ大魔境にせよ、映画版よりも漫画原作版の方が好きです。

今作もそれに該当するところでして、勿論「10人の外国人」の正体がアレだったことは当然なのですが、例えばのび太にもきちんと見せ場があって、

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この辺、最後のサベール隊長との一騎打ちなんて超いい場面だと思います。普段はダメなのび太が、ドラえもんのひみつ道具と少しの勇気で大活躍を見せる。これぞドラえもんのコアエッセンスではないでしょうか。今回ショックガンは置いてきちゃったんで「銃」という特技は発揮できる場面がなかったのはやや残念ですが、まあそれは前作宇宙開拓史で十分見せてくれたので良しとしましょう。

いつもは弱音キャラであるスネ夫ですが、今作は「弱音枠 + 軍師枠」みたいな立ち位置になっています。オロロン谷の秘密を看破したり、ライオンの群れについての知見を見せたり、随所でひらめきを見せるのは今回スネ夫の役回りです。

ジャイアンは上述した通りの立ち位置ですし、しずかちゃんは無論最後の最後の逆転枠。既存キャラクターが存分に活躍し切るのも、「大魔境」の重要な味わいの一つだといえるでしょう。


・食事シーンが戦慄するまでに美味そう

最後はほぼ余談なんですが、毎度「大長編ドラえもん」は食事シーンが出色です。しかも、ただ料理が美味そうというだけでなく、きちんと「ドラえもんのひみつ道具」という特性を活かし切っての食事シーンです。

たとえば、海底奇岩城のプランクトンを利用したバーベキューシーンとか。

日本誕生の、畑からとれたカツ丼なんかも勿論なんですが、今作、「大魔境」の食事シーンも最高としか言いようがありません。

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植物改造エキスで木の実がお皿 + 食事に!!というのももう十分にワクワク感がすごいんですが、さらにこの後、即席で展望レストランが出来ている辺りも素晴らしい。本当にこの通り食事が出来たら最高だろうな、としか思いようがありません。本当、F先生の「ワクワク感の演出」が素晴らし過ぎる。

劇中最後の「二日分食べる」のところもこれまた美味そうでしたし、最後オチに流れこむ入浴シーンも見事な〆としか言えません。何はともあれ、「食事」という重要シーンをきっちりワクワクしたシーンに仕立て上げてくるこの味わいも、大魔境の重要加点ポイントであると指摘できると思います。


ということで、長々と書いて参りました。
私が言いたいことをまとめると、

・「のび太の大魔境」はワクワク感が物凄い超名作なのでみんな読むといいです
・先取り約束機をギミックに使った大逆転は大長編全編を見ても屈指のカタルシス展開
・強いていうと、ダブランダーとコス博士コンビにはもうちょっとケレン味が欲しかった
・ギラーミンとドラコルルは偉大
・しずちゃんの「一人で入れますから!」のところにF先生のリビドーが端的に表現されていると思う

これくらいのよくわからない結論になるわけです。よかったですね。

今日書きたいことはそれくらいです。







posted by しんざき at 07:27 | Comment(4) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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この記事へのコメント
大魔境のジャイアンは、周りがそこまで責めてないのに、自分が一番責任を感じてるって描写が良いですよね
ジャイアンは大長編だと良い奴になるというより、内省的になる感じがありますね
普段が野獣的すぎるだけなんですけど
Posted by at 2018年06月26日 11:03
けっきょく表題の問いかけには向き合えてないんじゃないでしょか。
冒頭の素敵ポイント6点はいずれも大長編ドラえもんなら兼ね備えているものです。
他の大長編と比べると敵キャラが見劣りすることにも言及されています。
それでも大魔境を最高傑作と言ってしまうのは、ジャイアンが好きだからだと思います。ジャイアンの描写においては大魔境が最高傑作です。
Posted by at 2018年06月26日 11:31
わたしは魔界大冒険が一番好きな作品ですが、大魔境ももちろん好き
その中にあって共通することは、出木杉君の存在だと思うのです
導入部の出木杉君の存在が、我々読者を少し不思議な世界へといざなってくれるものと思います
Posted by at 2018年06月26日 19:51
大魔境、本当、面白いですよね。ただ、初期の大長編ドラえもんはどれも神がかったシナリオの良さで甲乙つけがたく思います。
夏休みの全能感と膨大な時間を持て余している感じ。子供だけの冒険のワクワク感、食事シーンの羨ましさ。血が出たり、人が死んだりしないのに怖さを感じる敵。ピンチ。逆転のカタルシス。そして印象的なラストシーン。
正直、「天才」という陳腐な褒め言葉しか出てきません。
ラストは大体、心は繋がっていても肉体的には二度と会えない友達との別れがあって、そこに夏の終わりの空気が漂っている切なくも美しい印象なのが特徴ですが、大魔境はその点が少し弱かったように思います(毎回、同じような落ちにならないようにあえて変化をつけたのでしょうが)。
しんざきさんもかいておられますが、完璧な原作に比べ映画版はいろいろと劣化しているんですよね。特に鉄人兵団(ギラーミンをのび太が倒さない開拓史は論外ですが)。最後、のび太が「お〜い、お〜い」って、みんなのところに駆け出していくところで終わるのがいいのに、「そうさ、リルルは天使さ」なんて台無しなセリフを言わせちゃう鈍感さ。このアニメスタッフは余韻ってもんがわからない人たちなんだなと子供心に失望しました。
今の子供達も映画版を見るだけでなく、大長編を読んで、天才の技に戦慄して欲しいと思います。
Posted by at 2018年06月26日 20:40
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