2019年04月30日

気に食わないイラストの作家さんを直接罵倒している人を見て思ったこと


当該イラストの出来、不出来についての議論は置いておく。好みの問題でしかないと思う。

当たり前の話なのだが、ある成果物を採用するかどうかは発注側が決めることであって、その成果物が「要件を満たしていない」というなら採用しない自由が発注側にはある。中には例外的な契約もあるのかも知れないが、まあ大抵はそうだ。

リテイクをかけることも、要件を修正することも、常識の範囲内なら恐らく可能だろう。代打も用意出来ないし修正の時間も予算もないというなら、最悪リリースを先延ばしにする判断をするべきだ。

つまり、何か気に食わないイラストが、あなたが遊んでいるゲームに採用されてしまった場合、その責任は徹頭徹尾発注側、つまりそのゲームのベンダーにあるのである。採用した側が悪い。いちいち念押しするようなことではない、当たり前だ。


あなたには気に食わないイラストを批判する権利がある。そのゲームを罵倒する自由もある。それは幾らでもやればいいと思う。


しかし、「その罵倒を投げつけるターゲットはどこであるべきか」という問題は厳然として存在しており、それは絶対に「そのイラストを描いた人」ではない。絶対にだ。その人は、「発注に応じてイラストを描いて、それを納品しただけ」であって、そこに問われるべき責任は一切ない。罵詈雑言を投げつけるなら発注側に投げつけるべきだ。

ところが、SNS時代の現在は、製作者側、アーティスト側もいたるところで可視化されており、本来なら責任がない側に、直接声を届かせることが出来てしまう。結果、短絡的な人たちが、自分の主観的な憤りを元に、短絡的な罵倒を彼らに直接ぶつける。

この話の厄介な点は、いくつかある。

・「イラストの出来」というもの自体が基本的に個人の好みの話であって、明確な品質基準を設けにくいこと
・それ故に、「お前の絵はひどい」と言われても反論がしにくいこと
・大抵のアーティストは自作について極めてナーバスであり、罵詈雑言から受けるダメージが大きいこと
・本来なら発注側がアーティストを守らなくてはいけないが、実際に守られることは稀であること

罵詈雑言を投げかける人にとってみれば、自分の気に食わないイラストを描いたアーティストが大きなダメージを受けるのは望むところなのかも知れない。そのアーティストが筆を折れば快哉を叫ぶのかも知れない。

ただ、アーティストの立場に立ってみれば、たまったものではない。「知るか、採用した側に言え」と言えればいいが、そこまで神経が太い人はおそらく多数派ではない。

これが例えば昔であれば。雑誌に載せた漫画やイラストについて、出版社は作家を容易に守ることが出来た。ファンレターの態をした罵詈雑言を、「あるんだよねこういうの」と言いながらシュレッダーにかける編集者の姿を、私は実際にこの目で何度も見た。

その、言ってみれば編集者による「結界」は、実は2ちゃんねるの時代には既にちょっと怪しかった。自分の作品について語っているスレッドを自分で観に行って、当然のように存在する罵詈雑言に勝手にダメージを受ける作家さんは、当時から珍しくなかった。結果として筆が進まなくなって納期に深甚なダメージを与えたケースも、作家としての道を自ら閉ざしてしまったケースも存在する。

そしてその結界は、SNS時代には完全に破壊された。もはや、可視化されたアーティストに直接届く声を、メーカーが間引く手段は存在しない。今の時代、ユーザーは極めて容易に、フィルター無しで自分の声をアーティストに届かせることが出来る。声援を届けるのも容易だが、罵倒を届けることも容易だ。そして、極めて厄介なことに、声援を投げかける人よりも罵倒を投げつける人の方が声が大きい。少なくとも、アーティストの主観的には、声援よりも罵倒の方が心に残ってしまう場合がままあるのだ。

とすると、常日頃イラストを発表するだけならともかく、「作品を採用された、ということが周知されること自体がリスク」だという話になりかねない。それは本来、アーティストの側からも望ましい話ではないだろう。

私は割と単純なアーティスト至上主義であって、色んなイラストレーター、作家、音楽家が、のびのび作品を作れる世界だといいなあと思っている。何故なら、私の好きな作品を、いつ誰が生み出すか分かったものではないと思っているからだ。私が嫌いな作品が存在しない訳ではないが、もしかするとその作品の作家さんが、次は私の大好きな作品を作ってくれるかも知れず、そこから考えると創作を止めてもらいたいなどとは間違っても思えない。

だからこそ、気にくわなかったとしても「not for me」にとどめておく考え方がなるべく広まって欲しいし、少なくともアーティストの側に直接暴言を投げつけるような人たちには鳴りを潜めていて欲しい。今回の件がどうこうではない、今後のありとあらゆる似たようなケース全てに言えることだ。

少なくとも、これだけは声を大にして言っておかなくてはならない。

文句はメーカーに言え。作家に言うな。



posted by しんざき at 17:57 | Comment(4) | 雑文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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この記事へのコメント
平成最後のブログ更新お疲れ様でした。
相変わらずうなづくことばかりです。

令和になってもよろしくお願いします。
Posted by 吉本 正(仮名) at 2019年04月30日 19:00
>文句はメーカーに言え。作家に言うな。
私はもうひとつ踏み込んで、こんな風に炎上騒ぎになった際には発注側にこういうオーダーをしたので
このような仕上がりになった
イラストレーターはしっかりオーダーを満たした
仕事をしてくれたってことを説明すべきだと思いますね

文句はメーカーに言え。作家に言うな。
って言うのはまぁ叶わない理想論にすぎないので
発注者側にはオーダー内容とそれを満たしているかの品質基準を持っている
説明できるのは発注者だけです。

問題になってもダンマリなのは不誠実に見えますね
裏ではフォローしてるのかもしれませんけど
ネット上に流れた悪評は基本的に消えないし
受注側はどうしても立場上不利ですからね
Posted by at 2019年04月30日 19:20
こういう世の中だと、「描き手」へのリテラシー教育も必要でしょうね
その点「書き手」は今やそれなりに結構教育されてるというか
ネットに対して書き手がわきまえるべき心得がそれなりに周知されてはいますが
ストーリーを書かない純粋な「描き手」はそこんとこまだ無防備なのかなと
Posted by at 2019年05月01日 01:10
もう完全にユーザー不信の時代に突入しているし、それを前提とした行動がされるべきということでしょうね。
ただそれはまたユーザー自身がこうして素朴に抱くクリエイター至上主義の嗜好もまた失われるべきということを意味してしまいますが。
「ユーザー」とは言っても結局は不特定多数の群衆、教育なんてしようがないものですからね・・・
Posted by at 2019年05月01日 12:06
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