2018年07月26日

「ワイルドカード」シリーズの邦訳再開されないかなあ

皆さん、「ワイルドカード」シリーズっていうSF小説、ご存知ですか?




「ワイルドカード」。G.R.R.マーティンを中心として、複数のSF作家が「同じ世界観を共有したSFを書く」というコンセプトで好き勝手書いている、中編〜長編SF小説です。1987年から現在まで続いています。

私はワイルドカードシリーズ凄い好きなんですが、何故か日本だと「大いなる序章」「宇宙生命襲来」「審判の日」の3集しか邦訳されてないんですよ。なんでかなーー。あんまり売れなかったのかなあ?すげえ面白いと思うんですが。

ワイルドカードシリーズは、すごくざっくり言っちゃうと「マーヴル世界観みたいな、特殊能力を持ったたくさんのヒーローが活躍するSF小説」です。

第二次世界大戦の終戦後、地球に対するタキス人の陰謀により、マンハッタン上空に「ワイルドカード・ウィルス」がばら撒かれる。そのウィルスに感染したものの90%は死亡し、生き残ったものの90%は醜く変形してしまい、僅かなものだけは特殊な超能力を発現させる。醜く変形してしまったものは「ジョーカー」と、特殊な能力を身に着けたものは「エース」と呼ばれるようになる。

いや、舞台装置だけ説明すると、今から見たらもってまわった内容に見えてしまうかも知れないんですが、「ワイルドカード」世界観って凄いシビアでディープなんですよ。ジョーカーに対する差別問題とか、終戦後の混乱期に政治利用されるエースとか、それに対する権力側の反発とか、麻薬問題とか、現実にも存在しそうな問題が遠慮なく投入される。勿論その一方で、魅力的なキャラクター、魅力的なエースたちが大活躍をするエピソードもある。

エースといっても人間なんで、当然働かないと金を稼げないし、食事をしないと飢え死にしてしまう訳です。その為に自分の能力を利用するエースもいれば、犯罪に手を染めてしまうエースも、一方賢く立ち回って経済的成功を手にするエースもいる。一方、当然のことながらその陰でジョーカーも、あるいは「ワイルドカードウィルス」と無関係に過ごしている普通の人たちも、色んな状況で色んなことをしている。

様々なSF作家がよってたかって描く、その「ワイルドカード世界観」がとても魅力的なんですよね。

第一集である「大いなる序章」は特に大きなテーマを定めず、ワイルドカードウィルスを描いた中短編の集積という作り。

第二集である「宇宙生命襲来」は、巨大な群体である「群れの母」襲来に対して立ち向かうエース、という筋立てになっておりまして、こちらも色々と熱いんですが、なんといっても第三集の「審判の日」の完成度は群を抜いています。

ワイルドカード記念日の1日、祝祭の裏で陰謀をめぐらす「天文学者」と呼ばれるエースとその一派。それに対する「フォーチュネイト」やドクタータキオンとその仲間、というエピソードが中心になるんですが、それと並行して様々なエピソード、思惑、小競り合いやトラブルが街のあちこちで起きており、それらが時に交差して、時にすれ違う。

天文学者とは何の関係もないところで巨悪と戦っている弓使いのダニエル・ブレナンとそれに巻き込まれた「生霊(レイス)」ジェニファとか、何ら能動的に動いていないのにギャング戦争に巻き込まれる「バガボンド」スーザンと下水道ジャックとか、とにかく自分の店と商店街を守りたいハイラムとか、まあ皆の行動がクロスしまくる訳です。

複数の作家がモザイクのように書いているストーリーが、読み終わってみるとちゃんと一つにまとまっている。このストーリー構築の見事さについては、G.R.R.マーティンの手腕に舌を巻く他ありません。

勿論、それぞれのエースやジョーカーのキャラクターが、「ワイルドカード」シリーズの魅力の中核であることは間違いありません。

普段はさえない中年男、しかし亀の甲羅に見立てた装甲車に乗り込んだ時だけは無敵の念動力者になる、「タートル」ことトム・タッドベリ。

精液をパワーの源泉として、精神操作、念動力など様々な力を駆使する「フォーチュネイト」。

一度ワイルドカードウィルスで命を落とした後に蘇った、目があった相手に死を送り込むことが出来る「逝去(ディマイズ)」ことジェイムズ・スペクター。

人格破綻者の科学者によってつくられたが故に死ぬほど苦労する、女好きのアンドロイド「モジュラー・マン」。

地球にワイルドカードウィルスを持ち込んだタキス人でありながら、地球の側に立ってジョーカーやエースの為に奔走するテレパス、ドクター・タキオン。

その他もろもろ、エースにしてもジョーカーにしても味があるキャラクターばかりなのですが、共通しているのが「何の活躍もしていない、普段の行状・生活についても全く切り捨てられないこと」。エースだろうがジョーカーだろうが、中にはダメ人間もいるのであって、能力に関係なく等身大の姿が描かれるのも「ワイルドカード」の魅力の一つです。個人的には、単なるヒッピーにして天才生化学者であるマーク・メドウズがお気に入り。

ということで、ワイルドカードシリーズ面白いですよねという話と、第四集以降も邦訳して欲しいなーという、ただそれだけのエントリーでした。

興味が出た方は読んでみませんか、ワイルドカードシリーズ。特に「審判の日」については損はさせません。



今日書きたいことはそれくらいです。




posted by しんざき at 07:00 | Comment(2) | 雑文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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この記事へのコメント
お勧めに従って『審判の日』(上・下)を購入して読んでみました。

最初、めまぐるしくて訳わかんねーっと混乱しながら強引に読み進めているうちに、ワクワクと切なさがぐんぐん高まってきてやめられなくなりました。これはもう「クロイスターズ大襲撃」について読まねばならぬ、と他の既刊も注文。

面白いシリーズを教えていただいてありがとうございました! 続刊出るといいですよね。

私はジェイ・アクロイドの「ぽん!」にやられました。あと、ごみ置き場のラルフさんとスペクターの場面が。
Posted by ティオ at 2018年08月01日 16:50
>ティオさん
気に入って頂けたならよかったです!フォーチュネイトたちの他の話は既刊にありますので、良かったら「大いなる序章」や「宇宙生命襲来」も読んでみてください。

アクロイドさんいい味出してますよね。あとスペクター絶妙に不幸だけど、最後にちょっと救われる感じ大好き。
Posted by しんざき at 2018年08月02日 07:08
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