単なる思い出話をします。長文なのでお暇なときにどうぞ。
1995年、9月のことでした。
当時は格闘ゲームがゲーセン中で湧きたっていた頃で、カプコンでいうとスパIIXが未だに遊ばれ続ける一方、「ストZERO」や「ヴァンパイアハンター」の対戦台が熱気に満ちていました。対戦台の後ろには順番待ちの行列が並び、ギャラリー専の人が張り付くことも珍しくありませんでした。
SNKでいうと、餓狼は「3」が出ていましたし、KOF95ではルガール・庵・京のチームがどの対戦台でも大暴れしていました。
私自身が主に何を遊んでいたかというと、5月頃にゲーセンに姿を見せた「天外魔境真伝」でした。私の持ちキャラはカブキ団十郎でして、派手な見た目とは裏腹に比較的地味なキャラ性能で、ダッシュからカブキ羅砕刃とカブキ烈空破の二択をかけることに命をかけていました。で、大抵読みを外して、相手のガード後に超必並みのダメージを(力王BCで)叩き込まれていました。
今から振り返ってみると、当時既に、「格闘ゲームタイトルの飽和」という現象は起こっていたように思います。色んなメーカーが、色んな格闘ゲームをゲーセンに送り出していました。一方、ゲーセンに通う客はそこまで爆発的に増えたりはしないので、対戦台が盛り上がるタイトルとそうでないタイトルにははっきりとした差が表れていましたし、そもそも対戦台が入らないタイトルも多数ありました。バーチャ2や真サムは対戦台に並ぶ客が引きも切らない一方、風雲黙示録やギャラクシーファイトで対戦出来たことは一度もありませんでした。
そこに、「マーヴル・スーパーヒーローズ」というタイトルが登場しました。
最初の印象は、「なんだ!!これ!!!やたらかっこいい!!!!!」だった、と思います。
マーヴル・スーパーヒーローズは、文字通りマーヴルのキャラクターを格闘ゲームの世界に叩き込んだゲームタイトルで、前作「X-MEN」の流れを汲んでいました。が、その演出、その完成度は、少なくとも私の目には、「X-MEN」のそれを遥かに超えているように思いました。
画面狭しと暴れまわる、ヒーローヴィラン、人外ミュータントの皆さま。
スーパージャンプと高速移動で、目まぐるしく変動する画面とキャラクターを追いきれない程のスピード感。
インフィニティジェムをめぐる駆け引きと、ジェムを発動した時の強力な効果。
攻撃を当てた時、必殺技を当てた時の絶妙な手ごたえと爽快感。
それら全てが、私にとっての「マーヴル」の第一印象だったのですが、私が何よりも強く引き付けられた要素は何かというと、とにかく「ボイス回りの演出がやたらかっこいい」ということでした。
特に「インフィニティスペシャル(いわゆる超必殺技)」回りの演出で顕著だったのですが、超必を発動した瞬間、マーヴルのシステムボイスは、やたらとキレのいい発音で「インフィニティ!!」と叫ぶのです。その後、相手にどかどかどかーーっとダメージを与えて、フィニッシュの瞬間には画面にばーーーんと踊る超必の技名。
私は今でも、マーヴル・スーパーヒーローズの演出を「カプコン格ゲーの到達点」だと思っていますし、あのゲームが後々の格ゲーに与えた影響は計り知れないと思っています。とにかく、ただ動かして、ただゲージを溜めて、ただ超必を相手にぶち当てる、それだけでマーヴルは十二分に面白かったし、物凄くスタイリッシュだった。「訳が分からん程かっこいい」という以外に、あのゲームを表現する言葉はいらないんじゃないか、とすら思っています。
マーヴル・スーパーヒーローズにコイン投入して、私が最初に選択したキャラは、どういう訳か「シュマゴラス」でした。
理由は既によく覚えていません。特段際立って触手好きなわけでもありませんし、当時私が使っていたキャラはどちらかというとスピード系キャラが多く、特に色物に傾斜していたわけでもありません。後から知ったことですが、シュマゴラスというキャラは、どうもマーヴルの中の人にとってすら「誰だっけ?」と思える程、原作での存在感に恵まれないキャラのようでした。
ただ、「マーヴル・スーパーヒーローズ」のゲーム中において、シュマゴラスが魅力にあふれたキャラだったことは断言出来ます。
こちらを見つめる一つ目のつぶらな瞳。ダッシュする時の素早いクモスタイルへの変形。変幻自在の通常技と必殺技。そしてなによりも、カオスディメンジョンの圧倒的な演出と破壊力。
私はどちらかというとSTG好きで、当時はおそらく「ストライカーズ1945」や「ゲーム天国」にハマっていた時期だと思うのですが、その合間を縫うように、私はマーヴル・スーパーヒーローズにコインをつぎ込み始めました。
マーヴルは、楽しかった。マーヴルは、派手だった。マーヴルは、触っているだけで感動出来た。
ただ、そこには一つだけ、大きな、とても大きな壁がありました。
私には、「エリアルレイヴ」がさっぱり入力出来なかったのです。
エリアルレイヴというのは、マーヴルの中核システムの一つであって、いわゆる空中コンボです。「エリアル始動技」を相手に当てると、相手は空中高く吹っ飛ばされます。間髪入れずにレバー上を叩き込むと、相手を追って大ジャンプした自キャラが、空中でガンガン連続技を叩き込むことが可能になるのです。
