2019年05月13日

モザイク画を細部から見ていたような不思議な読後感、道満 晴明先生の「メランコリア」が面白かった

音楽仲間の@agneskeiさんにお勧めして頂いて、道満晴明先生の「メランコリア」を読みました。




最初に結論から言ってしまうととても面白かったですし、是非感想記事を書きたいなーと思ったのですが、一方で「この漫画の感想記事を書くのは、これはかなり難しいぞ」とも思ったのです。

ネタバレ厳禁という程のことではないのですが、世の中には「細かく説明してしまうと面白さが減衰してしまう可能性がある漫画」というものがありまして、恐らく「メランコリア」もそれに該当します。面白さが減衰しない程度に、凄くふわーーっと説明してしまうと「日常系のような、ファンタジーのような、不条理系のような不思議なSF漫画」ということになると思うのですが、これで「メランコリア」という漫画を理解して頂くことは著しく困難でしょう。

もう一歩だけ踏み込んで、メランコリアの構造をお伝えすると、「モザイク画をすぐ傍から見始めて、段々と視点を引いていくような漫画」と説明するのがかなり近しいと思います。読者は最初、ものすごーく細かい、短い場面場面を小さく切り取ったように見えるお話に触れていくことになります。ところが、それを読み進めていく内に段々と視点が引いていき、やがて「今まで見ていたものが、大きなモザイク画の一つ一つのピースだった」ことに気づくのです。

二冊しかないことですし、もしここまでの説明にご興味をお持ちになって、かつ表紙の感じが嫌いではない人には、この先を読まずにご一読されることをお勧めします。細かい内容には踏み込まないつもりですが、やっぱお話の構造くらいは感想として触れたいので。

ということで、以下は一応折りたたみます。




ということで、一応最初に断る部分は断ったので、以下はざっくばらんに書きます。

「メランコリア」は、「一見関係ないように見えたストーリーの断片が、実はぜーーーーんぶ一繋ぎのお話として繋がっていた」という構造の話です。この構造を掘り進めていくこと自体が、漫画の楽しみのかなりの部分を占めている、と言ってしまってもいいように思います。

いや実は、最初読み始めた時は、「ファンタジーとSFをごった煮にした短編漫画集って感じかな?」としか思わなかったんですよ。引きこもりの少女の話に始まり、チェスの天才少年のお話、暗殺者と女子高生の話、ホテルのメイドの話。それぞれ、一つ一つの話はちゃんと完結していて、割と血なまぐさい話もあればどこか救いのある話もあって、けれど「メランコリア」という名前の通り、どこか雰囲気は陰鬱で。SF風味のお話もあれば、ファンタジー風味、ホラー風味の話もあります。少なくとも上巻については、「メランコリア」は「特に何かを焦点としない、ちょっと不思議なエピソードの集積」として動作していると思います。

ところが上巻の終盤から下巻に入ると、エピソードの色んなところに「序盤〜中盤に出てきたキャラクターや、エピソードに関連した要素」があちらこちらに顔を出し始めます。「ああ、エピソードとエピソードを関連付けているのかな?」と思っていると、そこに出てくる彗星「メランコリア」と、全てがその周辺に向かって収束していくエピソードが眼前に展開されていく。

ここに至って、読者は「あ、もしかしてこれ…あ、これも!これもこれも!その為のエピソードだったんか!」ということに後から気付く、と。そういう驚き自体に一つの快感があると、そういう性格のお話なのです。

とにかく、序盤〜中盤にかけて展開されたキャラクターやエピソードが、全て片っ端から回収されていくというのは、一種「散らかった部屋が物凄い勢いで片付けられていく」ところを傍から見守るような、早回しの動画を見ているような、そんな不思議な感覚を覚えることになります。正直、一つ一つのストーリーは結構不条理だったり、あるいは(多分意図的に)説明不足だったりするので、「こういうことなのかな?」という自分なりの解釈を定める為には、恐らく何回か読み直さないといけないんではないかと思います。

下巻のとあるエピソードの中で、「ループ・ゴールドバーグ装置」の話が出てきます。何か簡単なことを、やたらと複雑な工程を経て実施する装置、日本で分かりやすく言うとピタゴラ装置なのですが、恐らくこのエピソードは「メランコリア」全体でもキーになるエピソードで、「メランコリア」という漫画で作者がやりたかったことも、多分ピタゴラ装置のようなことだったんじゃないかなあ、と、そんな風に考える訳なんです。

で、ただ「全部繋がってました」というだけであれば、ミステリーやSF短編集には割とよくある構造なんですが、「メランコリア」の味は「不条理な事態に突き当たっても、割と淡々と乗り切ったり案外ケロっとしているキャラクターたち」にも分散しています。よくわからない事態でよくわからない目にあって、時にはぎゃーぎゃー騒いだり、時には捨て鉢になったり、時には逃げだしたりしながら、それでもさらっと状況に対処していくキャラクターたち。彼ら、あるいは彼女らが、作者一流のユーモアを交えながらピンチを乗り切ったり乗り切らなかったりする場面には、これまた不思議な爽快感があります。


場面も時代も結構あっちこっちにぶっ飛ぶので、その辺くるくる目の回るところもあるのですが、個人的には現代の少年漫画を見て「エロい」という概念を学ぶ葛飾応為の話とか、とある治験に参加する少年の話とかがお気に入り。応為さんかわいいですよね。あと、異常気象で凍死しそうになりつつも、お気に入りの映画を観ようとする腐女子の話とか好きです。

ということで「メランコリア」、全体として「ふわっとした日常系SF」が好きな人ならそれなりの確率で刺さるんじゃないかと思いましたので、気が向いた人は読んでみてください。迷路で迷うような読後感がとても面白かったです。

今日書きたいことはそれくらいです。


posted by しんざき at 20:52 | Comment(0) | 書籍・漫画関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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