エリアルレイヴは、目玉システムなだけあって、極めてダメージソースとしての比率も高く、マーヴルの対戦は「どうやってエリアルに繋ぐか」のせめぎ合い、のようなところがありました。スパイダーマンが、ウルヴァリンが、マグニートーが、アイアンマンが、自由自在にエリアルを叩き込んでいる姿の格好良さは、皆さんもご記憶のことではないかと思います。
何故エリアルが出来なかったのか、ということは、今でもよくわかりません。おそらく、「ジャンプするのにもタイミングが重要で、ボタンを押すのにもタイミングが重要」ということが私の脳の許容量を超えていたのだと思います。元より私は大して格ゲーが上手くもなく、アクションゲームのへたっぴーさでは人後に落ちないと思っているのですが、それでもあれほど「このシステム全然使いこなせない」と思ったことは後にも先にもあれ一回切りだったと思います。
いくらコインをつぎ込んで練習しても、私はさっぱりエリアルを入れることができませんでした。ゲーメストを読んでやり方を覚えて、コンボルートをメモしてゲーセンに持ち込みまでして、それでもダメでした。私のシュマゴラスが、中Kで相手を空中に吹っ飛ばして、華麗に相手にコンボを叩き込むことは、ついに一度もありませんでした。
当然のこと、私は対戦ではさっぱり勝てませんでしたし、「重要なシステムの一つをさっぱり楽しめない」という重圧は非常に大きく、CPU戦すらあまり楽しめなくなっていきました。
このゲームはこんなに面白いのに。
このゲームはこんなにかっこいいのに。
やがて私は、失意の裡にマーヴルをやめてしまい、その後しばらく特殊コンボ系のシステムは苦手になってしまいました。例えば、ストZERO3のオリコンも苦手でしたし、ウォーザードの浮かしコンボも苦手でしたし、天草降臨の14連斬も苦手でした。一種のトラウマだったかも知れません。
これが、言ってみれば私にとっては初めての、「格ゲーでの挫折」でした。
私のこの苦手意識が克服されるのは、実に5年後。「ギルティギアゼクス」でダストアタックというシステムに出会った時でした。
何故、マーヴルでは出来なかったエリアルがギルティで出来たのか、というと話は単純で、ギルティでは「ダストアタックを入れた後はレバー上入れっぱなし」で、ジャンプをするタイミングについては全く考慮する必要がなかったためだと思います。私の不器用さでも、左手を全く考慮する必要がなければ、右手だけであれば処理出来たと。多分そういうことだったのだと思います。
あれから23年が経ちました。
つい先日、とある飲み会の待ち時間でふらっとゲーセンに寄った時、マーヴルの対戦台を見かけました。プレイしている人はおらず、オープニングデモが流れ続けていました。
私は何の気もなしにコインを投入して、ちょっとだけ時間をつぶそうと思ってシュマゴラスを選びました。cpu戦で最初にアイアンマンに当たりました。
皆さんご存知の通り、カプコン格ゲーのCPUは序盤比較的弱く、割とこちらの攻撃に当たってくれます。ちょこちょこと小競り合いをして、立ち中Kが相手にヒットしました。レバーを上に入れたら、上に弾き飛ばされたアイアンマンを追って、シュパっとシュマゴラスがジャンプしました。
コマンドは頭が覚えていました。中P中K、空中投げ、J大P、もう一回大P、
あ、
繋がった。
「マジか」と独り言が漏れました。嬉しいというよりむしろ唖然としました。かつて、あれだけ練習して、あれだけさっぱりだったエリアルが、何故かあっさりと繋がった。
といっても、当時の感覚を思い出してしまったのがむしろダメだったのか、その後もう何度か同じことをやろうとしてもさっぱり出来なかったわけですが。とにかく一回、たった一回だけ、私には、かつて出来なかったことができたのです。
実のところ、これが、これだけが、この記事を書いた理由です。
「昔はさっぱり出来なかったエリアルレイヴが、久しぶりにプレイしてみたら一回だけ出来た」というほんのそれだけの話です。
ただ、ほんのそれだけのことが、私にとってはかつての私の努力と失意に対する20年越しの敢闘賞のように思えたのです。
だから私は、今でも格ゲーを遊びます。ギルティを遊びます。スト5を遊びます。昔遊んで、しばらく遊んでいなかったタイトルにも、時折思い出したようにコインを入れます。ワーヒーパーフェクトに、天外真伝に、龍虎2に、神皇拳に、アシュラブレードに、マーシャルチャンピオンに。
皆さん、格ゲーやってますか? 昔、格ゲーやってましたか?
もしよかったら、ちょっと久々にコインを入れてみてはいかがでしょうか。もしかすると、昔は気づかなかった発見が、思いもよらない敢闘賞が、あなたを待っているかも知れません。
今日書きたかったことはそれくらいです。
一発狙いのイロモノでお気に入りでシュ。
カオスディメンション(出かかり無敵+攻撃判定あり)を
対空に使って、ノックバックさせれば、
捕獲→別次元から実体化しての落下中にJ中P→
立中K→J中P→J中K→J中P→J中K→J強P
の凶悪コンボがほぼ確定。
やがて四半世紀なのに思い出せる。